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 魔獣襲来 ~五日目 気高き魔獣と中の人~

 何か当初考えていた話と、だいぶ路線がずれてきました。


 ここから路線を戻したいと思います。


 大丈夫かなぁ・・・・・

 

 

 何度も警鐘を叩き、甲高い金属音が月夜の空に鳴り響く。

 ロカスの村は今、未曾有の危険が迫ろうとしていた。

 ゆっくりと歩み寄る危機、上位災害指定魔獣(レイド級)【重凱魔獣アムナグア】である。


 この魔獣を確認された時期、異種族同士の繋がりも弱く戦力も乏しかった。

 その為に無理を押して人海戦術を行い、多大な犠牲を出して撃破した歴史が在る。

 この魔獣との戦いの全てを記録し、その屍を見た歴史家は、『重厚にして堅牢、勇ましきその姿は気高き騎士の如し。敬評すべき誇り高き獣騎士』と書き記している。

 歴史の中でも【アムナグア】が姿を見せるのは、数える程度でしか無く、また倒した時には甚大な被害を被っている。

 また、【アムナグア】は知能も高く柔軟な適応能力が在り、状況を見て的確に対応する程の知性と、戦略を練る高度な分析能力も持ち合わせていると言われている。


 その数えるほどしか姿を確認されていない、災害級の魔獣がロカスの村に迫っていた。



「おいおい、まじかよ!? あんな魔獣観た事ないぜ!」

「何でそんなに嬉しそうなのよレイ! あれ、【アムナグア】じゃない!! あたしたちの手に負えるものじゃ無いわよ!!」

「【アムナグア】!! あの上位災害指定級のですか!! まさか、そんな・・・」


 ミシェルが狼狽するのも無理はない。

 この魔獣を倒すには、上位か天聖位(上位冒険者の中の最高位)を数多く集めなくては対応出来ない、この村の冒険者ではとてもでは無いが対処出来ない、最悪の魔獣であるからだ。

 だがそんな時間は彼らには無く、また、ここの戦力で対応しなければ為らないのは、明白な事実であった。

 とてもでは無いが対応する事など不可能に近い。

 絶望的な現実が目の前に迫っていた。


「この村に来て行き成りの大物だな!! どの道、り合わなきゃならなくなるぞ? この村で戦えるのは俺達か、セラぐらいだからな!!」

「無茶ですレイル!! 私達でどうにかなる相手ではありません!! ここは退避するべきです!!」

「この村が襲われれば家が破壊されるぞ! そうなったらこの村の連中はどうするんだ!? 住む場所を失うんだぞ、明日からの生活はどうすんだ!! 路頭に迷えと言う積りか!!」

「それはそうなのですが、相手が悪すぎます!! 私達のランクではどうしようもない相手なのですよ!? 考え無しに戦えば死ぬのは私達です!!」


 ミシェルの言う事には理解できる。

 だが、今は引くに引けない状態だった。

 レイルはこの村を守る手立てを考える。

 結論は直ぐに出た、やる事など一つしかないのだから。


「何も、バカ正直に戦う積りはねぇよ。ただこの村から引き離せばいいだけの事だ」

「無駄よミシェル! レイは言いだしたら聞かないんだから・・・引き離すだけよ、絶対に倒そうなんて考えちゃダメ!! それでいいわね、レイ!!」

「上等だ!! この村を守るぞ!! 【レビテーション】!!」


 飛行魔法を掛けてレイル達は【アムナグア】に向かう。

 この村で戦えるだけの装備を持っているのは、彼等だけである。

 勝てる見込みなど無いが、それでも遣らなければ為らないのだ。

 こうしてロカス村防衛戦の火蓋は切って落とされた。



 かき鳴らされる警鐘の音にベットの上で目を覚ましたフィオは、重い瞼を擦りながら周囲を見渡す。

 どうやらまたセラのベットに潜り込んだようだ。

 その事実を認識したとき、顔が熱くなる。

 危機的状況の差し迫る最中どいうのに、この少女は何処かズレた感性を持っていた。

 先程から響く警鐘の音を、首を傾げながら不思議そうに聞く。

 本来なら真っ先に装備を整え状況把握を行うのが冒険者のするべき事なのだが、眠りから覚めたばかりなのか、それとも元からなのか、フィオはただ鐘の音を聞いているだけであった。


 そんな中セラがいない事に気が付く。

 いや、居た。

 ベットの直ぐ傍の窓に手を当て、外を見ていた。

 外を見詰めながらも、聞き取れない低い声で何かをつぶやいた。


フィオは思わず見惚れてしまう。

 今のセラは月明かりに照らされ、どこか神々しく、そして恐ろしかった。

 フィオの観た事の無いセラは、窓の外を見詰めたまま、どこか哀れむ表情をしている。

 金色に輝く瞳は、どこを見詰めているのであろう。


 不意によぎる違和感。

 それは何なのか、フィオは思考を全力稼働して考える。

 いまだ働かに思考を、無理に叩き起こしそして答えにたどり着く。

 

 ―――――瞳の色が違う!?


