気高き魔獣の鎮魂歌 ~聖魔竜と神の契約~
ようやく山場を乗り超えましたが、この後の展開が・・・
アムナグア以上の物が書けるかどうか・・・不安です。
「まったく、こんなでかいの持ってこられてもねぇ・・・あたしたちじゃ解体はきついわよ」
イーネがそう、ボヤくのも無理はない。
いま解体小屋の目の前に置かれた魔獣は、災害指定魔獣【アムナグア】の骸である。
余りにも巨大すぎて、どこから解体して行けば判らないのが現状であった。
しかも鋼殻が途轍もなく分厚いため、刃物が通らず手の付け様が無い。
実に困った状態であった。
「俺達の武器でも弾き返していたからな、余程の得物じゃないと無理だぞ?」
「セラは易々と切り裂いていたけどね。少なくともあたし達では無理よ」
「それ以前に、私の武器は刃物ではありません・・・お役に立てず申し訳ありません」
流石のレイル達も魔獣の解体は素人のうえ、仮に出来たとしても武器を通さないのであれば、どうする事も出来ない。本気で彼等は頭を悩ませていた。
「んで、こいつを唯一ぶった切れるセラは、未だにおねんねか?」
「まぁ、しょうがないんじゃ無いか? 一晩こいつと、殺り合っていたんだからな」
「そらそうか、しゃあねぇ、ちょいと町までひとっ走りしてくっか」
「どうすんだ? おっさん」
「イモンジャ商会に、腕の良い解体屋を紹介して貰うんだよ! でなきゃ、折角の【アムナグア】が勿体無いじゃねぇか!」
ボイルの言う事は一理ある。
とても良い考えではあるが、レイル達はあまり商人と云う者を信用していない。
利益を上げる為には、時として阿漕な事をするのを身をもって知っているからだ。
余り、お勧めな提案とは云えない。
「ファイ、チョイとセラの様子を見て来てくれ、もしかしたら良い得物を持っているかも知んねぇ」
「分かった、任せといて! ミシェル、フィオの家に行くわよ」
「はい、可能性があるなら、その方が良いですから」
ファイとミシェルは、フィオの家へと向かう。
「所で、おっさん! 俺達はこいつの素材を貰えるのか?」
「村を守るのに貢献してくれたんだ、当然じゃねぇか。何だ、要らねぇのか?」
「いや、すげぇ、欲しい!」
「何にしても、解体できなけりゃ、意味がねぇんだが・・・」
「いっその事、セラにでも解体して貰うか・・・・」
「その手もあるか・・・」
当の本人のいない所で、勝手に話が進んでゆく。
【アムナグア】の解体作業は、もう少し後になりそうであった。
暗い闇の中を【優樹】漂っていた。
重力も無いこの空間は、どこか居心地が良く、何時までも此の侭でいたいと思ってしまう。
此処が何処なのかとか、何で此処にいるのかとか、何故此処に居るのかとか正直どうでも良くなるような居心地の良さで合った。
実際に、疲れているのでこの居心地の良さは有り難い。
何処から自分を呼ぶ声も聞こえるが、この微睡の中は気持ちよすぎて同でも良くなる。
『・・・ら・・・セラよ・・』
声が段々と近づいて来る。
何だろうとも思うが、この心地よさには勝てない。
断固無視する。
『起きぬか、セラよ』
何というか、正直に言えば鬱陶しい。
耳元で蚊が飛び回っている位に鬱陶しい。
「・・・う~~ん、母さんもう少し寝かせて・・・あと十時間・・・」
『このゆとり世代が・・・十時間は寝すぎじゃ』
「・・・・ごめんよ、パトラッシュ・・・・僕・・眠いんだ・・・」
『ここで死亡フラグを立てるか・・・・中々に手強い・・・』
「・・・・・生まれ変わったら・・・・僕はエチゼンクラゲになりたい・・・」
『漁師に迷惑をかける気満々じゃのう、止めとくがよい』
「・・・そして何時かは・・・世界を侵略するんです・・・・・」
『それは烏賊に任せておけ、いい加減に起きぬか!!』
「あべし!?」
後頭部に何か強い衝撃を受け目を覚ますと、暗い闇の中で唯一光を放つ少女が浮いていた。
その姿を見た時【優樹】は息をのむ。
その姿は自分が良く知る者であり、そして違う存在。
何より彼女の顔が自分と瓜二つなのだから。
ただ彼女の声には聞き覚えが在った。
『ようやく気が付いたか、手間を掛けさせる。こうして顔を合わせるのは、初めてじゃのう』
「・・・・その前に・・・聞いても良い・・・」
『なんじゃ?』
「何で裸なのおおおおおぉぉっ!?」
【優樹】が動揺するのも無理はない。
