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 採取に行こう2 ~4日目 冒険者達の朝~

 今更ですが、前書きとか、後書きと云うのは何を書いたらいいのでしょう?


 人によっては近況報告だったり、物語の進行状況だったりします。


 自分でも何を書いてよいか分かりません。


 誰かアドバイスをください。(; ̄A ̄)

 冒険者の朝は早い。

 採取にしろ魔獣討伐にしろ、己の功績を積み上げるのに時間は早い方が良い。

 彼等の収入は不安定であり、完全出来高制でもある。

 腕が良ければ安定した生活を送る事も可能だが、そうでない者達は落ちぶれる一方なのだ。

 ロカスの村でもそれは変わらず、今日という日を懸命に足掻いていた。

 そんな冒険者たちの朝を少しだけ覗いてみよう。


           

 ――――セラの朝の場合――――


 セラは鏡を向いて、髪をとかしていた。

 この世界に来てはや四日目になる。

 鏡に映る姿は自分であり、自分ではない。

 こうして鏡台の前に座り、髪をとかし化粧を施し、女性物の衣服にそでを通すたびに、時折この姿の方が本当の自分ではないかと思うようになってくる。

 かなり精神的にキテいると自覚できるのが悲しい。

 元の世界に帰れるのに後六日、それまでつのか自身が無い。

 この四日の内に、色々なモノを無くしているのだから・・・・・


「・・・・・そろそろ、ヤバいかもしれない・・・」

「・・・・・何がぁ・・ですかぁ?」

「精神的にきつくなってる・・・・死ぬかもしれない・・・」

「・・・それは大変ですぅ・・・お医者様にぃ行きましょおぉう・・・」

「医者にも治せないかも知れないよ・・・特に僕の問題は・・・・・」

「・・・・そうでぇすかぁ?・・・・・それじゃぁ・・・・爆破してえぇしまいましょおぉう・・・」

「バッ、爆破あぁ!?」


 背後を振り向くと、ベットの上でフィオが眠っていた。

 何やら口元をムニムニと動かしている所を見ると、どうやら寝言らしい。


「・・・・寝言か・・・あぁ~っビックリしたぁ! いったいどんな夢を見ているのやら・・・」

「・・・・・青い猫さん人形の秘密の道具は、物理的にも事象的にもありえません・・・・明らかに世界の法則を逸脱してますぅ~~~っ・・・・んにぃ・・・むに・・」

「国民的アニメを現実的に大批判!!」


 セラの背中に嫌な汗が流れる。

 かなり危険な事を寝言とはいえ口走るフィオに、得体の知れない何かの影を見たような気がした。


「・・・・・ヤバい、凄く拙い事を言ったよ・・フィオちゃん・・・・・」

「・・・・パンの妖精さん・・・・怪人さんを一撃秒殺なんて凄過ぎです・・・弟子にしてください・・えっ? 趣味なんですか? 生活大丈夫なのですか?・・・・・・むにゃぁ・・・」

