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番外編:燼羽の兆し

番外編:燼羽の兆し


朝。


森の空気は静かで、どこか張り詰めていた。


夜の冷えをわずかに残した風が、ゆっくりと流れていく。


焚き火の残り火が、赤く小さく揺れていた。


リリアは、ゆっくりと目を開ける。


「……ん」


意識が戻ると同時に、腕の中の重みを確かめた。


そこにいるのは――ヒヨコ。


「……起きてますね」


小さく息をつく。


あれほど眠り続けていたのが嘘のように、ヒヨコは普通に目を開けていた。


「ぴよ」


いつもと同じ、軽い鳴き声。


それだけで、少しだけ安心する。


だが。


その安心は、すぐに崩れた。


「……あれ?」


違和感。


ほんのわずかな、だが確かな変化。


ヒヨコの羽。


いつもより、色が濃い。


ただの黄色じゃない。


光の加減ではない。


その奥に――赤が混じっている。


ほんの僅か。


気づくかどうかの境界。


だが、確実に変わっている。


「……ユウト」


リリアが静かに呼ぶ。


ユウトもすぐに目を開ける。


「どうした」


「これ、見てください」


ヒヨコを差し出す。


ユウトは黙って観察する。


視線がわずかに細くなる。


数秒。


「……変わってるな」


短く言った。


ヒヨコはその視線に気づいたのか、小さく首を傾げる。


「ぴよ?」


その瞬間。


羽が、ふわりと揺れた。


ただの動きではない。


その揺れに合わせて――


空気が、わずかに歪んだ。


「……今の」


リリアの声が震える。


ユウトも見逃していない。


「……ああ」


ヒヨコは気にした様子もなく、羽を軽く動かす。


その一動作。


パチッ。


小さな音が弾けた。


次の瞬間。


ほんの一瞬だけ――


火の粉のような光が散る。


「……え」


リリアが息を呑む。


だがヒヨコは、まるで何もなかったかのように動く。


ぴょん、と軽く跳び。


ユウトの肩に乗る。


「ぴよぴよ」


変わらない仕草。


無邪気な声。


そのギャップが、逆に異様だった。


ユウトは、じっとヒヨコを見つめる。


そして、静かに言った。


「……ただのヒヨコじゃないな」


リリアも、小さくうなずく。


「はい……でも」


言葉を選ぶ。


「まだ、何かまでは分かりません」


ヒヨコは、くちばしでユウトの髪をつつく。


「ぴよ」


いつも通り。


あまりにも、普通すぎる。


だが――


その体の奥には、確かに何かがある。


まだ形を持たない力。


まだ名前すら与えられていない存在。


けれど、それは確実に“変質”していた。


燃えることのない熱。


消えることのない灯。


その欠片が、羽の奥で揺れている。


誰にも気づかれないほど小さく。


だが確実に。


――目覚め始めている。


その正体を、まだ誰も知らない。

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