 セラの瞳は透き通る様な蒼だった筈、しかし目の前にいるセラの瞳の色は金色だった。

 何より、この様な精巧な人形を思わせる表情はしない。

 明らかに何かが起こっている。


「・・・・・せ、セラさん?・・」


 なぜ声をかけたかは分からない。

 ただ、そうしなければ為らない様な気がしたのだ。

 金色の瞳のセラが静かに振り向く、そこに一切の感情は無い。


『目が覚めたようだな。まぁ、ここまで騒がしければ当然か・・・』


 フィオの頭に響く、厳かで威圧感のある声が語り掛けてくる。


「・・・あなたは・・・あなたは誰ですか?・・・」

『我か? ふむ。さて、我は何者であろう? フィオであったな、其方そなたは自分が何者か分かるか? 我には分からぬ。我はただ存在するのみの者よ』

「わたしは、私です。でも、あなたはセラさんじゃ在りませんよね・・・」

『然り、だがセラでもある。何やら面白き事が起きている様だの、彼奴の口車に乗った甲斐が有ると云うもの、誠に愉快よ』

「???良く分かりません」

『であろうな。なに、気にするでない。此方こちらの事情と云うやつよ』


 どうにもこの声の主は今の状況を楽しんでいる様だ。

 無表情なのだが、響いて来る声が弾んでいる。

 良くは分からないが、悪い存在では無いようでフィオは胸を撫で下ろす。


「ところで、セラさんは如何どうなってしまったんですか?」

『まだ眠っておる。この数日、汝等を見ながら色々と学んでおったのでな、少しではあるが其方の事を知っておる。いつも寝床に入り込んでおる事ものう』

「ひゃう、言わないでください!? それよりもセラさんは起こさなくていいのですか? 勝手に体を動かしているのですよね?」

『否、セラと我は一つの躰を共有しているようでな、この体は我のモノでも有る様だ。まぁ、起こさねば為らぬであろうが』


 そういいながら窓の外に目を向ける。

 いまだ警鐘はならされ続け、荷物を纏め逃げ出す人もいた。

 この警鐘の意味をフィオは知っている。

 魔獣警報だという事を。


「魔獣が、この村に来るんですか!?」

『もう、直ぐそこにまで来ておるよ。セラの記憶に依れば【アムナグア】と呼ばれる奴らしいのう、既に何名かが交戦しておる様じゃ』

「ここから見えたんですか?」

『否、見える訳無かろう。補助魔法【アウル・アイ・スコープ】とか云う物らしい。夜間遠視の魔法といった所か、なかなか便利だのう』

「それは、便利そうですねぇ・・・じゃなくて、大変です!! 早く、セラさんを起こさないと!!」 

『ふむ、ではそうするとしようかのぉ。はてさて、セラが目覚めたとき我はどうなるのか・・・』 


 声の主の意識が途切れた瞬間、セラは崩れ落ち、その時に後頭部を壁に強打する。

 余りにも乱暴な起こし方であった。


「アイタッ!! なに? 何事? 何で僕こんな所で寝てたの?」

「セラさん!?」

『っつ、コレは参った。痛みも我と共有しておるのか、コレは予想しておらなんだ、誠に面白いのう』

「な、何で? 頭の中に声が聞こえる!? もしかして、滔々おかしくなったのぉ!!」

『別におかしく等なっておらん、落ち着いて我の話を聞け』

「うわあああああん、僕はもう駄目だぁ! とうとう痛い人になったんだぁ!!」

『落ち着かんか、別に気がふれている訳では無いぞ? それ以前に、おぬし元々痛い人であろう』

「中に人に痛い人呼ばわりされたっ!? 酷い! 僕は普通だよぉ!?」

『・・・年端もいかぬ小娘に、『今夜は眠らせない』等と口説いた者が何を言う?』

「冷たいツッコミ!? うぅ、否定できない・・・心当たりが在り過ぎる・・・・」


 つい今しがたまで眠っていたセラは、突然頭に響く声に混乱する。

 そして一連の非常識な出来事から、自分が正気を失ったのではと疑うのも無理はない。

 しかし、その状況でもボケとツッコミは忘れない。

 見上げた芸人根性であった。

 

『ボケ倒してる余裕はないぞ、セラよ? 今現在この村は魔獣の襲撃を受けておる。お主の云う所の【レイド・イベント】とやらが発生しておる。相手は【アムナグア】じゃ、何度も倒しておるであろう?

 さっさと行って、引導を渡してやるがよい』

「【アムナグア】!? 何でいるのさ!! もっと奥地に生息している筈でしょ!?」

『知らぬ、当の本人に聞いてみるが良かろう』

「話せるのぉ!? 魔獣とぉ!?」

『よいから、着替えてさっさと行け! 時間が余り無い!!』

「はいぃぃぃぃっ!!」

「不思議ですねぇ、まだ声が聞こえます」


 謎の声に叱咤され、慌てて着替え始めるセラを横にフィオは呑気な事を呟く。

 見た目の可愛らしさとは違い、意外に肝が太い様である。

 何かに毒されている様な気もするが・・・・・


 ようやく着替えたセラは、【レジェンド級武具装備】【ヴェルグ・レジェンド・シリーズ】を纏い、右手に【聖魔砲剣ヴェルグガゼル・レジェンド】、深紅と漆黒の美しくも禍々しい聖邪兼ね備えた姿で外へと駆け出した。