「名前近いだけで別人だから!! 弟子になっても追いつけないから!!」


 パン違いである。

 とんでもない人に弟子入りしようとしていた。


「・・・・・くぁwせdrftgyふじこIp!?・・・・」

「・・・・・まさか・・・巻き添えくっちゃったの?・・・・・」

「・・・負けません・・・・こうなったら・・・・皆さんの元気を分けてください・・・」

「誰に弟子入りしたのぉ!? フィオちゃぁああぁぁぁん!?」


 夢とは常に不確定かつ不条理なものである。

 フィオの見ている夢がどんなものかは分からないが、次第に混沌としてゆくのは分かる。


「・・・・・見てくださいセラさん・・・・我が軍は圧倒的です・・・・・」

「まさかの僕登場!? それよりどんな立ち位置なの・・・?」

「・・・・・見てください・・・人がゴミのようですよ?・・・・」

「言っちゃいけないセリフを言っちゃった!? まさか僕、独裁者なのぉ!?」

「・・・食べるものが無いなら、お菓子を食べればいいのに・・・・」

「それ死亡フラグ!! 僕ギロチン送りぃっ!?」


 夢とはいえ、さすがに酷い内容になってくる。

 嫌な汗が止まらない。


「・・・あなたは・・・セラさんをギロチンにけた人です!!・・・」

「うわあああああああああん!! やっぱりぃいいいいい!! 酷いよフィオちゃん!!」


 予感的中、自分の処刑宣告を聞き、溢れる涙が止まらない。


「・・・・・さぁ、あなたの罪を数えてください・・・・」

「お願いだから、フィオちゃんも罪を数えてえぇ!! 一緒に懺悔しようよぉ・・・・」

「・・・・・クライマックスです・・・・・」

「・・・・・・僕がクライマックス迎えたんですけど・・・・・」


 拗ねたセラは自分の流した涙でネズミを描いていた。

 しばらく座り込み、十七匹ほど描いたところで腹の虫が騒ぎ立て、空腹には勝てず朝食の準備をするべく、泣きながらキッチンへと向かうのであった。

 



 ―――――フィオの場合―――――


 フィオは朝が弱い。

 ベットの上で身を起こすも、しばらくの間意識が朦朧もうろうとしている。

 寝ぼけ眼をこすり、首を左右に動かしいまだ眠りに着こうとする思考を巡らせ、状況を確認。

 次第に晴れてくる意識が、ここがセラの使っている部屋だと理解するとともに、急に恥ずかしさが込み上げて来た。


「・・・・・また、やっちゃった・・・・・」


 セラがフィオの家に泊まること早三日、フィオは必ずセラのベットに潜り込んでいた。

 自分でも、なぜこんな行動をしてしまうのかが判らない。

 眠るときは自分の部屋にいたはずなのに、気が付けばセラのベットに潜り込んでいるのだ。

 一度セラに言われたが、気が付かなかった。

 今思い出しても恥ずかしくてしょうがない。

 

 何故こんな行動をするのか? 実を言えば簡単な事である。

 

 フィオの両親は、彼女が幼い時から家を空けがちであった。

 母親が冒険者で、父親が旅の行商人であり二人は共に行動することが多い。

 物心がついた時からそうであったため、本人はあまり気にしていないのだが、潜在意識の方では両親の愛情に飢えていたのだ。

 セラがこの家に来てから、フィオの行動に変化が現れたのは、潜在意識にある幼い感情が無意識に表に出た為であった。

 早い話、フィオはただの甘えん坊なだけなのだ。

 その事に気付かない当の本人にとっては、深刻な問題であるのだが・・・・・


 いつまでも羞恥に身を浸しているわけにもいかない。

 フィオはベットから降り、着替えるために部屋を出ようとする。


「・・・これはなんでしょう?」


 目を向けた床には、水で描かれた十七匹のネズミの絵が床板に、見事な筆使いで描かれている。

 描いたのはセラであろうか? けど何のために?

 フィオにはさっぱりわからない。

 ともかく朝食の準備をするために、フィオは急いで自分の部屋へと向かった。

 ここ数日、セラの前では情けない姿を見せている。

 汚名ばんか・・・もとい返上しなければならないのだ。

 やる気に満ちた表情で、フィオは部屋を後にする。


 着替えを済ませ階段を降りると、そこには食欲をそそる様なとっても良い香りが漂っている。

 テーブルの上には、暖かな湯気を漂わせるスープとパン、夕べの残りの焼いた肉を薄くスライスしたもの、そして色鮮やかな瑞々しさが目を楽しませるサラダと、既に朝食の準備は万全であった。

