023-大爆発
マナを体内に取り込み、練り合わせる訓練を再開して早二日が過ぎた。
コツを掴んだ俺とシグマは、イメージでなんとか形にすることは出来るようになったが、未だ不安定な形で綺麗な形にすることができない。
「このくらいさっさと出来ないと後々苦労するわよ」
暇つぶしのつもりなのか、アリアークが壁に寄り掛かって俺達の訓練を見ている。時々マナの制御が甘くなり、爆発して吹っ飛ばされる俺達を見て笑っている。
「おい、アリアーク。笑ってないでお前も教えてくれよ」
「嫌よ。なんであたしがあんた達に教えなきゃならないのよ」
見物に来ただけらしく、口を挿まず壁に寄り掛かっている。
「通常、マナを体内に取り込む訓練だけで数日はかかります。皆さんは筋がとてもいいですよ」
マナを手の平に集める訓練にさらに数日かかり、マナを完全に扱えるようになるまではさらに約二カ月を必要とするらしい。LMVを使い慣れている俺達にとっては魔力を扱うコツは分かりやすいものだった。
ずっと同じ事を繰り返しているおかげで、前よりはマナを綺麗な形に形成することができるようになった。
「これいつ次の段階に入るんだあ?」
「魔力をある程度扱えるようになってからだろ」
ボヤボヤとした形にしか出来ていないシグマは早から次の段階に行こうとしている。
「一度に大量の魔力を込めてみようか」
「やめとけ」
同じことの繰り返しに飽きてしまったシグマは、体内に取り込んだマナを手の平にありったけ集中させてみるという事をやり始めた。
俺の制止も聞かず、シグマは魔力を手の平に集め出す。おぼろげな光の玉が徐々に大きくなっていき、やがてシグマの身体の大きさを越えるほどまで巨大化した。
「おお、すっげえ!!」
シグマは子供のようにはしゃぎ出し、玉をさらに大きくしようとする。
「リリアス?」
いきなりリリアスがシグマの襟を掴み、後ろに投げ飛ばした。いきなりの事で対処しきれなかったシグマは、ポカーンとした顔で綺麗な放物線を描きながら飛んで行き、ゴロゴロと転がった。
そしてリリアスは両手を魔力の玉に掲げ、防護壁を展開した。
刹那、制御を失った魔力の玉に亀裂が入り辺りを眩しい閃光で染め上げる。そして次の瞬間、凄まじい轟音をたてて爆発した。土砂と砂埃が盛大に舞き上がり、一瞬で視界を覆った。
爆風に押し流されないように、俺とミューは地面に這いつくばる。
「うえ、げほゲホッ、リリアス!」
口の中に入った砂を吐き出しながらリリアスを呼ぶ。ちゃんと防護壁を展開していたから問題は無いとは思うが心配だ。
魔力の玉が爆発した地点には、今朝できたクレーターの数十倍のでかさのクレーターがぽっかりと口を開けていた。深さは軽く二メートルはある。
「リリアス!!」
リリアスは爆心地にいた。彼女は確かに身体にけがなどはしていない。しかし息が荒い。近づくと、身をゆだねて来るようにどさりと倒れ込んで来た。
「はあ、はあ・・・・・」
「おい、リリアス!!しっかりしろ!!」
額には大粒の汗が吹き出し、呼吸も早い。四肢からは完全に力が抜け、ぐったりとしている。体温が異常なほど熱い。
「ちょっと、なんてことしてくれんのよ!」
壁付近で見ていたアリアークが慌てた様子で駆け寄ってきた。リリアスの表情を見るとアリアークは深刻な顔になった。
「まずいわね、魔力が足りなくなってる。このままじゃ・・・」
アリアークは最後の言葉を濁す。最後の言葉は分かる。このままじゃ、リリアスは消えてしまう。二千年以上も前の身体を維持するには膨大な量の魔力が必要だ。リリアスの身体にはもうほとんど魔力が残っていない。
「なんとか助けられないのか?」
「・・・・連れてきて」
アリアークは難しい顔をしていたが、意を決したような表情になり部屋を出ていく。俺はリリアスを抱きかかえて後を追う。
「・・・はあ、我が・・・・王・・・・・」
「しゃべるな。消えるんじゃないぞ」
アリアークに案内された別の部屋には、透明な水晶のような輝きを放つ長細く、巨大な石が地面から生えていた。先端は天井に突き刺さっている。これと同じような物を俺は見たことがある。初めてリリアスと出会ったとき、彼女が眠っていたあの巨大な透明の石だ。
