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 迷宮にも変態がいました ~旅団の思惑?と狂える聖女?~

 迷宮第八階層。

 此処は飛行タイプの魔物が多く出現する事で、探索は難航していた。

 迂闊にその場で止まっていると、上空から鋭い爪や魔法で攻撃されるのである。

 飛行魔法を持たないフィオやマイアにとっては厄介な階層であった。


「邪魔!」


 そうクールに呟きながら、マイアは紙一重で上空からの詰め攻撃を避け、間髪入れずに横薙ぎで翼を切り落とす。

 地面でもがいている魔物に剣を突き立て、そのまま止めを刺す。

 フィオもマイアの真似をし始め、不安定ながらも何とか倒し続けるが、そこに陸上型の魔物が突進してくる。


「きゃあっ!?」

「フィオ!?」


 一瞬フィオに気を逸らした隙に、上空から魔物が襲い掛かる。

 だがその鋭い攻撃は届かず、ファイとミシェルによって葬られた。

 フィオも何とか体勢を立て直し、陸上型の魔物に二撃を加え倒して行く。

 レイルとセラは前衛で数多くの魔物を駆逐していた。

 何方も大型の武器を振りかざし、たった一撃で複数の魔物が吹き飛ばされ消えて行く様はまさに旋風、圧倒的な強さであった。

 近づくものは徹底的に破壊され、なす術も無く蹂躙されてゆくのだ。


「かぁ、スゲェなセラ!! よくそんな【砲剣】を自在に扱えるもんだ、震えが止まらねぇぜ!!」

「僕よりレイルさんも凄いですよ、そんな【大剣】で隙の無い攻撃!! シビレますねぇ!!」


 重量級の武器を軽々と振り回し、群がる魔物が完膚無きまでに破壊され、互いに背を合わせながら嬉々として殲滅してゆく。

 夥しい程のドロップアイテムがそこかしこに散らばり、其れでも足りないとばかりに魔物に襲い掛かる。

 まるで長年コンビを組んでいたかのように、息の合った攻撃だった。


「これでこのエリアは殲滅完了か? 魔法も使ってねぇのに倒しちまった・・・」

「不満そうですねレイルさん、ですが新人二人もいるんですから無理は出来ませんよ?」

「分かってるって、探索を続けて最短ルートを確立するんだろ? 結構めんどいな」

「それが迷宮攻略の必要手順ですから、行くだけ行って帰って来れなかったら洒落にもなりませんよ?」

「こんだけ広かったら、そりゃ迷うわな。他の連中もその内降りるだろうからその為の布石か?」

「正確なマップは必要ですからね、上位冒険者の仕事の一つですよ」


 迷宮探索において情報は一つの武器である。

 正確な地図や魔物の情報を把握する事は、安全に帰還するために必要なものであり、階層が下になるほど存率が落ちるのである。

 常に変化し続ける迷宮ではあるが、基本的な正確な地図は必要不可欠なのだ。

 それ故に最初のマッピングは非常に重要な役割を持っていた。

 そのマッピングを今セラ達が行っている。


「この地図だけでも其れなりの値が付きそうだな」

「初心者には結構売れると思いますよ? なんせ命あっての物種ですからねぇ」

「なんか釈然としねぇな」

「お金で安全が買えるなら安い物です!」


 地図と云うものは情報であり、その情報は命懸けで調べた冒険者の血と汗の結晶みたいなものである。

 其れを売買し金に変える事に異論はないが、何もせずにその情報を手に入れる冒険者に腑に落ちない物が在った。だが、それで犠牲者が減るのであれば止む終えない処置にも思える。

