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 迷宮探索をしよう ~村の混乱と白百合旅団~

 

 フィオは魔物の群れへと突撃し、閃光魔法で目潰しをすると其の儘後方に回り込み、そこへマイアの初級範囲魔法【アイシクル・ミスト】ご撃ち込まれる。

 魔物は氷結し身動きが鈍くなった所に、二人が一気に斬り掛かる。身体を強化アイテムで底上げしたマイアは、予想以上の速さでアイテムの効果に慣れて行き、フィオともども多大な成果を上げつつあった。

 

 現在迷宮第六階層、セラとレイルのパーティは迷宮の構造を調べながら、捜査範囲を広げていた。

 単独で行動していたとはいえ、マイアの実力は身体能力が上がれば相当な実力を持っている事が判明し、フィオも負けじと意欲を燃やして経験を稼いでゆく。

 如何やら二人の相性は良いようで、互いに声を掛けあいながらも魔物を次々に葬っていた。

 勿論アイテムの回収も忘れずに。


「マイア凄いわね、初級範囲魔法を覚えただけで此処まで強くなるなんて・・・」

「そうですね、セラさんの話では強化アイテムで体力を補っているらしのですが、とてもそうとは思えない戦いぶりです」

「実戦経験が有る様だからな、その分慣れるのも早いんだろう!【半神族】も、こうすりゃ強くなれるって見本だな」

「僕も昔はあんな感じでしたよ? 何度もヘマをやらかしました!」

『何故に嬉しそうなのじゃ? セラよ・・・?』


 上の階層でマイアの能力強化のために、途中で【マジック・スクロール】を回収し、それ以降フィオとマイアの快進撃は止まらない。

 複数の攻撃魔法を覚えたマイアは、最早歩く砲台と化していた。

 無論この迷宮でと見つけた【スクロール】は、フィオも所有しているがマイアとの威力の差は歴然であった。

 その分格闘能力の差でマイア以上に活躍を見せているフィオは、【ヴェイグ・シザー】で容赦なく狼のような魔獣を葬り去る。

 とても初めてのコンビとは思えない動きで悉く魔獣を倒し、そして嬉々としてアイテム回収する姿はまるで追剥の様だった。


「マイアさん!! 其方に行きました!!」

「任せて、此方で処理するから」


 落ち着いた声色でマイアは駆け抜けて来る魔物を単体捕縛魔法【チェイン・ロック】で拘束すると、短剣を構え肉薄し連続で斬りつけた。

 其れなりの強度を持っていた筈の魔物が、繰り出される連撃に耐え切れずに自己崩壊を始める。

 今のマイアは中級レベルの冒険者に限りなく近い戦いを見せているのだ。

 多少身体能力を強化しただけとは思えない、熟練した隙の無い攻撃であった。


「・・・・・こうして観ると、うちの一族の遣っている事が馬鹿みたいよね・・・どこが弱小種族よ」

「・・・ファイ、自分の非を認める事は間違いではありません。貴女の見たモノを今後にどう生かすかだと思いますよ・・・」

「セラの存在だけじゃ無かったのね・・・【半神族】の誰もが強くなる可能性を秘めている。・・・此の侭だと本当に孤立するわ」

「それに気付けただけでも救いだと思わねばなりませんよ、何も知らない儘では過ちを繰り返すだけですから」


 ファイの故郷でもある【エルフ族】の集落【ユグドラシル】では、【半神族】の迫害が今でも続いている。その里の長老衆の密命で人里に下りてきたファイの見たモノは、他者を迫害しない開かれた世界であった。その世界でレイルと出会い、行動を共にして初めて自分達が遅れている事を知ったのである。

 其れでも【半神族】への偏見は消える事も無く、セラに出会うまでその傲慢とも言えるべき教えを守って来た。だが、それが間違いである事はこの数日で思い知り、今ではどうでも良くなっていた。

 考える事が馬鹿馬鹿しく思えるくらいの圧倒的な強さに麻痺したとも云える。

 その結果として、前よりも世界を広く感じるように為ったのは皮肉な話だ。

 だが、その開かれた世界にも偏見は存在していた。

 冒険者による実力主義の世界である。 

 

