表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/104

第21話:双剣、交差する瞬間

第21話:双剣、交差する瞬間


巨影が、踏み込んだ。


その一歩だけで、空気が歪む。


石畳が砕け、粉塵が舞い上がる。

衝撃は足元から伝わり、遅れて全身を揺らした。


レオの体が、ほんの一瞬だけ止まる。


本能だった。


「……っ」


息が詰まる。


圧倒的な“何か”が、目の前にある。


勝てるのか。


そんな考えが、頭をよぎる。


だが――


隣にいる。


ユウトが。


「……大丈夫だ」


低く、落ち着いた声。


それは強くもなければ、励ますようなものでもない。


ただ、そこにある“事実”のような声だった。


それだけで、乱れていた呼吸が戻る。


視界が、わずかに開ける。


恐怖は消えない。


だが――


足は、止まらない。


巨影が腕を振り上げる。


空気が押し潰されるような圧。


来る。


その瞬間。


ユウトが踏み込んだ。


今までとは違う。


明らかに深い。


そして速い。


一歩の質が違う。


その手に握られているのは――


剣。


一本ではない。


二本。


左右に分かれた刃。


双剣。


振り下ろされる一撃。


ユウトは、ほんの紙一重でそれをかわす。


風圧だけで頬が裂ける。


だが止まらない。


そのまま、懐へ潜り込む。


右の刃が走る。


続けて左。


交差。


――ザンッ!!


深く、確かな手応え。


初めて、通った。


巨影の体がわずかに揺れる。


「今だ」


短い声。


だが、迷いはない。


レオは踏み込む。


同じ場所へ。


同じ軌道へ。


考えるより先に、体が動く。


爪を振るう。


――ザンッ!!


刃が重なる。


傷が繋がる。


確実に、削れている。


巨影が低く唸る。


次の瞬間、反撃。


振り下ろされる拳。


空気を裂く音が遅れて届く。



ユウトは止まらない。


双剣で受け流す。


完全には受けない。


力を逃がす。


体をひねる。


踏み込む。


斬る。


連撃。


その動きは、流れるようだった。


無駄がない。


迷いがない。


ただ“最短”で、敵を削る動き。


レオはそれを見る。


追う。


感じる。


呼吸。


間合い。


タイミング。


ユウトの一撃。


その直後に生まれる、わずかな“空白”。


そこへ――


踏み込む。


爪を叩き込む。


連携だった。


意識していない。


だが、噛み合っている。


巨影の動きが鈍る。


確実に。


「……もう一回いく」


ユウトの声。


静かだ。


だが、確信がある。


レオはうなずく。


呼吸を整える。


胸の鼓動が早い。


それでも、目は逸らさない。


巨影が踏み込む。


先ほどよりも強く。


荒く。


最後の力を振り絞るように。


空気が震える。


圧が、跳ね上がる。


「……来る!」


ユウトが前に出る。


双剣を低く構える。


腰を落とす。


重心を沈める。


誘う。


一撃を。


振り下ろされる拳。


その瞬間。


ユウトは踏み込む。


内側へ。


完全に懐へ。


「……そこだ」


双剣が、交差する。


――斬。


音が遅れて届く。


時間が、引き延ばされたような感覚。


その瞬間。


レオも動いていた。


考えない。


ただ感じた通りに。


残された一点へ。


全てを込めて。


――ザンッ!!


深く、深く、裂ける。


巨影の体が大きく揺れる。


一歩。


二歩。


踏みとどまろうとする。


だが――


もう、支えきれない。


ユウトの双剣が静かに下ろされる。


レオの爪も止まる。


遅れて。


ズシン――


巨影が崩れ落ちた。


重い音が、街に響く。


地面が震え、煙が揺れる。


静寂。


誰も動かない。


動けない。


ただ、そこにあるのは。


終わった戦いの跡だけだった。


風が流れる。


煙を押し、焦げた匂いを運ぶ。


レオは立ち尽くしていた。


呼吸が荒い。


手が震える。


膝が笑う。


それでも。


立っている。


「……終わった」


 小さな声。


だが、確かに現実だった。


ユウトは双剣の血を払う。


静かに、収める。周囲を見る。


気配を探る。


耳を澄ます。


しばらくして。


ゆっくりと口を開く。


「……ああ」


「終わりだ」


その言葉で、空気がほどけた。


レオの力が抜ける。


膝が揺れる。


それでも、倒れない。


後ろを見る。


父がいる。


守れた。


その事実が、胸の奥に静かに残る。


煙の向こうで、獣人たちが動き始める。


「終わったのか……?」


「……ああ」


声が広がる。


少しずつ。


確かに。


戦いは終わった。


街に、静けさが戻る。


それでも――


すべてが終わったわけではない。


だが今は。


ただ。


この戦いが終わったという事実だけが、そこにあった。

第21話を読んでいただき、ありがとうございます。


ここまで続いてきた戦いに、一つの決着がつきました。ユウトの戦い方、そしてレオの成長や覚悟が少しでも伝わっていれば嬉しいです。


強敵との戦いの中で、それぞれが抱えているものや、守りたいものが少しずつ形になってきた章でもありました。


この後は戦いの余韻と、それぞれのこれからに少しずつ踏み込んでいきます。


いつも読んでくださり本当にありがとうございます。よろしければ感想やコメントもお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