 レイルにとっても死人は少ない方が良いと思うからだ、もっとも無料で情報を売っる積りなど更々無いのだが。


「「!!」」


 セラもレイルも背後上空から迫り来る魔物を感知する。

 二人は互いの背後から迫る魔物を確認するや、交差するように迫る獲物一瞬でを斬り捨てた。

 本当に息の合った攻防一体の連携である。



「レイルさんもセラさんも凄いです!! まるでお互いがどう動くのかが分かっているみたいです!!」

「みたいでは無く、分かっているのよ。姉さんもだけど、あのレイルって人も相当な腕をしているわ、おそらくあの三人の中では一番強い!」


 マイアは燥ぐフィオの横で冷静に分析していた。

 セラの戦いぶりは一見滅茶苦茶だが、その武器の特性から効率の良い動きをしている。

 そのセラにレイルの戦い方はついて行ってるのである。

 隙のない豪快な剣技で、セラの効率的な動きに合わせられる技量は驚愕に値する。

 正直、レイルに嫉妬さえ覚えていた。

 自分もセラの背中を守れるようになりたい、そう強く思うのである。


 一方フィオもセラとレイルの戦い方に、強い関心があった。

 何方も重量級の武器であり、武器として観るならその扱いづらさは理解できる。

 其れを自在に操り、連携を熟す二人の技量に尊敬の眼差しで見ていた。

 自分も二人のように強くなりたい、強い羨望と憧憬の思いをを抱いていた。



「悔しいわね、レイとはあたし達が一番付き合いが長いのに・・・あんなふうに背中を守る事なんて出来ないわ」

「お二人の戦い方は似ていらっしゃるから、その分どう動くのかが理解できるのでしょうね」

「そうかも知れないけど・・・なんか悔しい・・・」

「気持ちは分かりますが、私達の武器ではあのような動きについていけません。お二人の技量は私達より遙かに上です」


 ファイとミシェルにとっては複雑な思いであった。

 ファイの【トランスゲイザー】ではリーチは短く、また変形させての遠距離攻撃しか出来ない。

 ミシェルの【ガジェット・ロッド】は杖型の【クレセント・ロッド】、リーチの長さでは何とかなるが攻撃力が不足していた。

 また、二人の戦い方はレイルのサポートを重視しており、どうしても前衛にて戦う事に無理が在るのである。

 

 だがセラは違う。

 同じ重量級の【砲剣】で動きも戦い方も怖ろしく似通っている。

 戦闘状態であれば、二人の思考は似た反応で行動に移すのであろう、太刀筋も近いために直ぐに連携が取れるのである。

 似た者同士の即席コンビネーションが、ここまで合致する事など稀である。

 まるで長い間連れ添った相棒同士の様な戦いぶりに、二人の乙女心は複雑な思いで見ていた。

   

 

