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 変な夢を見ました ~七日目 開拓計画とヤバイ道~ 

 何ででしょう? 今回最初の方がスムーズに書けました。

 もしかして変な道に目覚めた?

 ヤバいかも・・・・・

 夕日の射し込める教室で、セラは一人読書していた。

 彼女以外の人影は無く、この静かな時は只一人に与えられた優しく暖かい時間であった。

 何者にも邪魔をされず、自分だけの時が流れる時間。

 そしてこの学園で過ごす最後の時間でもあった。

 ページを捲り、そこに書かれてある文章をなぞり、そこに書かれている世界へと心を飛ばす。

 逃げていると言われても仕方が無い、けど心に秘めた言葉を文章に乗せ、彼女に届く事を願う。  

 この言葉を・・・いや、想いと云うべきであろうか・・・・


 決して叶う事の無い思い。

 其れでも、この思いだけは伝えたかった・・・

 意気地のない自分が腹ただしく思う反面、これで良いと納得している自分もいる。

 この思いを伝える事は、今まで育んできた時間を壊しかねないモノだから。

 其れも、もう直ぐ終わろうとしてる。


『・・・お・・お姉様!・・』

『・・・マイ・・アちゃん・・・?』


 いつの間にか教室にいる彼女見て、自分が緊張したかのように体が強張るのを感じた。

 自分にとって一番大切な娘。

 傷つけたくないと思いながらも、それ以上に為りたいとも願ってしまう。

 それが自分の我が儘だと知りながらも、この思いは自分でもどうしようもない所まで来てしまった。

 切欠さえあれば、もう抑える事すら儘為らない位に・・・・


『・・・どうして・・・どうして教えてくれなかったんですか!?』

『・・・・留学の事ですか・・・ごめんなさい・・・もっと早くに言わねばならなかったのですが・・』

『・・・本当・・だったんですね・・・』

『・・・ええ、本当です・・・でも言えなかった・・』

『どうしてなんですか・・・お姉様は如何して何も言ってくれなかったんですか・・・』


 言える筈も無かった。

 彼女といる時間がとても楽しくて、それ以上に愛おしくて、その大切な時間を壊す事など出来なかった。

 時が過ぎて行く度に、何度時間が止まればいいと思った事か・・・・

 しかしそれは良い訳にしか過ぎず、彼女とは正面から話すべきだったのだ。

 自分の弱さと悔恨がこの身を苛み続ける。

 現に彼女は涙目で自分を見つめているのだ、傷つける事は最初から決まっていた。

 そしてこの日が来る事を最も恐れていた。

 其れでも言わねばならない、自分の弱さが彼女を苦しめているのだから。


『ごめんなさい・・・あなたを傷つけたくなかった・・・あなたといる時間が本当に楽しくて・・・でもそれを失うのが怖くって・・弱い私を許してください・・』

『・・・お姉様・・・』

『でもこれは本当の事、私はあなたの事が本当に・・・・・』


 その時マイアは突然抱き付いて来た。

 小柄な体を震わせながら、それでも自分に微笑みかけてくれる。

 こんなにも弱い自分に・・・


『嬉しいですお姉様、そんなにまで苦しんで私の事を・・・・』

『・・・でも結果的にはあなたを傷つけてしまいました・・・もっと早く言えばよかったのに・・・』

『良いんです・・・私がこんなにも、お姉様に愛されているのが分かりましたから・・・』

『・・マイアちゃん・・・・』

『私お姉様が好きです・・・同じ女性同士で可笑しいと思われるかもしれませんが・・好きなんです!』

『・・・私も同じです・・・嬉しい・・・こんなにも嬉しことなんて初めて・・・』

『・・・お姉様・・・』


 もう言葉など必要なかった。

 私は彼女を抱きしめ、額にキスをする。

 彼女に好きだと言われたことが嬉しかった。

 何より彼女も自分と同じ気持であったことが、凄く嬉しかった。

 儘為らない思いに苦しんでいたのが、自分だけじゃない事が何より幸せだった。


 お互いを見つめ合い、目を閉じて静かに唇が近づいて行く・・・・

 そして・・・・



「うわあぁあああああああああおぉうっ!?」


 突然ベットより起き上ったセラは激しく息を荒げ、何度も首を振りながら周囲を見渡す。

 其処は夕日の射し込める教室でも、ましてや学園でも無い。

