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 変なフラグ立てました ~罰と薬と変身と~ 

 死んだ・・・


 マジで死んだ・・・


 この回はきつかった・・・・

「ああ~今日よりこの村で過ごす事になったマイアだ! 見ての通りセラと同じ【半神族】だが皆宜しく頼む。見たとこ下位の冒険者だが、くれぐれも差別のないように頼む、後コイツの面倒は特別顧問のセラに一任したいんだが・・・遣ってくれるか?」


 まるで中学校の担任の教師の様な言い回しでマイアを紹介するボイル。

 時より、この村の人達は愉快なノリを見せるとこが有る。

 良くも悪くも彼等はこの非常識なノリで困難を乗り越えて来たのであろう。

 それが逞しく生きるコツなど思う。


「誰が特別顧問なんですか? て言うか何時の間にそうなったんですか!? まぁ、良いですけど、所でマイアちゃんはどこに住むんですか、ジョブさんの所に置いたらプロテイン料理の餌食ですよ?」

「俺達なら良いのかよ・・・あんまり変な料理を出すもんだから、今は俺達が食事の準備をしているんだぜ、何で潰れなかったんだあの宿?」

「必要だったから、取り敢えず俺達もフォローしていたんだよ!でなきゃ、とっくに潰れてんだろあんな宿! プロテイン料理食わせて同類を増やそうとすんだ、あのバカ!!」


 流石のボイルも宿屋の主人ジョブには手を焼いていた。

 筋肉をこよなく愛するジョブは、誰彼かまわずプロテイン料理を食わせ、筋肉メイトを増やそうとしている。

 犠牲に在った者達は、現在他の街に行き同じような宿を開いているという。

 そんな恐ろしい宿が何軒も有ったら、商人や冒険者達は皆マッチョになってしまう。

 最近ジョブは宿屋なのにベンチプレスやダンベル、鉄アレイに等と云ったスポーツ器具を置こうと陳情して来たらしい。その一件でボイルと衝突し、現在冷戦状態だと云うから頭が痛い。

 彼は自分の宿をジムにでも改造する積もりなのだろうか?

 そんな話を横に、マイアは青い顔をして振るえていた。


「・・・おかしい・・可笑しいわ・・この村、何で殺人未遂事件が起きているのに平然として居られるの?こんなの在り得ない・・・街だったら警備兵に連行されるのに・・・・」

「マイアさん、この位この村ではいつもの事ですよ?」

「いつもなの!?」

「最近の騒ぎはセラさんが中心ですね、毎日が楽しいですよ」

「何をしたの、あの人?」

「いろいろです!」


 小柄なフィオが精一杯胸を逸らす姿は微笑ましいが、フィオの言った色々が気になる。

【アムナグア】を単独で倒し、ダンジョンを発見し、その身体能力も潜在魔力も桁が違う。

【覚醒】した【半神族】の力がこれ程の偉業を可能にするモノであるのなら、自分の中にもその可能性が眠っている事になる。もしそれが可能であるのなら、自分もあの高みへと登れるかもしれない、幸運な事にその【覚醒】を果たした同族が目の前に居るのだから。