 それは同時に、今日もセラの役に立たなかった事を自覚する。

 落ち込んだ。

 床にへたり込み、凄く落ち込んだ。

 今日も汚名を挽回してしまったのだ。


「あっ、フィオちゃん。おはよう、今日は早いんだね」


 セラの何気ない一言が胸を貫く。


「・・・・おはようございます・・・・」

「朝もはよから、何で落ち込んでるの!?」

「・・・・・いいんです・・・自分の至らなさに自己嫌悪しているだけですから・・・・」

「・・・? 良く分からないけど・・・準備は出来ているから一緒に食べようね」

「・・・・・はい・・・・今日も美味しくいただきますぅ・・・ううぅ・・・」

「何で泣いてるの?」


 自分がセラに甘えているだけと云う単純な事実に、いまだ気付かない彼女の心境はかなり深刻なものであった。 これはこれで、フィオは不憫な子なのかもしれない。

 落ち込みながらも何とか立ち上り、テーブルにつく。

 セラの料理はとても美味しいのだ。



「そう言えばフィオちゃん、今朝はどんな夢を見ていたの?」

「えっ? どうしたんですか急に?」


 食事の最中に、セラの急に振られた話に、戸惑いを隠せない。


「・・・何か・・・ゴニョゴニョと喋っていたみたいだから、気になっただけ・・・」


 フィオの顔が真っ赤に染まる。

 眠っていた事とはいえ、自分が寝言で何を言っていたのか、考えただけでも卒倒しそうだった。


「・・・良く分からないですけど・・・楽しい夢だった気がします・・・」

「・・・・・そう・・・楽しかったんだ・・・アレが・・・・」


 死んだ魚のような目で虚空を見上げるセラに、自分が寝言で変な事を口走っていたことに、羞恥の炎は増々燃え上がる。


「私は何を言ったんですか、セラさん!? 教えてください!! いったい何を・・・・」

「・・・言えない・・・言えないよぉ、こんな事・・・・うわあああああああん!!」

「泣くようなひどい事を言ったんですかぁ!? どんな事を言っていたんですか!? 教えてください!!」

「・・・うぐっ・・・アレが楽しい事なんて・・・・・フィオちゃん・・・酷い・・・・」   

「そんなに酷い事言ったんですか!? お願いだから教えてくださあああぁぁいっ!!」


 こうして、フィオの新しい朝は始まる。

 一部不幸な人もいるが、それはそれで愉しい一日の始まりを告げる調味料の様なものであろう。

 賑やかな会話は、まだ続いていた。




 ―――――レイル達の場合―――――



「・・・んんっ・・・」


 窓から差し込む朝日を受けて、ファイは目を覚ます。

 まどろむ意識をそのままに、ゆっくりと身を起こして背を伸ばした。


「・・・んんっ・・・・・・ふう・・」


 まだベットで眠りに着いていたい欲求を抑え、強引に意識を覚醒させる。

 まだ寝惚けているまなこに寂れた宿の一室が目に入ってきた。

 視線を巡らせると、横で鏡台の前で髪をとかすミシェルと目が合う。


「おはようございます、ファイ。今日も良い天気になりましたね」

「・・・オハヨ・・ミシェル・・相変わらず早いのねアンタ・・・」

「私もさっき起きたばかりでしたよ? 早いのはレイルですよ」

「また剣の素振り? 良くも飽きないわよねぇ、レイも・・・・」

「向上心が強いのですよ。いい意味でセラさんに触発されたのでしょう」

「・・・セラね・・・」


 レイルと彼女たち三人は、二年前に組んだパーティーである。

 最初はその場限りでの付き合いの筈が、いつの間にか当たり前のように一緒にいる事が多くなった。

 その場の勢いで突き進むレイルに戸惑う事も多いが、それでも楽しくやっているのだから、世の中どうなるか分からない。

 少なくとも彼女たちは不満は無かった。

 このロカスの村に来る事になった原因も、レイルが最初に言いだした事なのだから。


『この村で一旗揚げる』、何のひねりも無い目的であったが、レイルは本気であった。

 小さな村を町へと発展させることができる冒険者は、時として英雄として語り継がれる。

 レイルはそんな英雄に憧れる、考え無しのバカであった。

 名前も知られていない小さな村、そこに勇んで来てみれば、予想だにもしなかったとんでもない化け物に出会ってしまう。

 それがセラである。


 けた外れの力と知識を備え、圧倒的な威圧感を身に纏いながらも、当の本人はそんな事など意にも返さずに、漂々と村で過ごしていた。

 格の違いを見せつけられながらも、レイルは腐りもせずただ上だけを目指している。

 ファイなどは、その日の夜に噛みついたというのにだ。

 レイルにセラの事をどう思っているか聞いてみた所、レイルはこう言っていた。


『ハハハハハハッ! 世界はひれぇな、あんな奴が居んのか! 辿り着いてやるぜ、あの領域によ!!』

 

