第15話 水底を断つ双剣
第15話 水底を断つ双剣
音がぶつかり合う。
エルナの笛の音と、セイレーンの放つ異質な響き。
見えない波が空間を押し合い、森そのものが揺れているようだった。
ユウトはその中心に立つ。
双剣を握り、前を見据える。
「……効いてる。でも、足りないな」
低く呟く。
エルナの音で確かに押し返している。
だが、完全に制圧できているわけではない。
セイレーンは崩れない。
むしろ、じわじわと侵食してくる。
「……このままだと押し切られます」
リリアが歯を食いしばりながら言う。
レオも後方で踏ん張っている。
「どうすれば……!」
ユウトは視線を外さない。
水面。
揺れている中心。
あの中に――核がある。
「……あそこだ」
短く言う。
リリアが顔を上げる。
「中心……ですか?」
「たぶんな」
確信はない。
だが、感覚がそう告げている。
「だったら――」
ユウトは一歩踏み出す。
「そこまで行く」
⸻
踏み込む。
同時に、セイレーンの音が強まる。
――グォン……
頭が揺れる。
視界が歪む。
足が重くなる。
「……くそ」
それでも止まらない。
ユウトは前に出る。
一歩。
さらに一歩。
エルナの音が重なる。
「止まらないで」
短く、しかし強い声。
音が押し返す。
ユウトの視界が戻る。
「……助かる」
「あと少し」
エルナが言う。
限界が近い。
それでも、音を止めない。
⸻
水の刃が飛ぶ。
ユウトは弾く。
一つ、二つ。
だが三つ目が肩をかすめる。
「……っ!」
血がにじむ。
それでも止まらない。
リリアが横から入り、刃を逸らす。
「前、見てください!」
「任せる」
短いやり取り。
無駄はない。
レオも後方から声を上げる。
「行けます!今なら!」
⸻
セイレーンの音がさらに強くなる。
空間が圧縮されるような感覚。
「……っ!!」
リリアが膝をつく。
レオも動きが止まる。
エルナの音が押される。
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
ユウトの視界が暗くなる。
だが――
その時。
「ぴよ」
小さな声。
肩の上。
ヒヨコ。
その鳴き声が響いた瞬間。
空気がわずかに揺れる。
ほんの一瞬。
だが確かに。
セイレーンの音が“乱れた”。
「……今だ」
ユウトの目が開く。
踏み込む。
限界を超える速度。
距離を詰める。
水面の中心へ。
セイレーンが反応する。
水が巻き上がる。
防ぐように。
だが遅い。
ユウトは止まらない。
「――そこだ」
双剣を構える。
交差。
そして――
振り抜く。
⸻
刃が、水を裂く。
硬い。
重い。
それでも――
届く。
中心。
わずかに歪む核。
そこへ――
深く、突き刺さる。
⸻
音が止まる。
一瞬の静寂。
⸻
水が崩れた。
セイレーンの形が崩壊する。
波紋のように広がり、砕ける。
音も、消える。
完全に。
⸻
静寂。
風の音だけが残る。
ユウトはその場に立ち尽くす。
ゆっくり息を吐く。
「……終わったか」
リリアが顔を上げる。
「……はい」
レオも肩の力を抜く。
「……すごい」
エルナは笛を下ろす。
「……ちゃんと届いたね」
ユウトは双剣を下ろす。
「お前の音がなきゃ無理だった」
エルナは首を振る。
「一人じゃ無理だよ」
リリアが小さく頷く。
レオも笑う。
「みんなで、ですね」
⸻
水面が、ゆっくりと静まっていく。
その中央に――
わずかに光るものが見えた。
ユウトは目を細める。
「……」
一歩、近づく。
水面の上。
静かな波の中に、確かに残っている。
「……何か落ちてる」
あとがき
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
ついにセイレーンとの戦いが決着しました。
音という特殊な戦い方の中で、それぞれの役割がしっかり重なった戦いになったと思います。
そして最後に残された“何か”。
ここからまた新しい展開に繋がっていきます。
次の話もぜひ読んでいただけると嬉しいです。
感想やコメントもお待ちしています。
いつも本当にありがとうございます。