 そんな決意の篭った眼をセラに向けていると、不意にマイアの方を向きニコリと微笑んだ。


「~~~~~~~~ん!!」


 セラに笑顔を向けられただけで、マイアの顔は火が噴き出しそうなほどに赤くなる。

 何でこんな事になっているのか自分でも分からず、ただ俯いて視線を逸らすのが精一杯であった。

 心臓の鼓動も早くなり、頭に浮かぶのはセラに抱きしめられた事ばかりである。 

 こんな変な感じは初めての体験で戸惑いを覚える。

 だがそれを見ていたミシェルとファイは・・・・


《・・・ね、ねぇミシェル? まさかだと思うけど・・あの子セラに一目惚れしたんじゃないわよね?》

《・・・・まさか、お二人とも女性なのですよ? ですがそう感じてしまうのは何故なのでしょう?》

《あの反応って、好きになった人を意識し過ぎて、如何して良いか分からない感じじゃない?》

《先入観を持ってはいけません! もう少しだけ様子を見てから判断しないと・・・》

《そうね、仮に推測通りだとしても、あたし達にはどうする事も出来ないし・・・・₎》

《それに私達が踏み込む資格はありません、彼女から相談を受けるまでは、そっとしておいて上げましょう・・₎》


 マイアの仕種を見て、二人は彼女の心境を推測するも、これ以上の詮索はしない事に決める。

 ファイとミシェルも一人の男に思いを寄せているが、他人に邪推や無粋な横槍を入れて欲しいとは思わない。この思いだけは誰のモノでも無く土足で踏み込んで欲しくない、また自分たちの手で結論を出さねば為らないのだから。誰かに思いを寄せると云うただ一点だけは、彼女たちに共通する大切な物であった。ましてやマイアは初めての淡い思いなのだから、そっとして置いてあげたかった。


「じゃ、次に僕から一つあります! まずは是を先に渡しておきます」


 そう言いながら【スクロール】を手渡して行く。

 渡された【スクロール】広げて見るとそれはレシピであった。

 しかもそこに書かれていたものを見た時、彼等は絶句した。

 

 そのレシピは超強力精力剤【サイケヒップバッド】のモノである。

 これを見た瞬間村の衆は絶句する。

 このアイテムは途轍もなく強力なのだが、反面副作用も厄介なモノだった。飲めば体力や状態異常などのバッドステータスを回復するのだが、まるで薬物中毒の様な危険な状態がしばらく続くのである。とてもでは無いが実戦で使えるモノでは無く、主に医療目的で使われる事が多い。

 しかも凄く不味いのが不評の原因でもある。

 セラがこんな使えないレシピを渡す意味が掴みかねる。


《《《《《《もしかして、在庫処分に利用されてる!?》》》》》》


 村者達がそう思うのも無理も無い、こんな使えない薬を作った所であまり意味が無いのだ、精々裏で売り捌いてイカレタ連中を喜ばせるだけである。この薬で別の意味で幸せ気分を味わう輩もかなり多い。

 しかも健康に害が無いから麻薬として取り締まる事も出来ず、街の警備兵も頭の痛い思いをしていた。

 国の法律で禁止すればよいのだが、残念な事に滅多な事では国や貴族たちは動かないのである。

 この薬は暫くは放置される事は確実であろう。


 困惑した村人達の視線がセラに集中する。

 だがセラは満面の笑みでとんでもない事を言いだした。


「実は先程、迷宮近くの草むらに埋められた変態にコレを飲ませたのですが、何と真人間に為りました! この事から頭のおかしい人ほど、真面目な人間に為るのかも知れません。

