第6話 退くという選択
第6話 退くという選択
「はああああッ!!」
ユウトの双剣が、本体へ叩き込まれる。
音が止まり、動きが鈍ったその一瞬。
確実に、当たった。
水が大きく裂ける。
だが――
「……っ」
浅い。
確かな手応えはある。
だが、決定打にはならない。
すぐに水が集まり、形を取り戻す。
「……まだ足りないか」
ユウトが低く呟く。
その瞬間。
歌が、戻る。
今までで一番強く。
空気が重く沈む。
視界が歪む。
「……っ、く……!」
リリアがよろめく。
レオも膝をつく。
「……意識が……」
ヒヨコが鳴く。
「ぴよッ!」
一瞬だけ、揺らぐ。
だが――
すぐに戻る。
さっきよりも早く。
「……耐性が上がってる……?」
リリアが息を整えながら言う。
ユウトは歯を食いしばる。
「……厄介だな」
水の腕が、さらに増える。
範囲も広がる。
逃げ場を潰すように。
ドンッ!!
ドンッ!!
連続で叩きつけられる。
三人は回避し続ける。
だが――
余裕はない。
レオの動きが遅れる。
リリアも防御に回る。
ユウトが前に出て、全てを受ける形になる。
「……っ!」
腕を弾く。
もう一本を斬る。
だが間に合わない。
水の衝撃が体をかすめる。
「ぐっ……!」
体勢が崩れる。
その瞬間。
“それ”の顔が、近づく。
歌が、直接流れ込む。
拒めないほどに。
深く。
強く。
「……くそ……」
意識が削られる。
足が止まる。
その時。
「ユウトさん!」
リリアの声。
必死に踏みとどまる。
だが、理解していた。
このまま続ければ――
「……無理だ」
小さく呟く。
だがその声は、はっきりしていた。
リリアが振り向く。
「……っ」
ユウトの目を見る。
そこに迷いはない。
「一度退く」
短く言う。
レオが驚く。
「え……でも……!」
ユウトが遮る。
「このままじゃ全員やられる」
低く、強く。
現実を切る言葉。
「……今は勝てない」
沈黙。
その言葉の重さが、三人に落ちる。
リリアが静かに頷く。
「……分かりました」
レオも歯を食いしばる。
悔しさが滲む。
だが――
「……はい」
引くことを選ぶ。
ユウトがすぐに指示を出す。
「タイミングを合わせる」
「合図で一気に離脱だ」
リリアが構える。
レオも剣を握り直す。
その瞬間。
水の腕が一斉に迫る。
「……今だ!」
ヒヨコが鳴く。
「ぴよッ!!」
空気が震える。
歌が一瞬止まる。
その隙。
三人が同時に跳ぶ。
一気に距離を取る。
森の方へ。
後退。
走る。
止まらない。
背後で水が荒れる音が響く。
追ってくる気配。
だが――
一定距離を超えた瞬間。
その気配が止まる。
歌も、途切れる。
静寂。
三人は、そのまま走り続ける。
やがて。
完全に気配が消えた。
「……はぁ……」
レオがその場に座り込む。
リリアも息を整える。
「……助かりましたね……」
ユウトは振り返らない。
ただ、静かに言う。
「……ああ」
短い返事。
だが――
その拳は、強く握られていた。
「……次は」
小さく呟く。
誰にも聞こえない声。
「……倒す」
静かな決意。
ヒヨコが肩で鳴く。
「ぴよ……」
その羽が、わずかに揺れた。
第6話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は“退く”という選択を描きました。
戦い続けるだけでなく、状況を見て引く判断もまた重要だと感じていただけたら嬉しいです。
相手の強さ、そしてまだ届かない現実。
ですが、このまま終わることはありません。
次にどう動くのか、どう立ち向かうのか――
ここからが本当の勝負になっていきます。
引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
いつも本当にありがとうございます。




