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 同族?に出会いました ~修羅と悪魔と逆転と~

 

 書ききれません!


 一気に書いても良いのですが、纏まりが無くなってきている?


 更にはストックが・・・・

 日も地平の先へと消え、暗い闇に包まれた整備すらされていない街道を、四頭引きの馬車が怖ろしい勢いで、砂塵を巻き上げ激走していた。

 その非常識な馬車の荷台に、一人の少女が眠って・・・もとい気絶していた。

 荷馬車が左右に振られる度、凹凸で何度も跳ね上がる度、少女は転がされ荷台に叩き付けられる。

 最終的にはどこかで頭部を強打し、滔々気を失ったのだ。

 これでボイルの犠牲となった【半神族】は、セラを含めて二人目となる。

 だが、コルカからロカスの村までの半分の距離は何とかしがみ付いていたのだから、マイアはセラよりも根性が有るという事だろう。

 たった一人でこの世界を生きて来ただけの事はある。

 馬車はいま、ロカスの村の門を潜り抜けていた。


「やっと着いたぜ! ほれマイア、村に着いたぞ起きやがれ」

「きゅう~~っ」

「ちっとばかし、やらかしちまったか?」


 ちょっと処の騒ぎでは無い、下手すれば命にもかかわる問題なのだが、この男にはどこ吹く風である。

 このボイルと云う男は、村の者達から絶大な信頼を受けては居るが、この馬車に乗る時だけは全く信頼などされてはいない。三大禁忌の一つにまで数えられるものであった。

 ただし女房には頭が上がらないという弱点も存在する。

 その弱点とも云うき天敵が、今正に迫ろうとしていた。


「あぁんたああああああああああっ!! あれ程暴走すんなと言っただろうが!!このロクデナシ!!」

「ぐぼぉはあっ!?」


 イーネのコークスクリューパンチがボイルの鳩尾を鋭く抉る。


「なぁにが信用しろよっ!!この糞ったれがああぁっ!!大事な時期だと言ってんだろうがあぁっ!!」

「げぶふっ、ぐぼふぉ、げびょぐりょふぉっ!?」


 流れるようなフットワークから繰り出される、熾烈ともいえる強力なパンチに、ボイルはサンドバックに転生していた。

 あまりにも早く、あまりにも鋭く、あまりにも重いパンチの応酬は止まる事を知らない。

 まるで某救世主か某スタンド使いの如く次第に加速してゆく。

 その時、彼女の拳は光速をも超えた!!

 何故世界を狙わないのだろうか・・・・


「い、いかん!! このままではボイルが死ぬぞ!!」

「暴走は兎も角、奴に死なれたら困る!! 誰かイーネを止めろ!!」

「無理だ!! この間それで巻き添えくった奴が続出した!!」

「くっ、俺達は見ているだけしか出来ないのか・・・・」

「・・・あの無慈悲なまでの暴力の前に・・・・・俺達は無力だ・・・・・」


 この村にとって、ボイルは必要な男であった。

 暴走などと云う病気を除けば、村と仲間思いの面倒見の良いリーダー的存在である。

 多少行き過ぎた所があれど、極めて優秀な男だ。

 誰かに必要とされている分、どこぞの道具屋の変態とは大違いであった。


 その重要人物が、今正に冥府へと旅立とうとしている。

 他ならない、最愛の妻によって・・・・・


「オラオラオラオラオラオラ!! 何とか言ったらどうなんだい!!この獄潰しがァッ!!」

『『『『『いや、無理だろ!!』』』』』


 止まる事を知らない永久機関の如く繰り出される拳打の応酬は、ボイルに一言すら口を挟ませる余裕すら与えず、彼の顎を鋭く捕えたアッパーは大の大人をも軽々と宙に浮かせる。

 ボイルには、その僅かな滞空時間が永遠に思えた。


 ――――――ズシャァアァァァァッ!!


