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029-レイクフェアリィ湖


 神殿を出た俺は、王都で一番大きな店が集まる通りを歩いていた。

 果物や野菜、魚や肉、本や雑貨など様々な種類の店が多くの人でごったがえしている。しかも値段も格安。思わず目線があちこちに飛んでしまう。


 これからの旅のための食料を買わなければならない。色々な店を回り、手ごろで長持ちする食品を買っていく。


「だいたいこんなもんか」


 持っていたリュックはすぐいっぱいになり、もう何も入らなくなった。入ったとしてもそれは完全に潰れてしまうだろう。

 これで一週間くらいは野宿で旅が出来る。馬や荷物を持ってくれる人がいないので重いリュックをよっこらセと背負う。その重さに少しふらついたが問題は無い。俺はそのまま首都の門へと向かった。


 俺が首都にいる理由は無くなった。少しでも先に進まなければならない。

 昼間の門は常に解放されていて、大きな荷物を乗せた牛車や馬車が何台も通過する。


「よっと」


 リュックを左肩に担ぎ直し、ポケットから小さく折りたたんだ紙を取り出す。あの下品な王室特務警護隊隊長に渡された書類の一枚。最近発見された遺跡やそれに関連する情報などが簡単に書かれている。

 要は詳しいことを知りたければ直にその場所に行き、そこに駐留している探索者等に聞け、ということだ。

軽く書類に目を通していくと、一つの題名に目が留まった。


「レイクフェアリィ湖か」


 妖精が住むと言われる湖。このジェイド王国内で一番大きな湖であり、かつ神秘的な場所であるとして、何人たりとも無断で立ち寄ることが出来ない湖だ。

 首都から北東のさほど遠くない場所にある。


「いちょ、行ってみるか」


 俺はレイクフェアリィ湖へと向かうことにした。


































 太陽が空の頂上を通り過ぎ、わずかに西に傾いた正午過ぎ。

今日は、気温は低いが特に冷たい風は吹かない、安定した天気だ。


「ぜ、は・・・・・・ぐはあ」


そんな中、俺は山登りをしていた。レイクフェアリィ湖は山上湖であるからだ。標高が高いせいで空気が薄く、呼吸がつらい。額から大粒の汗が流れ落ちる。


「き、きつい・・・・」


 今朝買った食料を入れたリュックが重く、俺の肩にくいこんでいる。さっきから登山と休憩を繰り返している。そうしないと身体が付いていけない。

 途中、山賊や原生生物と出会わなくてよかったと思う。もしであっていたら、ここまで来るのにもっと時間がかかっていた。

 ため息交じりに息を吐いて荷物を背負い直し、ゆっくりと山頂へと向けて歩く。























 休憩と昼食を取り、山頂に着いたのはあれから二時間後だった。

 俺は崩れ落ちるようにしてその場に座り込んだ。重い荷物を持っての登山は予想以上にきつい。前はシグマやミューと分担して持っていたので楽だったが、一人はきつい。


「こ、ここがレイクフェアリィ湖か」


 そこには想像を絶する景色があった。

 標高の高い山が周りを囲み、湖面に美しく映っている。ところどころ岬が付き出ているせいで北側の方は見えないが、大きな湖が視界いっぱいに広がり、広すぎて海のように見える。

 最近この湖の底に遺跡が発見されて、国家探査隊がいろいろと調査しているはずだ。


「おい!そこのお前。動くな!」


 湖の美しさに圧倒されていると唐突に声をかけられた。

 振り向くと木々の間からガサガサと音を立てながら四人組の集団がこちらにと近づいてきていた。全員が黒のローブで身を包み、片手にはつがえられたロングボウが構えられている。頭にも頭巾をかぶっているせいで顔が分からない。


 おそらく湖を守護するために派遣されている警備兵の者達だろう。レイクフェアリィ湖は神聖な場所であるがゆえに勝手に近づいてはならないことになっている。


「ここは神聖なる区域だ。早々に立ち去ってもらおうか」


 くぐもった声で警告をしてくる。もしここで警告に従わず湖に侵入した場合は問答無用で撃ち殺されてしまうだろう。

 俺は片手をひらひらと振って警備兵達に攻撃の意志は無いことを示すと、ポケットから小さく折りたたんだ書類を取り出す。


「ここで発見された遺跡について知りたい」


 王室特務警護隊長の印が押されている書類を見て、警備兵達は動揺を隠しきれなかったようだが、先ほどまでの態度とは打って変わって礼儀正しいものとなった。


「し、失礼しました。ご案内いたします。こちらです」


 俺は警備兵達の後について探査隊のキャンプ地へと向かった。

























 国家探査隊とは、国が厳選した優れた探索者で構成された国の探査隊だ。その仕事は主に、新たに発見された古代遺跡について調査することだ。

 探査隊のキャンプ地は、湖の東側に展開していた。今確認できるだけでもせいぜい十二人くらいしかいない。


「到着しました。詳しいことについてはあのカルノー=ブール殿にお聞きください。では、我々は失礼します」

「わるいな。案内ありがとう」


 警備兵が指さした方向には、黒と白とが混じった髪の老人がテントのすぐ横で座り、

ガラス製のコップを片手に空を見上げていた。


「ええと、あんたがカルノー=ブールさんか」

「ん~?なんじゃ若いの。ここは勝手に立ち入ってよい場所じゃないぞ」

「ここの遺跡について知りたくて来たんだ」


 カルノーさんにも書類を見せる。先ほどの警備兵と違ってあまり動揺はしなかった。代わりに片方の眉を少し上げた程度だった。


「まずここの遺跡について知りたい。遺跡は湖の底だよな」

「ああそうじゃ。存在は確認出来とるんじゃが、近づけんのよ」


 カルノーさんは悲しそうに湖を見やった。湖の澄んだ水面に微風が吹き、小さな波を起こす。

 いくら存在が確認できたとしても湖に潜り底まで辿り着かなければ、その遺跡がどのような物なのかは分からない。現在は水の中を動ける機械や道具は存在しない。


「これからどうするんだ?」

「いまは、湖から水を全部抜くという事を考えておる。だがここは神聖な場所。そのような方法をとれるわけもなかろう」


探査隊の調査は正直行き詰っているようだ。


「今日はもう調査はせん。また明日考える。若いの、お前さんも今日はここで泊まるとええ」

「ありがとう。そうさせてもらう」


 太陽が地平線に沈みかかり、夕日となって空を真っ赤に染める。湖の水面も同じく赤に染まる。

 山登りの疲労は相当なものだったようで、探査隊の皆さんとの食事を終えて用意されたテントに入った瞬間、泥のように眠りこけてしまった。










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