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053-緋色の魔石

「俺の話を聞いてもらえませんか?」




 いよいよここからが本番だ。

 この話を聞いた後国王がどのような態度を取るのか。それによって俺達の今後の動きが変わってくる。否定された場合は、おそらく投獄され一生を牢屋で過ごす運命をたどるだろう。いや、否定などさせない。竜王に失敗は許されないのだから。


 国王が軽く頷き、許しが出たところで軽く息を吸い込んで口を開く。




「国王陛下は御存知ですか?かつてこの大陸には、今は失われた魔術という異能の力が栄えていたことを。それによって起きた戦いのことを」


「知っておる」




 まあ国をまとめる者ならばこの大陸の歴史を知っていないはずはない。細かい話を一からしなくて済むのはありがたい。




「ではその戦い、《聖杯戦争》が今再び起ころうとしていることは?」




 国王は押し黙り、周囲の者たちは驚きの表情を見せる。

 その時、ついに我慢が出来なくなった騎士の数人が抜剣する。丁寧に磨き上げられた銀色の輝きを放つ刃が抜き放たれ、剣先が俺達に向けられる。そして汚い言葉を俺達に浴びせかける。お前らホントに誇り高き騎士、又は貴族か?




「この戦争主義者め!そのような世迷言で我が国を混乱に陥れようと・・・」




 しかしその言葉は最後まで続かなかった。

 なぜなら、リリアスがこの広間にいる全員の者の首筋に一瞬の内に剣を顕現していったからだ。ひやりと冷たい輝きを放つ刃が彼らの喉元を撫でる。もちろんジェイド国王も例外ではない。同じように宙に浮いた数本の剣に囲まれている。


 リリアスは紅の双眸に激しい怒りを帯びて、先ほど抜剣した騎士達を睨みつける。それだけで数人が大理石の床に膝を着き、ガクガクと震えだす。無意識的に彼女の身体から流れ出ている微量の魔力に当てられて顔色を悪くしている者もいる。




「リリアス、止めろ」


「・・・・申し訳ありません」




 彼女はすぐさま俺に頭を下げ、顕現させた剣を全て消す。

 広間は小さな静寂に包まれる。誰もが言葉を失い、今起きたことを理解できずにただぼうぜんと立ち尽くしていた。常識的に考えて何十本という剣が虚空から一瞬にして出現するなんてことはあり得ない。上から降ってきたというのならまだあり得るが。

 静寂を破ったのはジェイド国王だった。




「・・・それは、魔術か」


「はい」




 国王はリリアスの方を観察する様に見る。いくら見ても鎧ドレスを着ているただの美少女だ。一目見てこいつは魔術が使える者だとわかったらそいつは、そいつ自身が魔術士か、もしくは人間じゃない。




「魔術を行使する術は遠い昔に失われたと聞いておるが」


「この二人は特別です」




 俺の後ろに立つリリアスとアリアークについて簡単に説明する。大昔から生きてきた者であり、様々な研究によりその身に魔力(マナ)を蓄積し、行使することができる。その力はただの魔術士とは比較にならないほど強大な物であること。

 彼らはこの二人が魔術を行使することができると知り、先ほどのリリアスが何十本もの剣を顕現させたことに納得する。


 説明を聞いた国王しばらく考え込むような表情をして軽く俯いたが、すぐに顔を上げて口を開く。




「どうだ?二人とも私に仕えて見みる気は・・・」


「「御断りします」」




 返事は即答だった。

 国王の申し出を断るということは、国王の威厳をつぶすことと同義となり、最悪不敬罪で処刑されかねない。騎士達が歯を剝き出しにしてこちらに斬りかかってこようとするが、先ほどのこともあり、その場で動けないでいる。即答で断られた国王も少々面食らった表情だ。




「私共の王はこの世界どこを探してもこの方、御一人のみです」


「他の者に仕える気はさらさらないわよ」




 俺は少し冷や汗をかいていた。一国の王たる者とその身を守る高貴な騎士達、そして高い位を与えられている大臣達がこれほど大勢見守る中で、堂々と迷うことなく国王の申し出を断るとは。この二人はどれだけ肝が据わっているんだ。俺なんて先ほどから緊張と不安で手汗がびっしょりだ。