 外に出てみれば、荷物を慌てて持ち出そうとする者や、どこに避難するかを怒号で話す者達もいる。

 まるで戦場か戦火を逃れようとする難民のような有様である。

 実際にその通りなのではあるが、少なくとも冷静でいる者は余り居ない故に、混乱した状態に陥っていた。


「うわ~酷いなこれは、いつからこの村は戦場になったんだろ」

『つい先ほどであろう、暢気であるな・・・』

「ねえ、こんな時だから一つだけ聞くけど、僕の頭がおかしくなった訳じゃ無いよね?」

『うむ、元から我と汝は一つであった。汝の記憶から知識を学び、ようやくこうして話す事が出来るようになった訳じゃ!長かったのう』

「うん、分かった。それでは、ちょいと行って来ますか」

『軽いのう、まあ良い。彼奴は汝を待っておるぞ、早く向かうが良い』

「色々と、気には為るけど・・・・・では、【レビュート・フェザー】!!」


 魔力で構築された白銀の翼を羽搏かせ、セラは月夜の空へと舞い上がる。

 恐慌状態であった村人達も一瞬言我に返り、言葉を失いその光景に見惚れてしまう。

 聖邪の武具を身に纏い、月夜に舞う天使を・・・・




「でえぃやああああああああああ!!」


 気合と共にレイルは、重量の乗った斬撃を【アムナグア】へと叩き込む。

 だがその一撃も重厚な鋼殻に阻まれ、弾き返される。

 何度攻撃を加えても決して傷つく事は無く、【アムナグア】は前進を続けていた。


「くっそぉっ!! カテェ! 何だこいつの異常な硬さは、何度やっても弾き返しやがる」

「レイ、どいて! 【フレア・ナパーム】!!」


 魔力により生み出された複数の火球が【アムナグア】の背中で炸裂すると、途端に広がりその岩山の様な背部を紅蓮の色に染め上げる。

 凄まじい熱量がレイルの顔を炙るが、レイルは四本の足の隙間を潜り腹部に斬り付ける。

 だが、卸金の様に逆立つ鱗が斬り付ける度に剥がれ、鋭利な刃となってレイルを襲う。


「なにぃ!?」

「【フォース・シールド】!!」


 間一髪の所をミシェルの掛けた防御魔法がレイルを救う。

  

「油断しないでください! 相手は災害指定級の魔獣なのですよ!?」

「助かった、ミシェル! 喰らえ【ボルテック・レイ】!!」

「【フレア・ストーム】!!」


 下からはレイルが、側面からファイがそれぞれに魔法を放つ、猛き獄炎の奔流が【アムナグア】の側面に直撃し、目も眩むほどの光を放つ雷の帯が腹部を焼き払おうと、何度も凄まじい火花を散らしながら荒れ狂う。

 魔法を放ちながらもレイルは腹部の真下から抜け出し、ファイも【トランス・ゲイザー】を弓状に変形させ、魔力の籠った矢を放つ。

 音速をも超える速度で重厚な鋼殻を貫くが、余にもの分厚く堅い装甲の前では、途中で阻まれ完全に貫通させる事が出来ないでいた。


「何なのよ、あの分厚い鋼殻は!! 全然、矢が貫通しないわよ!?」

「・・・流石にコレは狡いですね。武器では傷すら付かず、魔法も余り効果が有りません」

「野郎、涼しい顔してやがる。俺達は眼中に無いってか!」

 

 レイルは悪態を吐く、しかしその認識は間違いだ。

【アムナグア】は来る戦いに備え、出来るだけ力を温存しているだけであった。

 こうして歩いているだけでも、自分の命を削っているのである。

 彼が望んでいるのは、強者の糧となる事なのだから。


 広がる平原を抜け、強者の気配を追って来た時、小型の獣達は攻撃を加えて来た。

 そこから考えるに、この先にはこの者達の巣が在る事を認識する。

 不可思議な者達である。

 元来、獣とは己より強い者とは戦わない。

 中には強い者を集団で襲う者達もいるが、圧倒的な力の差を持つ者とは戦わないのが獣の本能であった。

 しかし、この者達は違う。

 その小ささとは裏腹に、強力な力を身に宿している。

 この者達は己の力の差を分かっていないのか?

 否である。


 力の差を認識しながらも、彼等はそれを承知の上で挑んで来ているのだ。

 己の同胞を守るために、死ぬ事すら恐れずに果敢に攻めてくる。

 攻撃しながらも、我の弱点を調べながら、激しくも狡猾にだ。

 この者達は、戦う意味を知っている。

 生きるために、他者を喰らう命の円環を知っているのだ。


 素晴らしい!!

 弱くとも、何と気高き事か!!

 あの黒い獣とは雲泥の差である。

 湧き上がる歓喜が抑えられない。

 それ故に残念でもある。

 この身が万全であれば、心行くまで相手にしたであろう。

 どちらが滅びたとしても、それが命を繋ぐ行為であれば、たとえ敗れたとしても後悔は無い。

 このような気高き者の糧となれるのであれば、我は喜んで喰われよう。


 だが残念だ。

 我が望むのは、この者達では無い。

 この先にいる絶対強者だ。

 その者に喰われる為に我はいる。

 その為だけにここまで来たのだ・・・・


 いや待て・・・この先にはこの者達の巣が在る。

 そして、絶対強者は其処にいるのだ。

 絶対強者は、この者達の様うな小さき獣ではないのか!?

 だとするならば、我は敗れてもこの者達の糧となれるのではないか!?

 もしこの考えが間違いで無いのであれば、我の死は無駄ではなくなる。

 多くの命を繋ぐ事が出来るのだから。

 我は、自分の満足のいく死を迎える事が出来る。


 素晴らしい!!

 なんと素晴らしき事だ!!

 この死にぞこないの躰で、これほどの誉れに巡り合おうとは。

 歓喜がもう抑えられない!!

 さあ、早く姿を見せてくれ、小さき絶対者よ!!

 この我に、最高の誉れを与えてくれ!! 

 我はここにいる!!


 ―――――――クオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォン!!