 マイアがその世界でたった一人で生きて来た事に、ファイは言い様の無い罪悪感を感じていた。

 立場は真逆でも、セラの存在で根幹の偏執が崩された者同士なのだ。

 方や憧れ、方や怯え、自分の目の前の常識が変わった。

 迫害する者とされる者、その偏見が如何にくだらないかに気付いてしまっている。

 ファイはその先に在る未来を思うと、どうしても暗くなるのであった。


「細かい事を言っても仕方が無いだろ? ファイの所為じゃないんだからな。今まで何もしなかった長老衆が悪い!」

「・・・そう単純に決められるレイが羨ましいわ・・・ハァ・・・」

「そうですね・・・事はそう巧く決められるモノでは有りませんから・・」


 そんな真面目な話をしている後ろで、セラは嬉々として魔物を蹴散らしていた。


「アハハハハ、大量大量! 結構良いモノ落とすよこいつら、ヒャッホォ~~ッ!!」

『同じ物を何個も揃える必要があるのかのう、コレクターは分からぬ』

『『『・・・・・幸せそうだな(ですね)・・・アイツ(セラさん)・・・』』』


 そんなセラを見て溜息が出る三人であった。




 現在、【アムナグア】の解体は急ピッチで進められていた。

 兎に角人手が足りない上に、その巨額の売り上げがそう簡単に支払われないかも知れない。

 一応コルカの街からも助っ人が来ているが、巨獣の解体はまだ半分も云ってない。

 しかも日が高くなるにつれ、二大商家以外の商人たちも動き始めていた。

 何処から情報を聞きつけたかは知らないが、急に村を訪れる馬車が増えだしたのである。

 俗に言う買付である。

 商人たちの情報網は侮れない物が有り、たった一日でその情報を手に入れこの村まで買い付けに来のだ。

 今村の状況は、今までに無い満員御礼の混乱期に突入していた。


「なんてこった! 何処から情報が漏れたんだ? こんなこと初めてだぞ・・・」

「今まで誰も来なかったのにねぇ、あんた何かヘマでもしたのかい?」

「してねぇよっ! たく、こんなに人が来たんじゃ解体どころの騒ぎじゃねぇぞ」


 集会が終わり解体作業を始めた直後に、彼等は群れを為して現れ、今は取引の為に怒鳴り散らしながらも商品の取り引きに勤しんでいた。

 あまりにも数が多いため、担当する側も混乱し作業が一向に進まない。

 その為に村びと総出で解体作業に当たらなければ為らないのである。

 さながら築地の魚河岸の如く、金額を集団で言い合うのだからたちが悪かった。

 因みにレイル達は既に【アムナグア】の素材を今朝の内に受け取っており、この騒ぎから逃れていた。

 今まで体験した事の無い状況に、村の衆は殺気立っていた。


「ボイル!! 分かったぞ、どこから情報が漏れたのか!!」

「なぁにぃ!! 何処からだ、どこのバカが情報を漏らしやがった!!」

「何でも酒場の入り口付近で、【半神族】の小娘と話している時に聞いたらしい!!」

「どこのバカだぁ!! そんな所で重要な情報をもら・・・し・・・・・・!?」


 ボイルには心当りがあった。

 心当たりどころか、情報源その物であったのだ。

 背筋に戦慄がよぎる。

 そっと、背後を見ると、殺気立った村人達が武器えもの持って並んでいる。


「ほほぅ、【半神族】の小娘ねぇ・・・何か聞き覚えのある話なんだけど・・・・」

「そう云えば、あの子を連れて来たのはアンタだったな、ボイル?」

「このくそ忙しい時に余計な事を・・・・・死ぬか? コラぁ!!」

「・・・・・・話せば分かる・・・・」

「「「「「アンタが原因じゃねぇかぁ!! 責任取って死ねや、コラァッ!!」」」」」


 この後散々凹られたボイルは、ヤバイ薬でタフな漢に変身し、この窮地を乗り越えたのであった。