 更には背徳的かつ純粋な愛に身を焦がして等いない。

 何の因果か異世界に強制連行され、フィオの家に居候している只のアイテムマニアのセラである。

 セラは激しく息を切らし、呆然と自分に宛がわれた部屋を眺めていた。


「何て夢見てるの僕!? まさか、もう手遅れの状態にぃ!? やばいよこれ、マジでヤバッ!!」


 嫌な汗が止まらない。

 精神的にかなり参っているのではと思うも、原因はそれだけでは無いとも思う。

 昨夜にマイアから『お姉様になってください!!』と言われ、どうやらその所為で変な夢を見たのだと推測する。


 更には幼気な少女を、念入りに丹念に余す事無くその手で洗いまくり、百合フラグを立ててしまったようで、とてもでは無いがマイアに合わせる顔が無い。

 自分がとんでもない犯罪に手を染めてしまった事に、セラは激しい罪悪感に苛まれる羽目となった。

 マイアがその道に目ざめ無い事を祈りつつ、セラは着替えの準備をしようと起き上がる・・・事が出来ない。

 良く見るとシーツが不自然に膨らんでいる。

 またフィオが潜り込んだのかと苦笑いをしながらシーツを捲ると、案の定フィオがセラにしがみ付いて眠っていた。

 だがそれだけでは無かった。


「うわぁああああああああああああああああああぁおうっ!?」



 シーツの中にはもう一人、全裸のマイアがやはりセラにしがみ付いて眠っていた。

 今は女の娘でもセラは男の子である。

 当然異性に対しても興味が有り、ましてやマイアもかなりの美少女なのだ。

 そのあられもない姿に魅入られ目を離せなくもなる。

 無論邪な心と良心との葛藤に苛まれ、頭を抱えてどうしたら良いのか真剣に悩む。

 前日の事も相まって、その葛藤の程は半端では無い。

 結局、結論を棚に上げ二人を起こそうとする。

 どの道、二人を起こさなければ自分もベッドから出る事は出来ないのだから。


「マイアちゃん、マイアちゃんてば、朝ですよ起きてください! 朝食を作らないと後に響きますよ? マイアちゃん」

「んんっ! 駄目ですお姉様ぁんっ・・・そんな処・・・いやっ・・・ふうぅんっ!・・・・」

「夢がシンクロしていたあっ!? ヤバイよマイアちゃん! 其処に踏み込んじゃいけない、色々な意味で!!」

「・・・・・お姉様が望むのなら・・・私・・・んんっ! 我慢しますぅ・・・・」

「望んでないからね!? ・・・・・多分! きっと? 恐らくは・・・・・ううぅっ、自信が持てない・・・」


 最近の自分が可笑しくなって来ている事が自覚でき、強く言う事が出来ないセラ。

 まして、マイアは眠りの中である、夢の中までの事は自分ではどうする事も出来ないでいた。

 此の侭では自分とマイアが夢の通りの状況に為りかねない。

 多少強引でも起こさないと、百合の園に足を引き摺りこまれる。

 意を決してマイアを揺り起そうとする。


「ほら、起きてマイアちゃん、僕は百合に何て興味は、少しだけ在るけど・・・・今は起きて、お願いだから!」

「んんっ・・・・・んあ、お姉様・・・」

「お、お早う、マイアちゃん・・・フィオちゃんは兎も角いつの間に君も・・・・・」


 其処で思い出すマイアが全裸である事を。

 寝ぼけ眼の少女の一糸まとわぬ姿は、健全な少年の心を持つセラには刺激が強すぎた。

 小柄でありながらも成長途中の均整の取れた裸体、それでいた柔らかそうな白い肌に、あどけない姿はセラの心に多大な衝撃を与える。

 体が少女のモノで良かった。

 もし男の子のままだったら、ビーストモードにトランスフォームしていたかもしれない。

 こう見えても健全な少年だったのだ。


 此の侭だと本当に百合の咲き乱れ秘密の花園に、手を取り合って仲良く突き進みそうだった。

 マイアはどう云う訳かセラを意識しているのがモロバレだ。

 下手に手を出せば、理性が飛びそうになる事は本能で分かっていた。

 何より、この歳で苦労して来ただろう幼気な少女を、一時の感情で傷つけたくない。

 それ故に、儘ならぬ感情に必死にブレーキをかけて耐えていた。

 だがしかし・・・・


「・・・・・お姉様・・・お姉様!!」

「なっ、何事ぉっ!? んんぅっ~~~~~~~~~~~っ!?」


 突然マイアに抱き付かれて、セラは唇を奪われる。

 セラにとってのファーストキスであった。

 しかも舌まで入れられる。

 

