第1話 見えない魔力の中へ
第1話 見えない魔力の中へ
少女の後ろ姿を追いながら、ユウトたちは歩いていた。
淡い緑の髪が、わずかに揺れる。
足音は小さい。
だが、その一歩一歩に無駄がない。
まるで、この場所そのものと同化しているかのようだった。
「……静かですね」
レオが小さく呟く。
確かに。
風の音もない。
鳥の声もない。
あるのは――
“何かが満ちている感覚”だけ。
リリアが周囲を見ながら言う。
「……魔力が濃すぎますね」
「肌に触れてくるような感覚があります」
エルナも頷く。
「普通じゃないね」
ユウトは何も言わない。
ただ前を見る。
少女の背中。
それだけを追っていた。
⸻
しばらく歩く。
景色は変わらない。
木々はある。
地面もある。
だが――
どこか現実感が薄い。
「……ねえ」
レオが小さく言う。
「これ、ちゃんと進んでるよね?」
その言葉に、リリアも少しだけ視線を動かす。
「……分かりません」
エルナが苦笑する。
「その感覚、正しいと思うよ」
レオが顔をしかめる。
「え?」
「ここ、“距離の感覚”おかしい」
その瞬間。
ユウトが止まる。
「……どういうことだ」
エルナが少しだけ考えてから言う。
「同じ場所を歩いてる可能性もある」
レオが一気に不安になる。
「は!?ループってことか!?」
少女が、そこで初めて振り返る。
「違う」
短く言う。
「ちゃんと進んでる」
レオがすぐに返す。
「じゃあなんで景色変わんないんですか!」
少女は少しだけ視線を上に向ける。
「ここは、“外側から見える景色”が固定されてる」
「中身は動いてるけど、見た目は変わらない」
「……は?」
レオが完全に混乱する。
エルナが小さく笑う。
「なるほどね」
「魔力で空間を“覆ってる”感じか」
少女は何も言わない。
ただ、また歩き出す。
ユウトも続く。
「……つまり」
レオが言う。
「ここ、普通の場所じゃないってことなんだ…」
ユウトが短く答える。
「ああ」
それで十分だった。
⸻
少し進むと、空気が変わる。
さっきまでとは違う。
“濃い”というより――
“重い”。
「……っ」
リリアが足を止める。
「今、さらに強くなりました」
エルナも目を細める。
「ここから先、さらに深い場所だね」
少女が言う。
「ここから先は、選ばれた者しか進めない」
その言葉に、レオが顔をしかめる。
「またそれですか……」
ユウトは前に出る。
一歩。
空気が押し返してくる。
だが、止まらない。
もう一歩。
さらに圧が増す。
それでも――
止まらない。
少女がそれを見る。
「……やっぱり変」
小さく呟く。
リリアも続く。
少しだけ苦しそうにしながらも、進む。
「……大丈夫です」
エルナも後ろからついてくる。
レオも歯を食いしばる。
「くそ……負けるかよ」
一歩。
また一歩。
全員が、進む。
その時――
少女が立ち止まる。
「……ここまで」
その言葉と同時に――
空間が、変わる。
景色が“ほどける”。
今まで見えていたものが、消えていく。
その先にあったのは――
まったく別の世界だった。
光。
淡く揺れる空気。
地面には、見たことのない紋様。
そして――
遠くに見える建造物。
「……これが」
リリアが息を呑む。
エルナが静かに言う。
「隠されてた“本当の景色”か」
レオが呟く。
「……すごいな」
ユウトは、ただ前を見る。
少女が振り返る。
「ここからが、アルシア族の中」
静かに言う。
「覚悟して」
ユウトは頷く。
「ああ」
そのまま一歩踏み出す。
新しい世界へ。
魔力に満ちた領域の、奥へ。
第1話を読んでいただき、ありがとうございます!
これまでとは明らかに違う空間に入り、少しずつ“この場所の異質さ”が見えてきた回になりました。
景色が変わらない感覚や、進んでいるのに進んでいないような違和感など、少しでも伝わっていれば嬉しいです。
そして最後に見えた“本当の景色”。
ここからいよいよ、アルシア族の領域の中へと踏み込んでいきます。
この先で何が待っているのか、どんな出会いがあるのか。
引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです!
これからもよろしくお願いします!




