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021-信じる


「おお・・・・・すげえ」

「まさかまだ生きてるなんて・・・」


 俺達の眼の前にはあの、リリアスの白竜が降り立っている。白い鱗に似合う銀の鞍を装備している。

 シグマとミューはその圧倒的な存在感に息を飲んでいる。俺でもまだその存在に圧倒されている。


きゅるるるるる

「・・・・・我が王、そろそろ飛びます」

「お、おう。シグマとミューも乗るぞ」


 俺とリリアスは軽く飛び乗ると、シグマとミューは戸惑ったようによじ登った。

 竜は首をまわして俺達が乗った事を確認すると、大きな翼をはためかせ始めた。


「リリアスの王」

「ん?アリアーク。何か用か?」


 飛び立とうとした時、アリアークが暗闇から現われた。

 猫のような耳と狐のような尻尾がゆらゆらと揺れている。


「リリアスの王、あんたに一つ助言よ」

「・・・なんだ?」

「いつまでもリリアスに頼ってないで、自分で戦える力をつけなさい。そうしないと、いつか自分を殺すわよ」


 彼女の言うとおりだ。いつまでもリリアスに頼ってばかりではいけない。もっと強くならないと、迷惑ばかりかけてしまう。


「分かってる。いつまでもこのままでいいとは思ってない」

「そう、ならいいわ。せいぜいがんばりなさい」


 アリアークはそう言うと、俺に向かって紫色の石がついたネックレスを投げ渡した。そして再び暗闇に消えて行った。

紫の石は小さく、小指の爪位の大きさだ。微かに光を反射している。銀のチェーンで繋がれており、いかにも高価な物であることを感じさせる。


「何だこれ?」


訳が分からないが、これは持っていた方がいいだろう。


「・・・なあ、ユリアン。あの女ってなんだ?」

「知り合いって感じじゃないようですけど」


 俺の後ろで、シグマとミューが不思議そうな顔をして聞いてくる。詳しいことを知らない二人にとって聖獣の歌姫という単語はぱっと来ないだろう。


「まあちょっとしたもんだ。後で説明する。そんなことよりも、飛ぶぞ。リリアス頼む」

「・・・・・分かりました。しっかりと摑まっていてください」


 竜のはばたきが再び始まり、段々と宙に浮く。徐々に顔を打つ風が強くなり、俺達を乗せた白竜はヴァイレント火山から飛び出す。外はまだ月が冷たく大地を照らす夜だ。

 夜の飛行は、昼と違って一層涼しい。


「ひゃっほおおお!!」

「っ、シグマうるせえ!」

「別にいいじゃんかよ、竜に乗ったなんて一生の自慢に出来るぜ」


 シグマは竜の上でうるさくわめき散らかし、終いには妹に頭をしばかれていた。なんとも威厳のない兄だと思う。


「なあ、リリアス。どこか開けた盆地に降りられないか?物凄く眠い」

「わかりました。・・・・・あそこですね」


 一度ぐるっと周囲をまわして、竜が降りられそうな場所を探した。俺達のような常人の眼では遠すぎて分からないが、リリアスの眼にはハッキリ見えているらしい。

 竜はゆっくりと角度を変えてリリアスが見つけた盆地へと飛翔した。

 降り立った盆地は広い森の中にポツンと出来た場所で、見晴らしがよく、何者かが襲ってきてもすぐに対応出来そうな所だ。


「よし、今日はここで夜を過ごす。焚火の薪が必要だな」

「その必要はありません」


 俺とシグマが、焚火に必要な薪を獲得するために木を切り倒そうとするとリリアスが止めた。

 リリアスが白竜に何かを囁いた。すると、白中は口を小さく開けて、紅蓮の炎を吐きだした。白竜ってブリザードブレスを吐くんじゃないのか?

 白竜が吐いたブレスにリリアスが手をかざすと、炎は消えず、何もない空中で燃え始めた。リリアスが魔術を使ったのか。


「おお、すげえ。これが魔術?すげえな」


 シグマが感嘆の声を漏らす。これで、薪が無くても一晩中この炎は燃え続けるだろう。

 だが、俺は感心せずにリリアスに歩み寄った。


「リリアス、お前に言いたいことがある」

「なんでしょう」

「極力魔術を使わないでくれ」


 火山の中で話したように、これ以上魔力を消費すればリリアスは消えてしまう。自分達で出来ることなら、極力魔術に頼らずに成し遂げたい。そうしないと、今の人間は 堕落してしまう。


「王を御守りするのが私の役目です。王のために魔術を使うのは当然のことです」

「ああ、分かってる。でもな、魔術を使う時は一度俺に了承を得て使ってくれ。このままじゃあお前自身が消えてしまう」


 リリアスは納得がいかないようだったが、しぶしぶ了承した。


「・・・なあユリアン。そろそろ説明してくれないか?俺達にはさっぱり分からないんだけど」


 シグマとミューが疑問で満ちた眼差しを向けてくる。

 二人には説明しておいた方がいいだろう。いずれ起こりうるかも入れない大陸規模の戦争、《聖杯戦争》について。

 水を入れた鉄製のコップを火に掛け、ゆっくりと話し始める。俺が話している間、いつもうるさいシグマは真剣な顔で聞いていた。いつものこいつからは考えられないものだ。主に俺が話し、途中でリリアスが補足を入れて話した。



