 突然の【アムナグア】の咆哮に、レイル達は戸惑う。

 咆哮と共に【アムナグア】の魔力が急激に上昇したのである。

 今まで只、前進し続けていただけであったのに、急激に威圧感が増してゆく。

 それは、ようやくこの魔獣が本気になったことを意味する。

 その濃密な激しい気配を叩きつけられ、レイル達の躰は硬直した。


「何て威圧感だ! まさかこれ程とは思わなかったぜ・・・これが災害指定魔獣の本気かよ・・・」

「・・・無理よ・・・こんなの・・・圧倒的・・・過ぎるわよ・・・」

「・・・・こんな事って・・・これ程の魔獣が・・・どうして森から・・・」


【アムナグア】の放つ濃密な闘争の意思が、レイル達の心を圧し折る。

 彼等は知らない。

 この獣は、己の命を賭けてこの地に来た事を。

 生きるために戦う覚悟を決めるのと、己の全てを賭けるのではその重さが違う。

 この獣は己の役割を果たす事に、文字通りに命を賭けているのだから。



「あれが、【アムナグア】? 何か実物の方が大きいような気がする」

『じゃが、彼奴は死に体だ。彼奴は己の死を望んでいる』

「それって自殺!? 嫌だよ、そんな事で戦うの・・・それに今さら【アムナグア】の装備を作ってもねぇ」

『正確には奴は死にぞこないよ。奴は強者に敗れ、その糧となる事を望んでおる』

「確か【アムナグア】て弱肉強食の摂理に忠実なんだっけ、強者に負ければ喜んで食べられることを望むとか・・・ゲームでもそうだったっけ・・・そう言えば魔獣の肉を生で食べてたような・・・」

『あれは、組み込んだ魔獣の力を利用する為であろう?』


 オンラインゲーム【ミッドガルド・フロンティア】では、魔獣を討伐した後に遣らねば為らない絶対のルールが存在する。それは、倒した魔獣の肉を食べなければ為らないのだ。

 その理由が、プレイヤーの装備する【ガジェット・ロット】にある。

【ガジェット・ロット】は魔獣の牙や爪、角や骨等を金属で強化し、攻撃力を上げて行く。

 だがそれよりも特徴的なのが、【ガジェット・ロット】が魔力貯蔵タンクとしての役割がであった。

 アバターのレベルをどれだけ上げても、各種族によってその最大値は決まっている。

 体力も魔力保有値も決っているために、どうしてもその上限に壁が出来るのだ。


 体力の方は装備の耐久値で補正が可能であるが、魔力は【ガジェット・ロット】に組み込む【ソウル・ジェム】によって変わる。この【ソウル・ジェム】は魔獣の解体で心臓から採取されるらしく、採取できる数も大きさも魔獣によって決っている。

 問題は倒した魔獣の【ソウル・ジェム】を起動させるには、魔獣の血肉を体に入れなければならない。

 つまり魔獣の肉を食事で取り込み、魔獣の力を身に宿すのだ。

 そうする事により魔力値の補正は掛かり、【ガジェット・ロット】に組み込んだ【ソウル・ジェム】の力を引き出すのである。【ソウル・ジェム】を組み込めば組み込むほどに、倒した魔獣の肉を食べなければ為らないのである。

 そしてこのルールは、この世界でも適用されている様なのだ。


「もしかしてこのルール、この世界でも同じなの?」

『それは分からぬが、恐らくはな・・・現に魔獣が強くなるには、自分よりも強い魔獣を喰らわねばならぬしのおぉ』

「魔獣のお肉って、生でも美味しいらしいね?」

『美味じゃぞ? 汝も・・・あぁ、正確には食しておらぬか、一度食してみるも良かろう、幸いにも喰われる事を望んでおる者がおるでな』

「・・・・・何でだろう、【アムナグア】が美味しそうな骨付き肉に見えて来た・・・」

『どの道、奴が死ぬのは間違いない。ならば派手な葬儀をも要して、美味しく頂いてしまうが良い』

「何かやる気が出てきたよ。うっし、ならば美味しく食べてあげましょう!!」


 変な方向でやる気を出したセラは、全速力で飛行し【アムナグア】と対峙する。

 レイド級の最大サイズの魔獣を目にしても臆する事は無く、寧ろ明確な殺意を待ってにらみつける。

【アムナグア】を美味しく食べるため、セラは本気になったのだ。

 だが、気づいているだろうか・・・・

 今のセラは、【アムナグア】を遥かに凌ぐ凶悪なまでの威圧感を放つ、魔獣の王そのものである事に・・・・


 強大な気配が急速に接近してくるのを感じ、【アムナグア】は空を見上げ、そして歓喜する。


 何という威圧感、何という殺意であろうか。

 目の前に現れた小さき絶対者は、明らかに自分を捕食対象として認識している。

 これ程の獣に喰われるのであれば、納得もできる。

 この誉れに与かれるのだ、これ以上の名誉は無い。

 さあ、足掻こうぞ!!

 この命全てを賭けて、この絶対者に己を刻むのだ!!