 そこで皆さんにはこの薬を使い、変態に投与して真人間のままの状態を維持してください。巧く行けば変態を撲滅出来るかもしれません。」


『『『『『『・・・・・・・・・・』』』』』』


 変態が真面目になる。

 その現実が彼等には受け入れられなかった。

 今まで散々煮え湯を飲まされていた変態が、薬物一つで正気になるなど馬鹿げている、しかしそれが事実ならこれは村にとって利益に為る。

 だが決断するには決め手が無かった。


「・・・怖ろしい事を考えたなセラ・・・さっきの変態の変わり様は、そいつが原因か・・・・」

「賛成できませんセラさん! 人の心を薬で支配するなんて外道の極地です!!」

「あたしは賛成! フィオやミシェルがあいつの毒牙にかかる所なんて見たくない!! 断固邪心は撲滅するべきだと思うわ!!」

「ファイ!?」

「しかし変態を薬漬けかよ、事情を知らない奴が聞いたら通報されるぞ?」


 静かだった集会が突如騒然となる。

 決め手が出た、しかも目撃者もいる、是で村人達の腹は決まった。

 村人達の目に危険な光が宿る。


「おっしゃあっ!! やってやんぜ、どうせ社会不適合者だ!! 遠慮する事はねぇ!!」

「うふふふふふっ! 待っててね腐れ変態、薬漬けにして、あ・げ・る・くくくくくくくっ!!」

「こいつ無しじゃ、生きられねぇ体にしてやるぜぇ!! 覚悟しやがれ腐れ外道!!」

「糞虫の調教か、楽しくなって来るじゃねぇかぁっ!! こいつでトバしてやんよぉっ!!」

「やるぜぇ!! 野郎共!! あの外道を薬漬けにして、真っ当な道に戻してやろうぜぇ!!」

『『『『『『おおおおおおおおおおおっ!!』』』』』』


 こうして変態包囲網は完成へと近づいて行く。

 しかし一人の人間を薬漬けにする行為は、人としてどうかと思う。

 だが度重なる変態から受けた屈辱は、彼等の意慾を掻き立てるモノとなていた。

 いろいろと問題のある行為だが、決して実害のある物では無いのが質が悪い、彼等の燃える復讐心を止める事など出来る筈も無いのだから。


「・・・そう云えば、俺がアレを呑んだ時、何をしたか教えてはくれないのか?」

「・・・・凄かったの・・・ぽっ・・・」

「・・・・・はい・・・・凄く荒々しくて・・・・・ぽぽっ・・・」

「・・・・・本当に・・・俺何したんだ・・・」

《《《《《《・・・・・・・クタバレ、鈍感リア充!!》》》》》》


 レイルは既に、取り返しのつかない何かを仕出かした様である。

 もしかしたらもう、彼は世の男達に刺されても可笑しくない、リア充に為ってしまったのかも知れない。

 真実は分からないが、少なくともこの村の男達は、レイルを見逃すつもりは無い事だけは確かなようだ。

 レイルは無事に生きて帰れるのだろうか、異端審問官は常に彼を狙っているのだから。

