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 採取に行こう2 ~森の異変と獣の矜持~ 

 何か随分と長い話になってしまいました。


 途中で読み飽きたら、ごめんなさい。


 正直こんなになるとは夢にも思いませんでした。

 

「セラ!ちょっといいか?」


 鍛冶場へと続く農道をフィオとセラは散策している最中に、ボイルに呼び止められた。

 どこか真剣な表情で近づいて来るところから、真面目な話なのであろう。

 気を引き締めて、呼び返す。


「ボイルさん? どうしたんですか、何か厄介事でも起きましたか?」

「厄介事というか、頼み事だな」

「頼み事ですか? 僕に出来る事ならいいんですけど」

「セラだけで無く、レイル達にも頼みてぇんだよ」

「う~~ん、僕達に用がある、となると・・・・・この村の冒険者達のアドバイザーになってくれとか? そんな所ですかねぇ」

「良く分かったな、それとこの村専属の冒険者になってほしいんだが」


 セラにとってこの村の現状を見れば、何を求めているかは一目瞭然であった。

 オンラインゲーム【ミッドガルド・フロンティア】において、セラの協力した村はたちどころに街へと発展したのだから。

 その中に【アドバイザー】なる職業を一時的に拝命して、未熟な冒険者の育成や各職業能力の向上を促した経験がある。この【アドバイザー】は専属冒険者として任意の村や町に一時的に固定され、どこの街で依頼を受けても、資金の何割かは登録された村や町などに送られる。

 更には各職業発展の【スキル・スクロール】(製作レシピみたいなもの)を手に入れ、それを職人の所に持ち込むことで農業や産業などの生産職を強化させることにより、村の収入を大幅に上げる事が可能であった。


 この【スキル・スクロール】は一度手に入れると、錬金術師の【マジック・スクロール】製作スキルで作り出す事が出来るため、中盤で結構な数を作り売り捌いて装備品の資金にしていた。

 因みに今も大量に所持しているため、いくらでも人にあげても構わない。

 物にもよるが、売値はそれなりなのだ。


 だが、今いる世界は現実であり、決してゲームの様には行かないと思っている。

 試してみる価値はあるのだが。

 セラの脳裏に、好奇心が湧き上がる。

 彼らに【スキル・スクロール】を渡したらどうなるのだろうか?

