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038-模擬戦

「ふっ!」




 地面すれすれから勢いよく跳ね上がってきたアリアークの剣先を直前でくるりと体をひねってかわす。俺はだらりと下に垂らしていた剣を左斜め下から叩きつける。


 だが俺の剣は素早く引き戻された剣によって阻まれた。刃引きはしてあるが、金属製の剣なので打ち合うたびに激しい火花が散る。



「言っとくけど手加減しないわよ!」


「ご自由に!」




 一旦バックステップで距離を取る。

 だがアリアークは左手に握っている剣をすばやく突き出す。体勢を整える暇も与えてくれないらしい。いくら距離をとろうとしても滑るような動きでぴたりと追随してくる。




「せらあっ!」




 俺は距離を取るのをやめ、大きく前に踏み込む。一度大きく右に捻った体を螺旋回転させる。剣先が大きな弧を描いて彼女の剣を激しく叩く。

 俺の体重をかけた一撃だ。受け止められたようだが、反動で彼女の剣が激しい火花を散らせて大きく弾かれる。


 そこに生まれた小さな隙を無駄にはしない。回転する勢いに任せて回し蹴りを繰り出す。しかし俺の脚はアリアークの尻尾によって阻まれた。


 撫でていたときはあんなにも柔らかだった毛が、今では鉄のように硬化して針山のようになっている。驚きで一瞬動きが止まる、その隙にもう一本の尻尾に払われて吹っ飛ばされる。




「ちなみに、あたしの武器はこの剣と尻尾だから」


「そんなのありか」


「体の一部なんだからしょうがないじゃない。まあとにかく、一本よ」




 綺麗に受身を取ってすばやく起き上がる。

 ちくしょう、こっちは剣一本だというのにむこうは攻撃方法が三つもある。このままでは一方的にやられてしまう。




「逃げてばかりじゃあたしから一本とれないわよ」


「もっともだな」




 俺は両足に力を入れる。久しぶりに駆けてみるか。

 やや前傾姿勢で腰を低く落とし、剣はほとんど地面につきそうなほど下げる。深く深呼吸をして息を整え、まっすぐに彼女を見据える。


 俺が得意な攻撃方法は、生まれつき高い身体能力にモノを言わせ、周囲を駆け回って敵に的を絞らせず、攻撃を高速で繰り出す。

 鬼に囲まれたときや戦いたくない相手と出くわしたときはよくこれにモノをいわせて危機を回避してきたが、リリアスやアリアークと契約を交わしたことによって危険が少なくなり、今まで一度も使っていない。


 先程までとは少し違う俺の雰囲気に気がついたのか、アリアークは剣を中断に構え、受身の姿勢をとる。




「・・・・・」


「・・・・・・・」




 二人はその姿勢のまま無言で対峙する。たがいに相手の初動を読もうと睨み合う。

 

先に動いたのは俺だった。小鳥が近くの梢を飛び出すのを合図に強く地面を蹴った。普段は自重している生まれつき高い身体能力をフルに発揮する。


 空気の壁を突き破るかのような猛烈なスピードで駆ける。すさまじい風が頬を叩く。



















   ◆◇◆◇◆



















 アリアークの反応が少し遅れた。


 一瞬遅れて横なぎに振るわれた剣を跳躍でかわす。頭上でくるりと一回転半を決め、背後に着地する。そして剣をまっすぐに振り下ろす。


 振り下ろされた剣を硬質化した尻尾で弾く。だが、彼の動きは止まらなかった。剣を下に振り抜きながらすぐ脇を駆け抜ける。





 アリアークは突然加速したユリアンのスピードに驚きを隠せなかった。


 本来、戦闘は相手の動きを見切ってのステップで回避や、剣でのパリィや盾での防御、そして攻撃を繰り出す、というのがセオリーだ。


相手に正対し、相手が次に何をしようとしているのか、何を思っているのか、などの相手の心を読む必要がある。だが彼のスタイルは相手の心を読むことを完全に無視して、ただその身体能力のスピードにモノをいわせて的を絞らせない。

 

そして走りながら高速で繰り出される小攻撃。非常に厄介だ。




「本気ね」


「・・・・・」




 ついに彼が何もしゃべらなくなった。完全に意識を戦闘に集中させている。

 別に着いていけないスピードではないが、人間で考えれば驚くべきスピードだ。はたしてこれが人間なのかと思わせるが、事実彼は人間だ。


 アリアークも口を閉じてユリアンの動きを目で追う。目だけでなく、耳で音を聞き、体で風を感じる。




ギャリイインッ!


