第10話 覚醒と転移
第10話 覚醒と転移
扉の奥。
そこに――いた。
「……アリス!」
アランの声が響く。
中央。
黒い鎖に繋がれたままの少女。
呼吸はある。
だが、意識はない。
「……間に合った……!」
ピリムが駆け寄る。
レオンも周囲を警戒する。
「急げ。いつ来てもおかしくねぇ」
アランは迷わず剣を振り上げた。
ガキンッ!!
硬い。
普通の鎖じゃない。
「……くそ……!」
だが止めない。
二撃、三撃と叩きつける。
ヒビが走る。
レオンが支える。
「あと少しだ!」
ピリムが手をかざす。
「……補助する……!」
魔力が重なる。
そして――
パキンッ!!
鎖が砕けた。
アリスの体が崩れる。
「アリス!」
ピリムが支える。
その瞬間。
「……ぅ……」
小さな声。
アリスの指が、わずかに動いた。
そして――
ゆっくりと、目が開く。
黄金の瞳。
焦点が定まらないまま、揺れている。
「……ここ……」
かすれた声。
だが――
次の瞬間。
ビリッ――
空気が震えた。
「……っ!?」
レオンが顔を上げる。
圧。
見えない力が、一気に広がる。
「なんだこれ……!」
ピリムが叫ぶ。
「……魔力が……止まらない……!」
アリスの体から、力が溢れている。
抑えきれない。
制御されていない。
アランが一歩前に出る。
「……アリス、落ち着け」
声をかける。
だが。
アリスは苦しそうに首を振る。
「……やだ……」
その言葉と同時に。
ドンッ!!
衝撃が走った。
床が揺れる。
空間が歪む。
「まずいぞ……!」
その時。
「……遅かったな」
低い声。
振り向く。
黒いローブ。
静かに立っている。
アリスを見つめている。
「……覚醒しかけている」
淡々とした声。
だが、その目は鋭い。
一歩踏み出す。
「……回収する」
手を伸ばす。
だが――
その瞬間。
アリスの魔力が、さらに膨れ上がった。
光。
熱。
そして――歪み。
空間が裂ける。
「……っ!!」
巨大な渦が出現する。
部屋を丸ごと飲み込む勢い。
ローブの男が動きを止める。
「……制御不能……」
一瞬の判断。
すぐに後退する。
「……ここは退く」
その声と同時に。
影が揺れる。
次の瞬間。
ローブの姿が消えた。
完全に離脱した。
そして――
渦だけが残る。
暴れ続ける力。
「来るぞ!!」
アランが叫ぶ。
レオンが腕を掴む。
ピリムも必死にしがみつく。
アリスの体は、完全に力に飲まれていた。
「……止まらない……!」
そして――
バキッ――
空間が崩壊した。
全員が引きずり込まれる。
光。
音。
すべてが混ざり合う。
「……っ!!」
意識が飛ぶ。
次の瞬間。
ドンッ!!
地面に叩きつけられる衝撃。
空気が戻る。
風の音。
「……っ……」
アランが目を開ける。
知らない空。
知らない大地。
すぐに体を起こす。
「……レオン!」
「……ここだ……」
声が返る。
近くにいる。
レオンも無事。
ピリムも、倒れながらも息をしている。
「……よかった……」
その言葉が、自然に漏れる。
そして――
「……アリス!」
少し離れた場所。
アリスが倒れている。
静かに呼吸している。
「……生きてる……」
その一言で。
全員の力が抜けた。
レオンがその場に座り込む。
「……はぁ……マジで……」
大きく息を吐く。
ピリムもその場にしゃがみ込む。
「……怖かった……」
震える声。
アランは静かに周囲を見渡す。
敵の気配はない。
あのローブの存在も、感じない。
風だけが流れている。
「……とりあえず……」
短く言う。
「……助かったな」
レオンが苦笑する。
「……ああ……ほんとにな……」
ピリムも頷く。
「……うん……」
静かな時間。
誰も動かない。
ただ呼吸だけが戻っていく。
アリスの寝息が、微かに聞こえる。
アランはその場に腰を下ろした。
空を見上げる。
「……まだ終わってない」
そう呟きながらも。
その声は、少しだけ柔らかかった。
「……少しだけ休むか」
その言葉に。
誰も反対しなかった。
今だけは。
何も考えず。
ただ――
静かに目を閉じる。
風が、穏やかに吹いていた。
第10話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回はアリスの覚醒と、それによって引き起こされた転移という大きな転換点となる回でした。
ここまで積み重ねてきた流れが一気に動き出す瞬間を描いています。
ローブとの決着はまだ先ですが、状況は確実に変わりました。
そして、ようやく掴んだ「一時の安堵」。この静けさが、次の展開へと繋がっていきます。
ここから物語は新たな場所、新たな展開へ進んでいきます。
いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。
引き続き感想やコメントもお待ちしております。




