第52話 えっ?ど……どなたで?
16歳にして日本最高峰の剣道の大会の優勝者である高校1年の颯斗は、
勇者召喚に巻き込まれて、異世界に転移する。
自分は勇者の付属品だと言う颯斗だが、
人の限界を遥かに越える力を驚く程の速さで付けていく。
「ちょ……ちょっと待て……ま、まさかそれは……
勇者エリシオンの……
そんな訳ない……それが存在するはずが……」
「へ〜この剣の事知ってるんだ?ちょいっ」
「うわっ!」
「あれれ?攻撃から逃げないんじゃなかったっけ?」
「くっ……何がちょいっだ……
万が一それがエゼルソードだとしても、
お前如きにやられる俺ではない」
「何処見て喋ってるんだよ?独り言か?」
「うわっ……い、いつの間に後ろに……!」
「後ろ?ーーもうそこには居ないんだけど?」
「き……貴様……その馬鹿げたスピードは何だ?」
空気が、震えた。
「はい終了……」
「は?何が終了だ?逃さんぞ……」
「逃さんとか言いながら、
さっきの威勢はどうしたんだ?
元気ないじゃないか?
まさか……俺にびびっているんじゃないよな?」
「……ば……馬鹿か……貴様如きに……」
「じゃあ、自分の身体、よく見てみろよ」
「身体? ——うわっ!? お、俺の身体が……!?」
「だから終了って言っただろ?」
悪魔の肉体は、いつの間にか数千に刻まれていた。
刃の軌跡すら見えぬまま、静かに、静かに崩れ落ちる。
そして——霧のように消えた。
まるで、最初から存在しなかったかのように。
「ジェブ、これで魔族や先輩達の呪縛も解けたかな?」
「多分……にしても、リック……
あの攻撃……一瞬光り髪を逆立てたかと思ったら、
その後は消えて……
お前の姿……俺には全く見えなくなったぞ?」
「そこまでか?」
「お前……あの塔に入る前と今じゃ別人だ。
いや、別次元だな……」
「ああ、それな。
元々この世界に来た時から、
戦うと身体がうっすら光ってたらしいんだよ。
無意識に身体強化してたみたいでさ」
「〝みたい〟って……」
「古代魔法を身に付けた影響だと思う。
今は全身の産毛まで逆立つ感じで、力が漲るんだ」
「そう言えば……瞳、一瞬銀色に光ったぞ。
正直、ちょっと怖かった」
「自分じゃよく分からないんだけどさ。
オスカー父さんが言ってたんだよ。
〝戦う時、薄く輝いてる〟って。
今は、その滲み出る魔力が桁違いなんじゃないかな」
「リック……お前、どこまで強くなる気だ?」
「まだ上がいるらしいからな。
みんなを守れるくらいには、な」
「……既にちょっと引くほど強いんだが」
「先輩達、正気に戻ったかな?ちょっと見てくる」
「あ、おい——って、もう居ねぇし……せっかちだな……」
「ジェブ、魔王城の皆んな倒れてる」
「うわっ!もう戻ったのか?
で、生きているんだよな?」
「死んではいない。
とにかくびっくりして急いで戻って来た。
エレーナも連れてすぐ戻るぞ」
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「大丈夫みたいよ。
みんな気を失ってるだけ。
倒れた時に頭を打ってないか、城の中を見て回るわ」
「待てエレーナ。
正気に戻ってるか確認してからじゃないと危険だ」
「大丈夫です、神よ。
皆、あなたのお陰で正気に戻っております」
「あ、魔王さんもう気づきました? さすが頑丈ですね」
「じゃあ、私はみて回るわ」
「頼んだ。——あ、その前に近藤先輩を見てくれ。
妊娠してるみたいなんだ」
「この人?……わかったわ……〝スキャン〟」
淡い光が、ふわりと包む。
「……大丈夫……お腹の子も元気よ?」
「やっぱり妊娠してたか……
えっ?〝スキャン〟?透視できるの?」
「ええ、ドラゴンの里で、
大勢の治療をしてたら出来る様になったの」
「羨ましい……」
「ん?何で?」
「透視は男のロマン……」
「……アホ……体の中の状態が薄っすら見えるだけよ……」
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「魔王さん、そこのソファに近藤先輩を寝かせても?」
「もちろんです、神よ……
そして私の事はサインツとお呼び下さい。
敬語もやめて頂ければと……」
「サインツさんか……ん?何故俺を〝神〟と?」
「我々魔族は、
原初神の子孫だと言い伝えられております。
私も幾度か神にお会いしたことがあります」
「神様にあったことがあるの?」
「はい、この城には神殿が有ります。
この地に移り住んだ時、先ずは神殿の女神像を移し……
それを囲む様に城を建てたと聞いております」
「そこに神が降りてくるのか……」
「私には神の気配というか……
神聖なものを感じ取れる力があります。
貴方様は神聖な力に満ち溢れております。
間違いなく神であらせられると……」
「こんなエッチな奴が、神の訳ないじゃない?
ね、ジェブ?」
「酷いな……でもまあ…… 俺が神ってのはないな」
「あら、貴方は紛れもなく神よ?颯斗……
あなたは私の子なんだから」
空気が、変わった。
柔らかな光が舞い落ちる。
「えっ?ど……どなたで?って見たことある様な……」
「おおこれは!女神アステリア様」
「私の子?
あなたは……女神?
アステリアって……俺の母さんの名前と同じ……
あっ! 家にあった母さんの肖像画に似てる……」
「何言ってるの?
貴方の夢の中に、何度も会いに行ってるのに……
覚えていないの?」
「えっ?あの疲れてる時に限って出てくるうるさい女の人?」
「まあ……酷いわね……」
「あっそれギルマスにも罰当たりだって言われた……
あれは女神で、母さんだったんだ……
えっ!ちょっと待って、俺の母さんが女神?」
「そうよ。その子……
サインツが言ってる事は正しいわよ?貴方は神の子。
考えてみて、ただの人間が、
そんなに力を持っている訳ないじゃない」
「自分の努力の成果かと……
でも確かに、成長スピードが人外だとか、
魔力量が規格外だとか言われる……」
「でしょ?だって私の子なんだから。
顔忘れられてるのはちょっと悲しいけど」
「だけど、覚えているわけないじゃない……
俺が3歳の時にいなくなったんんだから」
女神の表情が、わずかに曇る。
「それもそうね……
母らしい事を何もしてあげられなくてごめんなさい」
「でもでも……神様って人との間に子どもができるの?
しかもこの世界じゃなく何故向こうの世界で?」
——その問いに、女神は微笑んだ。
どこか、遠い記憶を見つめるように。
「それはね——」
光が、さらに強く輝いた。
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