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学期末の授業

作者: 橘 みとせ
掲載日:2026/05/09

「先生!今日は二学期最後の授業なので、何かお話してください!」

まだ教科書も開かないうちに、クラス委員が口火をきった。

「初恋の話!」

教室がざわめいた。


学期末。

他のクラスではどうか知らないが、うちのクラスでは各教科の最後の授業をつぶして、先生に何か話をしてもらうのが恒例だった。

今日は、日本史の学期最後の授業だ。

四角い顔で、どこか不満そうに話す日本史の先生は、クラスの副担任でもあった。


女子校に赴任した若い男性教師といえば、たいてい噂話やからかいの的になるが、先生には、どこか生徒の茶々に乗らない空気があった。

堅苦しさはないが、たいてい真顔で冗談も言わず、淡々と授業を進める。

それでも、ふと笑うと、目じりに皺が寄り、優しい顔になるのが意外だった。


教室に入るなり、授業の早仕舞いをねだられた先生は、あまり表情を変えずに、

「まあ、10分早めに切り上げますか。それまでは授業に集中してください。」

と言った。

「はーい。」

誰かがおどけて返事をし、また少し笑いが起きた。


わたしの席は最前列で、教壇のすぐ前だった。

先生は黒板の前に立ち、板書しながら講義する。

声は大きく、熱が入ると飛沫が飛んできそうだった。


授業終了10分前。

先生は律儀に講義を終えて、教壇の椅子に腰を下ろした。

そして本当に、いたって真面目に初恋の話を始めた。


高校時代の話だった。

想い人は他校の女子で、制服のタータンチェックのスカートが印象的だったという。


卒業間近のある日。

意を決して気持ちを伝えようと会う約束をしたが、前日になって「行けなくなった」と連絡が入った。


「きっと相手も、何か察したんでしょうね。」

先生は他人事のようにそう言って、ちょうどその頃に読んだという、学生の文芸誌の話を続けた。


「その文芸誌に、都々逸(どどいつ)みたいな一節が載っていたんですよ。」


― 猫ならあなたの膝の上

  蚊ならあなたの柔肌に 恋の痛みをあたえましょ


「上手いなぁと思いましたね。」


ふと、先生の手に目が行った。

教壇の上で軽く組まれた指が、微かに震えていた。

白くなめらかなその指は、白魚(しらうお)のようだった。

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