 ハードボイルド兄貴と化したボイルに敵は無く、その漢気で商人たちを丸め込み、かなりの利益を上げるのである。



 解体小屋でこの状態であるという事は、当然宿も人が溢れる事と為る。

 この村唯一の宿【マッスル亭】でも人が混雑していた。


「無茶を言うな冒険者達よ、この宿にこれ以上人を泊める余裕はない、早い者勝ちだ! 其れとプロテイン摂るか?」

「いるかっ!! ざけんなよ、こっちとら、こんな糞な村まで足を運んでやってんだ! 都合をつけるのがテメェラの礼儀だろ!!」

「其れは、お前達の仕事だろう? プロテインを摂れ、何処に行くのかも分からずに仕事を受けたお前達が悪い! プロテインは良いぞ?」


 宿屋に詰め寄る冒険者達は、大半が休息できる場所を求めてくるのだが、宿屋の主人を見ると決って絶句した。

 何故なら筋骨隆々、黒光りのガチムチマッチョマンだからである。

 更に視られていると判るや否や、無駄にポーズをとるのである。

 どう見ても変態である、しかも・・・・・


『『『『何でビキニパンツにエプロンなんだ!? しかもキレてる! メッチャ、キレてる!!』』』』


 全員の心の声が一致した。

 常識的に考えてもこの宿が異常なのは一目瞭然であった。 


「こんなボロ宿で我慢してやろうって言ってんだ!! いいから部屋を何とかしろ!!」

「そんな筋肉で冒険者をやって行けるのか? 冒険者に必要なものは鍛え抜かれた躰、そう筋肉だ!! 何だその僧帽筋は、何て醜い広背筋!! 見ていられん、そんな筋肉で何を倒せるというのだ!! 貧弱なその肉体を俺が美しく逞しい肉体へと育てて遣ろう、その手始めとしてプロテインを摂れ!! 口答えは許さん、ここからは俺がルールだ!! さぁ、行くぞ!! 神の如く美しき筋肉の世界に!! あと、無理なモノは無理」

「何で、筋肉を鍛える話になってんだよ!! いいから部屋を何とかしろ!!」

「口答えは許さんと言ったはずだ!! こい! 筋肉の素晴らしさを教えてやる!! あと無理!!」

「はなせえっ!! 俺を如何するつもりだぁ!! やめろ・・・たすけてくれええぇぇぇ・・・・・・」


 どうにか泊まる場所を確保しようと冒険者達はジョブに詰め寄るが、何故か強引に筋肉を鍛える話に持っていかれ、宿の裏に強制連行されてゆく。

 他の冒険者達は呆気にとられ一同静まり返り、暫くすると奥の方から怪しげな喘ぎ声が聞こえ、やがて静かに為る。

 冷たい汗が背中をつたい、冒険者達を想像出来ない怖気と戦慄が走る。

 扉から出て来たのは、汗をタオルで拭うジョブ一人だけであった。


「ふぅ、手間を掛けさせてくれる・・・さて次は誰だ?」


 何処となく満足げな彼の態度に、冒険者達は後退りする。


《・・・あの奥で一体何が・・・・・》

《・・・まさか・・・踏み込んではいけない世界に・・・・哀れな奴・・・》

《・・・怖ろしい・・・ここは魔物の巣だ・・・・此の侭では喰われてしまう・・・》

《・・・逃げろ・・・・この宿は危険だ・・・逃げなければ・・・・》


 そこに在るのは恐怖だけであった。

 単に強制的にスクワットさせただけなのだが、彼等は要らぬ誤解をしジョブを恐れたのだ。

 

「・・・他に何か用が在る奴は?」

『『『『『ヤバイ!! この宿はヤバ過ぎる!! 喰われるくらいなら野宿の方がましだ』』』』』


 そそくさと退散してゆく冒険者達。

 こうしてジョブは、不本意ながらも薔薇の人として暫く有名になるのである。

 冒険者達の恐怖の象徴として・・・・




 迷宮第七階層。

 此処から魔物の強さが変わって来た。

 第六階層までは、フィオとマイアが殆ど倒していたが、ここからレイル達も少しずつ戦闘に加わり始める。この階層から魔法を使う魔物が増えて来て、一筋縄では太刀打ち出来なくなって来たのだ。