 睡魔に襲われ、もうろうとする意識の中で俺はどうにか全てを話し終えた。黙って真剣な面持ちで話を聞いていたシグマとミューは微動だにしない。

 《聖杯戦争》という言葉は、一般人にとっては頭の片隅にかろうじてある程度だが、俺達のようなトレジャーハンターは遺跡と深く関わっているため、少なからずその知識は一般人より多い。

 聖杯戦争が再び始まれば、大地は再び焼け野原となり、多くの人が死ぬだろう。そんな悲しい事は二度と起こしてはいけない。


「まだ知らない事や、間違っている事もあるかもしれないけど、これが俺の知っている全部だ。信じるかどうかは自由だけどな」


 ここまで言って俺はもう睡魔に耐えきれなくなり、仰向けに転がった。瞼が重い。これ以上は起きていられない。

 何もない草の上に寝転がっていると、リリアスが近寄ってきた。そして、俺の頭を優しく持ち上げ、自分の膝の上に乗せた。

一瞬何をしたのか分からなかった。これは膝枕というものだろうか。柔らかなリリアスの脚が頭を包み込み、俺の意識を深い暗闇へと落とし込んだ。


「我が王、ゆっくりと御休みください」

「ああ、わるいな・・・・・」


 シグマとミューが未だ考え込んでいるような難しい顔をしているのを横目で確認してすぐに俺は眼を閉じた。










































 翌朝、落雷のような激しい音で俺は眼が覚めた。


「・・・・なんだあ?」

「おはようございます。我が王」


 眼を開けるとリリアスの顔が間近にあった。俺が頭を少し持ち上げればすぐに当たりそうだ。どうやら、一晩中膝枕をしていてくれたらしい。普通なら、脚が痺れて動けないはずだが、何もなかったかのようにしている。


「せらああああああ!」

ズバ―――ン!!


 激しい音を立てているのはシグマだった。眩しいほどの電流を放電している雷神槍を巧みに回しながら周囲の木を切り倒している。今度は一体何の遊びを始めたのだろうか。


「兄様、朝から元気ですねえ」


 シグマが槍を一閃するたびに、太い幹の木が切り倒されていく。その光景を見て、ミューが呆れたような声を漏らしている。


「おお、ユリアン。起きたか!」


 額から汗をだらだらと流しながらシグマが駆け寄ってきた。いつも無駄に元気がある分、暑苦しいことこの上ない。


「昨日の話のことだけどな、俺は信じるぜ」

「は?」

「ユリアンは信じてんだろ。だったら俺も信じる。それが友ってやつだ」


 俺は思わず苦笑した。


「昨日の話からすれば、今は魔石を探してるんだろ」

「ああ、何か心当たりあるのか?」

「おう、大ありだ」


 シグマが言うには、要塞国家ユプシロン帝国に古くから伝わる魔石が王宮に置いてあるらしい。これはとても貴重な情報だ。しかし、今の俺には国境を越えるための権限を持っていない。

 国境を越えるためには国王が直接発行した通行証が必要だ。そんなものを俺のようなトレジャーハンターが持っているはずがない。


「じゃあ通行証を貰うためにこれから国王に謁見しに行くのか?」

「ああ、そうなるな」

「よし、そうと決まればさっさと行くぜ。善は急げだ」


 少し言葉の使い方を間違っているとは思うが、シグマの言う通りだ。急いだ方がいい。


「まあ、確かに急いだ方がいいけど。まずやることがある」


 俺はリリアスに聞いた。


「なあ、リリアス。俺でも魔術は使えるよな?」

「はい。私の中の魔力を使用すれば多少は」

「いや、そうじゃなくて。お前に頼らずに魔術を発動させることだ」


 魔術士は、空気中に酸素のごとく浮遊している《マナ》という見えない力を使って魔術を発動していたと文献に書いてあった。今の時代に生きている人はそのマナに使い方を知らないために、魔術を発動させることができない。つまりはマナの扱い方を学べば、魔術を発動させることができるはずだ。

 リリアスは驚いた表情で俺を見た。おそらく、マナを自由に扱えるようになるには想像もできないほどの努力が必要だろう。それでも俺は、リリアスに頼らなくてもゴーレムのような強敵を倒せる力を身に付けなくてはいけない。


「・・・・簡単なものではありませんよ」

「ああ、だろうと思った。そんなのはとうに覚悟してる」

「ユリアン、魔術を習うのか?だったら俺も頼む。是非とも」

「わ、私もです」


こうして俺達はリリアスから魔術を習うことになった。







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