第10話 退屈の中の異質
第10話 退屈の中の異質
森は静かだった。
だがそれは、ただの静けさではない。
音があるはずなのに、どこか薄い。
風は吹いているのに、揺れが伝わらない。
まるで、この場所だけ世界から少し外れているような感覚。
その中心で。
エレナは木にもたれかかっていた。
「……退屈ね」
ぽつりと呟く。
視線は空に向いている。
何かを見ているわけではない。
ただ、流れる時間を眺めているだけ。
「試練、か」
小さく笑う。
「ほんと、よく出来てる」
誰かを試す場所。
強さだけじゃない。
在り方を見ている。
「でも、私には関係ない」
軽く肩をすくめる。
「呼ばれないし、拒まれない」
この場所において、エレナは対象外の存在だった。
だからこそ。
「……暇」
その時。
風が、ほんのわずかに変わる。
「……何をしている」
低い声が響いた。
エレナは振り向かない。
「見ての通り。何もしてない」
「ここは遊ぶ場所ではない」
少しだけため息をつく。
「真面目ね」
ゆっくりと振り返る。
そこにいたのは、淡い緑の髪の少女――リーフ。
ただ立っているだけで分かる。
この森と同じ側の存在。
「あなた、この場所の管理者?」
「管理ではない」
リーフは短く答える。
「維持しているだけだ」
「へえ」
エレナは興味なさそうに見つめる。
「じゃあさ」
一歩、前に出る。
「少し遊ばない?」
「断る」
即答だった。
「……そう」
エレナの目がわずかに細くなる。
「じゃあ、勝手に遊ぶ」
その瞬間。
空気が変わる。
リーフが踏み込む。
速い。
音が遅れて届くほどの速度。
だが。
エレナは動かない。
指先を軽く鳴らす。
パチン。
その一音で。
空間が歪む。
見えない波が広がる。
リーフの動きが止まる。
空中で固定される。
「……っ!」
「遅い」
エレナが呟く。
「……音による拘束」
リーフはすぐに理解する。
だが拘束は強い。
体ではなく、“動きそのもの”を止めている。
「……厄介」
リーフは目を閉じる。
「……風」
小さく呟く。
次の瞬間。
体の内側から風が膨れ上がる。
圧縮し、解放。
「――っ!」
爆発。
拘束を強引に破る。
地面に着地。
距離を取る。
「へえ」
エレナが少し笑う。
「壊すんだ」
「あなたの力は干渉だな」
リーフが言う。
「対象の外側から触れている」
「よく分かるじゃない」
「だからこそ危険だ」
空気が揺れる。
リーフの周囲に風が集まる。
密度が上がる。
「へえ……」
エレナの表情がわずかに変わる。
「ちゃんと戦う気?」
「必要なら」
次の瞬間。
リーフが消える。
完全な消失。
気配すら消す。
だが。
エレナは動かない。
「……無駄」
目を閉じる。
音を拾う。
風を読む。
振動を感じる。
「そこ」
指を鳴らす。
パチン。
空中で何かが掴まれる。
リーフが強制的に姿を現す。
拘束。
「……!」
だが止まらない。
風を纏う。
強引にねじ切る。
そのまま接近。
蹴りを放つ。
風を乗せた一撃。
だが。
当たる直前で止まる。
見えない壁。
「……近いけど」
エレナが言う。
「届いてない」
リーフは距離を取る。
呼吸がわずかに乱れる。
「……やはり、格が違う」
「そんな大したもんじゃないよ」
エレナが軽く言う。
だが。
その瞬間。
空気が重くなる。
ほんの少し力を出しただけ。
森が軋む。
木々が揺れる。
地面が沈む。
「……っ」
リーフが目を見開く。
「この程度で?」
エレナが笑う。
「やめとく?」
沈黙。
リーフは判断する。
「……ここで続けるべきではない」
構えを解く。
「判断はいいね」
エレナも力を抜く。
空気が一瞬で戻る。
何もなかったかのように。
「……あなたは何者だ」
リーフが問う。
今度は強く。
エレナは振り返らない。
「さあね」
軽く答える。
「この世界のものじゃない、とは思うが」
足が一瞬だけ止まる。
「……どうだろうね」
曖昧に返す。
「ただ一つ言えるのは」
少しだけ空を見る。
「私は、あの子たち側」
ユウトたち。
「それだけでいいでしょ」
そのまま歩き出す。
リーフは追わない。
ただ見送る。
「……敵ではない」
小さく呟く。
だが。
「……放置もできない存在」
空を見上げる。
風が吹く。
森は静けさを取り戻す。
だが確かに――
何かが変わっていた。
あとがき
第10話、ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回は本編の裏側――エレナとリーフの一幕でした。
試練を受ける側ではなく、“それを見ている側”“維持している側”の存在を少し掘り下げています。
エレナの立ち位置や異質さ、そしてリーフの役割。
どちらもまだ全ては明かしていませんが、物語の奥にある“別の層”を感じてもらえたら嬉しいです。
戦いとしては軽く見えるかもしれませんが、
本気になればこの場が壊れる――そんな関係性を意識して描いています。
そして次は、いよいよ試練を終えたメンバーの合流へ。
それぞれが何を得て、どう変わったのか。
ぜひ楽しみにしていてください!