 空中から、頭から叩き落されたボイルは動く事すら儘為らない。

 そこへイーネが高々と宙に舞い上がり、其のまま両膝をボイルの腹に叩き込む。

 更に其処からマウントポジションを取り乍ら、顔面に何度も凶悪な拳を叩き込み続けた。


「・・・・誰か大先生を呼んで来い、何としてもボイルを死なせては為らない!!」

「わ、分かった行って来る、お前ら手分けしていくぞ!! ボイルを死なせるなぁっ!!」

『『『『『おおおおおおおおおおおっ!!』』』』』


 村の者達は一斉に動き出す。

 一人の男を死なせない為に・・・・・  



 ダンジョンを抜けると。そこは満天の星空だった。

 迷宮探索とフィオの訓練を兼ねたアイテム採取は無事に終え、セラ達は地上へと帰って来た。

 レイルチ-ムは、ダンジョンの階段辺りからギルドを立ち上げる相談を始め、其々が意見を出し合いながら組織構成の案を練っていた。

 本気でギルドを作る積りの様で、彼等は実に楽しそうだった。

 いつの間にかセラをアドバイザーの役割に位置付けして、かなり壮大な計画案を組み立てていたりする。

 苦笑いしつつも、其れは其れで楽しそうだと思い始めていた。


『ふ、ふひぃ、誰か・・・助けてなんだな・・・・ふひぃ』


 突然聞こえる不快な声に、セラは訝しげに首を傾げる。

 正直聞きたくも無い怖気の走る声の主に、残念ながら一人だけ心当たりが有ったのだ。

 出来るモノなら会いたくも無いゲスに、セラの顔から表情が消える。


「この声、ブッチさんですよね? 何処に居るんでしょう?」

「声はすれど姿は見えぬか、まるで魔物の類だな? どうする、無視するか?」

「あたしは断然シカトよ!! あの変態の顔を思い出すだけで鳥肌が・・・・・」

「ですが、何かお困りの様でしたら助けて差し上げないと・・・・」

《ああっ、何て事だ、天使さんだけでなく聖女様もいらっしゃるなんて・・・》


 セラは天を仰ぐ。

 この聖なる方々がいる以上、変態と関わらなければ為らない。

 本気で無視を決め込みたい所だが、どうやら其れは不可能だという事に気付いた。

 もし其処に神がいるというならば、マウントポジションで殴り続けるだろう。

 そんな事を漠然と思う。


「「「ひぃいっ!?」」」

「げっ!?」

『ふひっ!? ひ、人が来たんだな! 助かったんだなっ!ふひぃ!!』


 乙女三人とレイルの驚く声でセラは我を取り戻し、彼女たちの視線の先を追う。

 其処には首以外を埋められた変態の姿が在った。

 

