第53話 神様の贈り物
16歳にして日本最高峰の剣道の大会の優勝者である高校1年の颯斗は、
勇者召喚に巻き込まれて、異世界に転移する。
自分は勇者の付属品だと言う颯斗だが、
人の限界を遥かに越える力を驚く程の速さで付けていく。
ーー今から20年ほど前。
「お願いです、創造神様……
ほんの少しで良いのです。
私を……地上へ――」
「またその話か……」
深く、重い溜息が神界に響く。
「無理を言うでない、アステリア。
神が地上で人と共に暮らすなど……
できようはずもなかろう」
「ですが……私は……」
言葉は続かず、白い光の中に消えていった。
ーー
ーーそしてそれよりも遥か昔……数千年。
「何を騒いでおるのじゃ?」
「あの……アステリアの姿が……どこにも……」
「あのイタズラっ子め、
またフワフワと何処ぞに飛んでいきおったのか?
まだ生み出したばかりじゃと言うのに」
創造神は額を押さえる。
「まだ赤子の姿じゃぞ?
好奇心の塊のような子よのう……」
「本当に元気な子。けれど……どこへ?」
「……ん?」
空気が変わる。
「神界の外に、邪悪な気配が走った。
お前達、感じぬか?
あの方向……急ぐのじゃ!」
「ケケケ……こいつは良いもんを見つけたぜ」
赤子を抱えた悪魔が、にやりと歯を見せる。
「赤ん坊のくせに、とんでもねぇ魔力量だ。
連れて帰って、我ら悪魔の手駒にするってのはどうだ?」
「させるか」
空間が震えた。
「ちっ、もうかぎつけやがった……」
「こいつら神でしょ?まずいですよ?」
「いいから聞け!
このガキを結界で固めろ!
気配を遮断して、彼方へ飛ばす!」
「そんなことしたら、俺達にも――」
「俺が飛ばす! 大体の方向は読める!
構わん、やれ!」
――閃光。
赤子は、神界から消えた。
「未だ、アステリアは見つからないのか?」
創造神の声は低く、怒りを孕んでいた。
「もう1ヶ月も経つんじゃぞ?
あの悪魔は、すぐさま捕らえたのじゃろう?
場所も吐かせたのではなかったのか?」
「はい、自白させた場所では見つけられず……」
「嘘だったのか?」
「いえ。精神の深層に入り込み、自白させました。
虚偽はないかと……」
「……慌てて飛ばしたゆえ、座標が狂ったか」
長い沈黙。
「赤子とはいえ、あれは神。
マナがあれば、すぐには滅びぬ。
……人間界は探したか?」
「い、いえ……まさか人間界になど……」
「〝まさか〟で命は守れぬ。
念の為、探しなさい」
ーーーーーーーー
「おい、マリー……聞こえないか?」
「え?」
「納屋から……赤ちゃんの泣き声が」
「あなた……子供ができないからって、ついに幻聴まで……」
「アァン……アンアン……」
二人は顔を見合わせた。
「……聞こえる」
「だろ?」
納屋の藁の中に、小さな命が眠っていた。
「なんて……可愛い……」
涙が溢れる。
「誰かが育てられなくなって……捨てたのかしら……」
「……神様の贈り物だ」
男は震える手で赤子を抱き上げた。
「俺達で……育てよう」
ーー1月後。
「やっと……見つけた」
眩い光が夫婦の寝室を満たす。
「アステリア……」
「あ……貴方達は……」
「この子は我等の子なのだ……」
夫婦は顔を見合わせ、そして深く頭を下げた。
「あ、あの……私達に、
この子を育てさせていただけませんか?」
「……」
「私達には子供が出来ず……
今更手離したら……生きていけません。
大切に大切に育てますから」
迎えの神は目を閉じる。
「……すまんな……それは出来んのだ……」
「何卒……何卒……!」
「それ程までに大切にしてくれて感謝する……
だがな……
この子は人の子ではないのだ……」
静かな声。
「お前達では育てる事はできない」
「……確かに……最初はミルクも飲まず……」
「お前達は善き人間だ……
ゆえに包み隠さず言おう。
我らも、この子も……神だ」
夫婦は息を呑む。
「だが、礼はせねばなるまい」
神光が優しく二人を包む。
「子ができぬ原因を、我らが排除しよう。
次は……必ず、授かる」
涙の中、赤子は神界へと帰っていった。
そしてこれは、神話となり語り継がれた。
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「なぜそうも、人の暮らしに憧れる?」
「創造神様……
はっきりとは覚えておりません。ですが……」
胸に手を当てる。
「あの優しい夫婦の笑顔が、心に浮かぶのです。
あの温もりが……忘れられないのです」
「我が子のように育ててくれた者達か」
「はい。
私も……あの夫婦ような出会いをしてみたいのです。
何千年もの間、ずっと思い続けているのです」
「しかしのお……何度も言うが、
そのような強大な神聖力を持った神が、
地上で人と共に暮らすなど、何が起きるか……
それこそ世界が揺らぐ」
「ですがお父様……」
「……いや……ん?……そうか……神聖力か」
創造神の瞳が細められる。
「……少し待て……」
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「アステリアよ。
異世界でも良いか?」
「異世界……?」
「そこには魔法の概念がない。
気という力はあるが、魔法は存在せぬ」
「……つまり?」
「その世界では、お前も魔法を使えぬ。
さして大きな影響は出まい。
だが――子は持てぬかもしれぬ」
静かな問い。
「それでも行くか?」
アステリアは、迷わなかった。
「それでも、構いません」
「期間は五年。
それ以上は許さぬ」
「五年……」
「出会いを求めるのは良い。
だがな――」
創造神の声が、ほんの少しだけ柔らぐ。
「別れは、想像以上に重いぞ」
「………………」
アステリアは、ただ静かに頷いた。
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