第3話 静かな滞在と、試練の前触れ
第3話 静かな滞在と、試練の前触れ
アルシア族の集落の中での時間は、驚くほど静かに流れていた。
森の奥にあるはずなのに、ここだけ切り離されたような感覚がある。
風は吹いている。
葉も揺れている。
だが――音だけが遠い。
「……なんか、落ち着かないな」
レオがぽつりと呟いた。
周囲を見渡しながら、ゆっくりと言葉を続ける。
「静かすぎるっていうか……整いすぎてる感じがする」
エルナが小さく笑う。
「ここ、音を抑えてるからね」
「……音を?」
リリアが問い返す。
「はい。魔力の流れに合わせて、音も制御されているんだと思います」
「正解」
エルナが軽く頷く。
ユウトは何も言わない。
ただ、集落の中を見ていた。
人の気配はある。
だが、近づいてこない。
距離を測るように、こちらを見ている。
「……見られてるな」
リリアが静かに答える。
「はい。でも敵意はありません」
⸻
そのまま、数日が過ぎた。
何も起きない時間。
だが、それぞれが整えていた。
リリアは短剣の動きを研ぎ澄ませる。
レオは鉤爪の扱いを身体に馴染ませる。
エルナは目を閉じ、音を拾う。
ユウトは、それを見ていた。
⸻
夕方。
四人は自然と同じ場所に集まっていた。
火の揺らめき。
静かな空気。
その中で――少女が口を開く。
「……名前、まだ聞いてない」
ユウトが先に言う。
「ユウトだ」
リリアが続く。
「リリアです」
「エルナ」
「レオだ」
「ぴよ」
ヒヨコの鳴き声が、わずかに空気を揺らす。
少女は小さく頷く。
「……リーフ」
その名が、静かに落ちる。
⸻
少しの沈黙。
そして――
「ここに来た理由」
リーフの視線が、ユウトに向く。
「仲間を探してる」
リリアが続ける。
「連れ去られた人たちがいます」
エルナが補足する。
「黒いローブの連中」
レオが静かに言う。
「……あいつらか」
リーフは少しだけ目を細める。
「……奥に行けば、何か分かるかもしれない」
ユウトが聞く。
「どうすれば行ける」
リーフは一度、視線を外した。
そして――
「……試練を受ける」
その言葉が落ちる。
空気が、わずかに張り詰める。
リリアが小さく息を整える。
「試練……ですか」
リーフは頷く。
「ここから先は、誰でも入れる場所じゃない」
「認められた者だけ」
エルナが軽く言う。
「やっぱりそういうやつか」
レオは静かに言う。
「避けては通れないな」
ユウトは短く答える。
「受ける」
迷いはない。
その瞬間――
リーフが続けた。
「……でも、その前に」
ユウトが視線を向ける。
リーフは言う。
「王に会う」
⸻
「……王?」
レオがわずかに眉を動かす。
リリアも驚きを隠さない。
「この集落に、王がいるんですか」
エルナは納得したように呟く。
「なるほどね……だから外と切り離されてる」
リーフは歩き出す。
「試練は、勝手には受けられない」
「王の許可が必要」
ユウトは短く言う。
「案内できるか」
「できる」
それだけだった。
⸻
集落の奥へ進む。
空気が変わる。
さらに静かに。
さらに深く。
やがて、一つの大きな建物が見えてくる。
自然と一体化したような造り。
だが――確かな“中心”。
リーフが立ち止まる。
「……ここ」
振り返る。
「準備、いい?」
ユウトは答える。
「ああ」
リリアも頷く。
「はい」
レオも静かに言う。
「問題ない」
エルナが小さく笑う。
「面白くなってきたね」
⸻
リーフが扉に手をかける。
ゆっくりと開く。
その先に――
“王”がいる。
試練の前に。
まずは、その存在と向き合うことになる。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
静かな滞在から一転、物語は少しずつ動き出してきました。
試練の前に“王”と対面することになり、ここからさらに展開が大きく変わっていきます。
それぞれが準備してきたものが、どう試されるのか。
そして、この場所に隠された意味とは――。
引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。
感想やコメントもお待ちしています!