「・・・・・・随分楽しそうな事をしているね・・・君・・」

「ふひぃいいいいっ!! 銀色悪魔!? ふひぃいいいいっ!!」

「失礼だね君は、なに?本気で死にたいのかい? いいよ、特別に焼却処分にしてあげる!ふふふ・・」

「ふひいいいいいいいいいいいっ!! 殺されるんだなっ、ふひいいいいいいいいいっ!!」

「「「「怖い!!《です!!》しかも何故か嬉しそう!?《です!?》」」」」


 セラの無表情から浮かべる笑みは、心の底から恐怖を引き摺り出す様な冷徹なモノだった。

 そこに居る者達を戦慄と恐怖へと落とし込む、有無言わせ無い迫力が有る。

 まるで汚い物を処分する積もりかのように、セラは静かにブッチに近づいて行く。


「だ、駄目ですよセラさん、ブッチさんは村に必要な人なんです!」

「えええっ? 少しぐらい良いと思うなぁ、身の程を教えるには丁度良い機会だよ?」

「セラさん・・・そんなにこの方を闇に葬りたいのですか?・・・・・」

「うん、それはもう!!」

「嬉しそうに即答かよ、何がお前を其処までさせるんだ?」

「只の気分の問題ですよ?」

「気分で人を殺さないでよ!・・・・・まぁ、気持ちわ判るけど・・・・」

『何じゃかのう・・・・別に良いのではないか? 誰も困らぬし』


 完全消滅を認めたセラに、一同は呆れる果てた。

 ブッチにとっては正に命が掛かっているのだが、周りの空気がおかしい。

 人一人殺すと言っているのに対し、何故かしょうがない的な空気なのだ。

 下手をすると、殺す事を容認されかねない。

 背筋に冷たい汗が流れる。


「ふひぃっ! ふ、フィオちゃん、助けてほしいんだなっ!! 一生のお願いなんだなっ、ふひっ!!」

「あ、はい、今助けてあげますっ!」

「待った、フィオちゃん! 何かおかしい!」

「ふひっ!?」


 純粋なフィオを動かして、何とか脱出をしようと企んだブッチの企みは、セラの一言で中断される。

 セラはブッチを見据えたまま、何かを考え質問して来た。


「聞くけど、君何で埋められているのさ! それが趣味なら構わないけど、違うなら誰かに埋められた訳だよね、誰に埋められたの?」

「ふひっ!? む、村の奴等なんだなっ!【ポーション】売らなかったから、う、埋められたんだな、ふひっ!」

「何で売らないのさ、それが君の仕事だよね?まさか、村の人達困らせて優悦に浸っていたんじゃ無いよね? もしそうなら助ける義理は無いと思うけど?」

「ち、違うんだな、在庫が無くて売り様が、な、無かったんだなっ、ふひぃ!」


 行き成り真実を突かれ焦るブッチ。

 とっさに誤魔化したものの如何も信じてなどいない。

 不遜な態度がブッチの怒りを誘う。


 セラの名声が村中で高まる度、彼は面白くなかった。

 この村に一番必要なのは自分だと云う自覚が彼には会った。

 そして、それ故に村の奴等は自分に従わなくては為らない、などと云う妄想が生まれてしまう。

 その結果、彼は増長し回復薬を作れる自分が偉大な存在に思え、其れに疑いを持たずに我が儘を通して来たのだ。


 だが、それはセラの登場によって脆くも崩れ去った。

 店でフィオが偶々ポーチから落とした物を見た時、初めて見る薬に興味を示す。

 聞いてみた所それが【ハイマナ・ブロシア液】と知り、譲って欲しいと懇願した。

 だがフィオに・・・・


『この薬ですか? セラさんから貰ったんです! 凄いですよねぇ、こんなお薬作れちゃうんですから! あっ、私からセラさんに頼んでみますか?』


 ・・・・と無邪気に言われたのだ。

 その瞬間自分がセラより格下だという現実を突き付けられた。

 しかもセラは自分の店でエルフに伝わると云う幻の秘薬、【エテルナの霊薬】も作ったという。

 その秘特性故に幻と言われるものをだ。

 自分は作る事すら出来ないのにである。

 完全敗北であった。


 そして自尊心を取り戻すために、いつもの村の連中をからかい弄ぶという遊びを始めた。

 だが今回は違った。

 村の連中は反旗を翻し、散々追い回した後強制的に回復薬を作らされ、店の商品を強奪した後ブッチをこの村外れに埋めたのだ。

 是は政治情勢が不安定な国に良く起こる暴動に近い。

 其処に不満の対象が在った故に、爆発した時の反動は狂気は変わり、その行為を次第にエスカレートしたのだ。

 村長の時の影響も有ると思われるが、ブッチはその騒ぎを知らない。

 だが、彼は全てが自分の撒いた種である。

 それを全てセラの所為だと思い込んでいた。

 まぁ、あながち間違いでもないのだが・・・・・


「在庫が無い? それは君の経営がいい加減だという証だね。店を経営する以上一定の在庫は備えて置くものだよ、つまり是は道具屋として君がその程度の熱意しかないという事だ、人に偉そうにして置いて仕事を放り投げていた君の責任、助ける理由にはならないね! 自業自得だよ」

「ふひいいいいっ!?」


 その場を誤魔化す積りが、返って敵意をあおってしまう。  

  

「ち、違うんだな、素材が足りなくて、作れなかったんだなっ! ふひっ!!」

「其れはおかしいね、数日前に相当薬草も採取していた筈だよ? 足りない事なんて無い筈だ、と云う事は素材が有るのに作らなかったと云う事だよね? 益々助ける気にならないね」

「ふひいいいいいいいいいいっ!?」


 さらに泥沼に到り焦るブッチ。


「君が誤魔化そうとしているのはもう解っているよ、どうせ又皆に回復薬を売って上げない!何て言ったんじゃないの? そう考えると、君がここに埋められている事に説明が付くんだけど」