 幸いにも【スキル・スクロール】は全て持っているうえに、無ければ作ればいい。

 セラの中の黒い悪魔が、不気味な笑みを浮かべた。


「専属冒険者になるのは、少し考えさせて下さい」

「・・・・そうか。まぁ、行き成りだったからな、時間も必要か・・」


 明らかに落胆したボイルに、苦笑いするしかなかった。

 しかしここからがセラの本番である。


「そんなにガッカリしないでください、少し時間が欲しいだけですから。そのお詫びと言っては何ですが、面白いものが有りますよ?」

「・・・・・面白いものだと?」


 怪訝そうな表情を浮かべるボイルに、セラは笑うのを抑えるのに苦労した。

 セラにとって、これは悪戯の類のモノである。

 ボイルは気付かないであろう、今セラに尻尾が有るなら思いっ切り振り回している事に。


「この村の生産職は確か、【家具職人】【食品加工業】【絹産業】でしたよね?」

「ああっ、そうだがそれが如何したんだ?」

「彼らに、これを渡してください」

「なんだこれ、【スクロール】じゃねぇか。魔法を覚えさせてどうしろってんだ?」

「それは【マジック・スクロール】では在りません。レシピですよ?」

「レシピだと? 見ても大丈夫なのか?」

「どうぞ」


 ボイルが慎重になるのも無理はない。

【マジック・スクロール】は使用すると消えてしまう性質を持っているのだから、しかし【スキル・スクロール】は違う、使用しても無くならずそのまま残るのである。

 その為ゲームでは【スキル・スクロール】を狙ってPKをする者が後を絶たなかった。

 これを防ぐために【無限バック】などの防犯アイテムが作られた経緯がある。

 鼬ごっこはまだ続くであろう。


「こ、こいつは・・・・」

「どうです? おもしろいモノでしょ? 後コレは【ヘベス獣液】の製作レシピです。解体小屋の人達に渡してください、きっとお役に立ちますよ?」

「・・・・・いいのか? こいつを売れば其れなりの値打ちが付くもんだぞ?」

「かまいませんよ? お世話になっている事ですし、腐るほど有りますから」


 あらためて、ボイルはセラの底しれなさを思い知る事になった。

 だがセラからもたらされたモノは、この村に益になるものである。

 感謝こそすれ、恐れるなどもってのほかである。


「・・・・有り難く使わせてもらうぜぇ、しかしよくもまぁこんなモノ、ホイホイ人にやれるなぁ」

「もう、必要のないモノですからねぇ、有効に使ってもらった方がおとくでしょ?」

「さっそく、作業場に届けてくるぜぇ! ちくしょう! 楽しくなってきやがった!!」


 嬉々として走り出すボイルの背中を見送り、セラは楽しそうにつぶやく。


「さてさて、どうなります事やら・・・」

「セラさん、凄く悪い顔をしていますよ?」

「そう? 本当に? それは危ないなぁ」


 とぼけながらも二人は、鍛冶場へと再び歩いて行った。



 広大な森の中でそれは起こっていた。

 森の木々はなぎ倒され、辺りには魔獣達の屍が無造作に転がっている。

 大の大人が三人がかりで手を繋いでやっと、その太さを測れるような巨大な大木が、音を立てて倒れて行く。

 動き回るのは二つの巨大な影である。

 ひとつは、巨体を太い四本の足で大地に支え、重厚な鎧に身を包まれた魔獣。

 巨大なイグアナにも似たその姿からは、想像もつかない機敏さで激しく抵抗を続けている。

 重凱魔獣【アムナグア】限りなく【ドラゴン種】に近い魔獣である。

 もう一つの影は、限りなく人型に近かった。

 両腕は長く、足は短いが、その巨体からは繰り出される一撃が、【アムナグア】の重厚な鎧を火花を散らせながら削り取る。

 その堅牢な防御能力に手を焼いているのか、黒い魔獣は苛立たしげに咆哮を上げた。

【アムナグア】も咆哮を上げる。

 まるでこの地が自分のモノだと主張するかのように。

 魔獣達の縄張り争いである。


 この場所は【アムナグア】が縄張りとしていた土地であった。

 しかし突然この黒い魔獣が現れ、【アムナグア】の縄張りを荒らし始めたのである。

 動く者は容赦なく襲い喰らう、戯れで襲い殺す、近くにいただけで無慈悲に殺す。

 全ての生ける者を許さぬような、その殺戮は次第に【アムナグア】にまで近づいてきた。

 そして闘争へと発展する。

【アムナグア】の鎧は黒い魔獣の攻撃を防ぐが、【アムナグア】の攻撃は黒い魔獣にはかすりもしなかった。

 俊敏さがあまりにも違い過ぎたのだ。


 次第に追い込まれてゆく【アムナグア】。

 黒い魔獣は、まるで嘲笑するかのように低い唸り声を上げて【アムナグア】に襲い掛かる。

 だが黒い魔獣の攻撃も、決定打にはならない。

【アムナグア】はカウンターを狙うため、口の中に魔力をためてゆく。

 黒い魔獣は高速で接近し、【アムナグア】の頭部に最高速度と己の重量が乗った最大の攻撃を仕掛けて来た。

 刹那の時、【アムナグア】は至近距離から最大の一撃【エアバースト・ブレス】を撃ち込んだ。

 黒い魔獣は、強力な破壊衝撃に曝され、体中を引き裂かれ鮮血をまき散らしながら吹き飛ばされる。

 幾多の大木をなぎ倒しながら、ようやく静けさが訪れる。

 だが、【アムナグア】は警戒を解かない。

 ゆっくりと、黒い魔獣は立ち上がる。

 そして咆哮。

 まるで歓喜に身を震わせるような、猛々しい咆哮であった。

 黒い魔獣の躰が、金色に輝きだす。

 まるでここからが本番であるかのように。




 フィオは新しい装備を身に着けて、嬉しそうにスキップをしながら村道を進んでゆく。

 彼女の装備は【ヴェイグラプター】と【ヴェイポス】、セラよりもたらされた鉱石と強化アイテムにより作られた、【ヴェイグ・シリーズ改】中級者レベルの冒険者装備である。また、武器も強化され【ヴェイグ・シザー改】へと姿を変えていた。

 新しい装備が余程嬉しいのであろう。

 満面の笑みがこぼれ、完全に浮かれまくっていた。


「フィオちゃん、そんなに浮かれていると危ないよ? それに装備が良くなっても、自分が強くならなきゃ意味が無いんだからね?」

「わかっています、でも少しくらい良いですよね?」

「分かってくれてるなら良いんだけどね・・・まさか徹夜で仕上げるとは思わなかった・・」


 二日前に持ち込んだ素材を、鍛冶師のロックは飲まず食わずで槌を振るい、短時間で装備を完成させていたのだ。普通に考えてもひと月以上はかかるのに、熱くたぎる職人魂は不可能を可能にしてしまった。