 幸いにも受けるダメージは大した事は無いが、麻痺や毒と云った状態異常もしばし受けて、その厄介な効果の為にフィオやマイアを危険に曝す訳には行かなくなったのである。

 フィオもマイアもその間装備を充実させていき、装飾アイテムを装備する事により自分の能力を格段に上げていた。


「【マナ結晶(大)】や【魔晶石(大)】が結構手に入りますね、【ポーション】作るのには必要ですから重宝しますけど・・・」

「魔物さんは、みんな姿形が違うんですよねぇ、不思議です」

「僕に聞かれても原因は分からないよ? 僕にとっての迷宮は素材やアイテム集めの場所に過ぎないから」


 迷宮内部の魔物はどれも統一性が無いのが殆どであり、普通の魔獣に似たものから明らかに異形の者まで幅広く存在していた。

 そもそも、この魔物たちは迷宮の防衛魔術式の暴走で生み出されたモノであり、魔物の核の数や性質により様々に変化するのである。

 当然魔獣に似た姿のモノもグロテスクな化け物も、その戦い方が幅広く存在していた。

 またこの迷宮はつい最近発見されたモノであり、内部に深く潜入した者が殆どいないのである。

 その為、アイテムも最高の物が揃っており、中にはトンデモナイお宝も眠っていたりする。

 フィオもマイアもその膨大な数に一喜一憂し、装備も充実していった。

 魔獣から作られた装備程ではないとしても、マイアはここで見つけた装備でかなりの防御力のある武具を身に着けている。

 迷宮探査は早い者勝ちと云う例えは間違いでは無いのである。


「マイアちゃん、その装備は気に入った? 見た所【神宮警邏兵の鎧(女)】だと思うんだけど、さっきまで着ていた【スチィール・アーマー】よりはマシだよね?」

「はい、見た目が少し派手なのが気に為るけど、軽くて頑丈なのが良いですね! 装備も買いたかったので凄く助かります。武器も殆どこの迷宮で揃えられますし、鍛冶場に行く必要あるんですか? この迷宮が在れば装備が人通り揃えられます」

「う~~ん、そうなんだけどね・・・迷宮で揃えられる装備ってそんなに大した事無いんだよねぇ。【ガジェット・ロッド】を強化していった方がより強い武器に為るし、伝説級の装備も有るけど最深部にまで潜らないといけない上に、レア素材で強化しないと手に入らない。凄くめんどいんだよねぇ」


 

 魔獣の素材から作られる装備は、迷宮で発見並びに採集されるものと違い、防御能力に若干信用性が無い。

 職人の手による作品では無く、只のコピー製品の為か、どうも使い勝手が今一なのである。

 その代わり特殊な効果を付与されているのだが、その効果もころころ変わる為同じ装備でも異なる効果の場合が多いのだ。

 例えばだが、【鉄の籠手 防御力20 効果MP+15】と云うアイテムを手に入れたとする。

 ところが次に同じ場所で回収した時、【鉄の籠手 防御力10 効果 物理攻撃魔法30%減】などと云うモノが出てきたりするのだ。

 使えるのかどうだか微妙な物が大量に回収される。

 結局鍛冶師達の手で強化して行かねばならず、その能力も効果も千差万別であり、自分に在った装備に仕上げなければならない。

 魔獣の素材を組み込んで、能力を上げるのは基本事項なのである。


 マイアが手に入れた武具【神宮警邏兵の鎧】は、動き易さを基調としながらも要所要所が重厚に作られた武具で、其れなりの重量があるのだが、軽量化の魔法が掛けられているのか其れとも使われている素材なのか、見た目よりも軽快な動きが可能であった。

