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瀬良家の日常 ~開かれた扉~

 いったいどれだけの時間が過ぎたのであろうか。

 正直言ってここまで難儀だとは思わなかった。

 流れる汗を拭い、残りわずかのポーション飲み乾し無造作に小瓶を捨てる。

 相手もそろそろ限界が近いはず、ならばここで賭けに出るのも悪くない。

 元から無謀な挑戦だったんだ、ならば潔く持てるすべてを出し尽くし、あの偉大る魔獣の王に挑もう。

 岩場陰から覗き込むと、かの魔獣王は僕を捜し、ところ構わず熾烈な攻撃をばら撒いている。

 

 ―――――グオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォウ!!

 

 世界を揺るがす程の猛狂う咆哮は、途轍もない衝撃波を発生させ大地を震わせる。

 咆哮を放つ主は途轍もなく巨大で、けた外れに強い。


 【聖魔竜ヴェルグガゼル】それが彼の名前だ。

 何せ最強にて最恐、そして最狂、その深紅と漆黒の鋼殻や鱗のコンストラストは、なんと美しくも禍々しいことか。鋭角的な頭部から蛇をおもわせる太い胴体、如何なるものも太刀打ちできない鋭い爪を持つ四肢、空を覆い尽くすような翼を翻し、重厚な鋼殻と翳めただけで肉が削がれそうな棘のついた尾。唯一頭部に生えそろっていた金色の角は、 残念なことに彼の角は、つい先ほど僕が破壊したのでボロボロ。それでもなを、この王様は威厳を失うこともなく猛威を振るう。


 多くの冒険者が幾度も彼に挑み、その都度彼は返り討ちにしてきたのだ。

 そんな奴を僕はここまで追い込んだのだ、しかもたった一人でだ。

 敢闘賞もいいところだろう。

 とは言え、いつまでも岩陰に隠れているわけにもいかない。

 始まりがあれば終わりも来る。この戦いにも決着をつけなけらばならない。


「『ブッタ・ザッパー』『フィジカル・ブーステッド』『レビュート・フェザー』」


 武器の攻撃力強化、身体能力の強化、飛行魔法、複数の魔法を同時に使う。

 どうでもいいけど、魔法の名称って変なものや能力に関係ない名称が多いよね?

 僕は、勢いよく岩場から飛び出すと、こちらに気付く前に背後に肉薄する。

 流石に彼も気づいたのか、こちらに顔を向けた。


「『フラッシュ』」


 彼のすぐそばで目暗ましの閃光をかまして、その隙に僕の武器『砲剣』で翼を切り刻む。ダメージが溜まっていたのだろう、翼の被膜が割かれると、彼は飛行維持を続けることが出来ずに地面に落下してゆく。

 僕もすぐさま降下して更なる追撃を掻けようとするが……

 地面に叩き付けられ大量の粉じんが舞う中、彼は首を擡げ巨大な口を開くと、急速に大気を吸い込み始める。 これは、ドラゴン特有のパターンで【ドラゴニック・ディストラクション】と呼ばれる【ブレス】を吐く前兆だ。


「やばい! 間に合ええぇぇぇぇぇ!!」


 とっさに急降下して接近戦に持ち込もうとする中、強力な【極太ブレス】が放たれる。

 身をひねり何とかギリギリセーフで【ブレス】を避けながら、彼の首元にたどり着き、すかさず『砲剣』叩き込む。無数の鱗と鮮血が宙を舞う。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 僕は獣ごとき叫びをあげながら、『砲剣』を構え止めを刺すべく無我夢中で突撃していった。









 日もとっぷりと暮れ、室内に陰に支配される中、唯一光源である24インチのテレビ画面には『討伐完了』の文字がでかでかと浮かんでいた。

 その画面を見つめているのは、まだ幼さが残る面立ちの少女である。

 どれだけの時間この場所にいたのかは定かではないが、その顔に浮かぶのは心がどこかに飛んで行ってしまったかのように呆けたような間抜け顔であった。

 人懐っこそうな愛くるし顔立ち、背中にかかるくらいに伸ばした亜麻色の髪、子供のような純粋さが見て取れるクリっとした瞳。どこから見ても美少女と言われても可笑しくないのだが、残念なことに今現在テレビの前で絶賛間抜けヅラ開放中。

 彼女傍には食べかけの封の空いたポテチと、飲みかけのペットボトルのお茶、さらには無造作に脱ぎ捨てられた学ランとカバンが床に転がっている。


 ……学ラン!? 訂正、少女でなく少年だったようだ。


 今時珍しく学ランの胸ポケットにネームプレートが縫い付けてある。

 彼の名は【瀬良優樹】、どうやら高校生らしいのだが、とてもそうは見えない。

 優樹は微動だにせず、ただ無言でテレビ画面をみつめている。

 彼の手にはゲームのコントローラーが握られているが、やはりピクリとも動かない。

 まるで彫像のように固まった優樹に、あえて題名をつけるなら『夕暮れ時の六畳間間抜けヅラ美少年像テレビ画面編』であろうか? 実に痛い光景である。

 彼は、いつまこので間抜けヅラを晒し続けるのであろうか?