「さて、それでは何処かで休憩して、其れから探索を続けましょう」

「休憩と言うが何処で遣るんだよ? この辺りにセーフティーゾーン何てあるのか?」

「進んでいけば何とかなるでしょ、是ばかりは探索を続けないと判らないですからね」


 何方にしろ迷宮を探索し続けなければ為らない事にため息が出る。

 行き当たりばったりな考え方が、全員の頭を狂わせる。


「ちょっとセラ、アンタこの階層来た事在るんでしょ? その時調べなかったの?」

「あの時は浮れていましたし、適当に進んでいたのでマッピングしてませんよ? 僕は常に行き当たりばったりですから!」

「そんな軽い気持ちで57階層まで下りたっていうのっ!? どんだけバケモノなのよ!!」


 ファイの言い分も尤もである。

 迷宮はいつどこで死ぬか分からない危険地帯なのだ。

 そんな場所に嬉々としてのり込み、平然と帰って来るこの規格外は、驚きを通り越して呆れるしかない。

 バケモノ以外の何者でもないのだ、しかも当の本人は其の事に無自覚であったりする。

 セラの情熱はアイテム収集にしか向いていないのだ。


「それよりも早く行きましょう! まだ見ぬアイテムが僕達を待っていますよ!!」

「セラさん、そうしたい所なのですが・・・フィオさんやマイアさんの回復薬はどなっているのでしょう? ここまでくる間に結構消費しているのですが・・・」

「・・・・・あっ!?」

「「「考えてなかったのかよ!!(ですか!!)」」」

『無駄じゃ、セラはアイテム収集が拘ると周りが疎かになる』


 妙に納得した顔でうなずくレイル達に、セラは一言も返す事が出来ない。

 確かに回復系のアイテムは迷宮攻略には必要なものであり、そのストックが切れる事は命に係わる死活問題であった。

 そんな大切な事に気付かずアイテム収集に精を出していたセラは、フィオやマイアの師として失格とも言える。

 基礎的な事を失念していた事に、恥じ入るばかりであった。


「すみませんでしたあぁっ!!」


 土下座で謝るセラに、全員ドン引きする。


「【ポーション】は自分で大量に保有しているから、すっかり頭から抜け落ちていました。申し開きの仕様も有りません!!」

「大量にって、いったいどれくらい所持しているのか聞くのが怖いわ・・・」

「【オリハルコン】でさえ大量に所持していたしな、恐らくそれ以上だろ」

「【オリハルコン】!?」


 流石にマイアも【オリハルコン】には驚愕した。

 伝説とまで言われる希少鉱物を大量に保有している自分の師に、流石に開いた口が塞がらない。

 想像以上に規格外の存在だという事に、改めて再認識させられたマイアであった。

 格があまりにも違い過ぎる。

 だが、自分と同じ【半神族】という事に顔には出ないが意欲に燃えるのであった。


「私はまだ少し【ポーション】に余裕が有るけど、フィオはどうなの?」

「私は心許無いです・・・お金が有りませんし・・・」

「セラさんから物々交換で買えばよいのではないでしょうか? 錬金術師でもあるのですから回復薬は作れるでしょうし」

「其れは良い考えね! 57階層にまで無傷で進撃できるんだから、【ポーション】ぐらい格安で分けてくれるわよ」

「聖女だ! 聖女様がいますぅ」


 ミシェルの提案に感激するセラ、師匠としての威厳がまるで無い。

 今のセラは回復薬を物々交換するだけの只の荷物運びでしかなかった。

 強過ぎるために基本的な事を直ぐに忘れるこの師匠に、レイルとファイは不安を隠せないでいた。

 何はともあれ、彼等は第八階層を完全攻略を果たすのである。




 【白百合旅団】副団長【ミラルカ・ヴァン・アクエル】は、ロカスの村から外れた平原で、セラと【アムナグア】との戦闘の痕跡を眺めていた。

 大地に刻まれた巨大なクレーター、周囲の地盤も抉られ隆起し、その時の凄まじい戦闘の激しさを如実に語っていた。

 その圧倒的な破壊の痕跡に、彼女と同じ【白百合旅団】のメンバーも言葉を無くしている。

 彼女達も災害指定級の魔獣とは何度か交戦したが、ここまで激しい痕跡は生まれて初めて見る光景である。

 この凄まじき破壊の爪痕が、たった一人の冒険者と最大級の魔獣【アムナグア】によって引き起こされたモノなのだ。

 ミラルカはその痕跡を只険しい表情で眺めていた。


「凄まじい戦闘の痕跡ですね、本当にこの原因が一人の冒険者によるものなのでしょうか?」

「エルカさん、如何やらその様ですわ。それも【レジェンド級】の装備を所持しているらしいですから」


 背後から声を掛けて来た女性に振り返る事無く言葉を返す。

 声を掛けた女性はエルフであった。

 緑色の透き通る様な髪とエルフ特有の長い耳、落ち着いて居ながらもどこか冷徹な印象を与えて来る。

 ファイと同じで、彼女も外の世界の情勢知る為に送り込まれた間者であった。

 そして彼女にとってこの状況を引き起こした【半神族】は、決して捨て置く事の出来ない重大な問題になっているのである。

 エルフ達は未だに【半神族】を迫害し続けている。

 もし、この最強の【半神族】がエルフと敵対したら、たった一人で壊滅的な被害をもたらす悪魔と化すのだ。

 【エルフ族】の長老衆の一人である祖父を誇りとしている彼女にとって、この【半神族】は葬らねば為らないバケモノである。

 其れは皮肉な事に、かつてファイがセラに向けた敵意と同じものであった。


「【レジェンド級】ですか、まさかこれ程の被害をもたらす者など害悪以外の何者でもありませんね。直ぐにでも滅ぼすべきです」

「どうしてですの? これ程の戦力が加われば、わたくし達はもっと強くなれますわよ」

「・・・とてもではありませんが、御する事など出来ない魔獣と同じに思えます」

「そうかも知れませんわね、ですが態々敵対する事も無いでしょう? 其れこそ最悪の事態に為りますわよ、エルカさん!」


 エルカは内心舌打ちをする。

 ミラルカはエルフの内情を知るだけに、決して危険な真似はしない。

 何より【アムナグア】と互角に渡り合えるバケモノを敵に回すような愚作は犯さないのだ。

 寧ろ逆に仲間に引き入れようとしている事が腹正しかった。


「フレイはどう思いますか? 貴女方も【半神族】を迫害してきた歴史があるのでしょう、今はどう思っているのかがお聞きしたいですわ」

「私に聞くのか? ふむ、エルカ殿の様に滅ぼすのは反対だな、其れに我らが自由を取り戻した裏には【半神族】の協力が在った故に恩を仇で返す気は無い。自由に生きているのであれば、放って置くのが良いであろう」