さすが姫と言ったところか。いや、俺が場馴れしていないだけか。


 ジェイド国王は少しの間じっとしていたが、軽く眼を伏せて元の落ちついた表情に戻す。




「すまない、話を反らしてしまったな」


「いえ」


「では、話しの続きをしてくれぬか?」























   ◆◇◆◇◆


















「話はこれで以上です」




 俺が口を閉じたのは、あれから約三十分が経過した後だった。途中でリリアスとアリアークが補足を入れて説明し、緋色の魔石に記されていたという未来に起こりうる予言をなんとか話し終えた。

 突拍子もない話だが、俺達の力については、かの八百人の兵士たちが証言をしているため、無理矢理信じざるを得ないだろう。むしろ信じなかったらこいつらの脳みそはイカレてるんじゃないかと思う。

 未だ納得していないような表情の貴族や騎士達がまだ多くいたが、黙ってこちらを睨みつけてくる。


 国王はふぅ、と軽く息を吐き、身体を玉座の大きい背もたれにゆだねる。




「竜王殿の言う《聖杯戦争》とやらは未来に必ず起こるだろう」


「!ど、どういうことですか陛下!


「まさかこ奴らの話をうのみにするおつもりですかっ!」




 貴族や騎士達が揃って慌てふためく。

 国王はそれを制すると、俺達の方に向き直る。




「実は、我もその予言を拝見しておる」


「この城の地下に保管されているという魔石ですか」




 ここら辺の情報は、ジャックを通じて既に把握済みだ。地下何階のどの部屋に保管され、その周囲の警備状況なども全てばっちりだ。

 何故それを知っているのか、というふうに眼を見開いた国王だったが、すぐに元の表情に戻る。




「そうだ。竜王殿の言う、緋色の魔石の一部だ。・・・・付いてくるといい」




 そういうと、国王は玉座から立ち上がる。そして俺達を連れて歩き出した。騎士達が慌てて走り駆け寄り、国王の周りを囲むようにして歩きだす。俺達の横にも剣に柄に手を添えたままの騎士が付く。なんか囲まれるというのは非常に歩きづらいな。


 国王は長い廊下を抜け、地下への階段を下りて行く。窓など一切ないが、壁に取り付けられていている輝く石のおかげで視界には困らない。


 長い階段を下りると、以前俺が監禁されていた、高度な術式が施された檻が目に入る。地面は壁から染みだした水で濡れており、変な臭いもする。ここに監禁されていたことを思い出すと苛立ちを隠せない。


 地下のさらに奥に進むと、ハードレーザーとLMV(ロストマジックウエポン)の石弓矢型、槍型、剣型で武装をした数人の兵士たちが数人扉の前で立っていた。ここからでは見えないが、あの扉の隣にある部屋の中には十人ほどの兵士の気配を感じ取れる。そしてその全員がLMVを装備している。なるほど、確かに厳重な警備だな。

彼らは国王を確認すると驚いて目を見開き、慌てて背後の扉を開錠する。




「お前たちはここで待て。竜王殿はこちらだ」




 付いてきた大勢の兵士たちは不満を募らせていたが、しぶしぶといった感じで道のわきに整列する。招かれた俺達は扉をくぐり、魔石が保管されている部屋の中へ入る。部屋に入る前から感じていた魔力(マナ)の濃度が、部屋の中に足を踏み入れただけで尋常ではないほどに跳ね上がる。間違いない、ここに魔石がある。

 部屋の中は薄暗かった。壁に取り付けられている輝く石もなぜか少ない。




「これが、我々が保管してきた魔石だ」




 ジェイド国王が示す先に、部屋の中央に何の支えも無しに浮いている、緋色に輝く石の欠片があった。尋常ではないほどの魔力の発生源はこいつだ。

 国王はこの魔力の渦の中にいて大丈夫なのだろうか。ふと視線をそちらに向けると、額に大粒の油汗をにじませ、歯をくいしばり我慢しているような歪んだ表情をしている。やはりこの濃度は少々きついか。無論俺達はなんともない。


 国王の身体を気遣い、足早に部屋の外に出て扉に施錠させる。この扉、見ただけでは分からなかったが、多少の魔力を抑え込むための術式が組み込まれている。閉じると同時に膨大な魔力を感じ辛くなった。