 熱い血潮かそれとも単に暇だったのか、おそらくその両方だと思うが、途轍もない速度と集中力でこうも早くに仕上げるとは予想をはるかに超越している。

 鍛冶場に着くと、ロックは可哀想なくらいにやつれていた。

 正直脱帽するしかない。


「でもセラさん? 幾ら何でもあれは酷いですよ」

「あれって? ・・・・ああっ! あれね! ロックさんを回復させるには、良い考えと思ったんだけどねぇ、元気になったでしょ?」

「ロックさん、意味不明の歌を歌いながら、変な踊りを踊って人形を彫っていましたよ?」

「回復したんだからいいんじゃない?」

「セラさんて、ひょっとして、凄く悪い人なんですか?」

「どうなんだろうねぇ、どっちだと思う?」

「・・・悪い人です」

「・・・・・即答なんだ・・・僕悲しい・・」


 やつれたロックにセラがした事、それはジョブにした事を思い出してほしい。

【サイケヒップバッド】を強制的に強引に飲ませ、後はフィオの言った通りである。

 またセラの犠牲者が増えたのであった。


「おっ、いたいた、セラ、ボイルのおっさんが冒険者をあつめてるぜ」


 レイルはセラ達を探していたのだろうか、単刀直入に用件を切り出す。


「ボイルさんが? 思ったよりも早かったですねぇ」

「どういうことだ?」

「先程、ボイルさんに【スキル・スクロール】を渡しましたからね」

「成程、でっ早速と云う訳か、しかしよくそんなもん持っていたな」

「一度知識として覚えてしまえば、【マジック・スクロール】を製作する要領でいくらでも作れますし、売ると良い資金稼ぎになりますよ? もう必要のないモノですけど」

「ホントスゲェな、俺もあやかりたいもんだぜ」

「錬金術は覚えておいて損は無いですよ? 【ポーション】作り放題ですし、余計な資金を賭ける必要も無いですし、何より売れます」

「・・・・・なるほどな、強くなることばかり考えていて、それは思い付かなかった」

「意外に便利なんですよ。装備作るにも資金は必要ですから、【マナ結晶】を【魔晶石】に加工しても売り上げは相当ですよ」

「俺も覚えてみっかな、回復薬はいくらあっても足りない職業だしな・・・それにしても・・・」


 レイルは、自分の前を浮かれて踊っているフィオに目を向ける。

 フィオの装備は駆け出しではなく中級者レベルの冒険者の装備であった。

 よく見てみると、丹念に作りこまれており、職人の技量の高さをを窺わせるほどの秀逸なモノだ。

 今のこの村の現状には、もったいないほどの腕前である。


「フィオ、そいつは新しい装備か?」

「はい、セラさんのおかげで格安で作ってもらったんです」

「良い装備だ、後はそいつに見合うだけの技量を鍛えないとな」

「はい、セラさんやレイルさん達に少しでも近づけるように頑張ります!」

「ははははは、頼もしいな、その意気だ」


 中級者装備を身に着けて、力一杯元気よくやる気に燃えるフィオに、二人の冒険者は温かい眼差しを向けていた。




 村外れの解体小屋に、この村の冒険者全員が集結していた。

 セラ達が到着するのを見計らって、ボイルは早速話を切り出す。


「さて、お前らに集まって貰ったのはほかでもねぇ、ちょいと採取に行って貰いたいモノが出来た」

「おいおい、行き成りだな、なんだ? またどこから依頼でも来たのか?」

「少し違うな、うちの職人連中が新し素材を欲しがっている。こいつがそのリストだ」


 手渡されたリストには、セラの予想通りに素材アイテムの名が書き綴ってある。

 この村の職人たちは、早速動き出し始めたようだ。


「なんだこれ、聞いた事も無い素材も有るみたいだが・・・・」

「そいつはセラが知っている」

「・・・・・あたしも知っているんですけど・・・」

「そいつはスマネェな、ファイだったか、お前さんの知識がどれほどのモンだか、俺達は知らねぇんでな。まぁ、採取の腕前に期待させてもらう」


 剥れるファイをばっさり切り捨て、ボイルは話を続ける。


「少し前に、セラからあるレシピを貰ってな、それを見た職人共がスゲェやる気になりやがって、お前らに素材の調達を頼みたいんだとよ」

「そいつはいいが・・・セラに貰ったって・・・もしかしてあの話・・」

「それはまだ保留中だ。まぁ、レイル達には快く引き受けて貰ったんだがな」

「そいつは頼もしいな、セラが保留中なのは残念だが」

「でもこれで村も少しは良くなるわ! 良くやった! おじさん」


 村の冒険者達はにわかに活気づく。

 今までさんざん苦労してきた彼らが、ようやく報われる好機を手にしたのだ、彼等のテンションも嫌がおうにも上がりまくる。

 

「少しいいですか? 先程【ヘベス獣液】のレシピも渡したのですけど、そちらはどうなってます?」

「今試している、もうすぐ結果が出そうなんだが、アレが出来ればかなりの儲けを出せるだろうな」

「あんたいる!! 成功したわ!! まさか、こんなに簡単に作れるなんて思わなかったわよ!!」

「どうやら完成したみてぇだ」


 行き成り興奮状態で飛び込んできたイーネに、ボイルは不敵な笑みを浮かべる。

 その様子に困惑する冒険者達、彼等には何が起きているのかは分からない。


「【ヘベス獣液】ですか? たしかあれは魔獣の素材を浸すと、その強度を何倍にも引き上げる性質を持つ調合薬だったと記憶していますが?」

「本当に何者よアンタ、何でそんなレシピを持っているのよ」

「まぁ、いいじゃねぇか。これで村の連中の装備も格段に良くなるぞ?」


 レイル達の会話を聞き、村人冒険者達は驚愕する。

 今まで手を出せなかった強力な装備を、彼等は手に入れる事が出来るのだ。

 彼等のテンションはマックス状態に突入し、収集の付かない状態になってゆく。


「本当に面白くなってきたなぁ、さて、これからどうなるのか楽しみだね」

「皆さんの装備も強化されたら、もっと大きい事もできますね」

「その前に実力をつけないと駄目だね、魔法も覚えて、錬金術も使えるのが理想かな」

「さっきも言ってましたね、錬金術は便利だって」

「回復薬を自分で作れるんだよ? 出費も防げるし、素材だけなら格安で買えるし」

「良い事尽くめなんですね」

「もっとも、強力な薬品なんかは成功するのが稀で、失敗することを前提に造らないといけないけどね」

「難しいんですね、調合って」

「作り続けなければ腕は上がらないよ? 何事も経験だよ」

「勉強になります」


 しきりに感心するフィオ。

 この時の二人の会話を村の冒険者達は聞いていた。

 デメリットよりメリットの高い錬金術を覚える事は、彼等にとって目から鱗であった。

 暫くして、この村では錬金術を学ぶ者達が増えるのだが、それはまだ少し先の話である。


 