アリアークの指示の通りにリリアスを石に触れさせると、石の表面にまるで水のように波紋が広がり、身体が中に入った。そして全身が入ると、リリアスの身体はゆっくりと石の中央へと移動した。
「なんとか無事のようね。」
「これは?」
「生命維持装置のようなものよ。この中で眠ればある程度魔力が回復するわよ」
俺は全身から力が抜けるのを感じ、その場に座り込んだ。リリアスが消えてしまうという絶望に似た感情から解放され、大きなため息をつく。
リリアスの表情が和らぎ綺麗な寝顔を確認すると、俺はよろよろと立ち上がり元の部屋に戻った。
部屋内部はいまだ砂埃が舞っていた。とうの爆発を引き起こしたシグマはポカーンとした表情で座り込んでいる。
「あ、ユリアンさん。その、リリアスさん大丈夫でしたか?」
「ああ、なんとか」
改めて辺りを見渡してみると。直径が四メートルを優に超す大きさのクレーターを中心に砂埃と、爆風で吹き飛んだ石などが壁にめり込んでいる。
半端ではない威力だ。扱い方を一歩間違えれば国の一つや二つ、簡単に落とせそうだ。二千年前の聖杯戦争時にはこのような威力のものがいくつも飛び交ったのだろうか。
「ええと、あんたシグマとか言ったわね。魔術を軽く見てもらっちゃ困るの。学ぼうとするならそれ相応の心意気で挑みなさい」
「はい、すみませんでした。調子に乗りました」
アリアークに説教を受けたシグマは頭を地面にこすりつけるほど深く土下座をして謝っている。
後で説明してくれたのだが、あの爆発は己の制御できる量以上の魔力を取り込んだために、マナが暴走して引き起こしたものだという。何事にも限界がある。改めて思い知ったことだ。
「さて、あんたらは教えてくれる人がいなくなったわけね」
「リリアスはいつ目覚めるんだ?」
「さあ。いつ起きるかはリリアス次第よ。それよりもこれからあんたらはどうするつもり?リリアスが目覚めるまでマナの練り方を繰り返し練習でもするわけ?」
リリアスがいなければ魔術について学べない。かと言ってアリアークは教える気がさらさら無いようだ。
「あ、そうだ。あんたが教えなさいよ」
「は?俺が?」
魔術の基礎すら微妙な俺がどうやって他人に魔術を教えられるんだ?無理をすれば、先ほどのシグマのように大爆発を引き起こしかねない。
詳しいことが書かれた本、魔道書とかは無いのか?本を読むだけでもある程度の知識は身に付けることができる。難しい本を読むのは嫌いな方だが、そんな文句も言っていられない。
途方に暮れた俺達を見て、一つ大きなため息をついたアリアークは俺に両手を伸ばし、言った。
「いまから激しい痛みが伴うけど、我慢しなさい」
いきなアリアークは俺の顔を両手で掴んで引き寄せ、額にちょこんと唇を触れさせた。
「な!」
突然の出来事に顔が熱くなるが、そんな感情も一瞬で消えた。
頭の中に何かが入り込んでくる。ドロドロとした重いもの。どこかの国の言葉、普通では読めない文字、マナの扱い方、魔術を発動させるための環境、魔術に関する知識が頭の中で一気に展開される。
「うが、・・・あああ・・・・あああああああ!!」
「お、おい!ユリアン!」
「ユリアンさん!」
激しい痛みで俺はその場で転げ回った。痛いイタイいたい痛いイタイいたい。
半端ない情報量の処理に頭がついて行かない。今にも頭が爆発してしまうんじゃないかと思えるほどの痛み。
「があ、ゲホッ!がああああああ!」
突然喉の奥からこみ上げてくる熱いものを感じ、吐き出す。ビチャッ、と地面に赤黒い血がついた。鼻からも血が出てくる。駄目だ。耐えきれない。このまま痛みで死んでしまいそうだ。
「ぐああああああああああああ!!!」
あまり面白くない話になってしまいました。
最近、私の作品、どこかギャグや笑いの要素がないのであまり面白くないなあと自分で思ってしまうことがあります。
それでも読んでくれている読者の方にはとても感謝しています。
まだまだ未熟者ですが、これからも読者の皆さんのために頑張っていきます。