第23話 刻まれていた存在
第23話 刻まれていた存在
夜の街は、静まり返っていた。
戦いの痕跡はまだ消えていない。崩れた建物、焦げた匂い、疲れた人々。それでもどこか、張り詰めた空気が残っていた。
ユウトはゆっくりと歩きながら、ふと足を止める。
視線の先には、街の中央に立つ巨大な狼の銅像があった。戦いの中でも崩れなかったそれは、まるで何かを見下ろすようにそこにある。
何も言わず、ただ見上げる。
胸の奥が、わずかにざわついた。
見覚えがある、というより――思い出しかけている感覚。
「ユウト?」
レオが隣に来る。
「どうしたの?」
ユウトは少し間を置いて言う。
「あの像……なんか、気になる」
レオも銅像を見上げる。
その時、後ろから静かな声がかかった。
「その像が、気になるか」
振り向くと、長老が立っていた。
「……長老」
長老はゆっくりと近づき、銅像の前で足を止める。そのまましばらく、何も言わず見上げていた。
やがて、低く口を開く。
「この像はな、ただの飾りではない」
一瞬、間を置く。
「かつて、この地に存在した古代種の狼を模したものだ」
空気が、わずかに重くなる。
レオが息を呑む。
「古代種……」
ユウトは、銅像を見たまま言う。
「……やっぱりか」
長老の視線が、ゆっくりとユウトに向く。
「何か、思い当たるのか」
ユウトは少しだけ考える。
言うべきかどうか。
だが、隠す意味もない。
「……前に、似たやつと戦ったことがある」
静かに、そう言った。
レオが驚く。
「え……?」
ユウトは続ける。
「森じゃない。もっと前だ」
「この世界に来て、少し経った頃」
「でかい狼だった」
「一撃じゃ倒れてくれなくて……何回も斬って、やっと倒した」
その場の空気が、変わる。
長老は何も言わない。
ただ、ユウトを見ている。
「……似てるんだ」
ユウトは銅像に目を戻す。
「形もそうだけど……」
少し言葉を探す。
「……圧が、同じだった」
静寂。
風が、静かに流れる。
長老はゆっくりと目を閉じた。
しばらくして、静かに口を開く。
「……その話」
「詳しく聞かせよ」
ユウトは簡単に語る。
最初の頃の戦い。
巨大な狼。
苦戦したこと。
倒したこと。
すべてを短く。
話し終わると、しばらく沈黙が続いた。
長老は目を閉じたまま、何かを考えている。
やがて――
ゆっくりと目を開けた。
「……間違いない」
その一言で、空気が引き締まる。
「お主が倒した狼」
「それが、この像の主だ」
レオの呼吸が止まる。
「……え?」
ユウトの視線が、わずかに揺れる。
銅像。
記憶。
あの時の感触。
すべてが、繋がる。
「……同じ、じゃなくて」
小さく呟く。
「……これ、そのものか」
長老は静かにうなずいた。
「そうだ」
「お主が討ったのは、この地に名を残した古代種の狼そのものだ」
レオが言葉を失う。
「そんなの……」
ユウトは少しだけ目を細める。
あの時は何も知らなかった。
ただ戦って、ただ倒した。
それが、こんな意味を持つ存在だったとは。
「……街の象徴、か」
ぽつりと呟く。
長老は静かに答える。
「本来は守護の象徴として残された存在だ」
「だが、お主がそれを討った」
責める言い方ではない。
だが、その事実は重かった。
レオが不安そうに言う。
「……でも、なんでそんな存在が現れたの……?」
長老は少しだけ視線を落とす。
「本来、古代種は滅多に現れる事はない」
ユウトの目が鋭くなる。
長老は続ける。
「そして、それが“お主の前に現れた”」
その言葉が、静かに響く。
偶然ではない。
ユウトは何も言わない。
だが、その目は確かに変わっていた。
「……まだ、終わってないな」
小さく呟く。
長老はうなずく。
「むしろ――」
「ここからが本当の始まりだ」
夜の街に静けさが広がる。
だがその奥で、確かに何かが動いていた。
第23話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、これまでの出来事と過去が繋がる回になりました。ユウトが以前倒した存在が、今の街や物語に関係していたということで、少しずつ全体の輪郭が見えてきたと思います。
ここから先は、さらに物語の核心に近づいていきます。これまでの出来事がどう繋がっていくのか、引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。
いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。感想やコメントもお待ちしております。




