第16話 残された結晶と導きの音
第16話 残された結晶と導きの音
静寂が残る。
さっきまで確かにそこにあった気配は、もうどこにもない。
水面は穏やかに揺れている。
まるで、最初から何もなかったかのように。
「……終わりましたね」
リリアが小さく言う。
ユウトは水面を見たまま、短く答える。
「ああ」
その視線は、ただの水ではなく――
その奥を見ていた。
「……何か落ちてる」
⸻
水際へと近づく。
足元に気をつけながら、ゆっくりと進む。
波の間に、淡い光が揺れている。
「……あれですね」
リリアも気づく。
レオが少し前に出る。
「近づいても大丈夫ですか?」
ユウトは周囲を一瞥する。
気配はない。
完全に静かだ。
「……問題ない」
そう言って、水面へ手を伸ばす。
⸻
触れた瞬間、冷たい感触。
水ではない。
固い。
だが――
どこか、生きているような気配。
ゆっくりと持ち上げる。
それは、透き通る結晶だった。
内部で、淡い光が揺れている。
まるで呼吸しているかのように。
「……綺麗ですね」
リリアが呟く。
レオも目を細める。
「これ……ただの素材じゃないですね」
エルナが覗き込む。
ほんの少しだけ表情を変える。
「……うん」
それ以上は言わない。
⸻
「ぴよ」
肩の上。
ヒヨコが鳴く。
その視線は、結晶に向いていた。
じっと見ている。
わずかに、羽が揺れる。
ユウトはそれに気づく。
だが、何も言わない。
「……持っていく」
短く言う。
意識を向ける。
無限収納。
次の瞬間。
結晶は音もなく消える。
カバンの中へ。
⸻
リリアが小さく頷く。
「回収できましたね」
レオも少し安心したように言う。
「後でちゃんと確認したいですね」
エルナは静かに水面を見る。
「……うん」
その声には、わずかな含みがあった。
⸻
ユウトは水面から視線を外す。
「……で」
前を見る。
その先に広がる、水。
広い。
深い。
向こう岸は見えるが、距離がある。
「どうやって行く」
リリアも同じ方向を見る。
「橋はありませんね」
レオも首を振る。
「泳ぐのは厳しいです」
流れもある。
深さも分からない。
簡単には渡れない。
⸻
その時。
「大丈夫」
エルナが言った。
ユウトが視線を向ける。
「……何かあるのか」
エルナは軽く頷く。
「問題ない」
そう言って、笛を取り出す。
そして――
静かに、吹いた。
⸻
音が広がる。
柔らかく、遠くまで届く音。
水面が揺れる。
波紋が広がる。
「……来るよ」
エルナが小さく言う。
次の瞬間。
水が動く。
内側から、盛り上がる。
一つじゃない。
いくつも。
影が浮かび上がる。
「……魚?」
レオが驚く。
だが、その大きさは普通じゃない。
人が乗れるほどのサイズ。
ゆっくりと、水面に現れる。
リリアが息を呑む。
「……すごいですね」
魚たちはエルナの周りに集まる。
まるで従うように。
エルナは軽く振り返る。
「乗れるよ」
ユウトは少しだけ間を置く。
そして言う。
「……便利だな」
エルナは少し笑う。
「でしょ」
⸻
魚が並ぶ。
水の上に、道のように。
ユウトは一歩踏み出す。
足を乗せる。
沈まない。
しっかり支えられている。
「……行けるな」
リリアも続く。
慎重に足を乗せる。
レオもバランスを取りながら乗る。
⸻
「ぴよ」
ヒヨコが小さく鳴く。
その瞬間。
魚たちがわずかに反応する。
だがすぐに落ち着く。
誰も気づかない。
エレナだけが、一瞬だけ目を細める。
⸻
エルナが先頭に立つ。
「じゃ、行こっか」
その一言で、魚が動く。
ゆっくりと。
だが確実に。
水の上を進み始める。
⸻
波を切る音。
静かに進む感覚。
森が遠ざかっていく。
そして――
視界の先に広がる。
水の向こう側。
そこにある影。
魚人族の街。
⸻
ユウトは前を見る。
何も言わない。
だが、その足は止まらない。
次へ。
その先へ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
戦いを越えたあとの静かな時間と、新しい場所へ進む準備の回でした。
そして今回は、エルナの力が戦闘以外でも活きる形を描いています。
音が“戦うためのもの”だけではない、というのもこの先のポイントになっていきます。
少しずつですが、物語の舞台も広がってきました。
次はいよいよ魚人族の街へ入っていきます。
引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
感想やコメントもお待ちしています。
いつも本当にありがとうございます。