 何故なら彼女達はその時の事を思い出してなのか、頬を染め羞恥に身を震わせながらも、チラチラとレイルの顔を窺っている。

 しかもどこか嬉しそうに・・・・


《《《《《《絶対に殺す!!》》》》》》


 村の独身男衆の全てがレイルに殺意を向けている。

 嫁問題は彼等にとっても深刻な問題である。

 この村の大半の女性は殆んどが亭主持ちであり、唯一独身と呼べるのがフィオの様な幼い子達であり、彼等は出会いに飢えていた。そんな所に両手に華状態のレイルが現れればどうなるか? 彼等は神を怨み運命を呪い、そしてモテる男達を怨み革命の志士と為る!

 彼等はその歪んだ情念を殺意に変えて、レイルを激しく睨みつけていた。

 彼の胸に激しく燃え上がる情念それは・・・・・


《《《《《《羨ましいいいいいいいいぃぃぃぃぃっ!!》》》》》》


 只の嫉妬だった・・・・・



 変態を厚生するためのプランを練り始める集団と、レイルに激しい嫉妬の炎を燃やす集団の熱意が集会場を熱くさせていた。

 この村人達の異様な熱気を見て、マイアは頭を抱えてしまう。

 街に居た冒険者連中はマイアを便利道具扱いをしていたが、彼等は受けれてくれる反面何処か人として壊れていた。


《・・・もしかして私、危険な村に来ちゃった!?》


 マイアは街の冒険者達と明らかに違うこの村の住人の異常さに、身の危険を感じていた。

 異常なスピード狂いの夫を殴殺する妻に、それを見て何時もの事で済ます住人達、村中から怨まれている変態が存在し、その変態を薬漬けにしようとする冒険者。更にはその悪辣な提案を進言する同族セラ、ロカスの村は常軌を逸した魔窟であったのだ。

 其処に嬉々として参加している同族が、別の意味で遠い存在に思えてならない。

 強くなると決意してこの村に来てみれば、どうやら人としての大事なモノを失うかもしれない、未知なる恐怖がマイアの心に忍び寄っている気がした。


「どうしたの?マイアちゃん、何か震えているみたいだけど・・・・」

「~~~~~~~っ!!」


 セラに行き成り声を掛けられ、マイアは驚いて体がこわばる。

 何処か心配そうな表情を浮かべ見つめるセラに、またもや彼女の顔が熱くなる。

 そんな事とは露とも知らず、セラは話をつづけた。


「もしかして疲れちゃった? まぁ、馬車で数時間かかる道を、爆走して来たんだから無理も無いよね」

「・・・・・・爆走・・・・」


 マイアは思い出す、あの時の恐怖を・・・・・

 常軌を逸した速度の馬車にしがみ付き、彼女の小柄な体は半ば宙を浮いていた状態、曲がる度に振り落とされそうになり、凹凸の度に荷台に叩き付けられる。防御魔法を使い、体力強化魔法を使い何とかしがみ付いてはいたが、その恐怖は計り知れない物が在った。

