第58話 東京だよな
16歳にして日本最高峰の剣道の大会の優勝者である高校1年の颯斗は、
勇者召喚に巻き込まれて、異世界に転移する。
自分は勇者の付属品だと言う颯斗だが、
人の限界を遥かに越える力を驚く程の速さで付けていく。
「今私に何をした?」
邪神の声がわずかに揺れる。
「なぜお前は泣いている?」
「泣く?」
リックは、ゆっくりと頬に触れた。
「そうか俺は涙を流していたのか……」
颯斗に流れ込んだ記憶。
「貴方は……」
声が震える。
「世界のために……生きとし生けるもののために……
人が生み出す邪気……瘴気を……
自分の身に取り込み、浄化し続けた……」
「……」
「そして、いつしかそれに――飲み込まれた」
「ふざけるな!私は神。
私を穢れたものの様に言う事は許さん」
リックは目を閉じる。
「俺は貴方を止めなくてはならない……
傷付ける事を許して下さい……」
突如、邪神の表情が変わる。
冷ややかに笑いながら言った。
「……愚か者」
空間が歪む。
「油断したな。無防備で近づくとは」
リックの腹部が、淡く光る。
「お前は確か……
異世界から召喚された者だったな?」
魔法陣が浮かび上がる。
見覚えのある、あの術式。
「喜ぶがいい」
「……?」
「元の世界へ返してやろう」
「なっ――」
「さらばだ。私の〝弟子〟とやら」
目前に渦。
抗えない。
身体が引きずられる。
(これは……異世界転移の魔法……
あの時と同じ景色が流れる……)
ーーーーーーーー
(ん?ここは空の上か?
まずい、落ちる……)
身体が雲を突き抜ける。
〝舞空魔法!〟
魔法が発動しない…… 魔力が感じられない。
なぜだ!
やばい……この高さから落ちたら……
あれはまさかスカイツリー?
ここは東京なのか?)
足元には見覚えのある鉄骨の塔。
東京タワーが迫ってくる。
「ちっ!」
空中で姿勢を反転。
タワーを全力で蹴る。
鉄骨が軋む。進路を強制変更。
(身体能力や力は失われていないな……)
ビルを蹴る。
壁を蹴る。
衝撃で窓が割れる。
進路を海へ。
(あと少し……!)
ドンッッ!!
海岸近くに叩きつけられ、
直径三十メートルのクレーターができる。
(つ〜〜……身体中痛い)
全身が軋む。
(骨は……大丈夫か……?)
感覚を確認。
(筋肉はズタズタだな……)
動けない。
(アイテムボックスは使えるか?
使える!助かったポーションがあったはず……)
体の組織が蘇生し立ち上がる颯斗。
辺りを見回す。
(東京だよなやっぱり……)
「君!大丈夫か!?」
振り向く。
警察官。
パトカー。
サイレンが鳴り響く。
「ええ……問題ないです」
「君、爆発物の関係者ではないだろうな?」
「いえ、俺も何が何やら……」
「歩けるか?署で話を聞こう」
「ですから、俺は関係ないですよ?」
「その格好……何か隠していないか?」
(あ……)
「えっと……コスプレですよ……
お台場でしょここ?
珍しくもないでしょ?」
「良いから来なさい」
(面倒だな……逃げるか?
この身体能力なら楽勝だよな?
銃で撃たれても、
かすり傷すら負わない気がする)
ーーしかし。
周りに人が集まってくる。
スマホで撮っている人。
(まずいな……力を使ったら大騒ぎになりそうだな。
仕方ない素直に従うか)
「分かりました」
ーーーー
湾岸警察署の入り口ー
「若?……颯斗様では?」
「……山本師範代?」
「そうです。若……!」
連行した警官が固まる。
「け、警視総監……
この男をご存知なのですか?」
「彼は那岐神影流の跡取りだ。
剣道をやっていれば、
知らぬ者はいないんじゃないかな?」
「えっ?あの高校生で全日本を制した那岐颯斗?」
「そう言えば謎の失踪事件の……」
「謎の失踪事件……」
「私が捜索願いを提出したんだよ」
「そうなんですか?やはり父ではないんですね……」
「総師範は、驚くほど気が動転していたもので……」
「父がですか?」
「何せ、渦に飲み込まれたとか……目撃者が……
時空に飲み込まれたんじゃないか……
とか色んな噂が出回って……
若、とにかく中で、話を聞かない事には……」
「分かりました。それにしても山本さん……警視総監?
随分出世されたんですね?」
「元々上層部に居ましたよ?お忘れですか?」
「そうでしたっけ?ははは……
お偉い警視総監が何でここに?」
「〝何でここに〟は私のセリフですよ。
私は東京ビックサイトの催しに、
ゲストで呼ばれた帰りに偶然寄ったのですが
まさか若がいらっしゃるとは……」
署の応接室。
「それで、早速ですが……失踪されたあの時……
そしてこの3年少し……何があったのですか?」
「俺は3年後に飛んだのに、3年と少しか?
時の流れは、俺の流れと一緒なのか?」
「えっ?何ですか?」
「いえ、何にも……話さなきゃダメですよね?」
「失踪されたのが、若を含めて3人……
残り2人の事もあり、
聞かないわけには……」
「……上手な嘘も浮かびません……
正直に話しますので、
出来れば人払いをしていただけませんか?」
「余り人に聞かせられない話だと?」
「荒唐無稽な与太話にしか聞こえないかもしれません」
〝どんどんどん!〟
ドアが激しく叩かれる。
「どうぞ」
颯斗の父が慌てた様子で入ってくる。
「……父さん」
「颯斗!お前……生きていてくれたのか……」
声が震えている。
(……こんな顔、初めて見た)
自分のことは関心がないと思っていた。
父の言葉に少し驚く颯斗。
「すみません。ご心配をおかけしました……」
「いったい何があったのだ?」
「ちょうど今からそれを聞く所でした。
君達、すまんが我々だけにしてもらえないか?」
ーーーーーーーー
「まさかそんな事が……」
「にわかには信じられないとは思うけど……
異世界とか、神とか……」
父が首を振る。
「いえ、そんなことは無いですよ?
ねえ、総師範」
父が首を振る。
「いや、実は私達2人は、アステリア……
お前の母が、
異世界の女神だと知っていた……
私は勿論一緒になる前に……
そして山本には、アステリアが異世界に帰る時に、
正直に話し、
死亡届をどう出したら良いかとか、
色々相談したんだよ」
「私も奥様が異世界にお帰りになる時、
霧の様になって消えていくのを見ました」
「そうだったのですか……」
「亡くなられた事にするのが1番かと、
色々手続きを始めたら……
既に死亡届が出されていて……
驚く事に元の戸籍も、アメリカ人とのハーフと
古い書類からも確認でき……
それが余りにも完璧で……
さずが神のなせることかと……」
数ある作品の中から見つけ出し、お読みいただき、ありがとうございます。