 荒い息をしている国王に手を貸す騎士達を横目に見ながらリリアスに聞く。




「あれか」


「はい。砕けてしまってはいますが、間違いなく予言が記された魔石です」


「久しぶりに見たわね。相変わらず魔力の放出量が多いわ」




 さすがにリリアスとアリアークでもあの魔石から魔力(マナ)を吸収するのは無理らしい。魔力の力が大きすぎて、二人の身体には許容できないそうだ。


 俺達は再び地上の大広間の方へ移動する。城の中を歩くって結構大変なんだな。というか無駄に広すぎる。建築費の無駄なんじゃないか?貧乏性の俺は歩いている間そんな事ばかり考えていた。


 大広間に戻り、玉座に腰を下ろしたジェイド国王は深い息を吐く。





「して、竜王殿は何を望む?未来に起こるであろう《聖杯戦争》で何をするつもりだ?」


「悲劇の回避です」




 俺は国王の瞳をまっすぐに見つめ、迷いなく答える。俺がこれまで生きてきた目標であり、今までの旅の目的である。血が流れる争いはもう見たくない。




「そのために、ジェイド国王陛下。貴方に頼みたいことがあります。我々に対しての援助です」


「・・・・」


「我々はこれからこの大陸中を回り、聖戦回避に必要な力を探します。その間の様々な場所の入場許可。国王権限での各国の協力要請を取り次いでほしいのです」




 国王はもちろん、大臣や大勢の騎士達が息を飲んで黙り込む。

 すぐには答えを出してくれないだろう。それもそのはず、俺に援助をするということは、俺が他国とのいざこざを起こしても国が保証するということになるのだから。そんな国歌問題に発展する様な用件を軽く飲めるはずがない。




「国王陛下。我々は宿コーンインで宿泊しています。協議のうえ、じっくりとご検討下さい。出来れば三日の内に答えを出していただけると幸いです。急いでいますので」




 国王の返事を待たずに、軽く頭を下げ、身体の向きを変えて部屋の出口に向けて歩き出す。

 部屋を出る際に、思い出したように言葉を投げかける。




「念のため、こちらに俺の従者の者を置いていきます。良い答えが聞けることを願っています」




 そう言い残し、巨大な扉から廊下に出る。


 扉が閉められると同時に盛大なため息を着く。心臓が尋常でないほど鼓動し、手の平や背中は冷や汗でべとべとだ。俺が国王に向かってあんな口をきくなんて今まで思ってもみなかった。善良な市民が俺の口のききようを見たら、恐怖で卒倒してしまいそうだ。




「我が王、お疲れ様です」


「もっと脅したらよかったのよ」




 お前ら、俺の精神の消耗具合を理解してくれ。お前らは慣れているだろうが、俺は国王に謁見して会話するなんてことはこれが初めてなんだ。出来ればもう二度とこんなことはやりたくないが、おそらくこう言った緊張する場面はいくらでも訪れるだろう。


 俺達は従者達が待っている待合室に戻った。























   ◆◇◆◇◆




















「というわけで二人にはここに残って欲しい」


「う~ん。了解だよ~」


「が、頑張りますです!」




 待合室に戻った俺は待っていた八人全員に、魔術を使用して謁見の内容を伝達した。いきなり頭の中に他人の記憶が再生されるという不可思議な現象に驚いていたものの、すぐに理解したようだ。


 俺はここに、監視役としてカブラとケルビンを置いて行くことにした。聴力と視力に優れているこの二人なら、些細な異変でも見落とすことは無い。監視役としてはうってつけだろう。




「そしてお前達もこの二人と一緒にいて、もしものときは力を貸してやってくれ」




 待合室の天井を飛び回る数十体の妖精たちにも監視を頼む。妖精の姿は普通の人間には見えないが、一時的に妖精の力を解放すればある程度人間でも視認できるようになる。これだけの眼がある中で国王たちはいったいどのような決断を下すのか。もちろん要望を断らせる気はさらさらない。


 俺達は残った六人の山賊、もとい従者を連れて城下町の宿コーンインに向かう。




「さて、どんな答えが来るか楽しみだ」


「もしものときは私の剣で八つ裂きです」


「城ごと壊してやろうかしら」




 後ろで物騒な事を言っている二人に、六人の従者はどっと笑いだす。

 俺もつられて不敵な笑みを浮かべる。








読んでいただきありがとうございます。

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