 これなら魔獣と戦う方が百倍マシと云う、状況で本気で泣き叫ぶ程の恐怖を味わってしまう。

 マイアの表情が歪み、その澄んだ青い瞳から涙が零れ落ちる。


「・・・・うえぇっ・・・・うええええええぇぇぇぇぇんっ!! こわかったよおおおぉぉぉっ!!」

「思い出しちゃったの!? ボイルさん酷いっ!! こんな可愛い子に、何て酷いトラウマをっ!!」

「あんたぁああああぁっ!! 何て事してくれてんのさっ!! こんな幼い子に悪辣な傷をつけて、マジで殺すわよっ!! いや、今すぐ殺すっ!!」

「おっ、おい待て、さっき俺を殺しかけたじゃねぇかっ!! あれでチャラにしてくれたんじゃあぁ、ねぇのか!?」

「ああぁん!! アレは約束を破って暴走したお仕置きだろうがっ!!こんな幼気の子の心に傷を付けて、無事でいられるとでも思ってんのかい?」


 雲行きが怪しくなり掛け、ボイルは逃げ出そうとするも、その逃げ道を村人達が塞ぎ通さない。

 完全に孤立した状態になり、彼は焦りを感じた。


「・・・・・てっ、てめぇら・・」

「すまねぇ、ボイル。俺達も暴走した事だけは許すつもりだった・・・・」

「・・・・・だが、あんな子にトラウマを刻んだお前を許す事は出来ない・・・・」

「・・流石に目に余る所業ね・・・・言い残す言葉は無い? 聞いて上げるから遺言として・・・」

「・・・覚悟は出来たかボイル? お前は遣ってはいけない事をしたんだ・・・・」

「・・・・我が父よ・・・我自らが引導を渡そう・・・この手で・・・」

「・・・・ロイス・・・お前もか!?」


 実の子にまで裏切られ、ボイルは天を仰いだ。


「皆さん殺してはダメですよ? せめて半殺し状態までフルッボコにして下さい、最後にはコレが有りますから・・」

「セラ!?」


 セラの持っていた物は【サイケヒップバッド】、ブッチに飲ませた最悪の薬であった。

 頭のおかし人間がこれを呑むと真面になる、その意味するところは・・・・


「俺がイカレているとでもいうのか!? 俺は真面だ!!」

『『『『『『どこがだよ!!』』』』』』


 賽は既に投げられたのだ、ボイルにはもう後が無い。

 そんな状況でも足掻こうとするのが生きる者の本能、ボイルは臨戦態勢を取り出方を窺う。

 だが・・・・


「ぐぼはぁあぁっ!?」


 瞬時に間合いを詰めたイーネが、ボイルの肝臓辺りを拳で打ち抜く。

 其処には再び修羅が降臨していた。

 呻き転がるボイルを冷徹な双眸が捉え、群衆に指示を出す。


「皆の者、今こそこのロクデナシに制裁を加える!! 情けは無用、外道に落ちたこの愚か者に断罪の剣を!!」

『『『『『『イエス・ユア・ハイネス!!』』』』』』


 最早ボイルの運命は決まった。

 剣と魔法による制裁と云う名の暴力が吹き荒れていた。

 逃げるボイルを魔法で足止めし、剣を持って切り掛かる。

 完全に殺す気である。


「しねおやぁあぁぁっ!!」

「遊びでってんじゃないんだよ!!」

「クタバレ小僧!!」

「俺を踏み台にした!?」


 村中の住人に追い掛け回され、流石のボイルも追いつめられてゆく。

 やがて取り囲まれ彼等の制裁が本格化していく。

 辺りに聞こえる暴行を加える音を、腕を組み冷静かつ厳しい視線で見ているイーネ。

 やがて彼等は動きを止め、女帝に視線を向ける。

 イーネが右手を上げると、その先兵たちは左右に別れ、二人の男達に抱えられた無残な姿のボイルが目に留まる。

 呻き声を上げて左右から抱えられたボイルは、さながら国家に反逆した家臣の末路の様であった。


「・・・・くっ・・こ、殺せ・・」

「そう簡単に楽になれるとでも思っているのかい? あんたには未だ遣るべきことが残っているのよ」


 そう云って取り出した劇薬【サイケヒップバッド】をボイルに見せる。

 ボイルは蒼褪め恐怖に慄く。


「やっ、止めろ・・・やめろおおおおおおおおおぉぉぉっ!!」


 ボイルの絶叫が響いた・・・・・



 集会を開いていた解体小屋に、セラ達はまだ残っていた。

 よほどの恐怖を味わったのか、マイアは只泣きじゃくっていた。

 その情景は少女が見た目以上に幼く見え、比護欲を掻き立てられる。

 そんなマイアをセラは抱きしめ、優しく頭を撫で乍らあやしていた。

 セラに抱きしめられたマイアは次第に落ち着きを取り戻すも、その恐怖は中々消えてくれなどしない。

 震える体をそのままセラに預けている。


「うっくっ、うえっ、ひっぐ・・・・」