 魔獣の生息する森の中を、やたらと活気に満ちた騒ぎ声が響く。

 ご存じロカス村冒険者軍団である。

 彼等は魔獣を追い掛け回し、ある者は採取や採掘に精を出している。

 その異常なまでのハイテンション振りにはドン引きモノだが、彼等は確実に仕事を熟していた。


「そっちにいったぞ!! 確実に仕留めろ!!」

「ヒャ~~ハァ!! 誰にモノ言ってんだ、しくじる訳ねぇだろ!!」

「あぁっ!!【ハルナシ草】発見!! ラッキー!!」

「なにやってんだ!! 逃げられるぞ、後にしろ!!」

 

 鹿の様な姿の小型魔獣に、冒険者達は手を焼いていた。

 取り囲もうにも動きが素早くわずかな隙間を縫って逃げられる。

 動きを封じるための【バインド】系統の魔法を彼等は修得していないのだ。

 何とか倒す事の出来た魔獣もいるにはいるが、それでもノルマには到達せず、闇雲に動き逆に翻弄されていたりする。この時点で彼等の力量は知れてくるのだが、中には的確に処理する手練れもいるのだから、一概に未熟者と言う訳にもいかない。


 年齢差がそれぞれであり、的確な腕を持っているのは年配の冒険者だったりする。

 彼等の内情からしても収入も少ないため、【マジック・スクロール】を手に入れる事が出来なかったのも原因の一つでもある。様々な要因が、彼等を低レベルに押し込めていた。

 ある程度の資金が在れば、彼等も中級になれていたかもしれない。


「動きは良いみたいね、どうするレイ? 彼等を手伝う?」

「せっかくヤル気を出してんだ、このままでもいいだろ」

「ですが、苦戦を強いられて要るみたいですけれど・・・」

「あの程度は、魔術なしでも倒せなくちゃ可笑しいだろ」

「連携は良いみたいだけど、後が駄目ね、仲間との間合いをつかみ損ねて包囲網に穴ができてるわ」

「やはり、捕縛系統の魔法が無いと無理が在るのかもしれません」


 レイル達は少し離れ、村人冒険者の動向をつぶさに観察、分析していた。

 観察していて分かったのだが、ロカス村の冒険者達は決して弱くないという事だ。

 ある程度の装備と、魔法を習得していれば、大概の依頼を熟せる実力を持っている。

 聞いた話によれば、悪徳商人に騙され、せっかくの儲けをふいにしていたらしい。

 それが解消されたのも、ここ数日の話で、彼らに装備を整える余裕はまだない。

 そこで村の職人達の要請を受けるついでに、武器や武具に使う素材アイテムの採取も行っていた。


 今のところそれは順調にいっている。

 何故なら、今現在この村には歩くアイテム大辞典セラがいるからである。

 セラは何処どこ如何どういったアイテムが取れるかを熟知していた。

 その為彼等は、アイテムを採取しながらメモを取り、後で仲間たちと情報の共有するのだ。

 更に薬草などの調合アイテムも採取し、セラから貰った調合レシピ(ポーション)を試す積りである。

 薬草を売るよりも、調合した回復薬を売る方が断然資金源になる事を知る。

 彼等は中々に貪欲で逞しかった。



「てえぇやぁ!!」


 可愛らしい気合の入った声で、フィオは魔獣を切り倒す。

 やや斜めにバックステップで背後から来る魔獣の突進を避けて、すれ違いざまに横薙ぎを一閃。

 魔獣は倒れ伏すと、至近距離まで詰めて、そのまま止めの一撃を与える。

 意外と手強いフィオに業を煮やした魔獣は、包囲するように周りを固めてくる。

【フィールド・サーチ】で状況を見ていたフィオが掌に魔力をため。


「皆さん目を瞑って!! 【フラッシュ】!!」


 フィオの周りにいた魔獣達は、一時的に視界を奪われる。

 この好機を冒険者は見逃さない。

 すぐさま攻撃に転じ、魔獣達を殲滅してゆく。

 セラと出会った時に、セラが使っていた戦略である。


「よっしゃ!! いてもうたれやぁ!!」

「すげぇぞフィオっ!! いつの間に、こんなやり方を覚えたんだ!?」

「凄いわフィオちゃん!! 私達もうかうかしてられないわよ!! このままだとすぐに追い抜かれちゃう」

「大したものじゃな! 皆の衆、狩り尽くすぞ!!」

『『『『『『『おおおおおおおおおおおおっ!!』』』』』』』


 予想以上のフィオの働きに、仲間たちが雄叫びを上げた。