 踏み込んで来たのはマイアの方であった。



 マイアの意識が徐々にはっきりしてくると、そこには涙目で震えながら手で口元を抑えているセラの姿がある。

 そして自分が裸であると同時に、セラに抱き付いている事に一気に羞恥心が身を駆け抜けた。

 その反面、涙目のセラの姿が可愛いと思う自分がいる事を冷静に理解する。

 それよりもこの状況は何なのだろう、そんな疑問も湧き上って来た。

 彼女は自分がどんな夢を見ていたのか、すっかり忘れ去っていたのだ。

 大概の夢と云うのはそんなものである。


「・・・・・どうしたんですか、お姉様?」

「・・・如何したもこうしたも・・・マイアちゃん朝から凄いことしたんだよ?・・・」

「凄い事? 何をしたの?あたし・・・」

「・・・・・覚えてないの? 物凄く積極的だったよ?」

「・・・はい、覚えてません」


 どうやら本当に忘れているらしく、可愛らしく小首を傾げるマイアがセラから答えを聞こうと見詰めている。

 セラと同じ銀髪に青い澄んだ瞳、ショートカットに近いボブのような髪型、ややつり目気味の大きな瞳がセラを不安そうに見ている。

 自分が何かとんでもない粗相をしたのでは無いかと云う不安が、彼女の心を怯えさせた。

 マイアの心境を慮り、セラは自分が女の子だと何度も念じ冷静に対処する。


「何の事は無いよ、単に寝ぼけて僕にキスをしただけだから・・・起き掛けに行き成りだったから驚いちゃって」

「~~~~~~~~~っ!!」


 聞いた途端に真っ赤に染まるマイア、だが忘れている。

 ここにはもう一人、第三者がいる事を。


「・・・そうなんですかぁ?」

「うん、そう! いやっ~~~っ、行き成りで驚いたよ!」

「・・・・それは狡いですねぇ~~、私もしますぅ~~っセラさん!」

「へっ?」


 横を見るといつの間にかフィオが、にへ~~っと笑いながらセラの傍にちょこんと座っていた。

 セラに寝ぼけ顔で微笑むと、行き成り抱き付きそして・・・・


「んんぅ~~~~~~~~~~~~っ!?」


 本日、二度目のキスをされるのであった。

 しかも舌まで入れられて・・・・


「・・・・・あたし・・こんな事をお姉様にしたの!?・・・」


 自分が仕出かした事に、青ざめた顔で目の前の微笑ましい凶事を見詰めていた。

 其れから数分後、部屋の隅で蹲るセラを見て、フィオが不思議そうに首を傾げるのであった。




「すみません、お姉様・・まさかあんな真似を自分がしていたなんて・・・」

「・・・き・・きにしなくていいよ、女の子同士なんだし・・アハハハハ・・・ハァ・・」


 着替えを終えた二人はフィオが朝食の準備中の間、気まずい時間の中にいた。

 先程のフィオの熱烈キスを見て、自分自身も恥ずかしくなり、更にはセラに嫌われたのではと思うと、マイアはきがきでは無かった。

 今まで誰も信用してこなかったマイアにとって、セラは唯一初めて信頼されたいと思った人物であり、ましてや同族であるが故にその思いも強かった。

 しかしどう接してよいか分からず、如何しても余所余所しい態度になってしまう。

 そんな不器用な自分を歯がゆく思っていた。


「それよりマイアちゃん、そのお姉様って言葉何処で覚えたの? 何かイメージと合わないんだけど」

「以前、パーティーを組んだ者から姉妹に為るにはこうするのだと、抱き付きながら言われた」

「何その人!? おかしいよね? 明らかにマイアちゃんを狙っているよね!?」

「良く分からない事を言う女だけど、その都度『私の妹に為らない?』とか『お姉様と呼んで』とか言ってた。何かにつけて体を触ってくるのに寒気がしたけど」

「やっぱり危ない人!? 危険だよ! 百合の園にまっしぐらだよ!!」


 危険な人達はまだ世界に大勢いるようで、セラの表情がすぐれない。

 危険の意味合いが違うのだが、この村以外にも変な人間がいる事に世界の広さを感じたのだった。

 

