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社畜だった俺のスキルはガチャだけ。気づいたら最強になっていた  作者: 1315
第3章 「響きの森と導きの旋律」
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第8話 森の奥の吟遊詩人

第8話 森の奥の吟遊詩人


森は、深く静まり返っていた。


水辺から離れたはずなのに、湿った空気だけが残っている。


「……この辺り、少し変ですね」


リリアが周囲を見ながら言う。


「ああ」


ユウトも短く返す。


魔物の気配は薄い。


だが――妙な圧迫感だけが残っている。


「……誰か、いる……?」


レオが足を止める。


その視線の先、木々の奥に細い煙が立っていた。


「煙……?」


「人がいますね」


三人は警戒しながら進む。


やがて、小さな木の小屋が見えてきた。


簡素だが整っている。


確かに、人が住んでいる場所だった。


ユウトが扉の前に立つ。


ノックしようとした、その時。


「……入っていいよ」


中から声がした。


女性の声。


静かで、余裕のある響き。


「……気づかれてたか」


ユウトは小さく呟き、扉を開ける。


中は落ち着いた空間だった。


木の家具。


整えられた室内。


壁には弦楽器が掛けられている。


そして――


一人の女性。


椅子に座り、こちらを見ていた。


整った顔立ち。


長い髪。


ただ美しいだけではない。


その耳はわずかに長く、尖っている。


リリアが小さく息を呑む。


「……妖精族……」


女性は微かに笑った。


「まあ、そんなところ」


軽く流すように言う。


ユウトは何も言わない。


ただ観察する。


女性は視線を三人に向ける。


そして――


リリアで止まる。


「……へぇ」


ほんの一瞬。


何かを見抜くような目。


だがすぐに戻る。


ユウトが口を開く。


「……ここで何してる」


女性は肩をすくめる。


「見ての通り、暮らしてるだけ」


軽く指を鳴らす。


壁の弦楽器がわずかに震える。


「……吟遊詩人、ってところかな」


レオが小さく呟く。


「吟遊詩人……」


女性は頷く。


「音で生きてる人、ってこと」


そして、少しだけ目を細める。


「……あれに会ったんでしょ?」


空気が変わる。


リリアが一歩前に出る。


「……知っているんですか」


「うん」


女性は軽く答える。


「歌で引き込むやつ」


ユウトが低く言う。


「……何だ、あれは」


女性は短く答える。


「水の奥にいる」


「表に出てるのは一部」


「繋がってる」


ユウトはわずかに頷く。


「……やっぱりか」


女性は続ける。


「だから削っても終わらない」


「ちゃんと届かないと意味ない」


リリアが聞く。


「……どうすればいいんですか」


女性は静かに言った。


「音だよ」


レオが言う。


「止まるのは分かりました……でも、それだけじゃ……」


「うん、足りない」


女性はあっさり言う。


そしてユウトを見る。


「それ、吹いてるよね」


ユウトは少しだけ間を置く。


そして――腰のカバンに手を入れる。


取り出したのは、あの笛。


「……これのことか」


女性は軽く頷く。


「そう、それ」


ユウトは笛を口元に当てる。


一度、息を整える。


そして――吹く。


だが。


「……」


何も起きない。


音すら鳴らない。


ただ、空気が抜けるだけ。


もう一度、ユウトは吹く。


だが結果は同じだった。


「……音、出てない……」


リリアが小さく呟く。


ユウトは笛を見つめる。


女性は静かに言った。


「それ、“音”になってない」


「出てるのは、ただの風」


レオが戸惑う。


「じゃあ……俺たち……」


女性は迷いなく言った。


「何も出せてない」


その一言が、静かに落ちる。


ユウトは笛を見つめたまま言う。


「……じゃあ、どうすればいい」


女性は少しだけ間を置いた。


そして言う。


「出せる人は、限られてる」


沈黙。


ユウトが低く聞く。


「……誰が出せる」


女性は――


ほんの少しだけ笑った。


迷いなく言う。


「私」


そのまま、笛に手を伸ばす。


「それ、貸して」


ユウトは無言で渡す。


女性は受け取り、ゆっくりと構える。


その瞬間――


空気が変わる。


リリアの肩がわずかに揺れる。


女性は目を閉じる。


そして――


静かに、息を吹き込んだ。


音が鳴る。


小さい。


だが――深い。


森の奥へ、届く音。


遠くで、何かが反応する。


女性は笛を下ろし、ユウトに返した。


「ね?」


その一言で、十分だった。


三人は理解する。


自分たちはまだ――


“音にすらなっていない”ことを。


ユウトは笛を受け取る。


そして、短く言う。


「……教えろ」


女性は微笑んだ。


「いいよ」


その言葉とともに――


“音”の本質へ踏み込む道が、静かに開かれた。

第8話を読んでいただき、ありがとうございます。


今回は新たな出会いとともに、“音”という力の本質に少し触れる回となりました。

今までできていたつもりのことが、実はまったく届いていなかった――そんな気づきも含めて、大きな転機になったと思います。


ここからは、ただ戦うだけではなく、“どう扱うか”が重要になっていきます。

それぞれがどこまで踏み込めるのか、ぜひ見守っていただけたら嬉しいです。


いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。

感想やコメントもお待ちしております。

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