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010-貴重な情報

「おはようございます、我が王」


 次の日の朝、リリアスの声で眼が覚める。

 粗末なベッドの上で身をよじり起き上ろうとするが、何故か身体が重く動かない。まるで身体の上に何かが乗っかっているような感じだ。


「・・・・すまんリリアス、一旦のいてくれ」


 いやに身体が重いと思えば、リリアスが上に乗り俺の胸に頬ずりをしていた。

 朝の目覚めとしては最高のシュチュエーションだが、いかんせん今はそんな気分ではない。仮に間違って手を出してしまおうものなら、シャルに呪いを掛けられそうだ。

 素直にのいてくれたリリアスと朝の挨拶を交わし、朝食の用意をする。


「そういやリリアス、体はもう大丈夫なのか?」

「はい、しばらく眠りましたのでだいぶ回復しました」


 どうやら彼女は俺が寝ている間に目覚めていたらしい。いつものように冷静で落ち着いた表情をしている。笑えばもっと可愛いと思うのだが。もったいない。


 今日の朝食は昨日買った野菜を少し使って作るスープと乾パンだ。宿の厨房を借りて作る。シャルの料理と比べれば、かなり簡単な物だ。

しかし横でリリアスは「王に食事を作っていただけるなんて光栄です」とかなんとか言っている。どうやら彼女にとって料理の味はそっちのけで、俺の作った物なら何でもいいらしい。










 朝食を食べ終えた俺達は荷物をまとめ、宿を出る。

現在は午前九時二十分。どうやら俺はかなり熟睡していたらしい。日が昇り、ほとんどの店が開店している。


「今日はどちらへ行かれるおつもりですか?」

「ええと、このポイントに行ってみようと思う」


 地図を取り出し、例のポイントを示す。今日は昨日出会った謎の女性、シルフィに教えてもらった地点に行ってみるつもりだ。

 リリアスはしばらく地図を眺めると、言った。


「確かにこの森の地下には遺跡があります。知っていたのですか?」

「いや、昨日会った女性の人に教えてもらったんだけど。まさか本当にあるとは」


 正直本当にあるとは思っていなかった。しかしリリアスがあると言えば、あるのだろう。

 突然リリアスが頬を小さく膨らませた。


「そうですか、我が王は私が寝ている間に他の女性の方と一緒にいたのですか」


 何かリリアスの言葉にとげがあるぞ。何を怒っているのだろうか。フイッと顔をそむけてしまいこちらを見ようとしない。


「あ~ええと・・・・・」


 怒っている理由を聞こうと口を開いたその時、街の空気が変わった。これは前にローズベクトで感じたものと同じだ。温かかった空気が一瞬にして冷たい感じに変わった。


「これってまさか」

「はい、鬼です」


やはりこの感じ、鬼のものだ。ということはこのザウエルの街に鬼が侵入したということか。

冷気のより強い方へと走る。人をかき分け、路地を走り、小さな階段をジャンプで越える。横を見るとリリアスがいない。しまった、さっきの大通りに置いてきたか。


「こちらの方向ですね」


 いきなり頭上から声が響いた。見上げると、なんと彼女は屋根の上を走っていた。確かに屋根なら障害物が少なくて速く走ることができるだろう。しかしいつの間に登ったんだ?


ぐるるるるるがああああああああ!!!!

「!っ・・・」


 突如都市全体に響き渡るような咆哮が轟いた。明らかに人間の声ではない。鬼の咆哮にまぎれて、都市を守る衛兵達の声も聞こえてくる。

 鬼が侵入したのは、都市の南側にある巨大な食料倉庫だった。ここには都市で生産された野菜や果物などが大切に貯蔵されている。ゆえに倉庫を奪われればこの都市は潰れてしまう。

 数は八体、全て狼のような姿をしている。応戦している三人の衛兵がそれぞれ手に持つのは槍形のLMV(ロストマジックウェポン)だ。三人とも銀色の高価なチェーンメイルを身に付けている。