「う~ん、百歩譲って『お姉ちゃん』か『姉さん』て呼んでくれた方が、しっくりくるかな?」

「お、『お姉ちゃん』ですか!?」

「うん、そう! 『お姉ちゃん』て呼んでみて、ねっ!」

「・・・ううっ・・・」

「よ・ん・で!」 

「~~~~っ!!」


 セラにとっては細やかな意地悪であるが、マイアにとっては是はセラの信頼を勝ち取る試練なのであった。

 そんなに力を入れなくても、セラなら受け入る事だろう。

 しかし、一人で生きて来た彼女にとって人を信用する第一歩なのだ、知らずに力が入ってしまう。

 ましてや『お姉様』では無く『お姉ちゃん』と呼んで欲しいと言ってきている。

 子供みたいで恥ずかしいのだ。


「~~~~~~っ!! お・・・おねぇちゃん・・・」

「ぐはぁ!!」


 よほど恥ずかしかったのだろう、彼女は頬を羞恥に染め涙目の潤んだ上目遣いで、セラを『おねぇちゃん』と呼ぶ。

 その表情や仕草が余りんもかわいすぎ、思わず悶絶してしまう。

 萌えた! 本気で萌えた!! ヤバ過ぎだった!!

 セラの中で何かの種が弾けた・・・・


「・・・・マイアちゃん・・・可愛いい・・」

「・・・・・あ、あううっ・・おねぇちゃん?・・・」


 その表情は夢の中の【お姉様】に似ていながら、何処か危険なモノを孕んでいた。

 そこに居るのは、何かに飢えたケダモノに近い。

 マイアの背に冷たい汗が流れる。

 

「百合上等!! もう、落ちたって構うかぁああああああああああああああっ!!」

「ひゃあああああああああっ!! おねえちゃん!?」

「何で、こんななに可愛いのぉっ!? メッチャ萌え捲りだよ!! あげない、あげるもんかあっ!! マイアちゃんは僕のモノ!! 決めた、今決めた! そう決めた!! マイアちゃん、マイアちゃん! マイアちゃあああああんっ!!」

「ひやああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 セラが暴走した。

 戸惑うマイアに抱き付き、迸る熱いパトスで思い出を裏切るどころか、寧ろブッチギル勢いで止まる事を知らず背徳の世界へと突入する。

 セラは目指した、シャングリラへ、欲望を抑えきれずに。

 空想どころか、現実に魂の赴くまま自由を求め続けた。

 さよなら青き日々よ、セラは今まさに神話に為ろうとする。


「・・・・・落ち着けセラ」

「へぶし!!」

『痛いのじゃあああああっ!?』


 何故かフィオの家にまで来ていたレイルが、鞘に収められた儘の【グラム・スレイヤー】でセラの後頭部を強打した。

 巻き添えでヴェルさんにもその痛みが伝わり絶叫する。

 意外に容赦のないレイルのツッコミだった。

 こうしてマイアの貞操は、レイルの御蔭で無事に守られたのであった。



「お前ら、朝っぱらから何やってんだ? 別にそっちの趣味をとやかく言う気はないが・・・時間が推してんだ、解体小屋で朝の集会とやらが在んだろ? 準備は出来てんのか?」

「・・・すみません、暴走してしまいました。マイアちゃんがあまりにも可愛かったモノで、若さゆえの過ちです・・・」

「朝ごはんどうしましょう? せっかく作ったのに・・・」

「集会が終わってからでも良いんじゃない? あたしは行かないけど・・・」


 マイアは積極的に人と関わろうとはしない。

 今まで利用し、される間であったために他人を信用すう事が出来ないのだ。

 セラやフィオは違うと頭では分かっているのだが、その他の人達に至っては未だ心を開いていない、昨夜の一件も有り警戒している事も多分にあるが・・・・・

 そう云った事情も会うために、マイアは極力人を避けるのである。


組合ギルドを作る話ですよね、そうなればこの村の置かれた状況も変わりますから」

「あぁ、俺も面白そうだとは思っているからな、ギルドと云えば仕事の依頼斡旋所的なもんだったが、お前の考えている組合は違うしな」

「村の住人や冒険者、更には商人や職人まで視野に入っていますからね、ついでに他方の村や町の依頼を受ければ儲けも出ます」

「だが現実には難しいだろ、貴族の連中が幅を利かせてくるかもしれんからな」

「そこが問題ですね、ですがこの村は国に属している訳では無いのでしょ? なら大丈夫ですよ」

「だといいんだが・・・利益に目の眩む奴が多いからどうなる事やら・・・・」

「他の種族達も巻き込めばどうにかなるはずです」

「他種族を受け入れんのか? エルフ共が何と言うやら」

「その前に彼ら以外の種族を取り入れて、強化しましょう!」

「まぁ、そのための話し合いと方向を決めるのがこの集会ってわけか」

「そう云う事です! まずは足元を固めないと・・・」


 セラやレイルの話がマイアには分からなかった。

 ギルドの話をしているのは分かる、しかしながらセラ達の言っているモノが、自分の知るギルドとは違う事も分かるのだが、ギルドとしての意味合いが異なるようで首を傾げるしかない。