 自分達より経験の浅いフィオが、予想以上の成果をあげている事に、彼等のボルテージは上がり捲る。

 この森の魔獣を根こそぎ狩り尽くす勢いであった。



「ああ、そこの木の皮は【魔道紙】に加工できるから剥ぎ取っておいて、そこの茸は【触媒液】の材料だから。この草がお目当ての【フィーズ草】染物の染料の原液になります」

「ふむふむ、なるほどねぇ。私達が知らなかっただけで、森にはこんなにお宝が在ったのねぇ」

「こ、この木の皮・・・むちゃくちゃ・・・・堅いぞっ!・・・剥ぎ取れねぇ・・」

「先に刃物で切れ目を入れると簡単にはがせますよ?」

「マジか!? どれどれ・・・・ほんとだ!! ・・・・俺の苦労は何だったんだよ」

「ばかねぇ、聞いてから剥がせばいいのに・・・」

「うっせぇ!! よっしゃ!! ジャンジャンいくぞぉ!!」

「あいつ・・・テンション高いなぁ」


 セラの指示で、的確かつ効率的に素材は集まってくる。

 知らなかった素材を手に入れる度に、彼等は一喜一憂し、教えられた素材を、村で一番絵心のある者がスケッチしながら記録してゆく。

 この記録が、後々ロカス村を潤す貴重な資料となってゆくのである。


 ある程度の採取を行った後、冒険者達は断崖のそばで昼食を取っていた。

 彼等は、今までの各々の成果を語り、今後に生かすための議論を交わしている。

 アイテムを並べ各人がそれぞれに眺めながら、どこの場所でとれたか、どんな魔獣がいたのかを話し合い、その方針や対策などを議論し効率化を目指す。

 中には鍋などを利用して、早速【ポーション】を作り出す剛の者もいる。

 一度走り出すと、彼等はどこまでも突っ走る様だ。


「それよりフィオ、何でノームの連中に折角の獲物をくれてやったんだ?」

「そうよねぇ、アレは勿体ないと思うんだけど」

「ノームさんに良い事をすると、たまにお礼をくれるんですよ?」

「お礼だぁ? あんな馬鹿な連中は、こき使って何ぼだろ?」

「なんて事言うんですか!? ノームさんがいなければ魔獣をどうやって運ぶんですか!!」

「なんか・・・随分ノームの方を持つわね? 何かあったの?」

「セラさんが、ノームさんの御礼で凄い物を貰ったんですよ」


 セラの名前が出た途端に、彼等の目の色が変わる。

 今の彼等にとって、セラは恩人であり最高の教師であり、畏怖すべき最強の冒険者である。

 そのセラがノームを贔屓にしているのが信じられない。

 きっと何か理由があると踏んだ。


「ノームさんはああ見えて、賢いんです。いつも私達を見て研究しているんですよ?」

「それが信じられないんだがなぁ・・・んで、何を貰ったんだよ」

「【オリハルコン】です」


 フィオの一言が世界を止めた。

 彼等は一瞬、何を聞いたか分からなかった。

 だが、言葉を反芻するごとに、事の重大さを知ってしまう。

 それは、横で聞いていたレイル達も同様であった。


『『『『『『『『オリハルコン!!!?』』』』』』』』


 そう叫びながら一斉にセラに目を向ける。 

 セラは我関せずと言わんばかりに、手にしたサンドイッチをパクついていた。

 しかもどこか幸せそうだ。

 二つ目のサンドイッチを口に運ぼうとした時、セラは全員の視線が一斉にそそがれている事に気付く。


「なっ、何ですか? コレはあげませんよ?」

『『『『『『『『いらねぇよ!!!!』』』』』』』』

「おぉうっ!? 」


 全員の総ツッコミであった。

 それからが大混乱になる。

 各々が勝手に質問を浴びせかけ、セラに詰め寄り、訳の分からない事を口走る。

 彼等の聞きたいことは一つだけなのだが、混乱していてさっぱり分からない。

 気が付けば全員が疲れ果てて、ようやく静かになった。

 取り敢えず全員の代表として、レイルが質問をする。


「なぁ、セラ。フィオから聞いたんだが、ノームから【オリハルコン】を貰ったらしいな」

「貰いましたよ、それが何か?」


 しれっ、と言い放つセラに他の冒険者達は息を飲み込む。

 彼等も【オリハルコン】の事は知っている。

 余りにも有名すぎる【伝説級】素材であり、小指の先ほどの小さなものでも、怖ろしく高額で取引される希少鉱物だからだ。その希少アイテムを、あっさりと手に入れた事に一同は騒然となる。