 フレイと呼ばれた女性は【半魔族】であった。

 深紅の髪に赤い瞳、頭部に二本の角がある青い肌の女性である。

 彼女の故郷【ニブル・ヘイム】では、かつて暴君が存在していた。

 同族すら隷属させ、逆らうものは皆殺しにし、欲望の赴くままに生きていた愚劣な王によって支配されていたのである。

 だがそんな日も長くは続かない、あまりの暴政に怒り狂った住民は反旗を翻す計画を立てていた。

 しかし、暴君の周りにはその側近達が固め護衛も多く、中々好機を掴めないでいた。

 だが元々隷属させられていた【半神族】がレジスタンスに接触し、王や側近達の情報を流してくれたのである。

 同族の反抗勢力には目を光らせていたが、従順な奴隷であった【半神族】が裏切るなど予想すらしていなかったのだ。

 そしてクーデターが起こり、暴政を強いていた王と側近達は討取られ、彼等は革命を成功させたのである。

 かくして彼等は自由を取り戻し、【半神族】の迫害にも幕を下ろす。

 彼ら【半魔族】は敵対する者には苛烈であるが、恩には報いる義理堅い特性がある。

 その為、エルカの考えには賛同する気が更々無いのだ。

 この事から【半魔族】は敵だという認識がエルカに宿る事になる。


「うちも反対や、正直こんな真似が出来る【半神族】となんか戦いとうない! メッチャ怖いやん!よう滅ぼすなんて言えるわ、正直逃げたいわぁ」

「正論だなセティ、私も勝てる気がしない! これ程の力を持つのは我等の六盟主様達意外にいるとは思わなかった。世界は広いな」


 セティは【半獣族】の少女であり、ミラルカの親友である。

 猫耳、尻尾の萌え要素満載元気っ娘なのだが、兎に角落ち着きが無い。

 貴族生まれのミラルカと、庶民の中で育ったセティはこの【白百合旅団】で知り合い友人関係に為った。

 彼女達【半獣族】は基本的に商人が多く、その身体能力の高さを生かし【商団】を作り街を移動しながら商いに精を出していた。

 元々奔放な民族性で一か所に落ち着く事がめったになく、常に移動をしながら暮らしているのだ。

 兎に角自由で人が良いが、商いにはシビアであった。

 現在ロカスの村にも同族の【モウケマ商団】(駄洒落)が来ていた。

 実を言えば、彼女は先程まで商団の手伝いをして小銭を稼いでいたりする。

 金にがめついのも特性であった。


「レミーは如何なん? やっぱ怖いやろ、こんな桁外れな大惨事を起こす同僚は! 会いたくも無いわぁ~」

「お姉様方が望むのであれば、私は賛成です! 仲間に為るのであれば戦力になるのは確実ですから、例えどんなに不愛想で気に入らなくてもです!!」


 レミーは先程カーマス三兄弟絡まれていた少女である。

 甘栗色の髪と大きな瞳の何処にでもいる様な少女なのだが、【白百合旅団】では天才の名を恣にしている才女でもある。

 主にミラルカの補佐的な立場であり、彼女にとって団長とミラルカは憧れの存在であった。

 わずか三年余りでこの【白百合旅団】を大きくした手腕に、深く感銘を受けているのだ。

 因みに【白百合旅団】の団旗は団長の実家の家紋、白いユリに剣と盾をあしらった物であり、貴族が運営している事がはっきりと分かる。

 そのミラルカ達に従うのは、彼女にとっての誇りであった。

 ただ一点不満な事を除けば・・・・・


「あぁ~マイアゆうたか? あの子、団長のお気に入り! 何かあの子、目が死んどったなぁ~誰にも心を開かへん」

「余程辛い目に会って来たのだろう・・・不憫な娘だ・・」

「ですが、そのマイアが【アムナグア】倒した冒険者の元にいるとしたらどう思います?」

「「!?」」


 マイアと彼女達は3度だけ仕事をした事がある。

 腕の良いサポート職であり、その才覚に彼女達の団長が惚れこんでしまったのだ。

 何とか引き留めようとしたが、いつの間にか姿を隠し現在この村にいる。

 何と無く理由に感づいてしまう。