 ただこの二人は、余程凄い事を成し遂げようとしているのが分かる。

 そんな人に弟子入りできた自分が、集会に参加しないのは間違いなのではと思い始めた。

 下手をすれば、セラにも嫌な心象を与えてしまう事を恐れる。

 そんな事はしたくは無い、セラにだけは嫌われたくなかった。


「あたしも出るわ、良く考えればこの村の事何も知らないし、おね・・姉さんにも迷惑かけたくないから」

「マイアちゃん・・・僕、今猛烈に感動している! 姉さんて・・・・・」

「大げさよ、只の呼び方の問題じゃない」

「そんな事無いよ、僕は嬉しいよ」

「~~~~~~~~~っ!!」


 セラに微笑まれただけで、マイアは一気に赤くなる。

 そんな姿が微笑ましくて、思わず頭を撫でてしまう。

 本当に姉妹の様である。


「ん~~~っ? それじゃ、私も『お姉ちゃん』て呼びましょうか? 兄弟とか姉妹って憧れていたんですよねぇ~~っ」

「なんですとぉっ!? 僕を悶死させるつもり!? フィオちゃん・・・怖ろしい子・・・」

「悶死って何だよ・・・」


 呆れるレイルを余所に解体小屋へ歩き出す。


「そう云えば、マイアちゃん何で裸で眠っていたの? そして何時の間に忍び込んでたの?」

「あたし、寝るときは下着きません。いつの間に忍び込んでいたんでしょうか?」

「僕に聞かれても困るけどね・・・でも下着は付けて置いてお願いだから・・・・・」

「努力はします」

「・・・お願い・・・僕の精神を守るために・・・・」


 セラの異世界生活七日目の朝、何やら前途多難の様相を見せていた。



 

 解体小屋の付近では既に作業を行う者や、集会に参加する者達でにぎわっていた。

【アムナグア】の解体は今日も進められており、氷系魔法で凍結させ品質を保持したまま解体を進めている。

 余りにも巨大なために中々解体が進まず、街に納品に行った村の者達が、解体職人を連れて戻って来た為に作業は少し捗っていた。

 其処には取引先の二大商家が協力してくれているが、村人達が参加しないと遅れる一方なのだ。

 出来る限り話を早く纏めなければ為らない。


「俺が提案するのは、この村そのものをギルドとして組織し、収入の安定を図るものだ! 今のままを維持しつつ、さらに大きな組織として運営する事を目的としている。

 知っての通り、ギルドは町や村の依頼を冒険者に斡旋する為の物だが、如何せん効率も悪くまた仕事を受けた冒険者達の横暴が目につく。

 だがこのギルドは掟を作り他人に迷惑を掛けず、他の町や村の信頼を勝ち取る事を目的とし、その恩恵をこの村に還元するようにしたいと思っている」


 長い話なので約するとこんな感じである。


 このギルドは、冒険者達を厳しい戒律で縛り犯罪を防ぐだけでなく、他の村や町の信頼を勝ち取り冒険者の心証を良くして依頼を独占する。

 さらに職人達も受け入れ、素材アイテムを格安で売る代わりに、出来た商品をできる限り安く購入する。是はギルドに認めた職人に限りだが、ギルドに所属していない冒険者にも売買は可能とする。

 村の人全員はギルドに所属するメンバーとして、薬草やキノコなどの栽培可能なアイテムを作り、同時に錬金術を学びギルドを支える基盤として働く。


 迷宮はギルドが管理し、所属する冒険者は無料だがそれ以外は有料で、死亡しても文句を言えない様に誓約書を書かせてから迷宮探索に挑んでもらう。

 また他種族も受け入れ、より強力な冒険者の集団を組織し、災害級の魔獣にも対応できるようにする。

 ギルド内でもアイテムの売買をする事も忘れない、迷宮探索には回復薬は必要不可欠なモノだから。そしてギルドの売り上げから、村人全員の給料として平等に分配するのである。


 他にも、外からの冒険者が面倒を起こすかもしれないが、犯罪行為を起こした冒険者はブラックリストを作り、二度と受け入れないようにするなどの、警備に必要になる案件など今は未だ計画段階であり色々と煮詰めなければならない。