今目の前にいる少女は、一糸纏わぬ絹のような素肌を惜しみなく曝しているのだ。
健全な青少年の【優樹】には、途てもでは無いが直視できるモノでは無い。
下手をすると、色々とやばいこと為りそうである。
『今更恥ずかしがる事かのう、それに汝も裸ではないか? 裸の付き合いと云うやつよ』
「ええっ!? ほんとだあああぁぁっ!? 何でえぇ、どうしてぇ!?」
『それは、この世界が汝と我の精神世界じゃからの、今居る我らは精神だけの存在じゃ』
「・・・・すると、服なんかをイメージすれば、その姿になるって事?」
『呑み込みが早いのう、流石オタク世代じゃ! その通り、試してみるがよい』
服をイメージすると云われても、これがまた難しい。
そもそも自分で買いにいった事も余り無い。
ファッションセンスが在るとも思えなかった。
そしてイメージした服と云うのが・・・・
『何故にマンボウの着ぐるみなのじゃ?』
「何処かの非公認ご当地キャラじゃ、色々と拙いんじゃない?」
『それならホタテでも良かろう・・・』
「僕は、ロックンロールを歌う気はないよ? 別に、たい焼きでも良かったけど」
『汝の基準が判らぬ・・・まぁ、良い。そろそろ本題に入ろうではないか』
「君にも服を着てほしいんだけど・・・・」
『ふむ、目のやり場に困るか・・・美しいとは罪じゃのう』
「・・・・・お願いだから・・・その顔でそうゆう事言うのやめて・・・」
少女のイメージした服装は何故かセーラー服であった。
どこぞの深夜枠のアニメにでも出て来そうな姿だが、【優樹】には複雑な思いが在る。
彼女のセーラー服姿が似合うという事は、自分も似合うという事に他ならない。
何故か涙目の【優樹】であった。
『さて、恐らく汝はこう思っている筈じゃ。我が、一体何者であろうか?とな。じゃが、汝と我は何度も出会っておる。ゲームの中でな』
「ゲームの中って、【ミッドガルド・フロンティア】の中でって事? けど何処で? 少なくともNPCじゃないよね、もしそうなら僕と同化していること自体おかしいし」
『うむ、鋭いのう。然りじゃ、我は討伐クエスト、それも【最終レイド・クエスト】に出ておった』
「まさか!? 【聖魔竜ヴェルグガゼル】!? あれ、何で自我を持っているのぉ!?ゲーム内のキャラじゃ無かったの?」
『我は、元よりこちらの世界の生物じゃ。だが、ある者の誘いに乗ってのう、電子世界で遊ばせて貰っておった』
「そんな、とんでもない真似をできる人って何者!? 人間じゃ不可能だよ、どう考えても!!」
『お主達の言葉で言えば、【神】じゃのう。尤も、信仰で生まれる様な概念的な【神】では無いが』
「神様!? 存在してたのぉ!!」
『あくまで言葉を借りればと云う前提の話じゃ、彼奴はそんな可愛げのあるものでは無い。ただのロクデナシじゃよ、ただの暇神じゃな』
「何でそんなのと出会ったの!? 何か、怪しいよねぇ!!」
『答えは簡単じゃ、我も暇を持て余しておった。アレはそう我がこの世界におった頃か・・・・・』
【ヴェルグガゼル】は暇だった。
毎日、狩りをしては獣を喰らい、後は寝て暮らすだけという日々に退屈を覚えていた。
この世界の最強種であるが故に、知性も高く寿命もやたらと長いのだ。
人間でいう所の百年位は、そこらにいる魔獣と変わりは無かったのだが、時が過ぎて行く度に不満が溜まって行く。とにかくやる事が無い、しかも知性が育って行く度にその不満が大きくなる。
時よりその不満を解消するため、強力な魔獣とも戦うが、いつの間にか敵はいなくなり孤立していった。長い孤独な生活は、更なる不満を育む本末転倒の鼬ごっこであった。
そんなある日、自分の住処としている山岳部に、観た事の無い獣が現れる。
他の獣とは違う、不可思議なものを持ち、岩を崩しては何かを手にし喜ぶ、興味深い者達であった。
早速この獣たちに近づくと、獣たちは真っ先に逃げ出してしまう。
危害を加えるつもりは無いのだが、自分の大きさを考えると無理も無いと思う。
だが、この獣達の残していった物は、実に興味深かった。
初めは何の為の物なのかが判らなかったが、身を隠しながら観察して様々なものを知る事が出来た。
そこから類推するに、この獣達は他の獣の骸を利用し、自分達に必要なものを作り出す。
この獣達は群れを為し、狭い大地で犇めき合って生きている。
