第4話 深淵の顕現
第4話 深淵の顕現
水面が、大きく歪んだ。
内側から押し上げられるように。
「……来る」
ユウトが低く言う。
次の瞬間。
――バシャッ!!
水が裂け、細長い腕のようなものが飛び出した。
青白い。
人に似ているが、明らかに異質。
「……っ!」
レオが息を呑む。
だがユウトは迷わない。
踏み込む。
双剣を振る。
一閃。
腕を斬り裂く。
だが――浅い。
「……硬いな」
直後、水の中からさらに腕が伸びる。
二本、三本。
一斉に叩きつけられる。
ドンッ!!
地面が震える。
「下がってください!」
リリアが声を上げる。
三人が散開する。
水の腕が追う。
ユウトが弾く。
リリアが潜る。
レオが受ける。
連携は取れている。
だが――
「再生してる……!」
レオの声。
切り裂いたはずの腕が、すぐに元に戻る。
水が形を保ったまま。
ユウトが舌打ちする。
「面倒だな」
その時。
――……
歌が、強くなる。
頭の奥に直接響く。
視界が揺れる。
距離感が狂う。
「……っ」
一瞬、足が止まる。
リリアも顔を歪める。
「……強いです……!」
レオの動きが鈍る。
その隙。
水の腕が一直線に伸びる。
「危ない!」
だが――
「ぴよ」
ヒヨコが鳴いた。
その瞬間。
ほんの一瞬だけ、歪みが消える。
レオが我に返る。
回避。
ユウトが踏み込む。
「集中しろ」
短く言う。
そのまま、水面へ一気に距離を詰める。
「……そこだろ」
双剣を振り下ろす。
ズバッ!!
水面が大きく裂ける。
その奥――
見えた。
顔。
人に似ている。
だが、どこか違う。
整いすぎている。
不自然なほどに。
深く沈んだ目。
ゆっくりと開く口。
そして――
歌っている。
「……っ」
ユウトの動きが一瞬止まる。
その瞬間。
水が爆発するように盛り上がった。
ドンッ!!
衝撃。
三人が吹き飛ばされる。
地面を滑る。
息が詰まる。
だが、すぐに立て直す。
視線を前へ。
水が、持ち上がっていた。
中心から。
ゆっくりと形を作る。
人の上半身。
長く揺れる髪のような水。
細い腕。
だが、その下は――
繋がっている。
水面と。
切り離されていない。
「……なんだ、あれ……」
レオの声が震える。
リリアが静かに言う。
「……本体です」
歌が止まる。
一瞬の静寂。
そして。
“それ”が、こちらを向く。
目が合う。
全身が凍るような感覚。
「……っ」
呼吸が浅くなる。
ただ見られているだけで、動きが鈍る。
ユウトが双剣を構える。
強く握る。
「……ようやく出てきたな」
低く言う。
その時。
“それ”の口が動いた。
音にはならない。
だが――
意味だけが、頭に流れ込む。
拒絶。
排除。
侵入者。
「……来るぞ」
ユウトが言う。
次の瞬間。
水が膨れ上がる。
無数の腕が同時に形成される。
逃げ場はない。
空間そのものを覆うように。
三人が構える。
そして――
“水の中の存在”が、完全に姿を現した。
第4話を読んでいただき、ありがとうございます。
ついに“正体”が姿を現しました。
これまでの違和感や声の正体が、少しずつ形になってきたと思います。
ただ、まだ戦いは始まったばかりです。
この存在にどう立ち向かうのか、そしてユウトたちがどこまで踏み込めるのか――物語はここからさらに激しく動いていきます。
引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。
いつも本当にありがとうございます。