「兄貴、ご飯出来たってさ~って、何アホみたいな顔してんのよ?」


 そう言って、ノックもせずに彼の部屋に入って来たのは、見た目は彼と同じ顔立ちの少女であった。

 ただ彼女の方がややつり目気味で、ヘアースタイルもボブに近いショートで、どこかキツめの印象を受ける。と、言うかマジでキツい性格なのかもしれない。


「あっ真奈ちゃん? て、あれっもうそんな時間? て、うわ、もうこんなに暗くなってる!」


 ようやく正気に戻った彼は、結構な時間が過ぎていたことに、今更長良に気が付いて驚く。


「ま~た、あのゲームゥ? 兄貴もよく飽きないわね。てか、暗いわ、よこの部屋。電気ぐらいつけなよ、だらしないわね!」


 そう言いながら真奈は、めんどくさそうに壁に設置されたスイッチを押す。

 明かりに照らされた部屋は、何というか、混沌としていた。

 壁際の本棚には単行本やラノベ、量子力学の専門書や黒魔術入門編などという怪しげな本、ゲーテの詩集さらには育児関係の本なんてのもある。訳が分からない凄まじいラインナップだ。

 横の棚にはGのつく機動兵器の模型や美少女キャラクターのフィギュア、のらくろやブースカ、有田焼の皿、埴輪、トテムポール、東京タワー、パレンケの翡翠の仮面、水晶玉など頭がおかしくなりそうな品ぞろえだ。何が目的で集めたのであろうか理解できない。

 あとは、テレビとゲーム機各種、だが机の上だけはやけにさっぱりしている。

 ―――――――彼の人生は大丈夫であろうか……


「……相変わらず凄い部屋だわ、いろんな意味でだけど…… いい加減にこのガラクタ捨てたら? なんて言うか、この部屋観ていると頭が痛くなるんだけど、実際に…」

「なんてこと言うのさ、どれも大事なものだよ! いくら真奈ちゃんでも本気で怒るからね!」

「………大事なものなんだ……」


 真奈は眉間を指で押さえながら呻く。

 彼女が本気で頭痛に苛まれているその横で、当の優樹はというと、コントローラーを操作していた。


「さすがにソロプレイでレイドモンスターに勝つと、アイテムが大量だなぁ。これなら装備一式創れそうだ、ついでに武器も強化して、新しい武器も創ろうかなぁ~」


 そういいながら優樹はゲーム内のアバターに魔法を使わせて、町に転移させる。コントローラーを動かすたびに美麗なグラフィックが流れる。しかしその画面には、彼の操作するアバターが映っていない。

 グラフィックだけが流れているのだ、まるで他人の視点で世界を見ているように。


「………ねぇ、兄貴…」


 いつの間にか妹は復活していた。


「なに? 真奈ちゃん」

「これ、兄貴のキャラがいないんだけど……?」

「僕、アバターの視点でゲームをプレイしてるから、キャラクターは映らないよ」


 そう、彼のプレイしているオンラインゲーム『ミッドガルド・フロンティア』は視点変更が可能で、バック視点では味わえないスリルを楽しむことが出来るのである。まあ、その他にも村を作って開拓したり、商売もできるし、素材アイテムを使い、ゲーム内に存在しない装備アイテムを創作して売ることも可能(ただし、デザイン専用のツールプログラムをダウンロードしなくてはならず、操作も恐ろしくめんどくさいらしい)、なんともはや至れり尽くせりなゲームである。


「キャラクター視点て、なんかやりづらくない?」

「慣れてくると結構楽しいよ、スリルを求めるのならおすすめ」

「遠慮しとく、あたし兄貴みたいにイカレてないから」

「人を頭ごなしに変人扱いは、感心しないなぁ」


 ―――こんなデンジャーな部屋で生活している奴が何を言う!!