「ふひいいいいいいいいいいいいいっ!? ばれてるんだなっ!! ふひいいぃっ!!」

「バレ無いと思っていたの? 考えるに値しない状況証拠から導き出される簡単な推理だよ」


 諸悪の根源が、自分であると気づいていないのだから始末に負えない。

 セラはこうなる原因を知る故に、追いつめてどう料理するかを考えていたのだ。

 さらに自分を大きく見せる事で恐怖心を煽る事も忘れない。

 不快なモノには容赦しない、正に銀色悪魔であった。


「でも、これは可哀想ですよセラさん」

「そうです、この方も反省していると思います。ここは許して差し上げるべきだと思います」


 内心舌打ちをするセラ、是から性根を叩き直そうとしているのに、天使と聖女が邪魔をする。

 ここは一つ、方向性を変えるべきだと判断した。


「そうですか、其れは仕方ないですね。腐った性根に身の程を教えて上げ様と思っていたんですが」

「それにはあたしも意義は無いんだけど・・・この二人の前ではねぇ」

「天使と聖女には敵わないという事か、まあしゃねぇか」

「其れよりどうする? 掘り起こすにしても時間が掛かるわよ? ご丁寧に土まで固めているし」

「【ファイア】」

「「「「!?」」」」


 突然セラが魔法で巨大な火球を生み出す。

 彼等が信じられないのが、それが初級魔法である事だ。

 明らかに中級魔法の威力が有りそうで、それを生み出した意図を察した。


『『『『魔法で吹き飛ばす気だ!!《です!!》』』』』

「さて、正直君なんか助けたくも無いけど皆の意見が纏ったからね、嫌だけど其処から出してあげるよ! 親切でしょ?」

「ふひいいいいいいっ!? この機に乗じて、ぼ、ぼくを始末する気なんだな!! ふひいいいいいいっ!!」

「酷いなぁ、そんな濡れ衣を着せるなんて・・・みんな疲れているから手間を省いてるだけだよ?」

「ふっひいいいいいっ!! じゃぁ、な、何でそんなに嬉しそう、なんだな、ふひっ!!」

「気のせいだよ・・・これで手前の土を吹き飛ばすから、その隙にそこから出てよ」

「ふひっ!! ば、馬鹿なんだなっ!! そんなもの投げたら、し、死んじゃうことが分からない位、馬鹿なんだなっ!! ふひいっ!!」

「・・そんな・・・酷い・・・そんな事を言うなんて・・・・・死んじゃえ・・」

「お前ら!!にげろおおおおおおおおおおっ!!」


 レイルが叫び、全員一斉にその場から退避する。

 まるで手酷く振られ心が傷つた少女の様な口調と仕種で、無慈悲に魔法を投げつけたのだ。

 セラの放った火球は、ブッチの背後七メートル付近に着弾し、爆発したその勢いで彼は大空を舞う。

 綺麗に放物線を描き、重力より解き放たれる。

 ブッチにはその滞空時間が永遠に思えた。


 ―――――グワッシャアァァァァァッ!!


 そして頭から地面に叩き付けられた。

 燃え盛る業火を背に、セラは静かにブッチに近付いて行き、その生存を確かめる。

 白目を剥き痙攣している所を見ると、如何やら生きていたようだ。

 僅かに顔を歪め・・・・・


「・・・・・チッ・・生きてやがる・・・」


 吐き捨てる様に呟き、回復させるべきか、止めを刺すべきか、悩み出す。 

 そこが問題だった。

 回復は出来る、しかし魔力やアイテムが勿体無い、何より助ける気など微塵も無い。

 考えるまでも無く結論が出た。


「・・・・・・矢張り止めか!・・」

『『『『何でだよ!!《ですか!!》』』』』

「おおぅ!?」

「「おおぅ!?じゃ有りません!! 直ぐに回復してあげてください!!」」

「流石に人死には拙いだろ、ついでにこんな奴の為に罪を背負う積りか?」

「・・・・・・・・仕方ないですね・・・不本意ですが・・・」

「今凄い間があったわね、余程生かして措きたくないのね・・・・分かるけど・・」


 凄い嫌そうな顔で、【無限バック】の中を漁り回復薬を探す。

 出したのは小さなアンプルの容器で、その先端を親指で折り、ブッチの口の中に無理やり流し込む。


「ぎゅぼふぎゆぅへやぁあっ!!」


 意味不明の言葉を発し、ブッチは口を押さえてのた打ち回る。

 その様子を全員が唖然と見ていた。

 そして彼が苦しみから逃れた時、彼の顔は心なしかイケメンになった気がするのは何故だろう。

 まるで憑き物が落ちた様に・・・・


「・・・何て事だ・・・・ぼくは、何て人として最低な事をしていたのだろう・・・許される事じゃない」

「「「「真人間になった!?(りました!?)」」」」

「・・・・・・嘘おぉんっ!?」

『面白い現象じゃのう、人の世には、こうも性格が変わる事等在るのかのう?』

「ぼくは屑だ!! けど何だ? この清々し感じは、ぼくの様な穢れた者が、こんな気分を味わって良い筈がない! しかし喜びに身を委ねてしまう。ああ、生きている事は素晴らしい」