 かえって、やる気が出てしまった。

 目標が高ければ高いほどに燃える。

 彼はそういう男だった。


「馬鹿よねぇ、あいつ・・・セラは規格外も良い所なのに・・・・」

「そこが良い所なのですよ。すぐに諦めるよりも、前に進むことに情熱を傾ける。レイルのそういう所、私は好きですよ?」

「・・・ミシェル、それ告白? とうとう、レイルに言うの? あたしは応援するわよ?」

「ちっ、違いますよ!? それを言うなら、ファイはどうなんですか? いつ思いを告げるのですか?」

「なあっ、あたしは違うから!? そうゆう感情、持ってないからねぇ!!」


 いつものやり取りである。

 ミシェルとファイ、二人は種族を超えた、最初で本当の親友と呼べる存在であった。

 お互いの気持ちを理解したうえで、共にレイルを諦めようとしている。

 どちらも互いの幸せを望み、決してその先へと進もうとしない。

 彼女たちの答えは、まだ出そうにも無いだろう。


「それよりもファイ、女の子がいつまでもそのような身だしなみなのは、正直どうかと思うのですが?」

「んえぇ!?」


 ミシェルの言う通り、今のファイの姿は正直酷い有様である。

 綺麗なブロンドの髪は寝癖だらけで、下着の肩紐はずり落ち、かろうじて引っかかってはいるが、もう少しで男が見たら幻滅しそうな状況であった。


「こちらに来てください。髪を調えて差し上げます」

「ミシェル・・・自分も下着姿である事を忘れてない?」

「大丈夫です。この部屋には、私達しかいませんから」

「意外に度胸があるのよね・・・この子・・・」


 言われるがままに鏡台の前に座ると、ファイの髪をミシェルがくしけずる。

 ファイは身だしなみの不器用な子であった。

 ミシェルが居なければどんな姿だったのかを想像すると、泣きそうになる。

 こればかりは依存する他無い。   

 

「普段はとてもしっかりしているのに、どうして身の回りの事になると疎かになるのでしょう?」

「知らないわよ・・・何故か自分の事になると、途端にルーズになるのよ・・・」


 少女たちの何気ない朝はこうして始まった。



 時は少し前へと戻る。

 レイルはベットから飛び起きると、まるで不審者のように辺りを見回す。

 そこが自分の借りた部屋だと判るや否や、大きなため息を吐く。


「・・・・・よかった、夢か・・・変な夢を見ちまった・・・」


 無造作にシーツを退けると、彼は窓際に立ち徐々に上りゆく朝日を眺める。


「・・まさか・・・ミシェルたちと風呂に入る夢を見るとは・・・欲求不満か俺・・・?」


 健全な青少年では有りがちな事でも、彼にとっては重要かつ深刻な問題である。

 まさか、仲間の二人を異性として観ていた等と、彼の矜持が許さない。

 もう少し柔軟に考えてもよいはずなのに、彼は仲間の少女たちをそんな邪な目で見ていた等と、許せることではなかった。

 彼らが出会って二年ほど経つ、様々な依頼を受け築き上げた信頼関係を、彼自身の手で壊してしまう事を何より恐れていた。人としてそう云った感情が芽生える事は自然の理なのだが、彼は仲間を思う意思が強すぎるため、その先へと進むことに躊躇している。