他の獣に挑むのは生きる為と思うが、穴倉に好き好んで入ってゆく意味が分からない。
何か意味が在るのだろうが、自分の大きさを考えると調べるのは不可能。
俄然、興味を刺激される。
だが、ここでも自分の体の大きさが邪魔をする。
観察する位なら、光を屈折させ姿を隠す事も可能だが、さすがに穴倉には入る事が出来ない。
興味があるが、どうしても不可能な事が幾つもの増えてくる。
この姿を変える事が出来ればそれも可能になるが、この世界にはそんな真似の出来る者は居ないのだ。【ヴェルグガゼル】は途方に暮れる。
興味は尽きない、しかし自分自身がそれを邪魔する。
鬱屈としたジレンマが身を苛む。
そんな時に【神】が現れた。
「ねぇ、貴女、暇? 暇よね、毎日人間を観察しているのだから。貴女にお願いが在るんだけど」
『汝、あの小さき獣の同胞か? しかし解せぬ、何故其方は我と意思をかわせるのだ?』
「遣り様は幾らでもあるのよ? けど、この世界の摂理では不可能ね」
『ふむ、して我に何の用じゃ、下らぬ事であれば即座に消すぞよ』
「私のお願いを聞いてくれたら、貴女のお願いも聞いて・あ・げ・る・!」
正直怪しかったが、取り敢えず話だけでも聞いてみる事にする。
もしかしたら、面白い事になるかもしれない。
問題は、この者がどこまで信用できるかだが・・・・
『何やら腹の立つ言い草じゃが、まぁ、良い。我はあの小さき獣の事が知りたい。実に興味深い者達じゃ』
「私のお願いは、貴女に有る世界に来て欲しいのよ。あの人間たちとの交流に役に立つかもしれないわ」
『ふむ、しかし汝の言葉をどこまで信用すればよいかが判らぬ。連れて行かれて其の儘という事もあり得るのでな。条件付きならその話に乗ろう』
「貴女の行く世界では、貴女は不死身になるわ。そこで貴女に全力で戦って欲しいのよ、勿論負けても即復活するし、痛みも無いから苦しまない」
随分、胡散臭い世界である。
しかし自分の望みを叶えるのであれば、この者の口車に乗るのも悪くない。
だが、この者をどこまで信用すればよいのやら・・・・
『何とも、怪しい世界じゃな。して、何を持って条件を果たした事になるのじゃ?』
「そうねぇ、たった一人の戦士に貴女が敗北するって云うのはどう? 勿論、貴女には全力で戦ってもらうけど、ズルはダメよ?」
『よかろう、契約しようではないか。だが、約束は必ず果たすのであろうな』
「当然、契約は必ず果たすわ。こっちも背に腹が代えられないから」
『では参ろう、多少の遠回りで望みが叶うのであれば安い物じゃ』
「はい、は~い! それじゃ、一名様ごあんな~い!!」
こうして【ヴェルグガゼル】は、オンラインゲーム【ミッドガルド・フロンティア】の世界へと行く事になった。
正直に言うのも癪だが楽しかった。
今迄自分に挑もうとする愚か者はいなかったので、思う存分に暴れさせて貰った。
多くの物が自分に挑み、敗れ、また倒されながらもその世界を十分満喫したのである。
そして、自分が待ち望んで来た時が滔々やって来たのだ。
そう【優樹】が【ヴェルグガゼル】に挑んできたのである。
たった一人で。
『あの時は本当に楽しかったのう。我も思わず調子に乗ってしまった』
「一寸、おかしくない!? 何で【神】様が、ゲームの世界にヴェルさんをスカウトしに来るのさ! 其れじゃまるで神様があのゲームを作ったみたいじゃないか!!」
『ヴェルさん!? まぁ、良いが・・・みたいも何も、その通りじゃ! 彼奴も暇を持て余し、其方の世界で就職して会社勤めをしておる。ついでに奴はあのゲームの開発主任じゃ』
「何してんの神様!? そんなアバウトでいいのぉ!?」
信じられない事実が発覚して、【優樹】は驚愕する。
まさか【神】がゲームを製作しているなんて夢にも思わなかった。
世界はデンジャーで満ち溢れている。
『そもそも、我がスカウトされた理由も、次期レイド・モンスターをデザインしていた者が交通事故に合い、重傷を負ったために製作期限が大幅に遅れ、止む終えずチートしたらしいからのう』
「狡すぎるでしょう!! 他の製作会社もかなり頭を悩ませている問題だよ!? それなのに他の世界から敵キャラをスカウトするなんて、世間を嘗めてるよ!!」
『我に言われても困る。我は、奴の口車に乗っただけだからのう』
「ごめん・・・」
考えてみれば、【ヴェルグガゼル】も利用されただけなのだ。