 凄い変わりようだった。

 彼の身に何が起こったのか、その答えを知る事が出来るのは、アンプルの容器を持つセラだけであった。

 セラは難しい顔をして、その答えに行き付き、今度はその有効性について考えていた。

 だがそれは仮説であり、実証した訳では無い。

 確かめる必要があるのだ。


「・・・セラ・・あんたアイツに何を飲ませたのよ、真人間になっているんだけど・・」

「真人間と云うには、言動が少しおかしくないか?」

「人は、こうも簡単に変われるモノなのでしょうか? 何か怖いです」

「きっと反省したからですよ、ブッチさんも危ない目にあいましたから」

『・・・・・本当に天使じゃのう、少しは疑わんと危険じゃ』


 彼は今、生の喜びに包まれ、この世界を謳歌する事の出来る自由に。感動を覚えていた。

 今迄彼は怠惰に生き、適当に毎日を過ごし、他人を卑下し生きて来た。

 その彼が変わった、変わり過ぎた。

 若干変な所はあるが、真人間に為った彼は今までと違う爽やかな顔であった。


「君達にお礼を言うよ、ありがとう! ぼくが生まれ変わったのは君達の御蔭だ、生きるのがこんなに素晴らしいなんて! そうだ、仕事をしないと、ぼくは皆に迷惑を掛けてしまった! この罪は償わないといけない!!ごめん皆、ぼくが悪かった!! 償うために僕は行くよ、それじゃぁまた!!」


「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」


 言葉が出なかった。

 だが、彼等には茫然とする余裕は無い。


「いたぞ、先生!!」

「頼む先生!!ボイルを助けてくれ、このままでは死にかねん!!」

「話は後でも出来る、今すぐ連れて行くぞ!!」

『『『『『おおおおおおおおおおおっ!!』』』』』

「ちょ、ちょっとおおおおおおおおおおおっ!?」


 突然現れた村人集に取り囲まれ、セラをそのまま担ぎ上げると、全速力で連行していった。

 後に残ったレイル達も、しばし呆気にとられたが直ぐに彼等の後に続く。

 その先で見たモノは、余にも凄惨な光景であった。 

 


 

 グシャッ、ボグッ、ゴボッ、ビシャッ・・・・・


『先生はまだかっ!! このままではアイツが・・・・・』

『・・・・すまん、耐えてくれ!! ボイル・・・』

『・・・ひでぇ、・・・・ひでぇよ、姉御おぉ・・・そこまでする必要が・・・あるのか・・』

『・・・あぁ、神よ!! お願いだからボイルを助けて・・・・』


 マイアは微かに聞こえる誰かの声で、少しずつ意識が戻り始めた。

 どうも周りが騒がしく、周りで何が起きているのかが分からない。

 次第に目覚める意識が、今度は体の痛みを訴え掛けて来た。

 何故こんなに体中が傷むのだろう?

 マイアは疑問に思う。


『・・・・ごめんよ、ボイル・・俺達・・無力だから・・・・』

『泣くな・・・コレはボイルの罪だ・・・しかし酷過ぎる・・・・・』

『・・・・・まさか・・・・まだ、修羅が残っていたなんて・・・・・』

『・・・・子供が出来て・・・丸くなったと思っていたのに・・』


 ボイルの名に聞き覚えがあった。

 コルカの街で出会った男だ。

 ではもう村に着いたのだろうか?