 限りなくオリジナルに近い武具を手に入れられたことは、マイアにとって幸運と言える。

 冒険者達がこの迷宮に押し入る事になれば、装備も次第に劣化して行きやがては只の鉄屑に為り下がるのである。

 再構築される事と装備の性能は、必ずしも同じでは無いのだ。


「そう云えば、マイアちゃんは【ガジェット・ロッド】を使わないの? その短剣【鉄のショート・ソード】に組み込むと、それなりの威力になるよ?」

「【ガジェット・ロッド】を買うお金が有るなら、あたしは【マジック・スクロール】を買います! 姉さん」

「「「「何て潔いんだ(でしょう)、返って清々しい!!」」」」


 雑魚相手なら其れでも良いが、この世界では近接格闘戦も重要なのである。

 役割分担も大事な要素ではあるが、大半は万能型を目指す。

 ましてやマイアは最強の万能型に為れるのに、何故かそのスタイルが後方支援型なのである。

 是は恐らく、自分の得手不得手を良く理解してる故の一時的なモノと思われる。

 基本的な体力は他の種族より低いために、今は敢て後方支援にに廻っている。

 それでも接近戦を行う時も有る故、自分で計画的にプランを立てているのだ。

 中々に優等生なマイアであった。


「・・・・・あのぉ、【ガジェット・ロッド】見付けちゃいました・・・・・二本ほど・・・」

「「「フィオ!(さん!)運が良すぎっ!!(ます!!)」」」

『・・・マイアに一つあげたら如何じゃ? どうせそんなに使わぬじゃろう・・・』

「そうですね、他の武器を作るにしてもお金が有りませんし・・・」


 こうしてマイアは、【ガジェット・ロッド】を手に入れたのであった。



 商人たちの護衛として村の冒険者の中には、当然複数のパーティを組んでいる者達もいる。

 彼等は主に魔獣から馬車を守るために同席し、ロカスの村とコルカの街を往復するまでが仕事である。

 しかし買い付けが終わるまでは彼等は暇を持てあまし、中には自前で酒を持ち込み酒盛りを始める剛の者もいる。

 別にそれが悪い訳では無いが、周りに絡みだすと是は十分迷惑行為である。

 早速、他のパーティに絡んでいる者達がいた。


「いいじゃねぇか、ちょっと位よう! どうせ暇なんだろう? 俺達と飲もうぜぇ!」

「冗談じゃ無いわよ! 何であなた達みたいな獄潰しと飲まなきゃならないのよ! 邪魔だから消えなさい、迷惑よ!!」

「ゲヒャヒャヒャヒャヒャッ! 振られてやがる、女をもっと優しくするべきだぜぇ、兄貴ぃ!」

「そうそう、強引な男はモテねぇぜ、兄貴よ! こう優しく抱きしめてだなぁ・・・ヒック!」


 増える冒険者の為に、ロカスの村の治安は底辺へと落ち込んでいた。

 一人の女性冒険者が絡まれ、険悪な状況を生み出している。

 何処の世界でも酔っぱらいはいい迷惑であった。


「そんなにツンケンするなよぅ、オジサン悲しくて泣いちゃうぜぇ! ひっひっひっ!」

「離してよ!! あなたみたいな頭の巨大な人に、好かれたくなんかないわよ!! バケモノっ!!」


 その一言が状況をさらに悪くする。

 確かに絡んでる男の頭はデカい! 半端なくデカい!! 異常な位デカいのである。

 見ている野次馬達もしきりに頷いている。

 更には口を押さえ笑いを堪える者達もいる。

 何故ならその冒険者達の特徴は、どう見ても異常なのであるのだから。


「嬢ちゃん、人の気にしている事は言っちゃいけねぇて、ママに教わらなかったか? ああぁんっ!」

「俺達を、カーマス三兄弟と知って言ってんだろうな?」

「これは、お仕置きしねぇといけねぇぜ、兄貴っ!!」

「何処から見てもバケモノじゃない!! 人じゃ無いわ、自分たちの姿を見てから口説きなさいよ、バケモノっ!!」


 彼女の言っている事は正論である。

 頭が異常にデカい! 顎が異常に長い! 尻が異常にデカい!!