「大丈夫だからね、怖くないよ僕が傍にいてあげるから。分かっているから、僕も犠牲者だし」


 さながら幼い妹をあやす様に、セラはマイアの頭を撫で続ける。

 優しげな表情を浮かべ、少女をあやす姿はその容姿も相まってまるで天使である。

【無限バック】より、アイテム【幸福のハンカチ】(若干運が上がる)を取り出し、マイアに差し出す。


「ほら、これで涙を拭いて、可愛い顔が台無しだよ? マイアちゃんは笑顔が似合っているから」

「・・・・・うん・・うぐ・・あり・・がとう・」


 そんなセラ達をレイル達は静かに見守っていた。

 どうもこのマイアは、セラに対してだけこの様な幼い表情を見せるようで、今日初めて見た彼女の印象は、どちらかと云えば冷静で冷めた感じがしていた。

 所がセラを相手にすると、少女特有の表情があらわになる。

 まるで本当の姉妹の様であった。


「さぁ、立って、君は強い子だから乗り越えられるよ。怖くない、大丈夫だからね・・・」


 マイアの手を握り、背中を摩りながら立ち上がる少女をたたせる。

 少女を支え優しく言葉を掛けながらも、前に進ませるように促すその姿は母親の様である。

 言葉は少年の様であるが、行動は姉そのもの、そんなセラをレイル達は・・・・


『『『乙女だ!(です!)』』』


 さっきまで悪魔の様なとんでもない真似をしていた人物とは、とても同一人物とは思えない天使の様な表情に、流石のレイル達も魅入られてしまう。

 呆然としたまま僅かな時が流れた。


「・・・もう大丈夫・・見苦しい真似してごめんなさい・・」

「気にしなくていいよ、マイアちゃんの可愛い姿を見れたからね、僕の前でそんなに片意地張らなくても良いよ」

「~~~~~~っ!!」


 セラの言葉に、取分け可愛いの一言にマイアは反応してしまう。

 赤面した顔を見られたくないのか、俯いて視線をそらしてし、セラのハンカチを握りしめる。

 そんなマイアを抱きしめ、微笑みながらセラは優しく頭を撫でていた。

 マイアにしても嫌がるそぶりを見せず、寧ろその身を預けているのだ。

 そんな自分にマイアは戸惑っていた。


《うそ、なんでこんな・・・嬉しいなんて思っているの?・・・こんなの自分じゃ無いみたい・・》


 自分の感情に戸惑いながらも、そこに喜びを感じているのが信じられなかった。


《あたし・・こうしていたいと思ってる・・・このままでいたいと思ってる・・》


 孤児院で育ったマイアはその容姿と体質から虐めの対象となっていた。

 孤児たちを世話をしている者達も、所詮は金で雇われただけの労働者に過ぎず、仮に子供たちが問題を起こしたとしても、彼等は無関心でいた。

 その為物心ついた時には強い者に弱い者が従うと云う、力の格差関係に身を落とす事になる。


 無邪気な子供は時として大人よりも残酷なモノで、更にはそれを間違いだと叱り付けるる者等居ない故に、その行動は歯止めが利かなくなってゆく。だがマイアは【半神族】で合った為に魔力が覚醒し、感情のままに爆発させてしまう。

 結果として彼女は怖れられ、孤立した事は明白である。

 だが執拗な虐めは終わる事無く、またマイアも遣られたら遣り返すと云う短絡的行動で、自分と他の子供たちの間に大きな溝が生まれて行った。


 孤児院に嫌気が差したマイアはその後抜け出し、色々と汚い事もしながら今日まで生きて来たのである。

 人を騙し、時には盗み、殺人以外の事は何でもした。

 その頃にはもう自分以外は敵と云う考えが生まれ、またその考えに疑いを持たなくなっていた。

 結果的にこの村に来る事になったが、もし街でボイルに出会わなければ、あの三人組を魔法で眠らし金品を強奪していただろう。


 運命の悪戯かはたまた神の気まぐれか、多分後者だと思うがマイアはセラと出会う切欠が訪れた。

 初めて出会う同族、魔力だけでしか推察できないが、その強さは圧倒的であった。

 自分が子供なんだと自覚すらでき、それ以上に強く憧れてしまう。

 憧れてはいるが、いかに話掛けて良いのかが分からない。

 それ故に足踏みしている状態なのだった。


 またボイルに刻まれたトラウマが功を奏し、封じられた彼女自身の幼い心がさらけ出されたのである。

 この功績を上げればボイルも情状酌量の余地もあるのだが、残念ながら誰も知らない。


 話は逸れたがそんな訳で、マイアもまたフィオと同じで誰かに甘えたいのであり、だが一人で生きて来て養われた自尊心が彼女を素直にさせる事が出来ず、また本人もその事実に気付いていなかった。