 まぁ、無理も無いのだが・・・


「随分あっさりと言うんだな・・・【オリハルコン】なんて観た事はあるが手に入れた事なんかないぞ」

「採掘しているとたまに出てきますよ? 【プロト・ガジェット】も」

「さも当然のように言うのね・・・いったい何個【オリハルコン】を持っているのやら・・・」

「そうですねぇ、大小合わせて876個ぐらいでしょうか」

『『『『『『『『876個おぉっ!!』』』』』』』』


 希少鉱物を大量に保有している現実に、一同は驚愕を通り越して最早訳が分からない。

 桁外れなんて言葉が生易しく思える。

 最早常軌を逸していた。


「・・・・・何故そんなに【オリハルコン】をお持ちなのでしょうか? 良かったら聞かせて貰えませんか? 皆さんもそれが知りたいみたいですし・・・・」

「装備に必要な素材を集めるために採掘をしていたら、何故かゴロゴロ出てきちゃって、いつの間にか増えただけなんですけどね。お目当ての物は一つも出て来ないし、とんだ無駄足でしたよ」

「【オリハルコン】を手に入れておきながら、何で無駄足なのよ!! アンタ、おかしいわよ!!」


 ファイの言葉で全員がうなづく。

 売ればかなりの高額になるというのに、まるで道に落ちている石ころの様な言い草である。


「必要なものが手に入らないんですよ? 無駄足意外に何だっていうんですか?」

「そうかも知れないけど・・・ああっ、もう、こんな時なんて言えばいいのよ!!」

「落ち着けファイ、んで、セラは何が欲しかったんだ?」

「【高純度天然ヱリクシル結晶】ですよ、数を揃えるのが大変でしたねぇ」

「なあにぃ!! 存在してたのかよそれ、眉唾モノかと思っていたぞっ!!」


【高純度天然ヱリクシル結晶】を説明する前に、【ヱリクシル結晶】を語らなければなるまい。

【ヱリクシル結晶】とは、瀕死状態の重傷患者すら直すと言われる【霊薬エリクサー】の素材アイテムである。この【ヱリクシル結晶】を生成するためには、数多くの薬効性の高い素材アイテムと、大量の【マナ結晶】や【魔晶石】を必要とする。

 その過程でできる【ヱリクシル溶液】を結晶化させたのが【ヱリクシル結晶】である。

 生成に凄まじく時間がかかり、その上純度も低いため質にばらつきがあり、濃度も安定しないのが現状である。そのため純度が高い物を生成できる錬金術師は、国の重要人物として迎え入れられることが多い。