 早い話この村で金が回る状況を整え、職人や商人を雇う体制を作り出そうとしているのだ。

 某国で村だけで工業を行い裕福になった村が在るが、其れと同じ状況である。

 村の全員で商売をして、その売り上げから村の住人の給料を捻出する、幸いな事にロカスの村は既にその基盤が出来ていた。

 だが事業拡大の為に遣らねばならない事が山積みであった。


「まぁ、掻い摘んで言えばそんなところだ、もうあんた等は其れを遣ってんだろ? 後は規模を大きくするだけだ」

「僕が言うのもなんですが、迷宮だけでも相当稼げますけど、外から来る冒険者達は中には犯罪紛いの事もします! そう云った人達の行いを防ぐためにも、ギルドの戒律は必要になります。ついでに、トイレ信仰はその限りに在りませんのであしからず」

「むぅ、くぎを刺されてしもうたか!!」

『『『『『『あっぶねぇええええええっ!!』』』』』』


 どうやら村長は邪教信仰を戒律に入れようと企んでいたようだ。

 村中の人間を洗脳した前科がある為、念のために言ってみただけなのだが、まさか本当に企んでいるとは思わなかった。

 全員が冷や汗をかいた。


「あと錬金術を教える話なんだが、その教師役に誰を選ぶ?」

「ふひっ! ぼくしか居ないんだな、皆ぼくを崇めるんだな、ふひぃっ!!」

「其れは仕方ないとしても、皆さん! このバカが何か仕出かしたら例の手段を・・・僕たちに嘗めたマネをしたらどうなるか・・・・くくくっ!」

「「「「「「ふふふふふふふふふふふふっ!!」」」」」」

「ふひぃ!! 何か企んでいるんだなっ、ぼくを如何する気なんだなっ、ふひぃっ!!」

「「「「「「くぅくっくくくくくくくくくくくくくくくくっ!!」」」」」」

「ふひぃ!! こ、怖いんだなっ、貞操の危機なんだなっ!! ふひぃいいいいいいいいっ!!」

「「「「「「ふざけんじゃねぇ、この糞ブタ野郎っ!! 本気で殺すぞっ!!」」」」」」

「ふひいいいいいいいいいいいいいいっ!!」


 最早ブッチは只の家畜と為り下がった。

 悪夢の薬【サイケヒップバッド】、これが彼らの手に在る限りいつでも真人間に戻されるのだ、徹底的にボコられて・・・・

 まぁ、ブッチは下着泥棒の常習犯としてコルカの街から逃げて来た為にこの村意外に行く場所が無い、しかも家族から見放されているので始末しても問題が無いのである。

 受け入れてくれた村で調子こいていたら手痛い報復が彼の身を襲った、もう彼に安息の場所は無い。

 その現実を彼は今自覚した。


「さぁ、逆らってみな、この糞ブタが!! てめぇには、もう逃げる場所なんてねぇんだよ!!」

「うふふふふふふっ!! 楽しみねぇ、あんたがどんな声で啼くのか・・・・・」

「・・・・・殺す価値は無いが・・・・くくくっ、精々役に立ってもらおう・・・」

「楽に死ねると思うなよ? お前には散々手古摺らせて貰ったからな!!」

「いざと為ったら分かるわよね? 強制執行が待っているわよ・・・うふっ!」


 皆良い笑顔だった。

 一人青い顔変態がいるが、概ねいつも通りの平常運転。

 是がこの村の日常に為りつつあった。


「どうでもいいが、昨夜の俺の記憶が無いんだが・・・俺どうなったんだ?」

『『『『いざと為ったら、アニキに為ってもらうぞ、ボイル!!』』』』

「何でおめぇら、俺の顔をそんなに睨んでんだよ!?」

「「「「「「ベツニナンデモナイヨ!!」」」」」」

「何でそんな片言なんだよ!?」


 ボイルにも身の危険が迫っていた。

 しかしブッチとは逆に、変身したボイルは誰もが頼りにするタフな漢である。

 普段の状態でも十分頼りにはなるが、その危険な香りが人を魅了する。

 ボイルは生まれて来た時代を間違えたのかも知れない。

 そんな事とは露知らず、ボイルは困惑する一方であった。


「・・・姉さん、やっぱりこの村おかしいわ、普通じゃない様な気がする・・・」

「僕を含めてだけど、皆可笑しいんだよ! でも楽しいでしょ?」

「良識的に考えてこの村の人間は、人として何かを無くしていると思う・・・」

「多分セラさんの影響です、皆難しい事を考えるのを止めちゃったんですよ」

「フィオちゃん、ひど!? 僕が来る前から変だよこの村?」

「セラさんの影響で壮絶な暴走を開始したんだと思います」

「フィ、フィオちゃん? ひょっとして僕のこと嫌いなの?」

「大好きですよ?」


 幾ら天使さんでもフィオはこのロカスの村で育ったのだ、考えてみれば時折非常識な行動に出る所がある。

 当然世間からズレタ感覚を持つ可能性も否定できない。

 此の侭ではフィオが変人の仲間入りをする事になりそうで、セラは其れが怖かった。

 純粋な心を持つのと、一般常識から掛け離れる事は同義では無い事を知った朝の事であった。

 