「その方が幸せかもしれぬな・・・【半神族】の苦しみは同族にしか分からぬ・・・」

「せやなぁ、団長、振られてもうたかぁ・・・泣くやろなぁ~メッチャ気にいっておったやさかいに・・・」

「ならば、その冒険者を此方に引き込めば良いだけの話です! 如何して諦めるんですか!!」


 エルカとしては、マイアが次の災厄に為り得ると指摘したかったのだが、既に【半神族】の迫害を止めた他種族にはその意味が分からなかった。

 そんな彼女達を苦々しく思う。

 心の中ではこれだから下等種族はと侮蔑の言葉すら浮かんでいた。

 エルカとファイの違いは、他種族を受け入れる許量が有るか無いかの違いであった。

 

「何方にしても、一度御逢いしなくてわ為りませんね。でなければ話に為りません」


 ミラルカには既に方針は決まっていた。

 後は直接話し合うだけであった。




 迷宮第9階層

 この辺に為ると、フィオやマイアはそう簡単に勝てなくなって来る。

 それぞれのブロックが独立しており、徘徊する魔物の強さも極端に変わってきている。

 其れでも何度も斬りかかり、倒してはアイテムを回収しているのだから、まだ余裕が有るのかも知れない。

 ファイやミシェルも巧みにフィオ達を援護し、確実に迷宮のフロアを攻略していった。

 その間、余裕があれば回収したアイテム等を交換したり、フロアの中に有る家具などを漁っては装飾品なども見付けていたりする。

 何の効果が無くても、売れば人財産は稼げるものばかりであった。

 そんな中、魔物と戦いながらマイアは自分の体に異変が起きている事に次第に気づき始める。


 《あれ? あたし強くなってきている?》


 同じような姿の魔物を斬り付けた時に、その手応えらしきものを感じていた。

 だが確信が有る訳でも無く、ただ黙々と魔物退治に精を出す。

 只の錯覚かとも思えたが強硬な装甲を持つ魔物を倒した時、其れははっきりと感じる事が出来た。

 ほんの僅かな事だが、明らかに今までと違う手応えに困惑を隠せない。

 その感覚が次第に大きくなって行く事に戸惑い、滔々セラに尋ねる事にした。


「自分が強くなってる気がする? 其れはきっと【アルフィミアの首飾】の効力が出て来たんだよきっと」

「あの首飾がですか? どんな効力なのですか?」

「防御とか速さと云った身体能力強化の上昇は微妙なんだけど、成長を大きく促す効力が有るんだよ」

「そんな効果がある装飾品なんて聞いた事も在りません」

「【エルフ族】や【半神族】には必要な効果でね、僕もお世話に為りました! 効果が出てるなら何よりだよ」


 うん、うん、と満足げに頷いているセラの言葉にマイアは感激する。

 今使っているこの装飾の効果を嘗てセラが行っていたと思うと、言い様の無い深い感動に包まれるのだ。

 其れは自分がセラの様に強く為れると云う証明なのだから。

 だがそれはファイにとっても聞き逃せない物である。


「ちょっと待って、【エルフ族】と云う事は、あたしにも効果があるって事よね? あたしにも貸して、強く為りた~いっ!!」

「う~~ん、ファイさんが使っても体力や筋力の上昇はあまり効果が無いんですよねぇ、精々魔力とか素早さ、属性値くらいですけど・・・使います?」

「当然よ! 少しでも強く為れるなら、有り難く使わせてもらうわ!!」

「いいですけど、後で返してくださいよ? 結構レアなんですから・・・あと26個有りますけど・・・」

「どれだけアイテムを持ち歩いてるのよアンタ・・・ちゃんと返すわよ、泥棒みたいな事はしたくないし」


 こんな調子で【アルフィミアの首飾】を装備したファイは、張り切って魔物殲滅に精を出す。

 マイアも顔には出さないが嬉しいのであろう、怖ろしい勢いで魔物に突撃してゆく。

 かくして彼等のいるフロアの魔物は、この二人の手によって駆逐されたのであった。 

 


