表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/86

004-姫の目覚め

 俺の眼の前にそびえ立つ巨大な水晶の中には一人の少女が閉じ込められている。その顔はとても穏やかで美しい。思わず言葉を無くす。


ピシッ!

「・・・!」


 突如俺の触れている部分から水晶に亀裂が入る。亀裂は徐々に広がり、やがて水晶全体にまで行き届いた。

 そしてガラス塊を割り砕いたような大音響を轟かせ、水晶が幾千もの破片と化して飛び散った。

 閉じ込められた少女の体は、重力に従いゆっくりとこちらに落ちてくる。受け止めなければならないと頭の中では思うが、体が動かない。

 幾千もの水晶が美しい輝きを放ち、神秘的な光景をつくり上げている。


「・・・・落ちる・・・」


 しかし少女の体が地面に激突することは無かった。ふわりと浮き、ゆっくりと降り立つ。

 近くで見ると、よりいっそう美しく見える。まるでこの世のものではない、天から降り立った女神のようだ。

 先ほどまで硬く閉ざされていた瞼が開く。するとそこには宝石のような輝きを持つ紅の瞳があった。とても印象的でどことなく威圧される。


「あなたが私の王ですか?」

「?」


 少女の爽やかでハッキリとした声音

 意味の分からない問いに俺は思わず頷く。

 冷静で無表情な、それでいてどこかに明るさを兼ね備えた瞳が俺をまっすぐに見つめる。まるで心の中が見透かされているような気分になる。


「あなたの名は?」

「・・・ゆ、ユリアン=フライヒラート」


 一瞬俺の斬り落とされて無い右腕に視線を向けるが、すぐに視線を戻す。腕が無く、無残な傷口が見えているというのに、一つも表情を変えない。


「では、フライヒラート様。これより私はあなたを主とし、あなたを守る盾となり、敵を滅する矛となりましょう」


 少女は俺に近づき、さらに俺の顔に顔を近づける。そしてそのまま唇を触れ合わせる。


「っ・・・・!」


いきなりのことで頭の中が真っ白になる。

 生温かい物が俺の口の中に入り、溜まった血液を舐め取る。おそらくこれは少女の舌だろう。


「・・・んっ・・・んん・・・・」


少女の口から熱い吐息がこぼれる。思考が停止し、感触など皆無だ。

 その時、あの忌々しい唸り声が轟く。


「・・・・!」

「ぐるがあ!がううう」

「ぐるううう」


 周囲には、鋭い爪や牙をちらつかせた鬼が無数に集まって来ていた。ざっと見ただけで、五十体ぐらいはいる。鼻がひん曲がりそうなほどの悪臭だ。

 少女は唇を離し、鬼をまっすぐ見据える。


「邪魔をしないで」


「がうう!・・・・・・」

「ぐううううう・・・・・」


 紅の瞳に威圧され、鬼が怯む。どの鬼も襲いかかってこようとしない。鬼を威圧するなんてこの子は一体何者なんだ。

 視線を俺に戻した少女は再び俺の口から垂れる血を舐め取った。


「血の契約を確認、我が王よ。ご命令を」


 その瞬間見えない力が体の中に入り込む。再び思考が停止し、抗うことを拒む。見えない力が体内を蹂躙する。力が解き放たれ、俺と少女を中心として波紋状に風が巻き起こる。

 何だこの高揚感は。今までに感じたことのない。全てを手に入れたような気持ち。


「おお、おおおおおおおおお!」


 思わず咆哮する。少女はそれに合わせて目を閉じる。するとその体が輝きだし、徐々に崩れ、新たな形へと姿を変える。


「・・・剣・・・・」


 少女の体は長く細い、漆黒の刃を持つ長剣へと姿を変えた。今までに見たことのないような美しいフォルム。絶対的な存在感。全ての光を閉ざす漆黒の刃。

手に取ると、まるで俺専用に作られたかのように手になじむ。分かる。理解できる。ここれが何のためにあるのか。


   ――――― 御呼びください。私の名は

         《剣閃の舞姫》―――《リリアス》 ――――


「がるうるるるる」

「がううあ!ぐるあああ」


先ほどまでおとなしくなっていた鬼達が再び吠えだす。

迷っている時間はない。生きるためにはこの剣に命を掛けるしかない。


「っ・・・頼むリリアス!」


長剣を横薙ぎに一閃。空気を切り裂く衝撃と共に、刀身から幾百の斬撃が生まれ辺りの鬼を一撃で葬り去る。


「・・・・すげえ」


 あれだけいた鬼をまるでゴミのようにその肢体をばらばらにする。

 ありえない。いくら切れ味の高い高周波刀でも一度に何体もの鬼の硬い皮膚を切り裂くことは不可能だ。自分の手元に視線を向け、そこに握られている剣の威力のすごさを知る。


 全身の力が抜けるのを感じ、俺は声もなく床に転がった。体中の痛みでもう指一つ動かせない。

俺はそのまま意識を手放した。












評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