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014ー過去


 夜の森はとても暗い。太陽が西の山の向こうへ沈み、辺りが闇に包まれ長い静寂が訪れる。吐いた息を白く凍らせる冷たい風が吹き、焚火から火の粉が舞った。

 ミミズクが鳴き、フクロウが野ネズミを追いかけて翼をはためかせる音が不気味に聞こえる。


 ぱちぱちと音をたてて焚火にくべている木の枝が灰になって崩れ落ちる。すかさず火が消えないように、拾ってきた何本もの木の枝を炎の中に放り込む。


「ふう、次にベッドにお目にかかれるのはいつだろうな」


 嘆息を漏らしながら傍の木にもたれて座る。木々の間から見える、星の瞬く空は綺麗だ。

 俺達はザウエル都市の西側にある大きな森の中で野営をしている。もう春だと言ってもまだ夜はとても寒い。こうして焚火などをして身体を温めないと寒過ぎて凍死してしまう。


「我が王、そろそろお休みになられてください。傷に障りますよ」


 暗い森の中からリリアスが歩いてきた。たとえ暗闇であっても彼女の美しさは損なわれることなく光輝いている。


「どこ行ってたんだ?」

「周囲に結界を張って来ました。何者かが近づくとすぐにわかるはずです」


 リリアスは俺の右隣に腰を下ろし、肩をぴったりとくっつける。彼女の温かい体温がじんわりと伝わってくるのが分かる。

 しばらく二人とも身動きせず、無言のままで焚火を見つめた。






 沈黙を先に破ったのは俺だった。


「なあ、リリアス。聞いてもいいか?」

「はい、なんなりと」

「・・・・お前の昔のことを話してくれないか?言いたくないこと、嫌な事は別にいいから」


 俺は無知のままでいたくない。そりゃ知らなくていいことが沢山あるかもしれないが、知らなければリリアスのことがよく分からないままになる。彼女の過去をもっと知りたい。

 彼女の紅の瞳を真っ直ぐに見つめる。

 リリアスは小さく頷くと視線を星の瞬く空へと向けた。






「二千年前、私は貧しい家に生まれ、毎日食べ物に困る日々を送っていました」

「元から姫じゃなかったのか?」

「私が姫になったのは十六歳の時です。身体に魔力が馴染みやすい体質によって姫に選ばれました。その時からこの容姿は変化していません」


 その時リリアスはどんな気持だっただろうか。親と無理やり離される気持ちは。

 俺は両親の顔を知らない。生まれてすぐに捨てられ、ローズベクトの孤児院で育ったから実の親がどんなものかもよくわからない。俺なら親に会ったらまずぶん殴ってやる。


「・・・親と離された時はどう思った?」

「・・・・・すみません。分からないんです」

「分からない?」

「はい、生まれた場所や時などは覚えているのですが、姫になる前のことが全く思い出せないんです。ですから両親の顔も覚えていません。おそらく力の副作用で起こった記憶喪失です」


 俺よりも厳しいものだ。親の顔を知らないならともかく、忘れてしまうなんて悲しいことがあっていいだろうか。
















 色々な危険な薬を投与されて死にかけたこと。―――扱い切れない魔力が暴走して山を一つ消し飛ばしたこと。―――王のために様々な戦闘術を、嫌というほど叩きこまれたこと。

リリアスの話はどれも激しく、苦しいものだった。彼女の歩んできた過去を、とても俺なんかが共感できるものではない。


「仕えていた王があまり好きではありませんでした」

「そうなのか」

「はい。権力と華麗な容姿を持ち合わせていましたが、事あるごとに私の身体に触れ、下品な言葉を漏らす方でした」

「エロ大王か」


 一瞬過去の王に殺意が湧いた。


「今の大陸はどうなっているのかよく分かりませんが、以前は王が一人で統括なさっていました。かなりの才能を有しておられましたから」

「今は三つの国に分かれている。ここはジェイド国王が治めるジェイド王国だ」


俺の言葉にリリアスは眼を丸くした。何かおかしなことを言っただろうか。


「ジェイド・・・・もしやこの王国を建国したのは、ジェイド=ハーメルカス=ボーンではありませんか?」

「ああそうだ。大昔の英雄と呼ばれた男だ。知っていたのか?」

「二千年前、聖杯戦争中に権力争いで現われた貴族です。彼とはいくらか剣を交えたはずです」


 この王国の歴史書には、ジェイド=ハーメルカス=ボーンは多くの人々を助け、数々の戦場を駆け抜けた英雄と記されている。

 リリアスはその英雄と戦った事があるというのだ。


「私は数々の戦場で剣を振るいました。数え切れないほどの人の命を奪い、王の敵となるものを全て薙ぎ払いました。あの時は大陸中が地獄でしたね」

「・・・・」


 発見された特殊な魔石をめぐって大陸全土で起きた《聖杯戦争》。あらかたの事は白竜に乗って空を飛んでいた時に聞いた。実際に見ていないのでどれほどのものかは知らないが、話で聞く限りは壮絶で残酷なものだ。


「それで戦争が終わってお前はどうしたんだ?」

「戦後すぐ王が亡くなられ、私は魔石に書かれていた予言を阻止するために動きました」

「再び起こる聖杯戦争、か」

「はい。もうあんなことは繰り返してはいけないんです。あんな悲しい事は」


 俺だって悲しいのは嫌だ。眼の前で誰かが死ぬのはもう見たくない。


「各地の魔石を破壊し、もう二度と魔力に頼らない世界を作ろうとしたんです。ですが、未だこの時代には不完全ながら魔力が残り、人の生活を支えています。これはどうにかしなければいけないことです」

「でもな、LMVが無くなれば鬼と戦えない。俺達は一方的に鬼にやられるぞ」

「・・・鬼と呼ばれるあの生き物が元は何だったかわかりますか?」

「何だったんだ?」

「・・・・・人間です。私のような姫を作り出す過程で失敗と見なされた者達です」


俺は愕然とした。罪もない人を実験に使い、あんな姿にしてしまったというのか。人間はどれだけ愚かなんだ。


「彼らの身体は大半が魔力で構成されています。この世界から魔力が消えれば自然と彼らも消えるでしょう。彼らをこの世から解放しえ上げることが私のもう一つの目的です」


 世界を救うなんてばかげた事を真面目に言う時が来るなんて思ってもみなかったが、どうやら今回の旅は予想以上に大きなものになるだろう。覚悟がなければすぐに死んでしまう。


「それで、・・・・どうした?」


リリアスが突然顔を上げた。何かを探すようにきょろきょろと周囲を見ている。


「我が王、そろそろお休みになってください。今夜はもう遅いですから」

「まだ話の途中・・・だ・・・・・」


 リリアスが俺の額に人差し指を触れさせた途端、猛烈な眠気が俺を襲った。抵抗のしようもなく、俺の精神は暗闇に沈んでいった。


「申し訳ありません。王をお守りするのは私のお役目ですから」


ぐるるるるっる・・・

がああうあああああ・・・


木の間の闇から何体もの鬼が姿を現す。鬼の咆哮は助けを求めるような悲しい叫びにも聞こえる。


「王はそこでゆっくり休んでいてください」


巨大な剣を出現させ、両の手に構えた。









今回もあまり面白くない話になってしまいました。

作品の背景がよくわからないままだと、話もよくわからないので先に説明しました。

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