「くそ、こいつら倉庫から出て行け!!」

「どうするんだ?このままじゃ食料が」

「いいからお前ら、さっさと攻撃しろ!!」


 鬼はぴょんぴょんと走り回り、衛兵達が突き出す槍を軽々とかわしている。このままだと衛兵達がやられる。助けなければ。

 腰から漆黒の刃を持つ刀形のLMV(ロストマジックウェポン)高周波(エレクトロ)(ブレイド)》を抜き放つ。グロックさんが洞窟の奥から回収してきてくれたのだ。

 ヴイイイ!と心強い音をたてて刃が青白い魔力を帯びる。


「せいっ!」


すかさず近くの鬼に背後から斬りつける。


ぎゃんっ!!


犬のような悲鳴を上げて斬りつけた鬼が動かなくなる。異臭を放ち、緑色の汚い体液がぶちまける。どうやら鬼は俺の存在に気づいていなかったようだ。不意を突かれた鬼達は一瞬動きが遅くなる。

さすがの衛兵はその隙を見逃すはずもなく、それぞれ一体ずつ槍で貫いた。これで後は四体だ。


「い、一般人は危ないから逃げてくれ」

「大丈夫だ、一応戦えるから・・・・よっと」


 飛びかかって来た鬼を蹴りとばし、斬りつけようとするがすぐに走って避けられてしまう。この狼の姿をした鬼は動きが速い。眼で追いかけることも困難だ。


「我が王に敵対するものは排除します」


振り向くと倉庫の入り口でリリアスが巨大な漆黒の剣を構えていた。刀身の長さはだいたい大人二人分くらいはありそうだ。

リリアスは大剣を振り上げ、そのまま振り下ろした。大剣の刃先が届く範囲に鬼はいない。しかし、振り下ろされた大剣は疾風を巻き起こし風の刃のようなもので残った四体の鬼を一撃で分断した。リリアスの顔はむすっとしたふくれっ面のままだ。


「・・・・・」

「・・・・え?」

「・・・・・・は?」


「・・・・怖ええ・・・」


 三人の衛兵は口をあんぐりと開けて唖然とし、俺は小さな悲鳴を上げた。この三人は何が起こったのか全く理解できていないだろう。数体の鬼を一撃で葬り去る少女なんて見たことがない。

これからはリリアスも怒らせてはいけない。この身が滅ぶ。


「・・・もう他の鬼はいないようですね」


 冷やかな眼で確認したリリアスはそのままスタスタと歩いていってしまう。これは後を追いかけなければいけないパターンだろうか。

 高周波刀を鞘に納め、リリアスを追いかけようと歩き出した俺の手が衛兵の一人にがっちりとホールドされる。さすがは鍛えられた衛兵、俺なんかが抵抗してもびくともしない。


「・・・ええと、何か?」

「お待ちください。一緒に来ていただきたい」




















 俺は腕を掴まれた状態のままで役所まで連れて行かれた。役所の内装は外観に相応しく様々な装飾が施されていた。天井には黄色の巨大なシャンデリアがぶら下がっている。通路には真っ赤なカーペットが敷かれ、値段が高そうな絵が壁に掛けられている。


「私の名はザウエル=フラウド、このザウエル都市を任されている者です」

「あ、ええと、ユリアン=フライヒラートです。ただの旅人です」


 今俺の前にはこのザウエル都市を治める、ザウエル市長が座っている。いかにも高価そうな派手な服装をしており、座り心地がよさそうな椅子に座っている。かなり老齢で善良そうな方だ。