「んじゃ、ギルドを作る事に反対の人は居るかぁ? 取り敢えずは此の侭の状態を維持しつつも、徐々に組織的な組合にしてゆくことに異論が在る奴ぁ言ってくれ」

「当面は【アムナグア】を何とか売らねぇと身動きが取れねぇが、俺は賛成」

「あたしも賛成、まぁ行き成り改革を進めるよりは、状況に合わせ変えていくのが無難よね」

「迷宮の入り口付近にギルドの本拠地を立てるんだろ? いくら掛かるだろうな?」

「取り敢えずの目標としては良いんじゃないか? 後はどんだけ理想に近づけられるかが問題だが」


 この朝の集会の結果、ギルド設立には賛成だが今の問題である【アムナグア】の売買を優先する。

 本格始動するには資金源を獲得してから、また他種族の繋ぎには鍛冶師のロックとボイルが動く事になる。

 この二人は意外にも顔が広いのであった。

 また、手に負えないような魔獣はセラとレイルが当たる事と為る。

 何方にしても人手と資金が足りないのが問題である。

 この日よりロカスの村とコルカの街の街道を、多くの馬車が引切り無しで往復するのであった。



 

「さて、是から僕はフィオちゃんとマイアちゃんを指導する事になったけど、ここで問題に為ってくるのがマイアちゃんがどれだけ戦えるかに在ります」


 食事を済ませテーブルに向かい合いながら、セラは家庭教師のように指導を始める。


「マイアちゃんはどんな魔法を覚えているの? それを知らないと如何しようも無いから正直に答えてね」

「初級補助魔法と中級補助魔法が少し、攻撃魔法は初級の安い物しか覚えてない・・・」

「初級の範囲攻撃魔法、例えば【ファイアーレイン】とかは?」

「覚えていない。【スクロール】高かったから」

「うん、分かった、サポート優先の魔法職なんだね。なら遣り様はあるよ」


 是から迷宮に入る前に、セラはマイアの能力を正確に把握しようとしていた。

 その結果、完全後衛サポート職である事が判明、攻撃魔法お覚えればすぐにでも前線に起てるよなのだが、装備と体力面で著しい不安が残る。


 少し考えた後セラはテーブルの上にアイテムを複数置いて行く。


「【剛力の指輪】【剛壁の腕輪】【疾風のピアス】【アルフィミアの首飾】」

「・・・・姉さん・・・これは?」

「マイアちゃんの体力強化アイテム、これで少しは前線で戦えるようになるよ! あと【アルフィミアの首飾】は覚醒前まで装備し続けること、いいね?」

「・・・はっ、はい!」


 【剛力の指輪】【剛壁の腕輪】【疾風のピアス】は其々足りない能力を補う為の物である。

 この装備は、駆け出しの冒険者を中級の冒険者レベルに強化するモノであるが、体力面で平均的な人間や他種族には無用の物である。

 何故なら、このアイテムを使うぐらいなら武器や武具を強化した方が楽であり、使う機会があまり無い。その上、中級者クラスになると属性無効などの装備を使うため、使われずに埃を被る事になる。