『我を滅ぼし、我を喰らうが良い!! 小さき絶対者よ!!』


 再び咆哮し、【アムナグア】はセラに向かい闘志を向ける。

 対するセラも、自分の持てる最高の武器、【聖魔砲剣ヴェルグガゼル・レジェンド】を【アムナグア】に翳した。

 ぶつかり合う二つ殺意は、目に見えない奔流となってレイル達に降りかかる。


「・・・まさか・・・ここまでの化け物だったなんて・・・・」

「・・・・セラさん・・・凄まじすぎます・・・何とか離れないと・・・巻き添えに・・」

「・・・くっ・・・俺達はここまでか・・・悔しいが・・・現実を受け止めねぇとな・・・」


 レイル達は離脱を開始する。

 それを見届けたセラは、自分に身体強化魔法【フィジカル・ブーステッド】と斬撃強化魔法【ブッタ・ザッパー】掛ける。セラが得意とする接近戦闘パターンの一つである。


 セラはそのまま天空より強襲し、【アムナグア】の背中に切り掛かる。

 セラ自身の攻撃力に、魔法による強化と【聖魔砲剣ヴェルグガゼル・レジェンド】の攻撃力、さらに加速による重量の載った一撃が、【アムナグア】の絶対的な装甲をモノの見事に切り裂いた。

 引き裂かれた傷口から、大量の鮮血が噴き出す。

 高速で飛び回り、凄まじい斬撃で何度も【アムナグア】を切り刻んで行く。

 重厚な鋼殻が、まるで紙の様に深い亀裂を刻まれていった。

 その度に鮮血が舞い、草原に生える草花を赤く染め上げた。


『!!??』


【アムナグア】は信じられないモノ見て驚愕した。

 黒い獣でさえ容易に傷つける事すら出来なかった自慢の装甲が、たった一撃で引き裂かれたのだ。

 更には傷口は思った以上に深く、容易に塞ぐ事は出来ない。

 生きる者全ての者に備わった本能が、この身を縛り付けようとする。

 久しく忘れていたモノ、恐怖であった。

 黒い獣ですら自分を恐怖で縛る事すら出来なかったというのに、この小さき獣は容易にそれを遣って退ける。何と言う事か、今自分が相手にしている獣が何なのか理解出来てしまった。


『獣の王!!』


 恐怖以上の歓喜がこの身を焼き尽くす。

 自分は何という幸せ者であろうか!!

 この何度も斬り付けられる痛みは、自分に対する最大の敬意と弔いの言葉なのだ。 

 成れば無様は曝せない。

 我は是より、この獣一部となるのだ。

 ここで無様を晒すぐらいならば、あの黒い獣に殺される方がまだマシだ。

 我が全てを持って、我を汝に刻もうぞ!!


【アムナグア】の背部鋼殻に魔力が集中する。

 そして放たれる無数の棘が、セラを追尾し襲い掛かる。


「なぁ!? ちょっ、うわぁ!? この、【フォース・シールド】!!」

『調子に乗り過ぎだセラよ。瀕死とは云え【レイド級】じゃぞ?』

「これが有るのを忘れてた!! けど、まだまだぁ!! 【ボルテック・レイ】」


 レイルの使った雷系攻撃魔法だが、セラのそれは威力が段違いである。

 低空飛行で無数に襲い来る棘をギリギリで交わし、追い続ける棘は魔法で焼き払う。

 だがこの時、セラは【アムナグア】の戦略に乗ってしまっていた。

 棘の攻撃で地上擦れ擦れまで追い込まれ、周囲から襲い来る棘がわずかな時間足止めをする。

 その間、【アムナグア】はその巨体から見合わない素早さで急速接近し、前進をバネにしその巨体を高々と浮かび上がらせた。


「げげっ!? やっばっ!! これって・・・」


 飛び上がった【アムナグア】の腹部の鱗が無数の矢となりセラに降り注ぎ、更には【アムナグア】がその巨体を持って圧し潰そうと迫ってくる。


「【ストーム】!! ついでに緊急離脱ぅ!!」


 風の中級魔法で鱗を弾き飛ばし、何とか離脱を成功させるが【アムナグア】の攻撃はまだ終わらない。

 落下する直前に長い尾を体事捻り、着地と同時にその場で回転をする。

 セラは迫り来る長い尻尾に弾き飛ばされた。


「のひゃあぁ!?」

『油断するからじゃ。まったく、何をやっておるのやら・・・・』

「デカい図体の割に、なんちゅう身軽な・・・結構手強そう」

『それは同感じゃのう』

「けど、まだまだこれからだよ!! いくぞ、僕のお肉!! 美味しく喰われろおおおぉぉぉっ!!」

『意地汚いのう、もう少し品と云う物を持つがよい』


 ・・・・・元気だった。

 普通ならば即死するほどの一撃に耐え、それでもアホな叫びを上げる余裕が在る。

 謎の声は呆れ、セラは少しムッと膨れる。

 

「それにしても強いよ? 彼、本当に瀕死の重傷患者なのぉ?」

『その筈なのじゃが・・・中々どうして、奴は最高の獲物よな。我が戦えぬのが残念じゃ』

「誇り高いとは聞いていたけど・・・彼、凄いよ? ゲームと段違いだよ」

『当然じゃ。これは現実じゃからのう、だからこそ分かるであろう? 奴の気高さが』

「・・・うん、これは本気にならないと失礼だよね」

『その通りじゃ。敬意を持って応えてやると良い』

「うん、ここからが本番だよ。もう死にぞこないなんて思わない! 【ヴェルグガゼル】とり合う積りで行かせてもらう!!」

『ふふふ、奴にとっては最高のはなむけじゃな』

「では改めて、いくぞぉおおおぉぉぉぉぉっ!!」


 威圧感が突然膨れ上がるのを感じ、【アムナグア】は歓喜に身を震わせていた。

 これまで捕食対象としか見ていなかった小さき絶対者が、自分を強敵と見做したのだ。

 それは【アムナグア】の思いを受け取ったことに他ならない。

 こんな嬉しい思いは、一度足りとて味わった事など無かった。

 この小さき絶対者に、己を刻み込めた事が何よりも嬉しかった。

【アムナグア】は咆哮を上げる。

 己の誇りに応えた、小さき絶対者に感謝と敬意を込めて・・・ 



 戦線を離脱したレイル達は距離を置き、セラと【アムナグア】の戦いの様子を備に観測していた。

 その余にも激しい戦いに、三人は言葉を失う。

 セラの放つ攻撃魔法は手傷を負わせるが決定打にはならず、【アムナグア】の右足から繰り出された地属性攻撃魔法は、セラの放つ同系統魔法にて相殺される。

 セラ特有の小回りの器用さと機動力は、【アムナグア】の【ホーミング・ニードル】によって殺され、【アムナグア】の鉄壁の防御力は、セラの【聖魔砲剣】によって無力化される。