 どうやら衛兵達の眼には、俺の斬撃で鬼を分断したという風に見えていたらしい。鬼を撃退したことに対しての御礼の言葉を市長自らに述べられていた。


「あなたのおかげでこの都市は救われました、なんと御礼を申し上げてよいか」

「いえ、気にしないでください。」

「いえいえ、あなたはこの都市の恩人です。何か御礼をさせてください」

「・・・・で、では一ついいですか?」 


 俺が聞くのは、最近発見された遺跡や魔石についての情報だ。まだ公開されていない情報というのはだいたい位の高い者が持っているはずだ。


「ほう、古代遺跡についての情報ですか・・・・少々お待ちください」


 ザウエル市長は下男を呼び、様々な書類を持ってこさせる。どれも俺なんかが見られる物ではないものばかりだが、市長は気にせず机の上いっぱいに広げる。

 これは手伝った方がいいだろうか?後で片づけするのが大変そうだ。


「ありました。こちらです」


 差し出された紙にはとある湖について書かれていた。湖の名は《レイクフェアリィ》。

 レイクフェアリィ湖は山上湖だ。

 その信じられないような大きさを除いては、典型的な山上湖で、水面にいくつもの山影を映している。昔から妖精が住むと言われる湖で、神聖な場所として何人も近付くことを禁止されている。

 俺も苦労してなんとか湖を見ることはできたが、澄んだ水で溢れとても幻想的な場所だった。


「最近ですが、湖の底に遺跡があるということが分かりまして、国王直属の探査隊が調査しているところです。もちろんこれは極秘ですよ。あそこは神聖なる場所ですから」

「もちろん分かっています。貴重な情報をありがとうございます」


 普通はこんな情報は外に漏らすことは厳禁だ。市長は俺に情報の口止めを固くし、沢山の金貨が入った袋を渡してくれた。もちろん口外するつもりはない。


「では、そろそろ失礼します。行かなくてはならない所がありますから」

「そうですか、お忙し中引きとめてしまい失礼しました。この都市にお立ち寄りの際にはぜひ役所へとおこしください。他の情報が提供できるかもしれません」


 ザウエル市長がいい人でよかった。世の中には法と権力を振りかざして人を奴隷のように見る奴がいる。俺はそんな奴らは嫌いだ。


 市長に御礼を言い、役所を出ると、空はほんのりとオレンジ色に染まっていた。まじかよ、もう夕方だ。貴重な情報を手に入れただけで今日はおしまいなのか。

 そう言えばリリアスはどこに言ったのだろうか。鬼との戦闘の後どこかに歩いていってしまったが。


「長いお話でしたね。我が王」

「うおわあ!!」


 突然リリアスの声が聞こえた。振り向くと、未だふくれっ面のままの彼女が立っていた。いったいどこから現われたのだろうか。物音一つしなかったぞ。

 しかし、こいつは一体いつまで怒っているつもりなのだろうか。そもそもなぜ怒っているんだ?全く分からん。


「今日はどうする?このまま遺跡に行くか?」

「王の御心のままに」


 今日はもう時間がない。このまま遺跡に向かってもいいが、夜になれば鬼達の行動が活発になる。なるべく危険は避けたいところだ。

 それにリリアスの機嫌も良くない。ここは無理せずゆっくりとするのが得策だろう。


「んじゃあ今日は休んで、また明日遺跡に行こう」

「御意」


 俺達は再び今朝の宿に戻り、部屋を取る。宿泊二日目ともなると、なんだかこの汚い部屋でも落ち着いてくる。そう言えばここの部屋ベッドが一つだったよな。


「ええと、ベッドを増やしてもらうように頼んでく・・・」


 部屋を出ようとした俺は腕を掴まれ、そのままベッドの上に連れて行かれる。ベッドの上に横たわった俺の上にリリアスが覆いかぶさる。

これはかなりやばいのではないだろうか。健全な男子が抑えきれない衝動を誘う最高のシュチュエーション。俺の心臓は大丈夫だろうか。鼓動が速すぎて止まったりしないだろうか。


「・・・リリアス、このまま寝るのか?」

「はい、何か?」


 リリアスの威圧するような視線に負けて何も言えない。

 間違って手を出してしまわないように硬く拳を握って眠りに着いた。微かに匂ういい香りが俺をすぐに深い眠りへと落とし込んだ。










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