     

 そんなツッコミを飲み込んで、彼女は素朴な疑問を聞く事にした。


「ところで、どんなアバター使っているの? この間見た、いぶし銀の渋いオジサン?」  

「違うよ。あれは、しばらくお休み中」

「なんで? 結構、イカしてたのに?」

「アイテムを一通り集めたからね。サーバーがアップデートするまで、やる事が無いんだよね」

「……このアイテムマニアめ、使わないアイテムなんか売ればいいのに」

「どんな楽しみ方をするかは、人それぞれの自由だよ?」


 ―――正論である。


 そんな会話の最中にもアバターの操作を忘れずに行い、どうやら店の前にたどり着いたようだ。

 厳ついオヤジが会話をしてくるが、ボタン操作で一気に流しコマンドが現れた。

 欲しい装備アイテムを選択し、素材アイテムを渡して必要な金額を払う。

 創った装備品はアバターの所有する『無限バッグ』に収納される仕組みなのだが、余りこの道具を使うプレイヤーは少なかったりする。


「さて、それでは早速装備しますか」


 嬉しそうに新装備をアバターに装着させる。しかしそれは、アバター視点を一時的に解除するようなモノだった。しかもテレビ画面に映し出されたキャラクターは、銀髪ロングの美少女であった。さらに言えばそのキャラの顔はどことなく優樹に似ていた。


「……あ、兄貴、き…」

「なに?」

「…あっ、兄貴って、ま、まさか……ねっ、ネカマなの?」


 触れてはいけない物に触れようとする心境で、真奈は恐る恐る躊躇しながらも、静かに今思っていることを震える声で聞いてきた。


「なぁ、なんてこと言うのぉ!?」

「だって、そうじゃない! なんで寄りにもよって、こんな美少女キャラなのよ!? しかも、なんか兄貴に似ているし、更には可なり手の込んだ創りよう。それに、嬉しそうに操作してたよね!?」

「女性キャラを創ったのは、装備や性別限定レアアイテムをコンプリートするためだよ! 見た目を似せているのも、キャラ考えるのがをめんどくさかったからだし、他に意味なんてないよ!!」

「信じられるわけ、ないわよ!!」

「なんでぇ!?」

「兄貴が、日を追うごとに可愛いくなっているからに決まっているでしょ!!」

「……えっ??」


 ―――『真奈さん? いま、何とおっしゃいましたか?』


「兄貴は知らないかも知れないけど、近所の同年代の男子どもは兄貴のこと狙っているのよ。しかもファンクラブまであるらしいし、うちの男子も生徒手帳に兄貴の写真を挿んでるのよ。キモイわ、マジで!」

「・・・・・その話、初耳なんだけど・・・・・」

「あくまで秘密裏に活動しているみたいよ? 帰宅中に後をつけたり、隠し撮りをしたり、兄貴が使った物を回収したり」

「こわっ!! と、言うか僕、男だよ!? それに、犯罪だよね!? それぇ!!」

「一部では、《男の娘、最高ぉう!!》なんて言ってたわ。モテモテね」

「全然、嬉しくないよ!!」

「あっ、兄貴。お尻、気を付けてね?」

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 冷徹な眼で見据え、残酷な現実を突きつける妹。

 その兄は床に突っ伏して、突き刺さった悍ましき日常に、ただ無力に震え涙するばかりであった。


「・・・・うっ、ぐすっ、うぇ」

「本当にまったく、全然、微塵も男に見えないわね」

「・・・ほっといて・・・・でも真奈ちゃん、なんでそんなこと知っているの?」

「・・・・・」

「真奈ちゃん?」


 優樹の素朴な質問に、真奈の表情が消える。

 

「・・・・・・・・・聞きたいの?」


 無表情のまま感情のない低い声で、真奈は逆に聞き返してきた。

 妹の豹変に、優樹の背中に冷たい汗が流れる。

 嫌な予感が満載の、パンドラの箱を開くような、踏み込んではならない何かを感じる。


「い、いや、ちょっとした疑問だから、別に無理に聞く気はないかなぁ……」

「いいや聞きなさい、聞くのよ、聞け、聞かねばならないのよ、兄貴には!! そう、あれは中二に上がったばかり春の事だった……」


 えらい剣幕の妹に押し切られ、問答無用に語りだした。

 話は色々脱線しまくっていたので要約するとこうだ。

 真奈が中学二年生に上がった頃、彼女はある一人の男子生徒が気になっていたらしい。

 当時の彼女は、現在と違い人見知りするタイプの子であったため、その男子生徒に声すら掛けられずにいた。そんなある日、彼女は意中の少年に声をかけられ、屋上に呼び出されたのだ。