 別の意味で人とはかけ離れた存在なのである。


『『『『『ブハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!』』』』』


 堪え切れなくなり、野次馬達は大爆笑を始める。

 カーマス三兄弟は酔った勢いも有り、野次馬達に喰って掛かり出す。


「てめぇら、上等じゃねぇか! 相手に為ってやらぁ、このカーマス三兄弟をコケにしたらどうなるか、思い知らせてやる!!」

「兄貴っ、っちまっていいんだな? この雑魚供を皆殺しにしても!!」

「かまわねぇよ、こんなド田舎だぁ誰も気にも留めやしねぇ!!」

「ひひひひっ、久しぶりに血が見れるぜぇ!! たっぷりと俺達の恐ろしさを思い知りなっ!!」


 カーマス三兄弟はそれぞれの【ガジェット・ロッド】を抜き放ち、獲物を見る様な目で野次馬達を値踏みする。

 その下卑た目で周りを睥睨すると、最初の獲物を決めた。

 自分達を最初にコケにした少女である。

 下劣な笑みを浮かべ舌なめずりすると、少女に襲い掛かった。


「まずはおめぇだ、小娘っ!! たっぷりとお仕置きしてやんぜぇ!! ゲハハハハハハハっ!!」

「きゃああぁぁぁぁっ!!」


 巨頭の男が、武器を振り上げ少女に切り掛かろうとする所を、他の冒険者達は何も出来ずに見ていた。

 少女は自分に剣が降りかかっているのを、スローモーションでも視ているかのような錯覚を覚える。

 ゆっくりと頭上から降りてくる剣が、突然動きを止めた。


「えっ!?」

「なんじゃこりゃあっ!?」


 少女は驚きながらもその場から距離を置き、巨頭の男を凝視すると何故動きを止めたのかが理解できた。

 巨頭の男を光の帯が絡みつき、その動きを強硬に封じているのだ。

 封縛魔法【アストラル・バインド】

 単体から複数と万能に使える捕縛魔法である。

 上位魔法の一つでその効力は魔力の強さに比例する。

 魔力が強ければ強い程に、その拘束力は増大するのである。


「下品な男が、わたくしの可愛い妹に手を出さないでくれます? 殺しますわよ」

「お姉様!!」


 お姉様と呼ばれた少女は男に侮蔑の目を向けたあと、目を合わせる価値も無いとばかりに素通りし少女の傍まで近づく。

 そして少女の頬に手を当て安堵の息を吐いた。


「良かったわ、貴女にケガが無くて・・・貴女の顔に傷でもつくかと思うと・・わたくしは・・・」

「はっ、はい大丈夫です! お姉様の御蔭で傷一つ付きませんでした!」

「そう、無事でよかったわ」


 襲われていた少女は頬を染め、何処か夢見心地な表情を浮かべている。

 野次馬達は見た。

 この少女たちの背後に咲き乱れる百合の花園を。


『おい、まさかとは思うが・・・【白百合旅団】じゃねぇのか?』

『あの、女ばかりの上位冒険者集団のかっ!?』

『こんな田舎まで、でばって来るのか? もしやお目当ての女がいるんじゃ・・・』

『あの金髪縦ロール・・・間違いない、副団長の【ミラルカ・ヴァン・アクエル】に違いない』


 村に来ていた冒険者達は、彼女たちが何者であるかに気が付いた。

 冒険者旅団とは小隊規模で依頼を受け、その圧倒的な武力で各地を転戦する冒険者達の総称である。

 その中でも異質なのが【白百合旅団】である。

 構成員が全て女性であり、尚且つその依頼達成率が89%と云う驚異の成功率を誇る。

 災害指定魔獣も幾度か倒し、また貴族や王族からも信頼が厚い。

 さらに彼女たちの筆頭に立つ団長は貴族出身であり、うかつに手を出せば犯罪者の仲間入りに為るのである。

 この【白百合旅団】の入会条件は、女性である事に加え才能に溢れた人物でなければならない。

 貴族出身者も多く、その知名度や権力の大きさは他の旅団よりも抜きん出ていた。

 ある意味で最強の冒険者集団である。

 