 凄まじい一進一退の攻防が繰り広げられていた。


「・・・・・すげぇ、スゲェ戦いだ!! セラの奴【アムナグア】と互角に渡り合っているぞ!?」

「互角ではありません。セラさんの方が徐々に押してきています・・・これは勝てるかも知れません」

「・・・化け物とは思っていたけど・・・セラの方が魔獣じゃない。【アムナグア】が可愛そうに思えてくるわ・・・」

「奴はその意見を侮辱だと思うだろうな・・・」

「・・・何でそう思うのよ・・・・」

「奴は明らかにセラを狙っている、まるで戦うためにここまで来たみたいじゃねぇか?」

「【アムナグア】は誇り高い魔獣と聞いています。それに生息している場所もかなり深い場所とも、それを考えると何か異変が在ったのかも知れません」

「何らかの理由で森を追われ、死に場所を求めてここまで来たと? それなら納得がいくな」

「魔獣にそんな知性が在るのかしら? どちらにしても、ここで倒さなきゃいけないんだけど…」

「まぁな、しかし悔しぜ、もっと強くなりてぇなぁ! そしたら奴と戦えるのによぉ」

「そう思うのは、レイだけよ! あたしは嫌!! 絶対に嫌!!」

「同感です」


 三人の出した意見は当たっていた。

 黒い魔獣と戦い相打ちとなり、瀕死の体を引き摺りながらもここまで戦いに来たのだ。

 この誇り高い魔獣の名は、セラだけで無くこの三人の冒険者にも刻まれたのである。



「あはははははははははは!! 強い! 強いなぁ【アムナグア】!! 凄い手応えだ、こんなの初めてだ!! もっと見せろ、お前の全てを俺に見せてくれ!!」

『ふふふふふふふ、目覚めたか! そうじゃ、それこそが汝の本性よ! 猛狂いし獣、強者を喰らいし者よ!! ふふふふふ』


 セラの口調は荒々しい物へと変わり、その攻撃も次第に苛烈なモノへとなってゆく。

 謎の声はまるで愛おしむ様に笑い、セラの目覚めを喜ぶ。


 今のセラは普段の少女然としたモノでは無く、荒ぶる破壊者の様である。

 どんなに普段が穏やかでも、例え性別が変わっても、内に在る男としての本能は変わる事では無い。

 目覚めた気性は本能と交わり、凶悪な獣へと変り果てる。

 もう誰も止める事などできない。

 猛り狂う獣は、既に目覚めたのだから。


 目覚めた後のセラの攻撃は、今までの様な戦略を練る様なものでなく、荒々しい原始的な様相を見せて来た。高速で【アムナグア】に接近し、常軌を逸した斬撃を叩き込む。

 更には離脱と同時に攻撃魔法を放つことも忘れない。

 防御を捨て去り、ただ目の前の強者を葬る為の魔獣と化す。

 次第に劣勢を強いられ来た【アムナグア】であったが、焦りの色は無くただ驚愕と歓喜に満ち溢れていた。


 ああ、何という充実した時であろうか。

 これ程の濃密な時間は、今までに在ったであろうか。

 我が意を受け止め、我が意に応えたこの小さき絶対強者に、何度感謝しても足りない。

 この至福の時間がいつまでも続けば良いと思うのは、我の我が儘であろうか?

 このような不遜な事を願うのは、許されるべき事であろうか?

 だが願わずにはいられない。

 我は最高の強者に認められたのだから。

 それ故に無様な姿を見せる訳にはゆかぬ。

 この命が尽きるまで、最後の時まで戦い続けよう。

 それこそが、我に出来る最高の感謝を示す行為なのだ。

 地に伏せる事など死んでからでも出来る。

 この意思が消えるまで、我は戦い続けようぞ。


【アムナグア】はその全てを持って、セラに挑みかかる。

 草原を岩場に変え、その岩を長い尾で弾き飛ばし、追尾する棘と鱗でセラを迎え撃つ。

 その全ての攻撃をかわし、時には受けて止め、痛烈な攻撃を持って返してくる。

 いったい、どれほどの時間が経過したであろうか、いつしか日は昇り始め辺りに日差しが照らしてくる。

 