 快進撃を続ける探索パーティ御一行は、間に休憩をはさみながらも未探査エリアを確実に埋めて行く。

 フィオやマイアではここまで来ることは不可能だが、レイル達中堅クラスの実力者やセラのチート能力の御蔭で、その探索効率は比較的に早く短時間で各フロアを制圧できる。

 しかしその探索中には時として不可思議なモノを発見する事も在り、その存在に首を捻る事もしばしある。

 現に今も首を捻るモノを発見していた。


「・・・・・何で迷宮にトイレが設置されているんでしょう? しかもちゃんと使えます。紙も設置されていますし、水は一体何処から引いているんでしょうか? 僕には謎過ぎて理解できません」

「しかも毎日掃除しているみたいに清潔だぞ? 誰が清掃しているんだ? 全くもって訳が分からん、便利だからいいけどな」

「セラさん、こっちにお風呂が有りますよ? 凄く大きなお風呂です、不思議ですねぇ」

「「マジでぇっ!!」」


 魔物の出現しないセーフティーゾーン。

 何故か其処には水洗式しかもウォーシュレットつきのトイレと、お湯の張られた巨大な浴場が発見される。

 どこぞの浴場技師が見たら悔しがるほどの浴場で、迷宮そのものに得体の知れない怖さを感じていた。


「・・・まさか一定の階層にこんな施設が設置されているんでしょうか・・・・・」

「・・・知らん・・・」


 更に調べてみると、調理場や宿泊施設など至れり尽くせりの設備が揃えてある。

 此処まで揃えてあるともう訳が分からない、迷宮は何を望んでいるのだろう。


「姉さん、ファイさんとミシェルさんがお風呂に入るそうです。あたし達はどうするの?」

「「マジですかぁ!? 適応、早ッ!?」」


 流石に全員一緒に入る訳にもいかず、順番で見張りを交代しながら入浴する事になった。

 いくら安全な場所でも油断は出来ないのだ。

 しかし迷宮で風呂に入るのも大概にどうかしている。

 レイル達もおかしな方向に足を踏み込みつつあった。



 入浴を終えた一行は再び探索を開始する。

 何処までも似たようなエリアを歩き回り、流石に辟易していた所に入浴で気分転換できたため、彼等のモチベーションは回復していた。

 意気揚々と進む彼等は、統一性の無い不気味な魔物を片っ端から蹴散らし、アイテムを回収しながら突き進む。

 時折罠なども出て来るが、発動するときに魔法陣が出現するため直ぐに避ける事が出来る。

 この事から古代種でもある【神族】は魔導技術に依存した文明である事が判る。

 強力な力と技術を持ちながらも、其れでも滅んだのは知性を持つ種として幼かったのであろう。

 彼等の辿った運命は、もしかすれば自分達の未来かも知れないと、セラはそんな事を何と無く考えていた。


「是だけの技術が有るのに滅んじゃうのって、【神族】って馬鹿だったのかなぁ・・・」

「確かにな、どれだけ進んだ力を持っていても結局滅んじまったんだからな、馬鹿じゃなきゃ無理だろ」

『諸行無常じゃのう、自ら滅びを選んだのじゃから』

『ホ~ウ、ホ~ウ』


 主無き建造物が未だに存在し、それでも迷宮として機能している事に感慨深いものを感じる。


「こうして迷宮に踏み込んでみると、【神族】の凄さが良く分かるわ」

『ホホウ、ホウ』

「多くの学者達がこの迷宮の謎に挑んでは、議論を重ねていると聞きます。それでも答えが出せないようですね」


 迷宮に使われている魔導術式の解読は一向に進まず、様々な学説が飛び交うが未だに確証を得ていないのが現状だった。


「ところで・・さっきから気に為っているんですけど・・・・・」

『ホッホッホウ』

「この聞こえてくる声はなに?」

『ホ~ホッホッホッ』


 フィオとマイアに言われ、初めて気づいた謎の声に一同顔を見合わせた。

 周囲を見渡せば柱の陰や天上などから、小型の黒い影が無数に湧き出て来た。