 気づか無いに故に変な方向に進んでもいたりするのだが・・・・・


「もう大丈夫?」

「・・・うん・・・離してくれても良い・・・」


 本心的には名残惜しかった。

 初めてなのだ、人に甘えさせてもらうのが。

 その温もりを手放すのが惜しくて、けどそれが恥ずかしくて、マイアの心は激しく揺れている。


「セラさんて、温かいんですよ。あ、そうです! 今日一緒にお風呂入りませんか?」

『早く風呂に入りたいのう、まだ行かぬのか?』

「・・・だ、だれ!?」

「セラさんの中にいる、聖魔竜のヴェルさんです!」

「聖魔竜!? 聞いた事ないわ・・・」

『宜しくのう、マイアよ! 其れよりも風呂に入りたいのじゃ!』

「そろそろ、向こうの決着も付く頃合いと思うし、覗いてみようか?」

『風呂が良いのじゃ!!』


 ヴェルさんが段々子供っぽくなって行く。

 そんなヴェルさんを宥め乍ら、ボイル達の元に足を向けた。



 セラ達が追い付いた時、ボイルはあまりの薬の不味さに転げまわっていた。

 散々狂い捲り、転げ回った後静かに立ち上がる。

 ただ何か様子がおかしかった。

 やけに落ち着いているのが分かるが、ボイルと云う男はこんな静かな気配を持つ人間では無い。

 喧嘩を売られれば真っ先に買うような、直情型の男なのだ。

 仲間意識が強いため、必要に迫られれば冷静にもなるが、普段は口の悪い豪快なおっさんである。

 その筈なのだが、今のボイルは何処と無くクールだった。


 ボイルが女帝イーネの元へと進んでゆく。

 足取りも落ち着いており、普段のがさつさが見て取れない。

 やがてイーネの前に来て言葉を静かに掛ける。


「・・・・イーネ・・」

「・・・・なっ、何よ! やる気・・・っん!?」


 喧嘩腰のイーネをボイルは強引に引き寄せ、唇を奪う。


『『『『『『なんですとおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!?』』』』』』


 長いキスであった。

 極めて濃厚で力強いディープキス。

 イーネの抵抗も許さず、まるで自分の我が儘を押し付ける様な強引な口づけであった。

 彼女も最初は抵抗していたが、やがて力が抜け今はその身をボイルに預けている。

 ボイルは唇を離すと、静かに語りかける。


「・・・悪いなイーネ、俺は刺激の中でしか生きられねぇ男だ、お前に迷惑を掛けているのは分かっている。だが俺は俺の生き方を曲げるつもりはねぇ、それを捨てたら俺じゃ無くなる。お前が惚れた男はこんな奴だ」

「・・・あっ、アンタ・・・」

「・・・だが俺は其れでもお前を愛している、俺なりの遣り方でな! こんな奴に嫌気が差したら別れてくれても構わねぇ、そうなれば俺は女一人も繋ぎ止める事も出来ねぇ、屑な男って事だ」

「今のアンタ、とても素敵よ・・・年甲斐も無く女に戻ってしまうわ」

「俺にとっては、最初で最後の最高の女だ! お前の前では最高の漢でいたい・・・」

「そんな事を言われたら・・・我慢出来ないじゃ無いのさぁ・・・」

「何を我慢する必要がある! 俺がお前に惚れていて、お前が俺に惚れている、其れだけで充分だ」


 ハードボイルドだった。

 タフで優しく、強い漢になっていた。

 イーネは完全に陶酔し、ボイルは力強く彼女を抱き寄せる。

 二人は観衆の目の前で、濃厚な口づけを再び交わした。


『『『『『『あにきぃいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃっ!!』』』』』』


 ボイルの漢振りに、村の者達が心酔した。

 今のボイルはタフで危険な香りのする男である。

 そんなカリスマ的ボイルに、村の者達は着いて行こうと決意する。

 それが僅かな時間だとも知らずに・・・・・・


「・・・・おっさんが、男前になりやがった・・・・」

「・・・・・タフで危険な男です・・・まさか僕もこうなるとは予想外・・・」

「冗談じゃ無いわよ・・・何なのよあの薬・・・」

「ですが、凄く頼り甲斐が有りますね、ボイルさん・・・・」

「ボイルさん、カッコいいです!!」

「・・・・・本当におかしいわ、この村・・・・」

『同でも良いから風呂に行くのじゃあァァァァぁっ!!』


 後日、セラはイーネに【サイケヒップバッド】を売る事になる。

 如何やらボイルの包囲網も作られる予感がした。



 