 セラは無言で【アムナグア】を見詰めていた。

 最初の様な馬鹿げた嘲笑は最早ない。

 長時間瀕死の体を引き摺り、それでも戦い続ける気高い獣に、畏敬の念を感じていた。

 傷つきながらも倒れずにいるこの獣こそ、最高の獲物であり、また強敵であった。

 この強敵を倒すには如何すれば良いのか、答えは決まっていた。


「アレを使うしかないか・・・」


 ポツリと呟く一言の中に、その全てが詰まっていた。

 セラは覚悟を決める。

 今こそ最後の切り札を使う時なのだと。

 最後の切り札【ディストラクション・バースト】を。


 だがその時異変が起きる。

 突如【アムナグア】が崩れ落ちたのだ。

 何度か立ち上がろうととするも、力が入らないのか直ぐに跪く。

 怪訝な表情を見せながらも、セラはその理由に気が付いた。

 寿命が尽き掛けているのだと。


「許せないな。ここまで俺を本気にさせながら、勝ち逃げをするつもりか」


 セラの表情が険しいモノとなる。

 氷の様な凍て付いた声色で呟くと、距離を置きながらも地上に舞い降り【聖魔砲剣ヴェルグガゼル・レジェンド】の撃鉄を引いた。

 凄まじいばかりの魔力の奔流が、広い草原に嵐のように吹き荒ぶ。


「こんなものじゃ無いだろ、お前の強さは? 俺をここまで昂ぶらせておいて、ハイ、さよならなんて許すものか。今度はお前が俺の要求を聞け! 【アムナグア】!!」


 セラは【聖魔砲剣】を天に翳し、【アムナグア】金色の瞳で睨みつけながらその時を待った。



 突如崩れ落ちた【アムナグア】は混乱していた。


 ―――――何故だ!? 何故今になって体の自由が利かなくなったのだ!?


 何度立ち上ろうにも、直ぐに力尽き崩れ落ちる。


 ―――――まさか、自分の命が尽きかけているのか!?



 その事実に気付いた時愕然となる。

 今目の前には自らが挑んだ強者がいるというのに、自分が先に死に逝こうとしているのだ。


 ―――――駄目だ!! そんな事は許されん!!

 ―――――これは、我が望み挑んだ戦いだ!!

 ―――――その我が、このまま死に逝くなど許されん!!

 ―――――直ぐそこに、気高き強者が我を待っているのだ!!

 ―――――頼む、あと少しでよい、我が躰よ持ち直してくれ!! 頼む!!


 その願いも虚しく次第に力が抜けてゆく。

 次第に思考も鈍り始め、意識が闇へと沈み始めていった。


 ―――――情けない。

 ―――――何と無様な事だ。

 ―――――あの強者が我を待っているというのに、このていたらく。

 ―――――あの者は、我の願いに応えてくれたのに、我自身がこのざまか・・・

 ―――――無念だ、これではあの強者に顔向けが出来ぬ・・・・

 

 次第に意識が消えてゆき、いつしか目の前が闇へと染まる。

 もうすぐ死ぬのだというのに、消えゆく意識の中には無念の思いしか残らない。

 やがてその思いすら消えようとした時、声が聞こえた。


『許せないな。俺をここまで本気にさせながら、勝ち逃げをする気か』

      

 消えゆく意識の中に僅かながらの光が見えた。

 そして次第に体の感覚が戻ってくる。

 凄まじいばかりの力の奔流が渦を巻いて吹き荒ぶ、怖ろしいまでの力であった。


 ―――――我を跡形も無く消し去るつもりか?

 ―――――それも止む終えまい、我自身がこのざまでわな・・・・・

 ―――――強者よ、すまぬ・・・無様な我は消滅されても文句は言えぬ・・・すまない・・・


 だが強大な力は一向に振るわれる事は無く、静かな時間が流れる。

【アムナグア】は不思議であった、何故自分を消滅させないかが。

 自分を滅ぼす価値が無いという事だろうか。

 だが再び声が聞こえた。


『こんなものじゃ無いだろ、お前の強さは? ここまで俺を昂ぶらせておいて、ハイ、さよならなんて許すものか。今度はお前が俺の要求を聞け! 【アムナグア】!!』


 その瞬間意識は完全に覚醒する。

【アムナグア】は無理やり体を動かし、強引に立ち上がる。

 傷口から止めどなく流れる血液すら意に返さず、力強く猛々しく咆哮を上げる。

 その気高き魔獣の双眸からは、涙が溢れてくる。

 これ以上の無い歓喜の涙であった。


 ―――――待っていてくれたのか、我を!

 ―――――この無様を晒した我を!!

 ―――――ならば答えよう、我の命を懸けた最後の力で貴女に報いよう!!