 強引に意識を戻し、無理やり体を起こそうとする。

 痛みを堪え、無理を押して最初に見た光景は・・・・・・


 体中に鮮血を浴び、残忍な微笑みで真っ赤に染まった拳を振るい続ける、一人の女性であった。

 そして彼女の下で倒れている男は、街であったボイルと云う名の男だったのだ。

 彼はもう死んでいるのかも知れない。

 そう思った時、恐怖が押し寄せ・・・・


「いやああああああぁぁぁぁぁっ!! 人殺しいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃっ!!」


 マイアの絶叫がロカスの村に響く。



 マイアの叫び声に驚き、村人達は一斉に彼女の方に振り向く。

 驚くのは村人達も同じで、マイアの特徴は彼らの知る人物と同じなのだ。

 そう、セラと同じ【半神族】と・・・・・



 彼等が声を掛けようとした時、村道を仲間たちが全力疾走してくるのが目に入る。

 ついに待ち人が来たのだ、彼等の顔に安堵の表情が浮かぶ。

 だがしかし、まだ問題が解決した訳では無い。

 まだ修羅がボイルを殴り続けているのだ。


「先生連れて来たぞっ!! ボイルはまだ生きているか!!」

「判らん、もう大分経つ、最悪の事態を考えてくれ!!」

「・・・くっ・・・何て事だ・・・・」

「・・・皆さん僕に何の用が・・・ええええええええええっ!? 殺人現場あぁっ!!」

「・・・すまねぇ・・・先生・・もう・・アンタに頼るしかねぇんだ・・・」

『『『『『『先生!!』』』』』』


 どこぞの学園ドラマの様で、その実凄惨な惨殺劇が繰り広げられている現場に、言葉に出来ない戦慄が走る。

 イーネは無言でボイルを殴り続け、ボイルはもう動かない。

 最早手遅れなのかもしれない。


「おいセラ・・・あのおっさん・・・生きてんのか? かなりヤバそうなんだが・・・・」

「悪いレイル!! 話してる時間がねぇ!! 先生頼みます!!」

「僕は用心棒ですか・・・アレを止めるんですか?・・・嫌ですけど遣らないと困りますよね・・・」

「頼むぜ先生!!」

「・・・・・はぁ・・・【アストラル・チェイン】」


 捕縛用魔法【アストラ・ルチェイン】で拳を振るうイーネの動きを封じた。


「・・・【パラライズ・ニードル】・・・【ヴァイ・ヒール】」


 続いて殺傷力は無いが強力な麻痺を与える補助魔法で、イーネを麻痺状態にして中級回復魔法でボイルの傷を癒す。

 更にバッグから【ハイ・ポーション】を出すと、無理やりボイルの口に突っ込んだ。

 かなり乱暴な手口だの回復である。

 尤もそれには単純な訳が有り、只飛び散る返り血を浴びたくなかったのだ、その上組み合って血塗れに為るのも遠慮したい、何よりめんどくさい。

 其れだけの理由で手抜きであり乍ら、効率よく処理したのだ。

 回復は功を奏し、ボイルは意識を取り戻す。


「・・・・・花畑が・・・ここは何処だ・・・ってイーネ!! 何で腹の上に!?」

「マウントポジションでボイルさんを殴ってたんですよ・・・良く生きていましたね・・・」

「呆れるとこか其処!? 其れよりイーネを退かしてくれ、何と無くだが魔法が切れたら、俺は死にかねん!!」

「そうしたいんですけど・・・・【アストラル・チェイン】で固定されているから無理です。」

「こうなったら止められねぇからなぁ、動ければ何とか出られるんだが・・・」

「フウッ!!フウッ!!ゴヲォルルルルルルルルルルゥッ!!」

「こ、こわっ!!」


 イーネの変わり様に戦慄するセラ。

 まるで獣であった。

 姉御肌の気風の良い女性だと思っていたのに、今はまるで血に飢えた魔物の様である。

 目の前の獲物を仕留めるまで止まる事の出来ない修羅と化していた。

 その獲物がボイルである。


「何とか正気に戻せないものでしょうか・・・・・」

「刺激を与えれば何とかなるかも知れねぇ、この間も腐った魔獣の血の匂いで正気を取り戻した」

「・・・・・なるほど・・・五感を刺戟すればいいのですか・・それも強烈に・・」

「何とか出来ねぇか? 流石に俺もこうなったイーネは止められん」

「遣って見ます、失敗しても怨まないでくださいよ?」

『何でもいいから早く頼む、正直生きた心地がしねぇ・・・・・」


 刺激を与えるにしても、どの程度までが有効なのか判断できない。

 そうなれば自ずと、たった一回きりの手段で全てを決めなければならない。

 そんなアイテム有っただろうか?