 ぶっちゃけ、ヘタレである。


「・・・・夕べあんなモン聞いちまったからなぁ・・・これはマズイぞ・・」


 昨晩、フィオの家の風呂場で聞いてしまった、乙女たちの戯れ。(一部、違う存在もいるが・・・)それが尾を引いてよこしまな夢を見たのだと彼は結論付ける。

 これはいけない、この感情に身を託してはならない。

 レイルは強く否定する。

 当の本人たちはそれを望んでいるというのに・・・・ファイやミシェルが不憫に思える。

 彼はあまりにも固すぎた。


「・・・・・素振りでもして、気を引き締めるか・・・」


 赤い髪を無造作に掻き毟り、彼は【グラム・スレイヤー】を手に部屋を後にした。


 宿の前で素振りを続ける事一時間余り、レイルは流した汗をタオルで拭い一息をついている。

 取り敢えず、胸に燻るモヤモヤを晴らす事が出来た彼は、共同井戸で水を汲み、顔を洗いさっぱりとした表情で宿の入り口を潜る。


「おおっ、少年! 朝から精が出るな、鍛錬か!」

「まぁな、少しでも剣を振るわないと、鈍るからな」

「うむ、見上げた心意気だ! 若者はそうでないとな!! そう! 男は筋肉を鍛えて何ぼだぁ!!」


 朝からハイテンションのこの男は、この宿屋【マッスル亭】の主人のジョブである。

 彼は今日もキレていた、いろんな意味でキレていた。

 全身黒光りする筋肉達磨の大男で、常にブーメランパンツ一丁の際物主人である。

 やたらと筋肉を強調するポーズをキメながら、彼は豪快に話してくる。

 正直、ウザイ。


「もっと筋肉を鍛えた方が良いぞ? 最後にモノを云うのは筋肉だからな!! 筋肉こそ至高!! 筋肉こそ正義!! 筋肉こそが美しい!!」

「闇雲に筋肉を鍛える訳にはいかんだろ・・応用力のない筋肉なんか邪魔なだけだ」

「うむ!! 分かっているではないか!! そう、全てを超越する万能筋肉を鍛えてこそ、真の冒険者の道が開けるのだぁ!! 至れ神の筋肉!! マアアアッスルッ!!」

「駄目だこれは・・・・・んで、何か用があるのか?」

「おおっ、そうであった!! 朝食の準備が出来たのでな、他の二人を呼んで来てくれ!!」

「了解、んじゃ。・・・・・・さっさと言えよ・・・」


 ボヤキながらも、レイルは二人のいる部屋へと歩を進める。

 さっぱりした気分が台無しであった・・・・・



「ねぇ、ミシェル? 可笑しくない? 本当に大丈夫?」

「えぇ、とても綺麗に纏まりましたよ? レイルに見られても大丈夫です」

「なぁ? 何でレイの名前が出てくるのよ!? そんなんじゃないから・・・・・」

「ファイのそういう所が、とても可愛らしいです」

「・・・・・ううぅ・・」


 現在、二人は身支度の真っ最中。

 下着姿で髪を整えていたのだが、彼女たちは忘れていた。

 部屋の鍵をかけていなかった事を。


「それにしても・・・・」

「なんですか? ファイ?」

「・・・いや、どうしたらそんなに大きくなるのかなって・・・」


 ファイの言っているのは、当然胸の事である。

 昨夜風呂場でセラにも負けて、彼女の心は傷ついていた。

 その所為か、いつもに増して覇気が無い。


「・・・私に言われても困ります・・・自分ではどうにもできない事ですから・・」

「・・・・・それは分かっているんだけど・・・・ううぅ・・・」

「私にはファイが羨ましく思います・・・・結構肩がこるんですよ・・・下着のサイズもあまり無いですし・・・苦労もあるんですよ?」

「時々辛そうにしているから知ってる・・・でもそれでも求めちゃうのよ・・・」

「難しい問題です」


 有る者と、無い者、その両者に違い等在るのだろうか?

