017-宵闇の歌声 ※イラスト有り
空に上がった月が低く垂れ込める雲を冷たく照らす。
辺りが夜の闇に包まれ、長い静寂が訪れる。いや、完全な静寂ではない。どこからともなく歌声が聞こえる。ここは洞窟のなかだろうか。声が何重にも反響している。
大きな岩の上に少女が座って歌っている。
どこか悲しそうな、愛おしそうな響きだ。
少女の耳は普通の人間の耳ではない。猫のような耳が上にぴんと生えている。お尻には狐のようなふさふさとした大きな尻尾が生え、左右にゆらゆらと揺れている。
凛とした歌声はどこまでも響いて行き、どんな荒らぶる心をも落ち着かせる。
「・・・・」
ふいに、少女は歌うのをやめて洞窟の天井にぽっかりと空いた穴から見える月へと視線を向ける。月の光は冷たく感じる。
歌と同じく、悲しそうな表情をしている。
ぐるるるる・・・・
がうがううううう・・・
周囲にはおびただしいほどの数の鬼が低い唸り声を漏らしながら徘徊している。
鼻を突くような臭いが立ち込めているが、少女は一つも表情を変えない。代わりに、鬼を睨みつける。
紅の双眸が鬼を威圧する。鬼は一歩も近づけなくなり、ちらほらと逃げ始める。
逃げ出していく鬼を一瞥し、少女は再び空を見上げる。
「・・・あの人は・・・・・・まだ来ない・・・・」
意味の分からない言葉を呟き、少女は再び歌い出す。
永き時、誰かを待ち続けているかのように。