 其れは迷宮の特性を思えば珍しい、全てが統一された魔物の集団である。

 まるで童話に出て来る小人の様な姿で、白い髭を生やし、人の良さそうな笑みを浮かべながら近づいて来た。

 どこぞのテーマパークにでも居そうな其の姿に、セラ達は戸惑う。


「か、かわいいですぅ!! なんですかあの魔物さん達、凄く可愛いです!!」

「・・・姉さん・・あれ、何か倒し辛いんですけど・・・」

「ファンタジーですね、まるで御伽の国に迷い込んだみたいです」

「・・・あれ、倒すの? あたしには無理なんですけど・・・」


 女子四人は行き成り戦意喪失し、戦う事に戸惑いを感じていた。

 だがセラは違う考えを持って、この小人型の魔物に警戒している。

 レイルに至っては、間抜けな顔でこの魔物を見ていた。


「・・・何で魔物がファンシーな姿で、ノーム達が悪役顔なんでしょうねぇ?」

「知るかっ! 何なんだよありゃ、この迷宮人を馬鹿にしてんのか?」

『ホホウ、ホウ、ホウ、ホッホホ~~~ウ』


 魔物達がセラ達の周りに、まるで歓迎でもするかのように踊りながら近づいて来る。

 あまりのファンシー振りに、女子四人の顔は実に楽しそうな笑顔が浮かんでいた。

 何だかんだで女の娘、可愛い物には目が無いのである。

 そのうち数体の魔物が、セラ達に踊りながらやって来た。


 ―――――グシャアッ!!

「「「「「セラっ!!(さん!!)」」」」」


 セラは無表情で、冷徹に残忍に情け容赦なく【聖魔砲剣】を魔物に叩き付け無残に惨殺した。

 しかも、その凄惨な一撃を加えた後、凄く悪辣な笑みを浮かべる。

 魔物は自己崩壊を起こし、その場にアイテム【ダマスカス鋼】を置いていった。


「こんな上層階層で【ダマスカス鋼】か、やっぱりダンジョンは初物に限るね!!」

『セラよ・・・お主は何時でも平常運転じゃのう・・・』


 開いた口が塞がらない。

 セラはファンシーな魔物の姿よりも、彼等の落とすアイテムにしか興味を示していなかった。

 呆然とする仲間たちの横で、魔物がその本来の役割を見せる。

 セラ以外の少女達に近付いた魔物達は突然加速し、少女達の傍を擦り抜ける様に駆け抜ける。


「「「「っ!?」」」」


 動いた魔物は其々に、何やら布のような物を手にしていた。

 人の良さそうな顔が一転、邪な不陰気を醸し出すニヒルな笑みに見える。

 魔物達がその布を広げると、それは・・・・


「「「いやあああ~~~っ!! 私の下着いいいいぃぃぃぃっ!?」」」

「「なんですとぉおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!?」」


 そう、魔物の内三体がパンティーを残り一体がブラジャーを手に笑みを浮かべていた。

 しかも翳して眺めたり臭いを嗅いでみたりと、まさに変態。

 そして究極変態行為を彼女達に見せつける。


 『『『『装着!!』』』』


 何と、ブラを頭に、パンティーを顔に被ったのである。


 ――――フオオオオオオオオオオオオオオッ!!


 四体魔物達が何故かパワーアップし、筋骨隆々の下品な笑みを浮かべるオッサンへと変化した。


「「「いやああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」

「~~~~~っ!!」

「「かぶっただとぉおおおぉぉぉっ!? 変態だあああああああぁっ!!」」


 変化した魔物は其処で不気味な踊りを踊っている。

 やたらとクネクした動きで、見ているだけでも気持ち悪い。

 四人の少女達はもう涙目で、この魔物の悍ましき変態ダンスを眺めるしかなかった。 


「んっ!?」


 一体だけレイルの傍に来ていた魔物が、彼を眺めていた。

 そして、もの凄く嫌そうな表情を浮かべると、『ケッ!!』と舌打ちし床に唾を吐き捨てる。


 ――――ブグジャアッ!!