「白百合だか黒百合だか知らねぇが、いい加減離しやがれ!! 犯すぞ小娘がぁ!!」

「【ファイアー・ボール】」


 巨頭の男が火球に包まれ派手に吹き飛んだ。

 そのまま頭から地面に突き刺さり、不気味なオブジェと化する。


「「兄貴ぃっ!!」」

「目障りです、直ぐに消えて貰えませんか? でないと・・・・」

「「ひぃいいいいいいいいいいっ!!」」


 ミラルカの目は何の感情も浮かべていない。

 ただゴミを掃除した位にしか思っていないのである。

 男には過激に対応する、それが【白百合旅団】であった。



「本当に何もない村ですね、お姉様」

「それは仕方が無いでしょう、つい昨日までこの村の事は名前すら知られていなかったのですから」

「そうですけど、宿があんなに汚らしいなんて・・・お姉様が滞在するような場所ではありません!」

「酷い事を言うモノでは無いわ、この村では必死になって生活しているのですから」


 ミラルカとしても流石にこの村の状況は頭の痛いモノであった。

 村の建物全てがみすぼらしく、衛生面でも風呂が有るだけましと云うモノである。

 だがこの村は変わろうとしている。

【アムナグア】と云う最大の恩恵により、莫大な金額が転がり込むのである。

 多くの者がその恩恵に肖り、この村の状況も一変するであろうと思われる。

【エルグラード皇国】でも手に入れる事が出来ない、最大級の好運が舞い込んだのであるから。


「でも信じられません、あの【アムナグア】を倒したのが【半神族】だなんて・・・」

「だからこそ、あの子がこの村に来たのでしょう。より強くなる為の秘密を知りたくて」

「解体場を見てきましたけど・・・あんなサイズの【アムナグア】は聞いた事在りません、最大級ですよ絶対!!」

「それをたった一人で倒す・・・化け物ですわね・・・」


 彼女達は、ボルタク商会の依頼で積荷の護衛を受けて朝一でこの村に来ていた。

 他にもイモンジャ商会のキャラバンが同行し、この仕事が大規模なモノである事が窺える。

 だがそれは飽く迄ついでの依頼であった。

 彼女達の本当の目的は・・・・・


「私は反対です、あの子は正直好きになれません! 確かに良い腕の良い支援職かも知れませんが、あの子は他人を信用しません!!」

「そうね、でも腕は確かよ? それに、この村にはもう一人いますわ」

「【アムナグア】を倒した冒険者ですか?」

「えぇ、出来れば彼女もスカウトしたいですわね、最強の冒険者を」

「女性なんですか!?」

「それも私達と歳も変わらない少女らしいわ! 会うのが楽しみですわね」


 彼女達の目的はヘッドハンティング、自分たちの旅団をより強固にするための活動であった。

 ミラルカの青い瞳は、まるで獲物を狙う狩人の様であった。



「へぶっしっ!?」

「なんだ? 風邪かセラ?」

「う~~ん、何だろね? 行き成り背筋が寒くなって」


 突然背中に走った悪寒に、セラは首を傾げる。


「其れはいけません、少し養生をしないと取り返しのつかない事になりますよ?」

『その辺は大丈夫じゃろう、何とかは風邪を引かぬと云うらしいからのう』

「ヴェルさん酷い!!」


 相棒のヴェルさんの辛辣な意見に、衝撃を隠せない。


「アンタが風邪を拗らすなんて考えられないわよ、寧ろ妥当な意見だと思うわ」

「酷いですよファイさん、いくらセラさんでも病気に・・・なりそうにも有りませんね」

「姉さんは無敵です、病気の方が逃げると思うわ」

「僕だって風くらい引くよ! 皆そう云うふうに見ていたの!? 僕、ショック!!」


 どうも【アムナグア】を倒してからと云うもの、化け物扱いされている気がするセラであった。


「第七階層のマッピングは粗方終わったな、次は第八階層か、魔物も手応えが出て来たし腕が鳴るぜぇ!」

「階段が在ったわ、そこから降りれそう」

「それでは皆さん、気を引き締めて行きましょう!!」

「「「「お前が(セラさんが)一番気が緩んでるんだよ!!(ですよ!!)」」」」

「おおぅ!?」


 探索メンバーから総ツッコミを受けるセラ。

 気を取り直して彼等は階段を降りて行く。

 第八階層へと・・・・



 この回まで読んでくれた方、お気に入り登録された方誠に有難う御座います。

 何だかんだで調整をしながら書いているのですが、うまく行きません。


 それでも試行錯誤をしながら書いています。

 ストックがやばいです。

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