第0話 爪痕の街から、水底の都へ
第0話 爪痕の街から、水底の都へ
朝の光が、獣人の街を照らしていた。
本来なら活気に満ちているはずの場所。
だが――
今は違う。
崩れた建物。
焼け焦げた跡。
倒れたままの瓦礫。
そして、人の気配の少ない通り。
「……静かですね」
リリアがぽつりと呟く。
ユウトは周囲を見渡す。
「ああ」
短く答える。
その静けさは、安らぎではない。
ただ、何かが壊れたあとの――残り物だった。
レオは足を止める。
しばらく、街を見つめたまま動かない。
崩れた建物。
誰もいない通り。
その光景を、しっかりと目に焼きつけるように。
そして――
小さく息を吸った。
「……ありがとうございました」
静かな声だった。
誰に届くわけでもない。
それでも、確かに“この街”に向けた言葉だった。
「守ってもらったことも、ありますし……」
少しだけ言葉を探す。
「また、ちゃんと来られるようにします」
強い言葉ではない。
けれど――
その言葉には、確かな想いが込められていた。
リリアは何も言わない。
ただ、少しだけ微笑む。
ユウトは振り返らない。
だが――
「……行くぞ」
それだけ言った。
待っていた。
レオは軽くうなずく。
「はい」
そして三人は歩き出す。
壊れた街を背に。
前へ。
街を出ると、空気が変わる。
森。
深く、広がる緑。
静けさの質が変わる。
「……ここから先ですね」
リリアが言う。
ユウトはうなずく。
「ああ」
レオが二人に並ぶ。
「この先、何があるか分かりますか?」
ユウトは少しだけ考える。
「分からない」
正直に言う。
「でも、止まる理由はない」
レオは静かにうなずく。
「……はい」
「ぴよ」
小さな声。
ユウトの肩の上で、ヒヨコが羽を揺らす。
「……起きてたのか」
「ぴよぴよ」
いつも通り。
だが――
その羽が揺れた瞬間。
ほんの一瞬だけ、空気が歪む。
ユウトは気づく。
何も言わない。
リリアも同じだった。
「……元気そうですね」
それだけ言う。
レオは少し不思議そうに見る。
「この子、本当に普通のヒヨコなんですか?」
ユウトは少しだけ間を置く。
「……さあな」
短く答えた。
森は、ゆっくりと深くなっていく。
光が減る。
音が減る。
空気が、変わる。
「……来ます」
リリアの声。
次の瞬間。
ガサッ。
茂みが揺れる。
低い唸り声。
三匹。
獣型の魔物。
ユウトが前に出る。
「下がってろ」
レオは一瞬前に出かける。
だが止まる。
「……はい」
無理をしない。
それも判断だった。
リリアは横へ。
短剣を構える。
ユウトは双剣を抜く。
一匹が飛びかかる。
ユウトが踏み込む。
速い。
一閃。
そのまま二匹目へ。
流れる連撃。
リリアが背後を取る。
正確に急所を突く。
最後の一匹。
逃げようとする。
その瞬間。
レオが動いた。
一歩。
剣を振る。
まだ粗い。
だが――届く。
魔物が倒れる。
静寂。
ユウトが振り返る。
「……悪くない」
レオは少しだけ息を整え、うなずく。
「ありがとうございます」
その表情に、わずかな自信が宿る。
再び歩き出す。
森の奥へ。
まだ何も分からない。
それでも――
ユウトは止まらない。
「……行くぞ」
「はい」
「はい」
三人の声が重なる。
「ぴよ」
ヒヨコが小さく鳴く。
その羽が、ほんのわずかに揺れる。
誰にも気づかれない変化。
だが確実に。
この先――
水底の都へと続く道が、静かに始まっていた。
第3章 第0話を読んでいただき、ありがとうございます。
ここから新章がスタートしました。
壊れた街の静けさと、そこから一歩踏み出す三人と一匹の姿を描いています。
そして次に向かうのは、水底の都。
これまでとはまた違った空気、違った種族、そして新たな出来事が待っています。
少しずつですが、物語は確実に広がっていきます。
いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。
これからもぜひ、楽しんでいただけたら嬉しいです。