 彼女たちは互いにない物を求め羨んでいる。

 だが、彼女たちの悩みの当事者である事は消えず、悩みも消える事は無い。

 結局の所は、如何にかして折り合いをつけるしかないのだ。

 男にはわからぬ問題である。


「ねぇ、一回だけでいいから触らせてくれない?」

「いっ、今からですか?」

「うん、今から・・・」

「・・・・・うぅ、いいですよ・・ですが、強くしないでくださいね・・」


 かなりギリギリの会話であった。

 夕べの一件で、ファイにも心境の変化があったのだろう。

 今までにこんな事を言った事が無いのだから。

 そんなファイの変化に、嬉しくもあり恥ずかしくもあるミシェルであった。

 同時に、上目遣いで羞恥に肌を染めるミシェルに、一瞬くらっと来たファイ。

 これが道を誤る切っ掛けになりかねない事を、二人は知らない。


「それじゃ、遠慮無く・・・・うわっ、凄く柔らかい・・・いいなぁ」

「んうぅ・・・ファイ、ちょっと強いですぅ・・・もう少し優しく・・・」

「・・・・ごめん・・・加減が判らないわ・・・もう少し触っていても良い?」

「・・・くぅ・・なんか変な感じです・・・やっ・・ちょっと待って・・・ふぅんっ」

「お~~い、二人とも、朝食の準備が出来たって・・・・・・・おおおおっ!!」


 行き成りドアを開けてレイルが観たもの。

 それは桃源郷であった。

 その余にもの光景に、瞬きする事を止めて脳裏に焼き付ける。

 彼はこの光景を一生忘れないであろう。

 生きていればだが・・・・・


 その後の響いた悲鳴と、何かを投げつけるような音、更には男の絶叫がロカスの村に木魂した。



「どうしたのだ? 少年少女よ、何故に少年はボロ雑巾のような姿なのだ?」

「「聞かないで!!(ください)」」

「・・・・・俺はもうすぐ死ぬのか・・・花畑が見える・・・」


 ジョブが怪訝そうに眉を動かすが、直ぐにどうでもよくなった。

 宿屋と云うのは、個人のプライバシーを詮索しないのが掟である。

 すぐにこの情景を忘れたジョブは、厨房から朝食を運んできた。

 しかし、ここで彼らが見たものとは、客を持て成すには余にも酷い物であった。

 三人とも言葉を失う。      


「・・・・なぁ、一つ聞いていいか? このやたら分厚いステーキはともかくとして、上にかかっている白い大量の粉末は何だ?」

「なんだ、そんな事も判らんのか? それは当然、プロテインだぁ!!」


 戦慄が走る。

 何故なら、朝食の全てにこの白い粉末が大量に、山のように載せてある。


「・・・・・まさかとおもうけど・・このサラダの上にかけられているモノも・・・・」

「うむ! プロテインだ!」


 ファイが頭を抱える。

 どこの宿が、朝食に大量のプロテインを山積みにするだろうか。


「このポットに入っている水もまさかですが・・・・」

「うむ!! 当然プロテインを溶かしたものだ!!」


 水にまでプロテインを溶け込ませていた。

 ここまで非常識の筋肉バカだとは予想外である。

 いや、誰も予想など出来はしまい。

 まともではない、明らかに誰もが認める非常識の変態である。

 まぁ、ブーメランパンツ一丁でエプロンをつけている時点で、充分に変態確定なのだが。

 そんなものが吹き飛ぶぐらいの異常さである。


「ふざけんなぁ!! これが客に出す代物かぁっ、明らかにアンタの趣味だろ!!」

「何を言う、冒険者たるもの筋肉が資本!! 筋肉をつけんでどうするというのだぁ!!」

「普通に飯を出せばいいと言ってんだぁ!! あんたの趣味を押し付けんなぁ!!」

「人聞きの悪い!! こう見えてお前たちの体を考えて出しているのだ!! 感謝されこそすれ、非難されるいわれはない!!」

「それが本当なら、空回りしてんだよぉっ!! あんたの気配りは!!」

「何を言う、俺に間違いはない!! 今も、明日も、これからもだぁ!!」

「その、根拠のない自身はどこからくんだぁ!!」

「無論、俺様の美しい筋肉からだぁ!!」


 不毛な言い争いは続く。

 筋肉至上主義者と若き冒険者との口論は、益々ヒートアップして行く。

 ファイとミシェルは、ため息を吐いた後、勝手に調理場へと向かい自炊を始める。

 この日より彼等の食事は、自分で賄う事になった。



 ―――――ロカス村の冒険者たちの場合―――――


 ロカス村の住人達の朝は早い。

 彼等のほとんどが農民であり、其々が畑を所有して農作物を栽培しているからだ。

 だがそれだけでは収入にはならない、作物の種を買うのにも資金は必要であり、それ以外の物資も外から購入しなければ成り立たない。

 どうしてもお金が必要になる。


 そのため、彼らの多くが副業を持ち、村人全員が一丸となって資金稼ぎにいそしんでいる。

 主な生産職は、【家具職人】【食品加工者】【絹産業】なのだが、残念な事に実入りが少ない。

 もっとも稼ぎが良いのが、【冒険者】なのである。