そもそもレイド級モンスターに、たった一人で挑む者など無い等しい。
偶々【優樹】がそれを行い、勝つ事が出来たからこそ【ヴェルグガゼル】は開放されたのだから。
無茶な条件の契約を何も知らない【ヴェルグガゼル】に交わさせる事事態、詐欺の様なモノであった。 下手をすると【ヴェルグガゼル】は一生ゲームの中だったかも知れない。
かなり悪質な【神】であった。
だがそうなると、今自分がこの世界に来ている事も、このふざけた【神】に寄るモノかも知れない。
いや、十中八九その【神】の仕業に違いない。
「僕がこの世界に飛ばされる事になったのも、もしかして【神】のせい?」
『うむ、彼奴が人の世界に行くのであれば、案内人も必要じゃからと言ってのう』
「僕の意思は、まるで無視なの!?」
『オンラインゲームで遊びまくる引き籠りは、大抵中二病だから異世界に放り込んでも巧くやると言っておったのぉ。所詮、社会不適合者なんだから構わない!とか、能力もチート全開にしておけば尚の事喜ぶとか、社会の塵が世界から一人消えるのだからエコよね! とも言っておったぞ?』
「殴りたい! その神様、死ぬほど殴りたい!!」
どうやら、かなりの邪神らしい。
目的のためなら手段は選ばず、時には詐欺まがいの真似も平気でやる。
しかも人の都合はお構いなしらしい。
本気で殺意が湧いてくる。
「何なの、その神様! 凄く殺意が湧いて来るよ!?」
『我もゲーム世界に行った時にそう思った。そもそも、レイド・モンスターを一人で倒すと云うのが無理な話じゃ。あの時は騙されたと思ったのう』
「やっぱりね!! そう思うよねぇ!!」
『じゃが、其方が来たときは嬉しかったぞ? ついにその時が来たと、思わず本気で挑んでしもうた。じゃが、其方は我を打倒し我が願いを叶えてくれた。誠に感謝してるぞ、【優樹】よ、ふふふふ』
【ヴェルグガゼル】はやや頬を染め、愛おしげに【優樹】を見詰め微笑む。
自分と同じ顔なのに、まるで別人の様な(別人なのだが)愛らしい表情を【優樹】に向けてくる。
そんな彼女に心臓が高鳴る。
「げ、ゲームだと思っていたから出来た無茶だよ、現実だったらとても無理だし・・・」
『照れるでない、我は知っておる。どれだけ女子に見えようとも、其方の中には荒ぶる獣がおる』
「そう言えばそんな事を言っていたね・・・あれ? たしか【アムナグア】の時、性格が変わっていたような気がする」
『あの時は、我と其方の意識が同調して起きた現象じゃ。あの時の其方は、魔獣と化しておった。【アムナグア】の声が聞こえたであろう? 我が躰で作りし武具の効果じゃ』
「レジェンド級の効果か、少し残念、僕的には漢らしくなりたいんだけれど・・・」
『ふむ、ジョブとやらの様にか?』
「筋肉に為りたい訳じゃないよ!? 人としての器の話!」
『我としては、猛々しい其方も良いが、今のままの方が良いがのう・・・ふふふっ』
何故この魔獣少女は、自分にこんな柔らかな暖かい笑みを向けてくるのであろう。
何故か顔が熱くなるのが判る。
「・・・と・所で僕の性別が変わったのって、やっぱりアバターが女性だったから?」
『おそらくのう、其方の無い知識を持っておるのも、あの【神】が何か仕込んだのじゃろう。他のラノベとやらにも在ったじゃろう? サービス精神は旺盛な様じゃから』
「でも、聞けば聞く程に分らない存在ですね? まるで、世界のどこにでも存在しているような感じなんだけど、もしかしてこの世界にもいるのかな?」
『然り、奴は何処の世界にも存在し、同時に存在しない。我々がその概念を認識する事は不可能な存在らしい、我ら自身にそれ程の力も無い故に存在を知覚する事も無い』
「まるで、何処かの暗黒神話に出て来そうな神なんだね・・・邪神だけど・・・」
『その認識は正しい。奴はそう云う類の者だ』
「邪神なんだ」
『邪神じゃ』
どうやら聖魔竜様も認めるほどの邪神らしい。
とんでも無い人が作ったゲームで遊んでいたものだと、溜息が出る。
『ふむ、そろそろ目覚めるときじゃな、ではセラよ今後とも宜しく頼むぞよ』
「えっ? 今後とも?」
『其方は我のパートナーじゃ、我が人の営みを学ぶために協力宜しくのう』
そう言って【優樹】の頬にキスをすると、闇の中へと消えて行った。
しばらく赤い顔で呆然としていたが・・・・
「逃げ場を塞がれてる!?」