 その錬金術師でさえ生成できないのが【高純度天然ヱリクシル結晶】である。


 大地の龍脈が活発な場所でしか採掘されず、その希少性は【オリハルコン】以上であった。

 また、用途における多用性も【オリハルコン】並みであり、【オリハルコン】と併用する事で装備の性能を極限にまで上げる事が可能なのである。

 こうして作られた装備が【レジェンド級】と呼ばれている。

 セラが躍起になって探すのも無理は無かった。

 まあ、ゲームでの話なのだが、それはこの世界でも変わりはない。


「【レジェンド級】装備を作る為ならしょうがねぇか。けど、どこで採掘するんだ?」

「【エステリア山脈】火山地帯ですけど・・・あそこは熱いですよ?」

「・・・聞いた話じゃ、あそこは地獄だと言われているが・・・」

「雑魚が初級の【レイド級】並みに強いですし、この面子で行ったら確実に全滅ですね」

「なにか、壮絶な話を聞いているような気がするのは、私の気のせいでしょうか・・・・」

「セラさん凄いです! 最強ですね!!」

「ミシェルは間違ってないわ・・・それとフィオ、セラは規格外を超越しているから余り参考にはならないわよ・・・」


 誰もが言葉に出来なかった。

 とてもではないが常識外れ過ぎて理解できない。

 この『半神族』の少女は、魔獣を超える化け物だという事に、今更ながらに感づき始める。

 そしてその化け物になった理由が、単に全てのアイテムをコンプリートすると云う事実を知れば、彼らは何を思うかは計り知れない。

 に最強とは、ただの非常識の塊なのかもしれない。

 何はともあれ、、昼食を終えた彼等は気合を入れ直し、採取に勤しむのであった。



「ふはははははははははは!! 掘れや!! 掘れやっ!! 掘れやあぁっ!!」

「すげぇぞ!! こんなにも鉱物が採掘出来るとは、こいつは装備を強化するのも夢じゃぁない」

「【ガジェット・ロッド】に剣が付いたものだもんねぇ、あたしたち・・・・」

「いける! いけるぞぉ!! これで俺達も中級者レベルの仲間入りだぁ!!」


 午後になり、採取から採掘に変更した冒険者達は、まるで頭のイカレタ狂人の様にツルハシを振るう。

 セラの指定した岸壁を言われるがままに掘り進んでみれば、彼等が垂涎の鉱物が出るわ出るわ、怖ろしく変質的に岸壁を彫り崩しててゆく。

 彼等はもう、セラの化け物振りがどうでもよくなっていた。

 たとえ化け物でも、自分たちに利益を齎してくれるのならば、例えそれが神や悪魔でもいいのだ。

 目の前にお宝をちらつかされれば、欲に眩んだ人間など簡単に落ちる。

 欲に溺れた愚か者達は、一心不乱にツルハシを振るうのだった。


「ここは中々の鉱床の様ですね、こんなに採掘出来るなんて思わなかったですよ」

「そうなのですが、何故か皆さんが怖くありませんか?」

「皆さんも良い装備が欲しいんですよ、だからその前に素材を集めているんです」

「本当にそうなのでしょうか? 何か目的を見失っているような気が・・・・」


 ミシェルと会話を弾ませながらも、セラは岸壁をじっくりと見据えている。

 どうもさっきから変な気分であった。

 何かが思い出しそうで、それでも思い出せない苛立ちとも違うモヤモヤした感覚。

 周囲を見渡しながも、その奇妙な感覚が消えないでいた。

 丁度そんな時に、採掘を交替した村人冒険者の一人が、周囲警戒のために横を取り過ぎる。

 その時何かがひらめく、過ぎ去る時に見えた岩壁の岩棚に気になる個所を見つけた。


「誰かあの岩棚まで行けますか? 何か凄い気になるんですよ、僕が行ってもいいんですが」

「岩棚ぁ? ああ、あそこか! 結構高いな、何とかいけると思うが」

「レイル、無理しないでください。いくら貴方でも危険です」

「【レビテーション】が使える私達なら何とかいけるわよ? ミシェルも装備が欲しいって言っていたし、お宝ゲットしてきてあげる」


 採掘で汚れた顔のエルフが、良い顔でやる気満々であった。

 彼女はかなりの鉱物や鉱石を手に入れて、ご満悦である。

 どうも次の装備の素材を集めているようで、良い成果が出たのであろう。

 内心セラは『ガテン系のエルフって、どうなんだろう?』等と失礼な事を考えていた。

 実際に、ヘルメットにツルハシを肩に担いで、タオルを首に掛けていたりするのだから、セラにそう思われても仕方が無い。

 見た目はスレンダー美少女なのに、残念な姿である。


「んじゃ、まぁ、行って来るか。【レビテーション】!!」

「お土産期待してて、ミシェル! 【レビテーション】!!」


 二人は十メートルは有るであろう岩棚に、低空飛行魔法で一気に飛び上がる。


「エルフって、肉体労働得意でしたっけ?」

「ファイは兎に角、動く事が好きなんです。冒険者になってからは益々元気になる一方で・・・」

「思いっ切り、自由を満喫してますねぇ」

「正直羨ましいです。私は、どうもそう云う事が苦手ですから」

「人それぞれですよ」


 レイルとファイが岩棚にたどり着くと、早速ツルハシを取り出して目ぼしい所を調査する。

 岩棚の上の岸壁には、よく見ると細い亀裂が在る事を確認する。


「この辺が怪しいな」

「そうね。それに、この亀裂が走っている場所は、掘り崩すには楽そう」

「それじゃ、始めるか、セラがしきりに気にしていた場所だ! きっと何かが在る」

「レイは右からお願い、私は左から崩してみる」

「任せろ」


 レイルとファイはしばらくツルハシを振り続け、亀裂を広げてゆく。

 崩した岩を退かし、その中に銀色に輝く鉱物を発見する。

 最初は銀の塊かと思ったが、どうも違う様だった。

 何故なら、ピッケルで叩いても傷一つ付かないのだ、かなり期待が高まる。


「こっちからも出て来たぞ? 何だろうなこれ、ファイ悪いがセラにそいつを見せて来てくれ」

「わかったわ! それまで掘り進めないでよ? もし凄い物だったら、私も欲しいから!」

「分かった、安心して行ってこい、その代わり何の鉱石だか早く教えてくれ」

「それじゃ、行って来る【レビテーション】!!」


 下に降りて行くファイを苦笑いで見送りながら、レイルは手にした鉱石を見つめた。

 

 岩棚の下では、ファイが高速で降りてくるのを確認した。

 彼女の様子からきっと何かが採掘された事を察する。

 高速で動く物体は慣性が働き、そう簡単には止まる事は出来ない。

 よほど慌てていたのであろうか、ファイはそのままセラ達を通り過ぎてゆく。

 そして走りながらセラの所まで来る。


「・・・ハァ・・・ハァ、これ、見て・・・ハァ、採掘したら・・ハァ・・出て来たわ・・ハァ」

「こんな事で無駄に体力を使わなくても・・・ふむ・・・・」


 手にした鉱石を見て、セラは鑑定を始める。

 見たとこ銀のように見えるが、どうやら違う様である。

 ピッケルで叩きその様子から、有る鉱物を思い出した。

 ニヤ~~リと笑うセラ、悪魔のような笑みだった。


「おめでとうございます、ファイさん! これは【デア・ミスリル】です。【ミスリル】の劣化版で【グラムライト鉱石】より高い強度を持つ金属ですよ」

「やった~~~っ!! 良い物が出たわ、これで装備も充実するぅ!!」

「いい仕事をしましたね、レイルさんはまだ上で採掘ですか?」

「忘れてたわ! じゃ、もう一回行って来るわね!! レ~~~~~イっ! 凄い物だったわよ~~!!」


 両手をぶんぶん振り、彼女はまた岩棚の上へと飛んでいった。


「・・・・・すげぇ、とんでもないモン採掘したぞ・・・」

「・・・私達、飛行魔法持っていないんだけど・・・・・」

「・・・買うか? 丁度そこにセラがいるし・・・・」

『『『『『『『『それだぁ!!』』』』』』』』

 

