第56話 ん?これが俺の全力だぞ?
16歳にして日本最高峰の剣道の大会の優勝者である高校1年の颯斗は、
勇者召喚に巻き込まれて、異世界に転移する。
自分は勇者の付属品だと言う颯斗だが、
人の限界を遥かに越える力を驚く程の速さで付けていく。
「へ〜良いとこじゃん?
のどかな山の野原って感じ?
悪魔の作った別次元って感じじゃないな」
青い空。ゆるい風。
草が揺れ、鳥が鳴く。
どこから見ても――平和。
「だろ?俺も気に入ってるんだよ。
時々来て昼寝してるんだぜ」
「なんかここで戦ったら酷いことにならないか?」
「大丈夫だ。俺の作った場所だぜ?
直ぐに元に戻せる」
にやり。
「さぁ――始めるか?
行くぞ〜〜と見せかけて……
後ろに転移して……あれ?居ねえ?」
〝バコォッ!!〟
「ぐはっ!」
思いきり背中を蹴り飛ばされる。
「いきなり後ろからとは卑怯じゃねえか!?」
「どの口が言うんだよ?お前がやろうとした事だろ?
俺の事、面白いとか言ってたけど、
お前の方がよっぽど面白いぞ?」
そう言って颯斗が笑った。
次の瞬間、空間が弾けた。
衝突。肉弾。
草原が抉れ、空気が震え、衝撃波が幾度も走る。
だが――数分後。
二人は背中合わせに座り込んでいた。
「ハァ……ハァ……参った参った……
お前、ほんとに強いな?」
「ハアハアハア……お前こそ相当やるな?」
「何言ってやがる、お前まだ全力出してねえだろ?」
「ん?これが俺の全力だぞ?」
「嘘コケ、肉体強化した感じが、
全くしねえじゃないか?」
「何で?魔法抜きなんだろ?」
「周りに被害が出ると危ないから、
攻撃魔法無しって言ったんだよ……
俺は最大の肉体強化やら防御魔法かけてたんだぞ?
なのに一方的にやられるとは……凹むわ〜」
「それほど一方的じゃないだろ?」
「顔に腫れひとつ無いやつが言う台詞じゃねえ!」
本気で戦ったはずなのに――
妙に空気が軽い。
風が草を揺らす。気持ちがいい。
「なあ、邪神に逆らえないだけなのか?
普通だったら人に迷惑かけたりしないのか?」
「……どうだろな?」
空を見る。
「わざわざ人族の世界に行って悪さするのも、
正直めんどくさいだけじゃねえのかな」
「お前はそうかもしれないけど、他の悪魔達は?
人々を不安にさせ、
邪気を糧にするのが悪魔だと思っていたけど?」
「さあな?俺は神に封印されていて、
やっと最近出てきたばかりだからな?
昔はいざ知らず、最近人に拘わらなくても、
多くの邪気が溢れてるからな……」
「お前は邪気を吸って……って感じがしないんだけど」
「クソ野郎が、赤ん坊の姿で復活した俺に、
聖女の魔力を大量に注入しやがったから……」
「……は?聖女の魔力?」
「だから他の悪魔とは少し違うのかもな?」
「ちょっと待て……赤ん坊の姿で復活?
最近て言ったか?
お前、完全に成人の姿じゃないか」
「聖魔力と邪気溢れる瘴気……
まるで反対なものだろ?
いきなり成長したらしい」
「そんな無茶して大丈夫なのか?」
「さあな?まあ体はなんともない……
ただ、その時の反発で生じた衝撃は、
凄まじかったらしいな」
「もしかして、ハイメルの大爆発?」
「ああ、それだな。
バカな王家が、悪魔の封印を解いて、
そのの力を利用しようとして、
滅亡とか……有り得んよな?」
悪魔王が鼻で笑う。
「しかも、悪魔の王か……
うん、バカだな……」
二人同時に吹き出す。
「聖魔力と邪気溢れる瘴気……
まるで反対なものだと思うけど、
何考えて、お前に使ったんだろ?」
「さあな?クソ野郎は、
聖女の聖魔力は、神の神聖力に似てるって言ってたな。
聖女の魔力で奴は相当力をつけてるぜ。
だから俺にも……その力を……とか何とか思ったんかな?」
「お前は聖魔力で、
悪魔なのに良い奴になっちゃった?」
「……馬鹿なこと言ってるんじゃね〜よ。
でも、クソ野郎の事は大っ嫌いだがな」
「「ははははっはは!」」
草原に笑い声が響く
意気投合してんじゃんこの2人。
ーーーー
「ところでさ。俺を殺れなかったんじゃ不味くないか?」
「へ〜きへ〜き。お前を見に来たって言っただろ?
あいつは、お前の事まだ気づいてない。
俺は本当はお前を殺ろうなんて思ってなかったしな」
「始末しろって言われてたんだろ?」
「まあな……仲間の命が掛かってるから、
聞くふりはしてたけどな」
「あっ……」
「ん?何だ?」
「〝仲間の命〟……悪い……俺……襲われて、
お前の仲間、何人か殺っちゃったよ……
あいつらもしかして眷属にされて、
命令されてたんじゃ?
だとしたら可哀想なことした」
「仕方ね〜んじゃねえか?
俺が命じられてたように、
そいつらもお前を始末するように言われてたんだろ。
殺らなきゃお前が殺られてたんだろ?
俺がお前でも、そうしただろうよ」
「そうかな……あっ、そうだ。だったらこれやるよ」
颯斗は異空間から小瓶を取り出す。
「何だその粒は?」
「精神を乗っ取られたりした時に正気に戻す薬だって。
予防にもなるから、戦う前に飲んだら良いって、
母さんが作ってくれたんだよ。
眷属にされた、お前の仲間にも効くんじゃないか?」
「ほ〜そりゃ助かるな……
でもそんなにたくさんもらって良いのか?
お前の仲間にも必要だろ?」
「めっちゃある」
あっさり。
「俺も何でこんなに沢山?って思ったけど、
お前たちにやるためだったんじゃないかな?
母さんは、先を見越すからな」
「先を見越すって……」
悪魔の王が息を呑む。
「こんな薬まで作るとは……
お前の母さんって何者だ?」
「お前を封印した神の1柱だよ」
「まさか……女神アステリアか?お前は神の子?
どうりで強い訳だ……」
颯斗がにやりと笑う。
「なあ、今思いついたんだけどさ。
こっそりこの薬を使って、
お前の仲間を邪神の呪縛から解放して、
俺と対峙した時、寝返って俺と共闘しないか?」
「良いね」
悪魔王の口角が吊り上がる。
「その時のやつの驚く顔を見てみたい。
その話乗った」
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