 マイアやセラの様な【半神族】や【エルフ族】には重宝するのだが、それでも途中から無用の長物になるのだ。

 効果は高いが残念なアイテムなのである。


 そしてもう一つ【アルフィミアの首飾】なのだが、是は微妙に全能力を強化するが最大の特徴が経験値の大幅獲得能力である。

 この世界では経験値と云うモノは無いが、この能力は成長を促す効果ではないかと睨んでいる。

 外見的な成長は望めないが、体力や魔力面での成長ならあり得る為にマイアに使ってもらう事にした。

 それにより、マイアの身体的能力不足が大幅に改善されると思われる。

 体の良い人体実験のようだが、この方法でセラもレベルを上げて来たのだ、それで駄目なら別の手段を考える只それだけの事であった。


 貸し与えられた装飾アイテムを身に着けると、マイアはその効果に驚きのあまり声も出なかった。

 装備した瞬間から効果が現れ、まるで自分の躰では無い錯覚を覚える。

 身体能力を装飾アイテムで補うと、どうやら相当違和感が出るようである。

 慣れるまでが大変そうだと、セラは暢気にそんな事を思っていた。

 一方マイアはと云うと・・・


《凄い! こんな装備が有るなんて、是なら何とか前で戦えるかも・・・》


 人並み以下から魔道具の効果で体力を底上げして、ようやく人並み以上に為ったのだが、どうも感覚が追い付かない。

 しかし今の状態なら魔獣とも互角以上に戦えると分かる。

 是で装備の素材を集める事が出来ると、彼女は内心浮れていた。


「一応忠告して置くけど、装飾品の魔道具に頼り切っちゃだめだよ? それは、あくまで覚醒までの繋ぎだから、寧ろ自分は弱いと心構えを持っていた方が良いよ?」

「・・・戒めと云うモノですか?」

「道具に溺れちゃ駄目だという事! 力は秘めているけど道具は道具、自分自身が強くなる為の捨石程度に考えていた方が良いんだよ。過信し過ぎると碌な事にならないから」


 ゲームの中でセラは装備の能力を過信し、何度も倒される事が在った。

 ステータスが上がると戦闘は楽になるが、其れだけで勝てるほど世の中そんなに甘くは無い。

 地形適用や属性攻撃など駆使しても勝てないモノは勝てない。

 パーティ戦はどうしても必要になるし、単独でダンジョン攻略できる者等その殆どがネトゲ廃人である。レベルを上げまくり、システムの穴を見付け地形を巧く利用し、アイテムを使いまくり資金を湯水のように使う。だが最終的にはプレイヤーの腕次第なのだ、アバターの性能を最大限以上に使いこなしてこそ可能な荒業である。

 その荒業に挑戦し続けた結果が、現在のアイテムマニアのセラであった。

 ゲームと現実は違うが、それでも自分自身の能力を把握して戦略を立てるのは同じである。

 だが、信頼できる仲間と組めば、その戦略の幅は更に広がる。

 フィオとマイアにはコンビを組んで貰おうと考えていた。

 マイアが強くなるためには、如何しても信頼できるパートナーが必要なのだから。

 其れはフィオも同じである。


「取り敢えず、二人にはコンビを組んで貰うよ。僕はそのフォローに入るから実戦でどれだけ戦えるか自分で把握する事、取り敢えずはこんな感じかな?」

「宜しくお願いしますね、マイアさん!」

「・・・よ、宜しく・・」


 純粋な好意を向けられたのも初めてであったマイア。

 しかし今までの様な猜疑心が湧いてこないのが不思議であった。


『成程のう、世間知らずと世俗に揉まれたモノとのコンビと云う奴か、面白い事よ』

「まぁね、互いに信頼関係が生まれれば、結構いいところまで行くと思うからね」

『しかしこの状態は少々不便じゃのう・・・一度あやつに相談でもするか・・・』

「何の話?」

『秘密じゃ!』


 何やらヴェルさんが企んでいる様だが、取り敢えず保留にして置く。

 今は、この二人を成長させる事を念頭に置く事にする。


「二人には是を渡しておくよ、大事に使ってね」


 そう云いながら二人に出したものは、【亜空間バッグ】、セラの【無限バッグ】やレイル達の【次元バック】と同じ盗難防止用の収納アイテムである。

 収納量はそれ程でも無いが、少なくともアイテムを強奪される心配は無くなる。

 装備品は別だが・・・


「・・・姉さん、これ貰ってもいいんですか?」

「セラさんやレイルさんが持っているのと同じ物ですよね?」

「いいよ、後78個有るから使ってくれたらいい。駆け出しの頃に依頼を受けまくったら増えちゃったから、邪魔になってるんだよ・・・後は売り物だけどね!」

「「大切に使わせて貰います!!」」

「アイテムは一通り収納できるけど、保有数が50個迄だから気をつけてね?」

「「はい!!」」


 二人は嬉々とした足取りで、急いで部屋へと戻ってゆく。

 きっと自分のアイテムを全て移し替えている事だろう。

 準備は整った、後は迷宮で経験を積むだけ。

 セラは楽しそうに、不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

 日常生活を書くのは難しいです。

 しかし書かないと話が止まるし・・・・・

 漸く書けたと思えば、またもや壁が・・・


 この話を読んでくれた方、並びにお気に入り登録された方

 誠に感謝です。

 取り敢えず第一章はあと三日と為りました。

 この先の展開を考える前に、如何にか最後まで書き続けたいと思います。

 お付き合いの程を宜しくお願いします。

 

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