第2話 水の都の酒場
第2話 水の都の酒場
水の都に入ってしばらく。
静かな通路を進む中で、ユウトが足を止めた。
「……エルナ」
前を歩いていたエルナが振り返る。
「ん?」
「少し聞いてほしいことがある」
エルナは軽く目を細める。
「……重そうだね」
ユウトは短くうなずいた。
「中で話す」
視線の先には、水路に囲まれた建物があった。
中からは、水音に混じってわずかな話し声が聞こえる。
エルナが肩をすくめる。
「ちょうどいい場所あるよ」
「酒場か」
「ああ。こういう話するなら、あそこが一番」
三人はそのまま中へ入る。
レオもすぐ後ろについてくる。
ヒヨコがユウトの肩で小さく鳴いた。
「ぴよ」
魚人族たちが一瞬だけ視線を向けるが、すぐに戻した。
ユウトたちは端の席に座る。
エルナがテーブルに肘をつく。
「で?」
「さっきの話、聞かせてよ」
ユウトは少しだけ間を置いた。
視線を落とし、ゆっくり話し始める。
「……街が襲われた」
リリアが続ける。
「突然でした。黒いローブの者が現れて……」
ユウトの目が細くなる。
「最初は、ただの襲撃だと思った」
「でも違った」
一瞬、言葉を切る。
「途中で……あいつの動きが変わった」
エルナが静かに聞く。
「どう変わったの?」
ユウトは思い出すように言う。
「こっちを見てた」
「……いや、違う」
わずかに首を振る。
「アリスを見てた」
空気がわずかに重くなる。
ヒヨコが小さく羽を揺らす。
「ぴよ……」
ユウトは続ける。
「それまでは余裕だった」
「でも、アリスに気づいた瞬間――」
「明らかに狙いが変わった」
リリアが静かに言う。
「……一点に集中したようでした」
ユウトがうなずく。
「そのあとだ」
「一気に距離を詰めてきた」
「こっちを無視してでも、アリスに向かってきた」
レオが横で拳を握る。
何も言わない。
だが、その悔しさは伝わる。
ユウトの声が少し低くなる。
「止めようとした」
「全員でな」
「でも、止めきれなかった」
リリアが続ける。
「……力の差がありました」
「攻撃は通るのに、意味がなくて……」
ユウトが引き継ぐ。
「途中で、空間が歪んだ」
エルナの目が細くなる。
「渦みたいなものが出てきた」
「引き寄せられる感覚だった」
「そのまま――」
一瞬、言葉が止まる。
「アリス達が、まとめて連れていかれた」
沈黙。
水の音だけが響く。
エルナはゆっくりと息を吐いた。
「……なるほどね」
少し視線を落とす。
「それ、魔神族だ」
ユウトは静かに聞く。
「やっぱりか」
エルナは指でテーブルを軽く叩く。
「黒いローブ」
「空間干渉」
「あと、その動き」
「見つけてから狙いを変えるのも、それっぽい」
ユウトは少しだけ前に身を乗り出す。
「場所は分かるのか」
エルナは首を横に振る。
「正確な場所は無理」
「でも――」
少しだけ間を置く。
「繋がりはある」
ユウトの目がわずかに動く。
「……辿れるのか」
エルナは軽く肩をすくめる。
「たぶんね」
そして、少しだけ笑う。
「大丈夫」
「知り合いのところに行こう」
リリアが静かに問う。
「……その方は、何が分かるのですか?」
エルナは軽く指を立てる。
「流れ」
「痕跡」
「あと――」
わずかに間を置く。
「どこに繋がってるか」
ユウトは立ち上がる。
「案内しろ」
エルナも立つ。
「はいはい」
「ついてきて」
レオも静かに頷く。
ヒヨコが羽を揺らす。
「ぴよ」
水の都の酒場を後にする。
静かな街の中を進む。
やがて、建物の雰囲気が変わっていく。
人の気配が減る。
音が減る。
奥へ、奥へと進んでいく。
エルナが足を止めた。
「……ここ」
視線の先。
古びた建物が、水の上に静かに佇んでいた。
扉の奥から、わずかに光が漏れている。
ユウトはその光を見つめる。
「……ここか」
エルナはうなずく。
「そう」
「“見えるやつ”がいる場所」
静かな空気が流れる。
その奥にあるものを、全員が感じ取っていた。
ユウトは一歩、前に出る。
「……行くぞ」
その扉の先に。
次の答えがある。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
第2話では、水の都での情報整理と、次へ進むための道筋を描きました。
戦いではなく「何が起きたのか」「どこへ向かうのか」に焦点を当てた回になっています。
アリス達がどのように連れ去られたのか、そして敵の異質さも少しずつ見えてきました。
そして次はいよいよ、“見える者”の登場です。
ここから物語がさらに動き出していきます。
引き続き読んでいただけると嬉しいです。
感想やコメントもお待ちしております。