 全員がセラの元へと殺到する。

 だがセラはと云うと・・・・・・


「飛行魔法の【スクロール】ですか? 有りますけど、一つ200000ゴルダですよ? 払えるのですか? 因みに現金払いですよ、ツケは受け付けません」


 ・・・・・の一点張りである。

 実力主義のセラは、冒険者には厳しのであった。

 彼等は泣く泣く諦めるが、いつかは手に入れてみせると固く誓うのであった。

【デア・ミスリル】は手に入れる事は出来なかったが、彼等は満足そうな顔で森を去るのである。 

 


 傷ついた体を引き摺りながら、【アムナグア】は森を移動していた。

 黒い魔獣に付けられた傷から、大量の血液が流れだす。


 自分の命が長く無い事を自覚していた。

 そして、あの黒い獣も自分を見逃す気は無い事も。

 強者と戦い、そして破れえるのならば納得が出来る。

 自分の力が及ばなかっただけの事だから。

 その時は喜んで勝者の血肉に為ろう。

 彼は常にそう思っていた。

 弱肉強食は自分達獣の摂理であり本能でもある。

 この世に生まれて来た時から、己の躰と魂に刻み込まれた純然たる意志。

 自分は、その本能に従って生きて来た。

 そして力及ばずに朽ちるなら、その時は摂理に従うと決っていた。


 だが、あの黒い獣は違う。

 あれは、戦いを求め、殺りくを繰り返す狂える者だった。

 どうにか手傷を負わせ、退却させることに成功したが、致命的な一撃を受けてしまった。

 黒い獣は傷が癒えれば、自分を探し出すだろう。

 そして、今度こそ自分が敗れ、大地に屍をさらすだろう。

 だが奴は自分を喰らう事はしない。

 奴にとって、戦いこそが全てである。

 奴には、生きる者全てにとって必要な行為を必要としない。

 奴にとって、自分は戦いを楽しむ為の相手なだけで、命を受け入れようとはしないのだ。

 戦い続けてそれが理解出来てしまった。

 屈辱だった。

 奴の存在が、己の弱さが、あんな者を生み出した世界が呪わしい。

 これでは何のために生まれて来たのか、例えここで死んだとしても世界は何も変わらぬのであろう。

 だが、楽しみのために殺されるのは納得できない。


『我は強者の糧となる事を望む!!』


 その意志だけが自分を生かし続ける理由である。

 妄執と呼べる意識の中、足を止める。

 何かが変だ、奴では無い何かの気配を感じる。

 痛む体を無理やり従わせ、世界に意識を向ける。

 気配が在る、奴よりも強大な強者の気配が。

 今自分が震えているのが判る。

 これは恐怖、そして歓喜だ!!

 自分は命をつなげる事が出来る!!

 物言わぬ草木ではない、明確な意思を持つ強者に!!

 朽ち掛けた体に力が滾る!!

 己の全ての力を傷を少しでも塞ぐ為に回す。

 強者の糧となるのであれば、残りの寿命などくれてやる!!

 強者はいる!!

 この気配の先に!!


『我を打ち滅ぼし喰らえ、強者よ!!』 

  

【アムナグア】は歩み始める。

 いつしか彼は森を抜け、小高い丘にある集落が目に入る。

 彼は本能に響いて来る圧倒的な気配に、恐怖を殺し逆らい続ける。

 彼は強き者の気配を追う。


 恐らく眠っているのだろう、気配が弱いだが感じる事出来た。

 間違い無い、強者はここにいる!!


『目覚めよ強者よ、我と戦い滅ぼし我を喰らえ、我が願いを叶えよ!!』


 ―――――クオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!


【アムナグア】の咆哮が響いた。

 ロカス村の櫓に取り付けられた警鐘が鳴り響く。

 継承に叩き起こされた住民が、一斉に外に出る。

 見晴らしの良い場所から見た光景は、今まで観た事の無い魔獣の姿であった。

 たちまち村の住人達は混乱する。

 ロカス村始まって以来の危機的状況だった。


 警鐘が鳴り出す少し前、眠っていたセラは目を覚まし、窓の傍へと近づいて行く。

 窓に手を当て外の光景を見つめる下着姿のセラを、月明かりが幻想的に照らし出す。

 その表情は冷たく、まるで精巧に作られた人形の様であった。

 

『汝は誰ぞ、何故なにゆえ我を呼び覚ます』


 表情を変えず、セラは外に向かい言葉を投げかける。

 そして響く獣の咆哮。


『それが汝の望みか、だが今の我にその願いを叶えられるかは分からぬ』

  

 そう呟くセラの瞳は、澄んだ蒼い瞳では無く、金色に輝く獣の瞳であった。


  

 

 長い話に飽きずに読んでくれた方、感謝です。


 何というか、どこで区切りを着ければ良いかが書いていると判らなくなります。

 まだまだ勉強不足ですね。


 こんな行き当たりばったりな自分ですが、読んでもらえれば感謝です。

 気にいって貰えるのならば、PCに足を向けて眠れません。

 今後どうなるかは、やはり行き当たりばったりです。

 こんな自分ですが、お気に入りに登録をされてくくれた方、励みになります

 できれば感想なども聞きたいのですが、それはお任せします。


 読んでくれて、ありがとうございました。

 

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