第0話 魔力に愛された種族
第0話 魔力に愛された種族
静寂が支配していた。
ユウトたちが辿り着いたその場所は、これまでのどの土地とも違っていた。
空気が――違う。
重いわけでもない。
冷たいわけでもない。
ただ、満ちている。
「……なんだここ」
レオが小さく呟く。
ユウトは答えない。
だが同じことを感じていた。
空気の中に、何かが“流れている”。
見えないはずのものが、確かにそこにある。
リリアもゆっくりと周囲を見渡す。
「……魔力、ですね」
静かに言う。
「こんなに濃い場所、初めて見ました」
エルナが周囲を見渡す。
その表情が、わずかに変わる。
「……おかしい」
レオが振り向く。
「え?」
エルナは少しだけ眉をひそめた。
「ここ、どこか分からない」
一瞬、空気が止まる。
「は?」
レオが思わず声を上げる。
「いや、エルナでも分かんないってどういうことだよ」
エルナは軽く首を振る。
「知らない場所じゃない」
「“存在しないはずの場所”って感じ」
その言葉に、リリアの表情が変わる。
「……それは」
ユウトは黙って周囲を見る。
嫌な感覚ではない。
だが――
“普通じゃない”。
その時。
空気が、わずかに揺れた。
「……っ」
ユウトが反応する。
気配。
近い。
だが、見えない。
次の瞬間。
「止まって」
声がした。
すぐ近く。
レオが構える。
「どこだよ……!」
リリアも短剣に手をかける。
その時――
空間が“ほどける”。
歪みが消えるように、形が現れる。
一人の少女。
淡い緑の髪。
透き通るような瞳。
自然にそこに現れた。
「……え」
レオが声を漏らす。
ユウトは目を逸らさない。
少女は静かに言う。
「これ以上、入らないで」
敵意はない。
だが、明確な拒絶。
リリアが一歩前に出る。
「ここは……どういう場所ですか?」
少女は少しだけ視線を動かす。
そして答える。
「ここは――アルシア族の領域」
空気が変わる。
ユウトが小さく呟く。
「……アルシア族」
聞いたことのない名。
だが、それだけで分かる。
ただの種族じゃない。
少女が続ける。
「魔力に選ばれた者たちの場所」
その瞬間――
空気が震える。
見えない力が、確かに存在している。
レオが顔をしかめる。
「……これ全部、魔力かよ」
少女は頷く。
「そう」
リリアが静かに息を呑む。
「……だから、こんなに」
少女の視線が、ユウトへ向く。
「あなたたち、外から来たでしょ」
ユウトは短く答える。
「ああ」
少女はそれ以上追及しない。
ただ言う。
「なら、ここは危ない」
レオが眉をひそめる。
「なんでだよ」
少女は静かに言う。
「ここは、“適応できない者”を拒む場所」
その瞬間――
圧がかかる。
空気が重くなる。
見えない力が、身体を押す。
「……っ!」
レオが歯を食いしばる。
リリアもわずかに表情を歪める。
エルナも一瞬だけ目を細める。
「……なるほどね」
ユウトは、動かない。
ただ立っている。
少女がそれを見る。
「……平気なんだ」
ユウトは何も言わない。
ただ、見返す。
少女が少しだけ興味を持つ。
「……変な人」
レオが思わず言う。
「いや今のどう見ても普通じゃないだろ!」
だが少女は気にしない。
そのまま言う。
「帰るなら今」
「進むなら――覚悟して」
静かな言葉。
だが重い。
ユウトは迷わない。
「進む」
短く。
迷いなく。
少女は、わずかに笑う。
「……そう」
そして背を向ける。
「じゃあ、ついてきて」
そのまま歩き出す。
説明もなく。
だが――
それで十分だった。
ユウトたちは視線を交わす。
そして歩き出す。
知らない場所へ。
存在しないはずの領域へ。
“アルシア族”の世界へ。
第5章スタート、そして第0話を読んでいただきありがとうございます!
これまでとは少し雰囲気の違う場所に入り、物語も新しい段階へ進みました。
“アルシア族”という新たな種族、そしてこれまでとは違う空気感――少しでも伝わっていたら嬉しいです。
エルナですら分からない場所、そして現れた謎の少女。
ここから先は、これまで以上に不思議で、少し危うい世界になっていきます。
ユウトたちがこの場所で何を知り、どう進んでいくのか。
ぜひこれからも見守っていただけたら嬉しいです!
引き続きよろしくお願いします!