その事実に、今更ながらに気が付いた。
ファイとミシェルは、フィオに案内されセラの部屋へと向かう。
板張りの床が軋む音が廊下に響くたび、この床大丈夫なのかと心配になる。
魔獣の生息する森の近くに村を作るのだ、外は頑丈に内部は適当の基準で建てられている為に、外の外見とは裏腹に、中はみすぼらしいのがこの集落の特徴であった。
セラの眠る部屋の前に立つと、フィオが矢張り適当に作られたドアをノックした。
「御免下さい! どちら様ですか? 現在家主のフィオです。お入りください。ありがとう」
そう言いながら、勝手にドアを開け部屋へと侵入しようとする。
まさかの、やんごとなき会社のお約束ギャグを、ファイとミシェルは呆然と見ていた。
これはかなり失礼な行為である。
「ちょっと待ちなさい、フィオ! 何なの、それは!?」
「フィオさん! 幾らご自分のお家でも、やって良い事と悪い事が在ります!」
慌てて二人はフィオを止める。
「でも、これはセラさんが夜中に忍び込むなら罰ゲームをすると言って、部屋に入る時はこのセリフを言いなさいて教えられたんですけど・・・」
「・・あの子・・・フィオにも芸人魂を吹き込むつもりなのね・・・怖ろしい子・・・」
「セラさんが何を考えているのかが判りません・・・どうしたら良いのでしょうか・・・」
セラの芸人根性は【アムナグア】との戦闘終了後に見ている。
もしかしたら天然の芸人なのかも知れないが、これはフィオの教育によろしくない。
この純粋な子が、セラの様なギャグをブチかます様な事は避けなければならない。
何より、出稼ぎに家を空けている両親が観たら、本気で泣くかも知れない。
由々しき問題だった。
『・・・・・うるさい・・・』
僅かな隙間から、セラの声が聞こえた。
もしかしたら起きているのかも知れない。
そう思った三人はセラの借りている部屋に足を踏み入れる。
だが、セラは頭からシーツを被り、爆睡中である。
「どうやら、ただの寝言だったみたいね」
「後で謝りましょう。これは失礼です」
「余程疲れていたんですねぇ、こんなに眠るセラさん初めて見ました」
『・・・・・たらたらしてるな! 糞野郎ども・・・貴様らは最低の糞虫だ・・・・・』
「「「!?!?!?」」」
突然下品な寝言を言うセラに、一同は驚愕する。
『・・・看守さん・・・ちょいと、五時間ばかり都合してくれや・・・ジョージの奴・・激しくてよぉ・・・夕べは寝てねぇんだ・・こいつは、いつものだ・・・』
「・・・・セラさん、どんな夢を見ているんでしょう・・・」
「・・・看守ってことは、牢獄よねぇ? でも、ジョージって誰よ・・・・」
「・・・・・激しいて、何がでしょうか? それに賄賂らしきものを渡しています・・・」
三人は首を傾げる。
かなり怪しい夢を見ているようだ。
だが状況が分らない、分かるのは夢を見ている本人だけだ。
『・・・応答しろ・・トニー・・・状況を報告しろ・・・トニー・・・くそおおおおおおおっ!!』
「・・・何か、緊迫しているわね・・・」
「・・・・かなりの危機的状況なのではないでしょうか・・・・」
「・・・トニーて誰なんでしょう?」
いい加減に起せばいいモノを、三人は寝言の内容が気になる様だ。
『・・・・この仕事・・・受けさせてもらう・・・後の奴等は、お前らが殺れ・・・』
「かなりダークな状況になったわよ?」
「誰かを殺しちゃうんでしょうか・・・」
「何故でしょう、人の寝言を聞くのが楽しいと感じるのは・・・・」
『人の不幸は蜜の味・・・気をつけな・・・それがアンタらの不幸の始まりになる・・・』
「「「!?!?!?」」」
まさか、起きているのでは無いかという疑念が、三人に嫌な汗を流させる。
「まさか、起きてるんじゃないわよね?・・・・」
『寝言は、寝てから言う物だ!』
「そんな、だとしたら、私達はセラさんにからかわれている事になります」
『有りえない? この世の中に有りえない事など無い! 全ての現象には必ず理由が存在する!!』
「セラさんの掌の上で遊ばれているみたいですねぇ」
『人を弄ぶのは、こうやるんだぜ、勉強したな坊や!』
「「「起きているんでしょう!!(ですね!!)」」」
「おおぉう!?」
やはりセラは起きていた。
その上で眠った振りをして、この三人をからかっていたのだ。
実に良い性格をしている。