 脳内で臭いのきついと云われているアイテムを検索し、その中で有効そうなものをピックアップして行く。

 既にお馴染みの不思議バックに手を突っ込み、そのアイテムを取り出した。

 とても小さな小瓶なのだが、中の液体がとても真面ではない色合いであった。

 言葉では表現出来ないその色に、傍で見ていたボイルも息を呑む。

 そして【オールガードマスク】を装着。

 準備は完了した。


「勝負は一瞬で決まります、息を止めて置いた方が良いですよ?」

「わ、分かった・・・・やってくれ・・」


 捕縛魔法で動けないイーネの目の前に小瓶を近づけて、栓を僅かに開けると・・・・


「ギャンッ!!」

『『『『『『グウギャアアアアアアアアアアアッ!!クセェエエエエエエエエエエエエエエッ!!』』』』』』

 

 使ったアイテムは【冥途の香水】

 余にもの悪臭の為、嗅いだだけで死ぬと言われている珍アイテムである。

 悪臭はわずかな時間で消えるが、その香りは想像出来ない位のものであった。

 何の使い道も無い、只の冗談のような存在であるのだが、まさか使う時が有る等とは思わなかった。

 村の衆もその悪臭にのた打ち回る。

 あの【マジェクサダケ】を遥かに超える代物であった。 


 たった一度、しかもほんのわずかに栓を抜いただけで、そこは地獄と化したのであった。


 臭いの効果が消える頃、セラは【オールガードマスク】を外しバッグの中へと仕舞い込む。

 多くの者達が気絶し、未だに苦しみ有る者は嘔吐に苛まれ、それでも死人は出なかった。

 だがその惨状は余にも酷く、何かを成し遂げた時の様な達成感は無かった。

 虚しさのみが心の中に吹き荒ぶ。


 ふと視線の先に、自分と同じ銀髪の少女が倒れているのが目に留まり、どうやら巻き込んでしまったと罪悪感に囚われる。

 流石に関係のない物を巻き込む事に罪の意識を感じ、謝らねばと少女に近付いた。

 だがその少女を見た時驚愕する。

 彼女は似ていたのだ、セラの・・・いや【瀬良優樹】の妹【真奈】に!