「っ・・・・!」




 下から勢いよく跳ねあげられた剣を受け止めることには成功したが剣が空高く弾き飛ばされた、いくら戦闘のたしなみがある姫であると言っても今は力を発揮していないただの少女だ。男性の重い攻撃を受け止めきれるはずがない。


 弾き飛ばされた剣がくるくると回転して飛翔し、遠くの木の幹に突き刺さる。



 一瞬アリアークは弾き飛ばされた剣の方へ視線を送ってしまった。視線をもとに戻した時、彼はもう視界にいなかった。背後で僅かな気配を感じる。




「くっ・・・・!」




 硬質化させた尻尾で背後から迫る彼の剣をはらう。このままもう一本の尾でカウンターを決めれば一本を取れる。彼女はそう確信した。


 だが、アリアークは彼の剣を持っていない方の手を見逃していた。武器を持っていないので何もしてこないと思ってしまっていた。


 彼の開いている左手がアリアークへと伸ばされる。



 そして伸ばされた左腕はアリアークの尻尾へと移動し、尾の根元をぎゅむっと掴んだ。




「ひ、ひゃあああああ!」




 直後、アリアークが可愛らしい悲鳴をあげる。

 アリアークにとって尻尾の根元は弱点の一つだ。身体から力が抜け、彼女は地面にぺたんと座り込む。突然弱点を触られたアリアークは頬を朱色に染め、体をびくつかせる。


 おそらく倒すべき敵に触られたらこうはならないだろう。気を許しているユリアンだからこそ触られると敏感に反応してしまうのだ。


 そこにユリアンが意地悪げな笑みを浮かべて、剣の腹でアリアークの頭をポンと叩く。




「はい一本」


「ひぐっ・・・・ちょ、卑怯よ!」


「戦闘に卑怯なんて無いんだぜ?」


「うぐぐぐ・・・・」

















     ◆◇◆◇◆

















 アリアークが何かと抗議してぎゃーぎゃーと騒いでいたところに、一体の飛竜が遠くのそらからやってくるのが見えた。あれは昨日、俺を監視している暗部の奴が俺達に着いてこられるように案内役として置いてきた竜だ。


 飛竜は俺達のすぐそばに着地すると、頭をこちらに伸ばし可愛らしい声でキュルルと鳴いた。俺とアリアークはその飛竜を撫でてやる。


 背中には誰も乗っていない。ということは暗部の奴はこの飛竜を追って地面を走ってここまで来たということか。ご苦労な事だ。


 森の方に意識をやると、荒い息を立てている人の気配がする。あくまでもこちらに姿を現す気は無いようだ。




「おい、大丈夫か?なんならもう少し休憩を取ってやるけど」




 森の方に優しく問いかけるが、何も返答は帰ってこない。正直よくやったと思うよ。飛竜が飛ぶ速度に走って着いてくるなんて尋常じゃない。そこは称賛物だ。


 何かとイライラしているアリアークがいきなり叫び出す。




「ああもう!ほんとにイライラするわね。こそこそとしてないでさっさと姿現しなさいよ!




 いきなりアリアークの手の平にまがまがしい色をした魔力が集束していく。ああ、これは危ないな。結構お怒りだ。


 やがて球体状に集束したドス黒い魔力の塊が形成される。アリアークはそれを森の中に投げた。



 地面にしっかりと根を張って精一杯生きている木々を半ばからへし折り、砕き、凄まじい森林伐採を行いながら魔力の塊は直進していく。そしてあろうことか、大爆発を起こした。


 爆破の威力は俺達がいるこの場所まではこなかったが、途轍もない爆風が吹き荒れた。爆心地から半径約20メートルはあろうかという巨大なクレーターが形成された。




「はあ、はあ、・・・・」


「・・・・・恐ええ・・・」




 これからはアリアークを怒らせないようにしようと心に誓った。




「ちっ、逃げ足速いわね」




 いつの間にか暗部の奴の気配が消えていた。危険を感じて一時遠くに退避したのだろう。いくら俺でもあれをまともに受けたらただじゃ済まんと思う。




「アリアーク・・・」


「なに?」


「ええと・・・・いろいろとスマン」


「ふんだ」





 女ってやっぱり恐いな。まあ、故郷にいるシャルなんか逆らったら最後、スマキにされて包丁で口に出して言えないようなものをゲフンゲフン。


 とにかく殺される。なんか一瞬寒気がしたのは気のせいか?










読んでいただきありがとうございます。



今回はアリアークの回をやってみました。


なんとなく楽しかったです。




物語の進行速度は遅いのですが、そこはなにとぞご容赦を。


次回は進めていくつもりです。


感想、ご意見、指摘がありましたらどうぞご気軽に聞いてください。


今後も私の作品をよろしくお願いします。

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