【冒険者】は森にすむ魔獣を倒し、その魔獣の躰から肉や骨、革や鱗など様々な資金源が取れるのだ。

 更には鉱物や薬草などの採取などの仕事を請け負い、その依頼を果たす事で収入を得る。

 面白い事に、他の冒険者たちは個人で動くことで稼ぎを得ているが、彼等は組織的に動いているのだ。

 これはとても効率の良い仕事工程なのだが、如何せんこの村の冒険者たちは、駆け出しよりもマシ程度のモノであった。せっかくの組織的効率が台無しである。


 彼等にとっても頭の痛い問題なのだが、どうすればよいかが判らない。

 今日も彼等は、いつも通りに解体小屋に集まり話し合いをする事になる。


「スゲェな、依頼された数の倍は有るじゃねぇか!!」


 ボイルの第一声に、彼ら冒険者達は満足げな笑みを浮かべる。

 テーブルの上には、山積みになった【マジェクサダケ】がコレでもかと言わんばかりに置かれていた。

 更には、様々な薬草や調合素材となる茸、薬として使える木の樹皮や木葉、僅かだが鉱物もある。

 これを売れば相当の額になる事は、ボイルの目から見ても明らかだ。


「まぁな、俺たちにかかればこの位、チョロイもんだ!」

「お前は、あの悪臭胞子から逃げてただけだろ」

「・・・・・あれは、地獄だった・・・・」

「お前、真っ先にやられたんだっけ?」

「【オールガード・マスク】は必要経費で落ちないか? 結構いい稼ぎになるぞ?」

「全員分揃えるのはきついだろ、割かし値を張るからなアレ」


 会議と云うよりは雑談に近いのだが、彼等は各々の意見を出し合い今後の方針を決める。

 冒険者を雇う事の出来ないこの村にとって、これは当たり前に行われている事であった。

 だが、その運営方針が後に大規模な組織に変貌することを彼等はまだ知らない。


「今後の事で、何か意見在る奴はいねぇか? 出来るだけ有効な奴なんだが」


 先程までのやり取りは、昨日の報告の様なモノだった。

 ただの雑談なのだが、中には必要な案件も含まれることが有る。

 そして彼らを束ねるのが、ボイルの役割である。

 雑談の中から適切に必要な情報を集め、次に生かすための計画を立て、それを伝え話し合いの中で効率化してゆく。

 彼等はこうしてロカスの村を支えてきたのである。


「セラって云ったかな、あの子の情報は凄いよな、うちに欲しい人材だよ」

「だな、あの子が居なけりゃどうなっていた事か・・・それに相当の腕利きなんだろ?」

「聞いた話じゃ、あの子、錬金術師らしいぞ? ブッチの奴、青ざめてたらしい」

「マジかぁ!? ブッチ以上の職人かよ、スゲェ!!」

「それに、俺たち以上の凄腕があと三人も来ている! 協力して貰えないか頼んでくれないか?」

「彼等ばかりに頼る訳にもいかんだろ。わし等も装備を何とかせんといかん」

「そうよねぇ、『ドモス』に体当たりされただけで、盾が壊れたわよ・・・」

「でも資金を何とかしないと・・・」


 最終的に資金の問題に行き着くところが、この集りのお決まりパターンだった。

 だがこの数日で、村の売り上げも大幅に改善された。

 この辺りで何とか変革を起こしたい。

 彼らの意見は至極まっとうであり、難しい問題である。

 だがようやく運が向いてきたのだ、これを逃すわけにはいかない。

 ボイルは少し考えたうえで決断を下す。


「セラとレイルに協力して貰おう、俺から話をつける。朝の集会はこれまでにする」

「頼んだぞボイル、おれたちの未来はアンタにかかっている」

「今日はどうする? 採取にでも行くか?」

「その前に畑の草むしりが先だろ・・・二、三日でもう生えてきやがった」

「うわぁ~~っ、めんどくせぇ~~っ、やりたくねぇよ・・・」


 皆が色々な愚痴をこぼしながら、解体小屋から出てゆく。

 残されたボイルはため息をつきながらも、これからするべき事に頭を悩ませる。

 

「あいつ等が協力してくれるといいんだがな・・・・・」

「大丈夫よ、セラちゃんもレイルも素直な子たちだから、協力してくれるわよ!!」

「レイルはともかく、セラの奴は相当のクセもんだぞ?」

「あははははははっ! あんたにそう言われるなんて、セラちゃんも中々ねぇ!!」


 イーネに背中をバシバシ叩かれながら、ボイルは無造作に髪を掻きむしり歩き出す。


「まずはセラからだな・・・・」


 この村の行く末を決める変革の時が、少しづつ動き始めていた。  

  

 

  ようやく折り返し地点に到達しました。


  行き当たりばったりで、話の内容の説明などをしようにも、

  いっぱいいっぱいです。


  こうしたらよいとか、コレは無いんじゃね?などの意見が有りましたら、

  容赦なくお願いします。賛否両論大歓迎です。


  また評価をして下さるなら、感謝感激です。

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