【アムナグア】は命の全てを燃やし尽くすかのように、途方もない魔力を口に蓄え始める。

 二つの荒ぶる魔力の奔流は、周囲の物を薙ぎ倒し、大地を抉り岩をも吹き飛ばす。

 それはもう、嵐などという可愛げのある物では無く、全てを滅ぼす凶悪な何かであった。


「さらばだ、誇り高き魔獣【アムナグア】よ!!」

『感謝しよう、我が願いを叶えし小さき龍王よ!!』


【ディストラクション・バースト】と【エアバースト・ブレス】が正面からぶつかり合う。

 激しい破壊の力がセラと【アムナグア】を吹き飛ばし、それでも足りぬとばかりに強大な光を放ち、爆発する。その衝撃波は離れた村にも、少なからず被害を及ぼした。


 強烈な力のぶつかり合いが過ぎ去ったあと、そこに在るのは荒廃した剥き出しの大地だけだった。

 力尽きた【アムナグア】は大地に横たわり、その衝撃の凄まじさを物語る。

 圧倒的な力と力のぶつかり合いが、ここまでの被害を及ぼすなど誰が想像できようか。

 爆発の瞬間に地面に伏したレイル達は、あまりの光景に絶句している。

 強大な力を持つ魔獣と、それを滅ぼす事の出来る冒険者の戦いが、まさかここまで被害を大きくするなどと夢にも思わないだろう。

 だがそれを知る事は、良い収穫だど言える。

 力を持つ者は、その力に責任を持たねばならない。

 月並みな表現だが、間違っていないのもまた事実なのだから。


「・・・・・これが伝説の、ラグナロクと云うやつか?」

「・・・・違うけど、違わないわね・・・こんなの馬鹿げているわ・・・」

「・・・・・セラさんは大丈夫なのでしょうか? 衝撃に吹き飛ばされていたみたいですけれど」

「「・・・・・・・・あ!?」」

「二人とも忘れていたのですか? それは余にも酷いです!」

「いや、多分、生きているだろ!? 仮にも【レジェンド級】の装備なんだし」

「正直言って、セラが死ぬなんて事在るのかしら?」

「二人共、何て云う事を言うんですか!! どんなに強くとも女の子なん・・で・・い、いました!?」

「「どこに!?」」


 ミシェルが指を指した所には茂みが辛うじて残っており、セラは其処に頭から突っ込んでいた。

 三人が慌てて茂みから足を掴み引き摺り出すと、セラは目を回して気絶していたのであった。


「セラの奴、どんだけお笑い根性が身に染みてんだよ・・・」

「かなりベタよね・・・・本気でウケを狙っているみたい・・・・」

「・・・・・セラさん、別の意味で可哀想な人ですよね・・・・」


 気絶しているセラには、三人が不憫な人を見る様な目で見ていた事に、知る由も無かった。

 こうしてロカス村を襲った災いは、何とか終息を迎えたのである。

 取り敢えず三人は、セラをレイルが担いで村へと帰還するのであった。




 黒き獣は、逃した獲物を追い森を抜け草原へと姿を現す。

 自分にて傷を負わせ、退けた【アムナグア】の息の根を止める為であった。

 気配を辿り、次第に近づいているのが判る。

 だが突然、自分の体の自由が利かなくなる。

 黒き獣は訝しげに、己の躰を調べる。

 傷を負っている訳でも何でも無い、ただ体が動かないのだ。

 そして己の体が震えている事に気付いた。


 ――――――何故だ、何故我は震えている。

 

 その答えは直ぐに分かった。

 この平原の先に、巨大な闘志を持つ獣が存在する。

 一つは自分を追い込んだ四足の獣のモノ、更にもう一つそれを遥かに上回る獣が存在した。

 二頭の獣が戦っているのだと直ぐに分かる。


 ―――――我が獲物を横取りする気か?


 この獣にとって、獲物とはただの遊び道具であった。

 生きているモノを嬲り殺すのは実に面白いのだ。

 逃した獲物は、実に楽しかった。

 自分にて傷を負わせただけでなく、相打ちに持っていかれたのだ。

 この事は黒い獣にとって実に不名誉な事である、今まで殺してきた獣とは違い、明らかに自分に逆らってきたのだ。しかも殺す事が出来ずに、引き下がる事しか出来なかった。

 今度こそ殺すと勇んで来てみれば、獲物は別の獣と戦っている。

 許される事では無い。


 ―――――この獣も我が殺してやろう。


 凶悪な獣の残虐性が垣間見える。

 だが体は一向に動こうとしない、それが不可思議であった。

 標的では無い、別の獣の気配が一層強まる。

 この時初めて気づいた。

 自分が怯えている事に、この先に行けば蹂躙されるのが自分であるという事に。

 今まで殺してきた獣と同じように、今度は自分が怯えている事実に愕然とした。

 有りえないと否定しようにも、体は一層震えが激しくなる。

 間違いなくこの強大な気配を持つ獣に自分は怯えているのだ。

 この時黒い獣は初めて恐怖と云う物を知った。

 殺してきた獲物と同じように、自分も獲物になりかねない事実を知った。


 ―――――怖ろしい・・・・こんな獣がいるのか。


 だが獲物としていた獣の気配も強まる。

 信じられなかった。

 これ程の気配を放つ獣の前に、何故闘志を剥き出しに出来るのかが判らない。

 自分はここから一歩足りとて動けないのにだ。

 追い続けた獣の強さは分かっている。

 とてもでは無いが、この強大な獣に太刀打ちできるような強さでは無い。

 だが奴は戦っている。

 こんな外れの方まで気配を漂わせるような奴と、直接会いまみえていると思うと震えが止まらなくなる。この場にいるだけでも逃げ出したくなると言うのに。


 やがて気配の一つが弱くなってきた。

 恐らく負けたのだと想像はついた。

 勝てる筈が無いのだ、こんな化け物とは。

 だが巨大な獣の気配が消えない。

 まさかこちらの気配を感知しているのではないかと、疑いたくなる。

 もしそうならば逃げなくてはならない。

 このままでは、自分が喰われてしまうからだ。

 逃げなければ、そう思った時、強大な力の波動を感知した。

 今まで、どこに行ってもこれ程の力を感じた事は無かった。

 そして奴の力も突然膨れ上がる。

 二つの力はぶつかり、途轍もない力となって広がってゆく。

 

 ―――――何が・・・起こったのだ・・・


 強大な力が消えた時、最後に残っていたのは、強大な気配であった。

 恐らく奴は最後まで抗ったのであろう。

 自分の時と同じように。

 そして敗れたのだ。


 黒い魔獣は怖ろしかった。

 強大な気配を持つ獣では無く、それに戦い続けた獣が・・・・

 黒い獣は踵を返し、森の中へと消えていった。


 何者もいなくなった平原に、ただ風が一陣吹き抜けていた。 

  


 寿です・・・

 路線を戻すために、伏線回収に勤しんでいます。

 なのに、なぜか伏線ばかりが増えるとです・・・

 一体どぎゃんしたらよかとですか・・

 寿です・・・

 寿です・・・

 寿です・・・


 もう少し計画性を持てと言われれば、返す言葉もありません。

 思い付きでこうしたら面白くなるんじゃね?

 何て、ハイに為りながら書いているのが、拙いのでしょうか・・・

 あぁ、ジョブさんになりたい。

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