 そして……


『悪いな瀬良、突然こんなとこ呼び出して』

『う、ううん、いいよ別に。そ、その、話って何なのかな?』


 緊張と期待と不安が綯交ぜになり、少女の心臓が早鐘のように鳴り響く。


『こんな事と言うと頭のおかしい奴だと思うかもしれない、けど俺、本気なんだ』

『うっ、うん』

『せっ、瀬良! おっ、俺!』


 少女の肩を両手で押さえ、少年は真剣な表情で迫る。

 心臓がいっそう激しく鳴り響き、このままではすぐに限界を迎え気絶しそうだ。

 顔はリンゴのように紅潮し、淡い思いがより一層現実味を帯びてくる。

 だが……


『瀬良!! お前の姉さんに惚れた、俺に紹介してくれ!!』

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぃ??』

『他の奴らもあの人を狙っている、奴等よりも早くこの俺に!! 頼む、この通りだ!!』


 当然ながら彼女には兄はいても姉などいない、この少年の勘違いであることはもう間違いない事実、そしてこの時彼女の初恋は終わりを告げた。自分の兄が男子の憧れの的になっていたのも衝撃的だが、男よりも魅力に欠ける自分にショックを受ける。

 さらにこの時から彼女はグレた。


「兄貴にわかる!? 好きになった人に兄貴を紹介してくれと言われる私の気持ちが、遣る瀬無さが、惨めさが!! しかも数えるのが馬鹿らしくなるほど、何度も何度も!!」

「それ、僕の所為じゃないよねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

「兄貴がもっと男らしくなればいいのよっ!!」

「理不尽だよおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

「理不尽なのは、あたしの方だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 世界はなんて不条理に満ちていることか、美少女な兄が悪いのか、はたまたその兄に魅了される世の男たちが悪いのか、どちらにしても法律などでさばける類のものではない。

 救いようのない話だ。 

 

「……そうだ、男らしくなれないのなら…いっそのこと…」

「・・・・・・・まっ、真奈ちゃん?」


 その時真奈の目に怪しげな光が宿る。

 まるで幽鬼のごとくユラリと揺れながら、兄の元に近づいてゆく。


「いっそのこと、本当に女になればいいのよおぉぉぉぉぉぉっ!!」

「ちょっとおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 危険な思考に取りつかれた真奈は、優樹に襲い掛かり、彼の着ている服をはぎ取ろうとする。

 ―――しかもなんか手馴れていた。


「ちょっ、それ、シャレにならない!! ま、真奈ちゃんダメ、駄目だってば!!」

「男は度胸!! ジタバタするなんて、男らしくないわよ!! あっ男の娘か!」

「変なジャンルに組み込まないでえぇぇぇぇっ!! そんな趣味無いよおぉぉぉ!!」

「良いではないか!! 良いではないかあああぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」

「なんか目的も見失ってる!? ちょ、ダメええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「なんか、ノッテきた!!」


 はたから見れば、少女たちがじゃれ合う微笑ましい光景なのだが、会話を聞けばいろいろ問題のある危険な世界、止める者がいない無秩序な状況はいつまでも続くかに思われた。


「ゆうちゃん、まなちゃん、ご飯が冷めちゃうわよぉ~何をして……あらっ?」

「お前たち、少しは静かにしろ、近所迷惑………むぅ?」


 開け離れたドアの外側から二人の人物がのぞいていた。


「「と、父さん。母さん!?」」


 時間が凍結する。

 妹が兄の上に圧し掛かり上着を肌蹴させ、さらにはズボンを引きずり下ろそうとする光景、端的にいえば先程行われていたのがそうであった。しかしながら、そこに第三者が介入するしてくると、その光景は別の背徳的な意味を持つようになる。


「まぁ、見てお父さん! 真奈ちゃんが優ちゃんを押し倒してるうぅ~」

「「なんで嬉しそうに言うの!?」」

「ちっちがうから!! そおいうのじゃないから!!」

「照れなくてもいいのよ、お母さん理解がある方だから。でもちょっと早いかしら?」

「だから違うって母さん!! 僕たちはそんな……」


 ……上手い、言い訳が思いつかない。

 優樹は愕然となる。真奈はある意味自業自得だが、被害を受けた自分の立場を言葉にするには難しすぎた。それより無言で固まっている父親がどう見ているのか、まさかの勘当をされるかもしれない。