 マイアが目覚め最初に見た光景は人を殺そうとする凄惨な現場った。

 周囲の人達は恐怖に怯え、只殺されかけている人物の安否を只祈るばかりであった。

 その手と体を血の色に染めて、嬉々として拳を叩きつける女性に戦慄する。

 まるで悪鬼の様なその所業に目も当てられない酷い光景であった。


 今まで一人で生きてきた彼女にしても、恨んだことはあっても人を殺そうなんて思った事など無い。

 躰の底から湧き出てくる恐怖に彼女は思わず叫んでしまっていた。

 周囲の人の注目を浴びてしまうが、その時別の一団が一人の少女を担ぎ上げ駆け抜けて来る。

 その少女は自分よりやや年上か、其れよりも彼女には見覚えがあった。

 正確には彼女の特徴だが・・・・


 彼女も初めはその状況に戸惑っていたが、周囲の人たちの話から状況を理解した様である。

 彼女は嬉々として殴り続ける女性に、捕縛魔法と状態異常魔法で動きを封じ、ボイルに回復魔法と回復薬を飲ませる。

 自分が息を呑んだのを自覚できた。

 魔力が途轍もなく大きい、しかも効力は自分より遙かに長い事が推測できる。

 何より彼女の装備が凄い。


 深紅と漆黒の魔獣の素材から作り上げられた至高の芸術。

 美しさと禍々しさが同時に混在する観た事の無い装備である。

 ボイルに誘われこの村に来たが、まさか同族でこれ程の冒険者がいるなどとは夢にも思わなかった。

 正直悔しとすら思わなかった。

 自分と同じ存在でありながら、ここまでの強大な気配を持つ彼女に、寧ろ畏敬の念を覚える。

 何より同族である事が誇らしかった。

 今までこんな気持ちになった事など一度も無い。

 周りが敵ばかりと思いそして拒絶していた。


 初めてだった。

 もっと知りたい。

 この人の事を知りたい。

 この人の様になりたい。


 こんなに他人を知りたい等と思う事は初めての経験だった。

 彼女に近付こうとした時、酷い悪臭が立ち込める。

 想像を絶する言葉に出来ないモノだった。

 周囲の人達が倒れて行く。

 そして自分も目の前が暗くなっていった。



 マイアが気が付くと周囲の人達が頭を振りながら起き上ろうとしていた。

 朦朧とする意識の中、自分たちが強烈な悪臭で気絶した事を推測できた。

 まだ目の前が歪んで見えるが、どうやら無事のようだと思う。

 街でこんな外で気を失うようなことが有れば、自分の身に何が起こるのか分かった物では無い。

 それを思えばまだ幸運ともいえる。

 そこでマイアは自分が何のためにこの村に来たのかを思い出した。

 自分は会いに来たはずだった、最強の冒険者に。


 漸く意識がはっきりして頭を上げた時、すぐ目の前に一人の少女の顔が自分を覗き込んでいた。

 まるで何かに驚いている様なその顔に、マイアは困惑する。

 次の瞬間突然少女に抱きしめられる。


「真奈ちゃん!! 嘘、何で!! いつこちに来たの!? 真奈ちゃん!!・・・・」

「えっ?ええっ!? ちょっ、ちょっと待ってっ、ええぇ!?ええええええええぇぇっ!?」


 突然抱きしめられ、しかも矢鱈と騒ぎまくるセラにマイアは困惑を隠せない。

 如何やら誰かと勘違いしているのだと推測する。

 けど抱きしめられて、胸の辺りが熱く感じるのは何故だろうか。

 このままでも良いと云う感情と、当初の目的を果たそうとする感情がせめぎ合う。

 結論は直ぐに出る。


「ちょっと、離して! マナって誰よ!! あたしの名前はマイアよ!!」

「・・・・へ?・・・・・ああ、そうだよね、そんな筈が無いんだ・・・うん、ゴメンね」

「・・・別に良いわ、其れよりもあなたが最強の冒険者なの?」

「最強かどうかは知らないけれど、少なくともこの村の人達よりは上かな?」

「貴女に聞きたい事が有るのよ」

「僕に? う~~~ん何だろ?」


 マイアはどうもこの少女は可成り恍けた人物に思えた。

 今迄に出会った事の無いタイプの存在に、内心当惑する。

 だがそれよりも自分の目的を話さなければならない、でないとどうも話の腰を折られそうだった。

 期待と不安を綯交ぜにして話を切り出そうとした時に邪魔が入る。


「どうだセラ、お前以外の【半神族】見つけて来たぜ」

「そんな犬や猫を拾ってきたみたいに言わなくても・・・正直驚きましたね、妹に似ていたのですっかり勘違いしてしまいました」

「妹いたのかよ! まぁ、驚いてくれたならいいか!」

「イーネさんは正気に戻りましたか?」

「まだ、気絶している。全員起きたらマイアの紹介でもするか」

「そうですね、レイルさんがこの村を纏めてギルドを作る気みたいですから」

「村を纏めてだと? ふむ、何やら面白そうなこと考えてんじゃねぇか! んじゃ、全員起こしてくるか」

「ギルドの話は明日にした方が良いですよ? 話が長くなりそうですから」

「分かった、じゃぁそうするか! 取り敢えずはマイアの紹介だな」

「ですね、取り敢えずみんなを起こしましょう!」


 ボイルは手近な仲間たちから順に乱暴に起して行く。

 出ばなを挫かれ、マイアは少し頬を膨らませ恨めしそうに彼を睨みつける。

 そんな彼女の頬をセラは指で突いた。


「んな、な、何するのよ行き成り!」

「ん~~っ、反応もそっくり! 最近攣れなくなったからなぁ・・・・・」

「~~~~~~~~!!」


 マイアの顔が熱くなる。

 恐らく自分の顔が赤くなっている事は疑う余地も無い、しかし何故これしきの事でこんな反応をするのかが分からない。

 ただ不快では無い事だけは分かる。

 何故こんな反応をしてしまうのか、何故こんなにも動悸が激しくなるのか、マイアにはまだ判らなかった。

 ただこのセラと云う冒険者に対して、自分の中に何かが芽生えた事は確かであった。

 

 現在マイアをどう弄るか考察中です。

 今後はフィオとマイアにコンビを組んで貰おうと考えているのですが・・

 如何にも・・・後どうセラを追い詰めようか・・・

 色々なモノを無くして葛藤して貰わないと・・・コメディ的に


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