第3話 侵食
第3話 侵食
水面が、ゆっくりと歪んだ。
ほんのわずか。
だが確実に。
「……来るぞ」
ユウトの声が落ちる。
その瞬間だった。
――……
歌が、変わる。
さっきまでの“遠さ”が消える。
一気に近づく。
頭の奥に、直接流れ込んでくる。
「……っ」
レオが顔をしかめる。
「……うるさい……」
リリアも目を細める。
「……強くなってます」
ユウトは歯を食いしばる。
音じゃない。
これは“干渉”だ。
「……意識を保て」
短く言う。
その時。
視界が、揺れた。
ほんの一瞬。
だが確実に。
「……?」
レオが顔を上げる。
「……今……」
違和感。
景色が、ズレた。
水面が――
さっきより近い。
「……動いたか?」
ユウトが言う。
だが、誰も答えない。
リリアも、少しだけ困惑している。
「……いえ……」
曖昧な返事。
その時。
「……誰か……いる……」
レオが前を見たまま言う。
水面の向こう。
何かを見ている。
ユウトがすぐに反応する。
「見るな」
短く言う。
だが――
レオの足が動く。
一歩。
また一歩。
「……待て」
ユウトが腕を掴む。
止める。
レオの目は、焦点が合っていない。
「……呼んでる……」
小さく呟く。
リリアがすぐに間に入る。
「レオ、しっかりしてください」
肩を掴む。
だが反応が遅い。
その瞬間。
――おいで
はっきりとした声。
優しい。
だが、冷たい。
レオの体が前に引かれる。
「……っ!」
ユウトが強く引き戻す。
地面に引き倒す。
「正気に戻れ」
低く言い放つ。
その衝撃で、レオの意識が戻る。
「……あ……」
呼吸が乱れる。
「……今の……なんだ……」
リリアが静かに言う。
「……引き込まれます」
ユウトは水面を睨む。
「……分かってる」
その時。
また視界が揺れる。
今度は、はっきりと。
景色が歪む。
水面が広がる。
距離感が狂う。
「……くそ」
ユウトが舌打ちする。
足場の感覚までおかしくなる。
踏み出す距離が、ズレる。
「……感覚まで……」
リリアが低く言う。
歌がさらに深くなる。
逃げ場がない。
耳を塞いでも意味がない。
頭の中に直接響いてくる。
その時。
「ぴよ」
ヒヨコが鳴いた。
短く。
強く。
その瞬間。
わずかに、空気が揺らぐ。
ユウトの視界が戻る。
「……っ」
一瞬だけ。
本当に一瞬。
だが、確かに“戻った”。
リリアも気づく。
「……今……」
ヒヨコはじっと水面を見ている。
羽が、わずかに揺れる。
さっきと同じ。
いや――
少し違う。
「……あいつ……」
ユウトが呟く。
だが考える暇はない。
その瞬間。
水面が大きく歪んだ。
今までとは違う。
明確な変化。
「……来る」
ユウトが構える。
双剣を抜く。
リリアも短剣を構える。
レオも剣を握り直す。
歌が、止まる。
一瞬の静寂。
そして――
水の中から。
何かが、動いた。
第3話を読んでいただき、ありがとうございます。
少しずつですが、目に見えない“異変”が形になり始めました。
戦いだけではない、感覚や意識に干渉してくる存在――これまでとは違う危険が近づいています。
ユウトたちがどう乗り越えていくのか、そしてこの先に何が現れるのか。
物語もここからさらに動いていきます。
いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。
感想やコメントもお待ちしております。




