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056-落涙の少女
未だ朝靄が晴れない空に一人の少女が浮いていた。
空のように薄く蒼い髪に、濃い青の瞳。10代前半ぐらいの見た目の少女は何もない虚空を静かに見つめていた。
周囲には結界らしき青い半透明な壁が張られている。
「・・・・・竜王さまぁ」
少女はぽつりとそう呟く。
自らが仕えるべき竜王が近くにいないことを感じ、思わず涙を浮かべる。
自分の首と両腕につけられている朱色の鎖が重々しく少女にまとわりついている。
「ネフィは悲しいですぅ」
こぼれ落ちる涙を袖でぐしぐしと吹き、キッと前を見据える。
その瞳はいつの間にか“ 紅 ”の色に染まっている。少女の発する途轍もない波動が周囲の空気を震わせる。
その時、少女はフイッと明後日の方向に顔を向ける。何かが近づいてくるのを感じる。それもかなりの数。
そして何故か懐かしいような、愛しい存在も。
「これは・・・・」
その存在を確認した少女は、ぱあっと表情を明るくする。見たままの幼い少女の屈託のない笑顔だ。
少女は再び涙を流す。
「やっと・・・やっとですぅ・・・」
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