第18話 古代種の爪と覚醒の鉤爪
第18話 古代種の爪と覚醒の鉤爪
街は、まだ炎に包まれていた。
崩れた建物の隙間から煙が立ち上り、焦げた匂いが空気に残る。
その中を、人型の魔物たちがゆっくりと進んでくる。
獣人たちが迎え撃つ。
剣がぶつかり、爪が裂き、怒号が飛び交う。
戦いは、終わっていない。
そのただ中で――
レオは動けずにいた。
「……父さん」
腕の中にあるのは、血に濡れた体。
呼吸はあるが、浅い。
あれほど強かった背中が、今は動かない。
胸の奥が、重く沈む。
守れなかった。
その事実だけが、頭の中に残る。
その時だった。
近くで魔物が吹き飛ぶ。
鈍い音と共に地面に叩きつけられる。
ユウトだった。
拳を振り抜いたまま、こちらを見る。
「武器は?」
短い問い。
レオはわずかに顔を上げ、そして首を振った。
「……ない」
沈黙。
だが、その空気にリリアの声が差し込む。
「ユウトさん」
ユウトが視線だけ向ける。
「……ガチャ、使ってみませんか?」
リリアは少しだけ間を置いて続けた。
「何が出るか分かりません。でも……もしかしたら、使えるものが出るかもしれません」
確信はない。
それでも、今はそれしかなかった。
ユウトは小さく息を吐いた。
「……やるだけやってみるか」
軽く手を前に出す。
次の瞬間。
――カラン。
乾いた金属音が、足元に落ちた。
レオはそれを拾い上げる。
「……これ」
手の中にあるのは、鉤爪。
だが――
刃がない。
ただの枠だけの、空っぽの武器。
リリアが静かに言う。
「……使えませんね」
ユウトは苦笑する。
「こういうのもある」
レオは何も言わず、それを見つめる。
軽くて、頼りない。
それでも、手を離さなかった。
その時。
ユウトの視線が、わずかに止まる。
「……ん?」
もう一度、鉤爪を見る。
その形。
内側の空いた空間。
まるで――
何かをはめ込むために作られているような違和感。
次の瞬間、頭の中で何かが繋がる。
ユウトは静かにカバンへ手を入れた。
取り出したのは、黒く重い爪。
古代種の狼から剥ぎ取ったもの。
それを鉤爪の横に並べる。
「……やっぱりだ」
小さく呟く。
形が、合っている。
最初から、組み合わさることを前提にしたような一致。
ユウトはレオに視線を向ける。
「……ちょっと、見せてくれるか?」
レオは一瞬だけ迷い、静かに鉤爪を差し出した。
ユウトはそれを受け取り、狼の爪と合わせる。
迷いはない。
そのまま、ゆっくりと押し当てる。
その瞬間――
わずかに光が走った。
音もなく、静かに。
素材が溶けるように重なり、形が変わっていく。
やがてユウトの手の中に残ったのは――
黒く鋭く湾曲した 狼の鉤爪。
ユウトはそれを軽く持ち直し、レオに差し出した。
「……使ってみろ」
レオはそれを受け取る。
手にはめる。
ぴたりと馴染む。
指先に、確かな重み。
力が、通る。
握る。
――使える。
そう、直感で分かった。
レオは振り返る。
倒れている父を見る。
動かない体。
それでも、目を逸らさない。
「……父さん」
声は小さい。
それでも、確かに。
「今度は、僕が前に出る」
一歩、踏み出す。
次の瞬間、地面を蹴る。
魔物へ向かって走る。
腕が振り上げられる。
だが、止まらない。
踏み込む。
振るう。
――ザンッ。
黒い腕が宙を舞う。
続けて体をひねる。
もう一体へ。
爪を叩き込む。
鈍い衝撃。
魔物が吹き飛ぶ。
息が荒くなる。
それでも、止まらない。
止まる理由がない。
ユウトはその背中を見て、小さく笑った。
「……いいな」
戦いは、まだ終わらない。
だが――
レオはもう、後ろにはいない。
狼の爪を手に。
前に立つ者として。
戦場の中へ、踏み込んでいった。
第18話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は「古代種の爪」と「覚醒の鉤爪」という形で、レオの成長をしっかり描く回になりました。ガチャの“ハズレ”が無意味ではなく、使い方次第で力になるという点も、この物語らしい部分かなと思っています。
そして、ユウトの気づきと判断が少しずつ戦いに影響し始めています。レオもまた、守られる側から一歩前へ進みました。
まだ戦いは終わっていません。ここからさらに状況は動いていきますので、ぜひ次の話も読んでいただけたら嬉しいです。
いつも読んでくださり本当にありがとうございます。よろしければ感想やコメントもお待ちしています。