「何してんのよアンタは!! 起きているなら声を掛ければいいじゃない!!」
「楽しんでいたのですね? 私達を弄んで楽しんでいたのですね?」
「酷いです! セラさん!」
凄い剣幕で詰め寄る三人。
人の寝言を聞いて楽しんでいた自分達を棚に上げて、猛然と抗議してくる。
彼女たちもかなり、いい性格をしている様だ。
「人の寝床に無断で侵入してきて、それを言うの?」
「「「うっ!?」」」
『中々、騒がしい目覚めじゃのう。楽しい事は良いことじゃ』
「一応声をかけたわよ! 起きているのなら声をかけても良いでしょ・・・て、だれ!?」
「【聖魔竜ヴェルグガゼル】のヴェルさんさんですよ? フィオちゃん以外は初めましてかな?」
『うむ、宜しくのう。こうして話す事の出来る日がこようとは、感慨深いものが在るのう』
「「「【聖魔竜ヴェルグガゼル】!?」」」
驚愕する三人に取り敢えず説明をする。
とはいえ、【神】の存在やら元の世界の話をする訳には行かず、取り敢えず倒した【ヴェルグガゼル】の素材で武具を作ったら、何故かこうなってしまった。
【ヴェルグガゼル】の存在に気が付いたのは、昨夜の事だと無難な線で誤魔化す。
三人とも首を捻りながらも、一応は納得した様であった。
「何と云うか・・・呆れたわ、【アムナグア】を超える魔獣と一騎打ちなんて、常軌を逸して狂ってるわよ、ホントに・・・・」
「・・・その、ヴェルさんは宜しいのですか? ・・・死んでしまっているのですよね?」
『弱肉強食は自然の摂理よ、たとえ敗れたとしても全力で戦い力が及ばなかったのだ、それは受け止めざるを得まい? 既に終わった事なのだからのう』
「でも、どうして話が通じるのかな判りません。ヴェルさん、どうしてですか?」
フィオの素直な疑問に、ミシェルやファイも今更ながらに気付く。
そもそも、【ヴェルグガゼル】は、肉体を持っていないのである。
だとするならば、どうやって意思の疎通をしているのかは、疑問に上がるのは当然である。
それに答えたのは、セラであった。
「多分だけど、魔力で空気を振動させて頭蓋骨にその振動が到達したときに、聴覚が言葉として認識するんだよ。声はそもそも空気の振動だからね、骨伝導と云われる技術だよ」
『然りじゃ、このような方法が在るとはついぞ知らなかった、もう少し早くに知り得ていたらのう』
「それは無理なんじゃないかなぁ」
『確かにのう・・・たとえ方法を知り得たとしても、言葉が判らなければ意味の無い事じゃし。しかしのう、知ってしまうと悔やまれるものなのじゃ・・・』
ヴェルさんの言い分も尤もだ。
もし仮にこの技術に気付いていたなら、多少時間が掛かろうとも意思の疎通は出来るように為ったかもしれない。そうなれば【神】とも契約をせずに済み、このような不便な状況に為らずに済んだのだ。
しかしながら皮肉な事に、この技術を知り得たのは【神】との契約による副産物なのだ。
ヴェルさんが落ち込むのも無理は無かった。
こんな簡単な事に気付かなかったのだから。
「ところで皆さんはどうして此処に? 僕に何か御用でも?」
「おっと、そうだったわ! セラ、アンタ何か強力な刃物持ってない?【アムナグア】を解体しようにも鋼殻が固すぎて、今ある刃物じゃ解体不可能なのよ」
「お願いします。皆さん困っていらっしゃる様なので、何か心当たりが御有りでしたら、知恵をお貸しください」
「【アムナグア】の解体かぁ、彼は凄まじい程の強度を持っているからねぇ。いいよ、取り敢えず現場に行ってみてからにしましょう」
「あっ、それじゃセラさん、お弁当を持って行きましょう。夕べから何も食べていないのですから、用意していたんですよぉ」
「ありがとう、フィオちゃん! 愛してるぅぅぅぅっ!!」
「ひゃひぃ!?」
感激してフィオに抱き付き、頬擦りを始めるセラ。
しかし気付いているのだろうか・・・
【瀬良優樹】として、男としての大事なものが今も失われている事に・・・・
フィオの家を出て解体小屋に続く道を行く途中、セラ達はほかの冒険者たちに取り囲まれた。
彼等の眼は、まるで聖人を崇拝するかの容な、尊敬の篭った眼差しをしてた。
誰もが皆、セラの事を【先生】とか【師匠】と呼び、騒がしくて聞き取れないが矢鱈と褒め叩いていた。災害指定魔獣の【アムナグア】と壮絶な死闘を演じ、見事に討ち果たしたのだから最早英雄と言っても過言ではない扱いになってしまったのだ。