 横目で父親を覗き見ると、何やら考え込んでいた。


「お前たち、避妊の準備はできているのか?」

「「いきなり、とんでもないことを言いやがった!?」」

「計画性のない情交は、自分も子供も苦しめるだけだぞ?」

「そんなんじゃないから!! 真奈ちゃんが暴走しただけだから!!」

「妹に押し倒されたのか? 情けないぞ、男なら押し倒せ」

「それが実の子供に言うことおぉっ!?」  

 

 変な方向に話が進んでゆく


「私も母さんも理解があるほうだ、迸る熱い怒涛の如き思いに流されたくなるのは良くわかる。しかし現実は、思いの力だけでどうにかなる様な甘い世界ではない。

 時には修験道の修行僧のごとく、純粋なる愛という名の欲望の苦難に耐え忍ぶことも必要だ」

「父さん、僕は倫理的に問題があると言いたいんだけど」


「倫理観や法律、常識など所詮人が作り出したものに過ぎん。愛の前にそんなものだ無力だ。

 一見して正常に見えるこの世界も、その裏では背徳という名の下らない束縛に苦しみ、それでもなお、純粋な愛に身を焦がす者たちが大勢いる。

 古代エジプトにおいても、近親婚は行っていたし、権力を維持するために近親交配をおこなっていた。

 過去から現在において、おおよそ背徳と呼ばれるものは国や主教、民族思想の中で築き上げられてきたものだ。そこから類推するに、倫理観なんてものは酷く曖昧で薄っぺらなものなのだ。

 ならば自分の思うがままに生きることは、決して間違いではあるまい」


「じゃあ、父さんはわたしと兄貴がそういう関係になってもオッケーてこと?」

「むろんだ、むしろどこの馬の骨ともわからぬ若造に、お前を嫁に送るより安心だ」


 とんでもなく器の広い父親であった。


「若いっていいわぁ~ あの頃を思い出しちゃう」

「「あの頃って!?」」

「お母さんが学生の頃…あの日、帰りが遅くなってお母さんは、近道を通ろうと人気のない神社の境内を歩いていたの。その時後を就けていたお父さんに無理やり押し倒されて・・…」

「母さん、その話は……」


 とんでもないことを、サラリとカミングアウトした母親に、二人の子供たちは凍り付いた。

 つい一時間前まではごく普通の家族と思っていたのに、今はもう得体のしれない不気味な何かに思えてならない。

 そして何よりも、この二人の今の心境は……


 ―――『『そんな馴れ初め、聞きたくもなかった……』』


 この一言に尽きるであろう。

 そんな二人をよそに、精神崩壊を引き起こしたこの夫婦はと言うと……


「それよりお父さん、ご飯が冷めちゃいますよ?」

「ふむ、そうか? ではリビングに行くとするか。ところで二人とも・・・・・ほどほどにな」


 そう言い残して部屋を出ていく。

 あとに残された二人はと言うと……


「ちょっと! お父さん、お母さん、私たちそういう関係じゃないから!?」

「僕はただの被害者だから、お願いだから話を聞いて!!」


 我を取り戻し急いで部屋を後にする。

 下の階から聞こえてくる喧騒を、つけっぱなしのテレビだけが聞いていた。



 夕食をを終え自室にもどってきた優樹は、テレビが着けっ放しであることに気が付いた。

 液晶画面には自分そっくりの少女が、真新しい装備を身につけ可愛らしくポーズをとっている。

 なんか釈然としない。

 床の上に転がるコントローラを拾い、アバターを宿に導く。

 このゲームは宿に泊まらないと、セーブすることが出来ないのだ。

 宿屋のカウンターで必要な金額を払い終えると、ノンプレイキャラに誘われ、それなりに小奇麗な部屋へ画面が変わる。

 ベットにアバターを近づけると【セーブしますか? YES/NO】の文字が現れる。すぐさまイエスを選択すると、ベットに横になり、そのまま眠りにつく。

 本来ならばそれで終了のはずであるのだが、今日ばかりは違った。

 ベットに横になるアバターの胸元に、光る本のようなアイテムがくるくると回っていた。


「なんだこれ? ソロで【ヴェルグガゼル】を倒したときのレアアイテムかな?」


 すると新しい選択肢が現れる。

 【異界パスポートが発動しました。異世界に行きますか? あなたに選択肢はありません】

 選択肢のツッコミを入れる間もなく、優樹は光りに包まれる。


 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 余りの眩しさに、優樹は腕で顔を隠し光を防ごうとするが、次の瞬間急速に何か強力な力にに引き込まれる。声を上げる暇などなかった。

 閃光が収まったとき この部屋の主は忽然と姿を消していた。

 


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