 その態度にムカついたレイルによって、魔物は【グラムスレイヤー】で叩き殺される。

 潰された魔物はそのまま自己崩壊して【魔晶石(小)】を残し消えて行く。


「何て恐ろしい攻撃でしょう! 僕たちの戦力が大幅に削られました」

「ある意味でだがな!! っうか、何なんだよこいつら! 一体どんな魔物なんだ!?」


 魔物達が突如一斉に襲い掛かる。

 主にセラを含む少女達にだが、この魔物達の笑みが何やら悍ましい物に見えるのが不思議である。

 最初のファンシーな不陰気をぶち壊す下品な魔物あった。


「この変態バケモノ!! あたし達の下着を返しなさい!!」


 ファイが【トランスゲイザー】で斬り付けようとする。

 しかし変身していない小型の魔物が道を塞ぎ、彼女のスカートの中を覗き込もうとする。

 当然ながら今のファイは下着を着けていない訳であり・・・・・


「いやぁあああああっ!!」


 ファイはスカートを抑え、覗かれないように防御するしか無く攻撃が出来ない。

 更にミシェルにも奴等は群がり始め、更なるお宝を頂こうとする。

 彼女が奪われたのが、ブラだからであろう。

 だが、その中でマイアだけがこの変態な魔物を蹴散らしていた。

 フィオはと云うと・・・・・


「ふえええええええん!!」


 マジ泣きしていた。

 次第にフロアを埋め尽くす軍団に為り、踊っていたデカ物が少女達に迫る。


「拙いぞセラ!! 分断されているうえに、奴ら数が増えてきている!!」

「むぅ、フィオちゃんを泣かせるなんて・・・そんな不届きな奴には【ボルガニック・エクスプロージョン】」


 セラが最強魔法の一つを発動させる。

 フロアを埋め尽くす魔物の真下に光の魔法陣が出現する。

 煉獄の炎柱が次々に聳え立ち、魔物達が焼き尽くされてゆく。

 だがそれは序章に過ぎない。

 本命はその後に来た途轍もない威力の爆発であった。


「【アルティメット・グランフォース・シールド】」

 

 セラが使う二度目の魔法、最強の魔法防御障壁で全員を守る。

 このフロアは横に狭く長い通路である。

 そんな所で強力な爆裂魔法を使えば、その衝撃波は通路に沿って一気に加速して襲い掛かるのだ。

 魔物達は全てその衝撃波に飲み込まれ、木の葉のように吹き飛ばされ或は押し寄せる灼熱の熱風に焼き尽くされる。

 普通なら死ぬ様な威力の攻撃なのだが、最強防御魔法の御蔭で全員無事であった。

 完全に魔法が発動する前に、次の魔法で防御する。

 攻撃魔法よりも防御魔法の方が早く発動するのを利用した、殲滅の一手の一つであった。

 しかも物理法則すら利用するセラの戦略である。


 途轍もない破壊の嵐が過ぎた後、其処には下着を被った変態と僅かな生き残りしか残っていなかった。


「この隙にあの変態から下着を取り戻すわよっ、ミシェル!!」

「・・・・・ふっ、ふふふふっ・・・・」

「・・・あのぉ~ミシェルさん?」

「なんて下品な魔物なんでしょう・・・・コレは懲らしめて差し上げないといけませんね・・ふふふっ・・・」


 危険な笑みを浮かべたミシェルは【次元バッグ】に手を入れると、其処から巨大な金棒の様な【ガジェット・ロッド】を取り出す。


「あれは、まさか・・・【鬼神の大鉄塊 轟懐丸】!?」


 セラが驚くのも無理はない。

【鬼神の大鉄塊】は上位の武器ではあるが、中級者でも比較的楽に作れる【ガジェット・ロッド】である。

 しかし、ミシェルがそんな物を所有している事が凄く以外過ぎたのだ。

 この武器はただ殴る事しか出来ず、殴れば殴るほど威力を上げる撲殺武器である。

 とても聖女の様なミシェルが持つ武器では無い。


「ふふふふふっ、お仕置きです! お覚悟を!!」


 ―――――ボグッ!! ゴリュッ!! グジュウッ!! ビジャアッ!!・・・・・


 セラ達は見た。

 其処には聖女では無く、冥府より現れた獄卒がいた。

 罪を犯した者に責め苦を与える美しき鬼が、巨大な金棒で魔物達を殴り倒している。

 慈母の如く微笑みながら、彼女は情け容赦のない責め苦を徹底的に、念入りに、苛烈に与え続けた。

 生き残った魔物達も徹底的に撲殺されてゆく。


「・・・い・・いつものミシェルじゃ無あぁいっ!!・・・ 」

「・・・ふふふっ・・・・逃しませんよ? 是は裁きなのですから・・・ふふふっ・・・」


 ミシェル手によって、このフロアの魔物の生き残りは全て一掃されてゆく。

 セラとその仲間達は、この惨殺劇を震えながら見続けているしかなかった。

 

 ミシェルの背筋を凍らす様な笑いと、魔物を殴殺する音は最後の一体が消えるまで続くのだった。


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