これには当の本人も戸惑いを隠せない。
正直、傍迷惑であった。
「先生、良くこの村を守ってくれた! 感謝してるぜぇ!!」
「本当に凄いわぁ、今度一緒に狩りにつれてってください! 先生!!」
「ズリィぞっ!! 先生とは俺達が行くんだ、なぁ、先生!!」
「野郎共より、女同士の方が良いに決まってんでしょ!! ですよね、先生!!」
「ザケンな! 俺達の方が効率的なんだよぉ! 直ぐに面倒を押し付けるお前らじゃ、足手まといだ!!なぁ、そうだろ? 先生!!」
「アンタら、あたし達をそんなふうに思っていたの!! サイテェ~~~!!」
「事実だろうが!!【マジェクサダケ】の時、お前なんて言いやがった!!」
「なによっ、やる気ぃ!!」
「上等だ、コラァ!!」
かなりヒートアップして来ている。
こうなると乱闘に発展しかねない。
少し思案を巡らせ、セラは切り出した。
「はい、はい、喧嘩はそこまで! 今は解体現場の人達の状況が深刻です。早めに解体を済ませないと、折角のお肉が駄目になっちゃいますよ? 食べたいでしょ?【アムナグア】のお肉!」
「ちょっと、セラ!【アムナグア】のお肉って、そんなに美味しいの?」
「ヴェルさんの話では、相当美味らしいですよ? 生でもイケるとか!」
『うむ、あれ程の奴よ、相当な美味は間違いないのう』
「それは、食べてみたいわね・・・」
「ファイ・・・はしたないですよ? でも興味はあります」
「早く行きましょう、セラさん! お肉が傷んじゃいます!!」
少女たちの会話を聞き、村人冒険者達は生唾を飲み込む。
この、最強の冒険者が美味いと言うからには、相当極上の肉に違いない。
だがこのままでは肉が傷んでしまう。
自分達も、一度でいいから極上の肉を味わいたい。
喧嘩状態の彼等は、互いに目配せをし頷く。
プロのサッカー選手すら為し得ない、無言のアイコンタクトで同意した。
「野郎共!! 愚図愚図すんなぁ、解体班が手古摺ってんだ俺達も応援に行くぞぉぉぉぉっ!!」
『『『『『『おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』』』』』』
まだ味わった事も無い未知なる美味を求め、彼等の心は一つに纏まる。
そして、セラ達を担ぎ上げ、怒涛の如く進撃を開始する。
砂塵を巻き上げ、彼等は今まさに味の探究者へと進化したのだ。
世はまさにグルメ時代、未知なる味を求め探究する時代。
彼等は食欲の魔獣にビーストチェンジし、胃袋の本能の赴くままに解体小屋へと突き進んでいった。
「・・・お、お待たせしました・・・・」
「おう、悪いな、折角休んでもらっている所。だが、此奴ばかりは如何し様もねぇんだ」
「あらためて観ると、凄い大きさですよねぇ! 瀕死だったとはいえ、良くも勝てたものです」
セラは改めて見上げる【アムナグア】の大きさに驚嘆する。
戦っている最中は、夢中で攻撃していたのでじっくりと観察できなかったのだ。
そしてこうして見上げているだけで、この【アムナグア】の凄さが伝わってくる。
これ程の力強くも気高い獣と戦えた事を誇りに思う。
「おい、セラ?【アムナグア】瀕死だったのか? 途轍もなく強かったんだが・・・」
「少なくとも、放っておけば今日中に死んでましたよ?」
「何てこった! それじゃ戦わなくても良かったんじゃないか! それなら簡単に素材が手に入ったのに、俺達無駄な事をしたのか・・・・・」
「レイルさん、この魔獣は瀕死でも戦いを挑んできましたよ? それに、獣は手負いの方が手強いんです! それにその一言は、この気高い魔獣を侮辱する事です!! 本気で怒りますよ、僕は・・・」
「悪い・・・まさか本当に死に場所を求めて来たとはな・・・とんでもない魔獣だぜ、こいつは」
レイルはうっかり失言した事を後悔する。
実際の話、この巨大な魔獣と真面に戦えたのは、セラだけであった。
そしてセラはこの魔獣の何かを、戦いながらも感じていたのだろう。
だからこそ、レイルの発言に怒り僅か乍らにも殺意が篭ったのだ。
つまりそれは、最強の冒険者が認める程の気高き魔獣と云う事を意味する。
レイルはそれが羨ましかった。
「レイルさん、もしこの魔獣で装備を作るなら覚悟が必要です。この【アムナグア】に恥じない強者に為らなければ、彼の武具を纏う資格はありません。無様は許されないんですよ!」
