第19話 守る者の背中
第19話 守る者の背中
黒い血が、石畳に広がっていく。
レオの爪が、魔物の腕を切り裂いた。
倒れる音。
転がる体。
だが、静寂は訪れない。
煙の向こうで、また影が揺れる。
「……まだ、来る」
息が乱れる。
胸が苦しい。
それでも、足は動く。
後ろには、父がいる。
倒れたまま、動かない。
その存在だけが、レオの背中を押していた。
――守る。
その言葉だけを胸に、前を見る。
次の瞬間。
魔物が距離を詰める。
振り上げられる腕。
レオは踏み込む。
爪を振るう。
――ガンッ。
弾かれる。
「……っ」
重い。
今までの敵とは違う。
硬く、鈍い衝撃が腕に残る。
わずかに、体が止まる。
その隙を逃さず、魔物の腕が振り下ろされる。
――その瞬間。
衝撃が横から突き抜けた。
魔物の体が宙を舞う。
石畳に叩きつけられ、動かなくなる。
ユウトだった。
振り抜いた拳を下ろし、静かにレオを見る。
「……大丈夫か」
その声は、低く、落ち着いていた。
レオは一瞬だけ息を止め、うなずく。
「……はい」
ユウトはそれ以上何も言わない。
ただ、隣に立つ。
同じ方向を向く。
それだけで、少しだけ呼吸が整う。
「一人で全部やらなくていい」
ぽつりと、そう言った。
責めるでもなく、励ますでもなく。
ただ、事実のように。
レオは小さく息を吐いた。
「……はい」
その時、リリアの声が届く。
「後ろ……来ます」
振り返る。
三体。
同時に、こちらへ。
ユウトが一歩前に出る。
そして、ほんの少しだけ顔を傾けた。
「左、いけるか」
問いかけ。
押しつけじゃない。
レオはすぐに頷いた。
「……やります」
足が動く。
迷いはない。
左の一体へ踏み込む。
懐に入る。
爪を振るう。
――ザンッ。
今度は通る。
深く。
確実に。
そのまま体を回す。
二撃目。
魔物が崩れる。
呼吸が荒い。
だが、止まらない。
視線を上げると、残りはもういない。
ユウトが、静かに処理していた。
一瞬だけ、静けさが戻る。
だがそれも、すぐに壊れる。
煙の奥で、まだ戦いの音が響いている。
終わっていない。
その時。
「……う……」
かすかな声。
レオの体が止まる。
振り返る。
「父さん……!」
指が、わずかに動く。
目が、少しだけ開く。
それだけで、胸が強く揺れる。
一歩、近づこうとする。
だが。
「……今は動かさない方がいい」
ユウトの声だった。
強くはない。
静かな声。
レオは足を止める。
「傷が深い。無理すると持たない」
淡々とした言葉。
だが、その一つ一つが現実だった。
レオは唇を噛む。
それでも、うなずく。
「……はい」
リリアがすぐに膝をつく。
布を当て、血を押さえる。
「大丈夫……まだ、間に合います」
その声に、ほんのわずかだけ、空気が緩む。
だが――
ズン……
地面が、揺れた。
全員が顔を上げる。
煙の奥。
何かが、動いた。
ゆっくりと、姿を現す。
今までの魔物とは違う。
大きさ。
圧。
空気が、重くなる。
レオの喉が鳴る。
「……あれは」
ユウトは前に出る。
静かに構える。
その背中は、変わらない。
「……少し強いな」
小さく、そう言った。
レオも並ぶ。
爪を握る。
恐怖は消えない。
それでも、目を逸らさない。
影が、一歩踏み出す。
その瞬間――
地面が砕けた。
戦いは終わらない。
むしろ。
ここからが、本当の戦いだった。
第19話を読んでいただき、ありがとうございます。
戦いの中で、レオが少しずつ“前に立つ側”へと変わっていく様子を描きました。まだ不安定で、迷いもある状態ですが、それでも一歩踏み出したことが大きな変化だと思っています。
そして、戦いはさらに激しくなっていきます。ここから先は、より強い敵との衝突になりますので、次の展開も楽しみにしていただけたら嬉しいです。
いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。よろしければ感想やコメントもいただけると励みになります。