『ふううぅむ、良いのう! 是は良い!』

「すっかりご機嫌だね、ヴェルさん!」

『うむ、この湯の暖かさが何とも夢心地じゃ!本来の姿では味わえぬ、至福じゃ!』


 湯船につかるセラは、風呂を楽しむヴェルさんに苦笑いをするしか無かった。

 最強のドラゴンが、湯船で寛ぐ等想像できない。

 本来の姿は途轍もなく巨大で、マグマの中でも平然としているのだから。

 そんなヴェルさんが、何故か可愛い。


「お風呂は良いですよねぇ、皆で楽しく入れます!」

「・・・何で私も・・・・」

「いいじゃないですかぁ、同じセラさんのお弟子さん同士なんですから!」

「・・・そうなんだけど・・・何か恥ずかしい・・・」


 マイアはセラと同じくフィオの家に居候する事と為った。

 宿である【マッスル亭】なんかに泊まりでもすれば、たちまち筋肉の餌食である。

 それを慮り、セラと同じように居候にしてくれとボイルに頼まれたのだ。

 フィオは二つ返事で引き受ける、本当に天使であった。

 帰りの途中でマイアの事情を聴き弟子入りし、彼女はセラの事を先生と呼ぶ事と為る。

 先生呼ばわりは遠慮したかったのだが、彼女は頑として譲らない。

 そして現在に至っている。


 今湯船に浸かっているのはセラとフィオであり、マイアは後から風呂場に入って来た為、現在湯船の外で体を洗っている。

 そんなマイアを見てセラは湯船を出て彼女の傍に近付き、背後から抱きしめた。


「ひゃああっ!? せ、先生!?」

「んふふふふふっ! 僕がマイアちゃんの背中を洗ってあげる!」

「い、いえ大丈夫です是くらい、自分でできます!!」

「僕がやりたいの! ついこの間まで妹と入っていたから、慣れているんだ」

「セラさん狡いです、今度は私も洗ってください!」

『むうぅ、セラはイケずじゃ、もう少し浸かっていたかったのにのう』


 不満げのヴェルさんをよそに、セラはタオルでマイアの背中を擦り始める。


「どう、この辺? 気になる所が有れば言ってね?」

「~~~っは、はいぃ、くふぅん」


 最初は背中だけであったが、次第に腹部や胸元までも洗い始めると、流石にマイアも困り出した。

 なぜならば、手慣れているだけでなく、本当に洗うのが巧いのだ。

 色々な意味でだが・・・・

 しかも本人はその事に気が付いていない。

 断る訳にもいかず、かと云って此の侭だと何か危険な気がしていた。


「ふぅんんっ、せ、先生…そこは・・・りゃめれすぅうぅ・・・」

「もう少し待っててね! もうちょっとで洗い終わるから」

「んんっ、ふああっ、れもおうぅ・・・わらひもう・・・りゃめめれすぅぅ・・・」

「んん、もうちょい、我慢してね? くすぐったいだろうけど」

「りゃんは・・ひはうりょうらひが・・・・ひゃぁ・・ひまふうぅぅ・・ふぅんんっ!」


 こんな調子でお風呂タイムは続いて行く。

 セラは真剣にマイアの体を洗っている積りなのだが、洗って貰うマイアは身の危険を感じていた。

 しかしマイアの懇願は届かない、本当に真剣だった。


 邪な考えが浮かばない位に・・・・

 

 この日、彼女は隅々まで洗って貰うのだった。




 食事をして部屋に戻る途中、セラはある事に気付いた。

 

「まて・・・・僕はお風呂場でマイアちゃんに何をした?」


 体を洗ったのだ、其れも念入りに、丁寧に、隅々まで余すことなくである。

 セラは自分が男だった事を忘れていた。

 しかも幼気な少女の躰を・・・洗い捲ったのである・・・自分の手で!

 更には、次はフィオも洗ってあげる等と約束してしまった。

 犯罪である。

 真ごう事なき犯罪である。

 しかも男だった事すら忘れ、女の子と風呂に入っていたのだ。

 状況に悪い意味で適応していた事にショックを受けた。

 

 セラはその場で崩れ落ち、罪の意識に苛まれる。

 其処にマイアがやって来た事さえ気づかずに・・・・・


「・・・・・せ、先生・・?」


 マイアの声に気付いたセラが、まるで機械のように首を動かし彼女を見る。

 セラの顔を見た瞬間、マイアは顔を真っ赤に染め俯いてしまう。


《嫌われた!? まぁ、そうだよね、あんな事をしたんじゃ・・・・》


 だが彼女が口にしたのは予想外の言葉であった。


「・・・せ、先生!!・・・・・わ・・私の、お姉様になってください!!」

「・・・・はいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?」


 座り込んだままで驚愕するセラに抱き付き、マイアは両手で押さえ其のまま頬にキスをする。

 自分が何をしたのか分かっているのだろう、彼女は勢いよく離れ部屋に駆け込んでしまう。

 残されたセラは、ただ茫然とするしかなかった。


 ただ解る事は、変なフラグを立ててしまった事だけだった。


 

 正直最後の方は頭が壊れそうでした。

 少し休んだ方が良いのでしょうか・・・

 

 話を読んでくれた方、お気に入り登録された方

 誠に感謝しています。

 現在表現の難しさにぶつかりスランプに為りそうです。

 学生の内に勉強しておけば良かったと、今頃後悔しています。

  

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