「・・・上等だぜ、此奴は本当に気高かった。俺も此奴みたいになりてぇ、その決意の証として【アムナグア】のの装備を作ってやる! 絶対にな!!」
セラは【アムナグア】の躯に手を当て感慨深く見つめる。
熾烈な戦いだった。
脳裏に焼き付いた猛々しくも誇り高い魔獣の姿が、鮮明に思い出せる。
『感謝しよう、我が願いを叶えし小さき龍王よ!!』
不意に【アムナグア】声が脳裏に響く。
あの魔獣は、自分に感謝をして最後まで戦い消えて逝った。
誇り高く、最後まで雄々しく。
自らが望む納得のいく最期を迎えて逝ったのだ。
本当に凄い獣だと思う。
セラの頬を熱い涙が伝う。
悲しい訳じゃ無い、寂しい訳でも無い。
自分でもよくは分からない。
ただ、どうしようもなく涙が止まらないのだ。
セラは瞳を閉じ、【アムナグア】の冥福を祈る。
そして次に為すべき事に、目を向けていた。
【聖魔砲剣ヴェルグガゼル・レジェンド】を構え、凄まじい斬撃を以って【アムナグア】の鋼殻を斬り飛ばす。
周りから驚愕したどよめきが聞こえたが、どうでも良かった。
【アムナグア】との濃厚な時間に比べれば、取るに足らない問題だった。
斬り飛ばした鋼殻を拾い、それをレイルに手渡す。
「セラ?」
「持ってください。それを彼は望んでいますから・・・」
レイルは【アムナグア】の鋼殻を手に取ると、その重みに驚愕した。
「何て重さだ、たったこれだけの大きさなのに、予想よりもさらに重い」
「その重さ忘れないでください。【アムナグア】は命を繋げる為に死んで逝ったのですから」
レイルは掌より少し大きいだけの鋼殻が、ここまで重いとは思わなかった。
そして理解する、【アムナグア】の武具を作り纏うという事は、この気高い魔獣の命を背負う事だという事を。何よりこの重さは【アムナグア】の命の重さという事に。
セラは【無限バック】から十数本の庖丁を取り出す。
どれもが怖ろしく鋭利であり、中には巨大な鉈のようなものまである。
解体専門の職人たちは、それが魔獣専門の解体庖丁だと理解していた。
「イーネさん、これを使ってください」
「・・・いいのかい、セラちゃん? この包丁は凄い物だよ、恐らく最上級の専門庖丁じゃないか」
「構いません、これで解体作業は進むはずです。役に立つなら十分ですよ」
「・・・・・有り難く使わせてもらうわ! 皆良いモノが借りれたわよ、是から解体作業を始める!!」
『『『『『『おおおおおおおおおおおおおっ!!』』』』』』
腕に覚えのある者が、セラから借りた庖丁を手に【アムナグア】を解体し始める。
その鋭い切れ味に、誰もが驚嘆を隠せないでいた。
「すげぇ、何だよこの切れ味!! あれ程手古摺っていた鋼殻が嘘の様にはがせるぞ!!」
「こいつはいい、最高の得物だ!! 遅れた分を取り戻すぞ!!」
「これが【アムナグア】の肉か!! 何て綺麗な肉だ、とんでもなく上質だぞ!!」
「みんな、堅い鋼殻と鱗から重点的に剥ぎ取って!! 後の者達は肉をお願い!!」
解体作業は急速に進んでゆく。
誰もが巨大な魔獣に夢中になり、解体作業を手伝い始める。
いつしか村中の人がこの作業に加わり、作業は想像以上に捗って行く。
もちろんセラ達も作業に加わっていた。
日が落ち、解体作業を一先ず終えた村人達は、早速【アムナグア】の肉を食べてみる。
巨大すぎる故に、売るにしても余りにも量が多いため、多少は良いだろうと許可が下りたのだ。
最初は生で一口、口に入れた瞬間その余にもの美味しさに誰もが涙を流す。
途轍もなく美味だった。
いつしか酒を持ち込み始め、即席の宴会場となり替わる。
誰もがこの気高い魔獣に感謝していた。
この村を死に場所と選んでくれたことに、感謝の念が堪えない。
セラは思う。
これが、気高き魔獣が望んでいたものなのだと。
多くの命を繋ぐために、自らを糧とする事を誇りとした魔獣の供養になる事を。
この喜びに満ちた笑い声が、気高き魔獣の鎮魂歌なのだと。
日数制限なんてするんじゃなかったと今更後悔。
書いてる内に、これどうなんだろうと思い悩み日々
自分の作品なのに、キャラが勝手に動き出し、
段々と作者の手を離れて行く気がします。
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