第49話 古代魔法を使える様になりたいか?
16歳にして日本最高峰の剣道の大会の優勝者である高校1年の颯斗は、
勇者召喚に巻き込まれて、異世界に転移する。
自分は勇者の付属品だと言う颯斗だが、
人の限界を遥かに越える力を驚く程の速さで付けていく。
「そんな話……とても信用する事は出来ないな……」
静かに……でも疑いを隠さない声。
「そもそも、そんな理由なら三十を過ぎた私より、
もっと若くて……
それこそ地位もあって顔もいい男を選ぶだろう?
人間の生活を楽しみたいのなら、なおさらだ。
その方が、よほどいい経験がつめる」
視線が鋭く細まる。
「私は聖職者。
私のように簡単には憑依出来ない、
ましてや聖魔力持ちを選ぶのは理に適っていない。
何か他に魂胆があるんだろう?」
「いやいや、そこだよそこ」
悪魔は肩をすくめ、愉快そうに笑う。
「俺は魔法は使えるが、聖魔法は使えん。
お前は聖魔法で人を救い、
感謝され、愛されているではないか」
指を立て、にやりとする。
「悪魔とは対極の立場。
人間が好きな俺はな……
そういう側の視点で、世界を体験してみたいのだ」
「………………」
沈黙。
「そうだな……一年ほど、と言いたいところだが」
悪魔はわざとらしく顎に手を当てる。
「長く人と交われば心地良すぎて、
身体を返したくなくなるかもしれん。
……一ヶ月。
そのくらいが程良いだろう。どうだ?」
さらに続ける。
「お前たち人間が交わす魔法制約交わしてやってもいいぞ?
安心させてやろうではないか」
「……悪魔との間に魔法制約が効くのか?」
「人は稀に俺たち悪魔と契約を交わすだろう?
聞いたことがあるはずだ。それと同じことだ。
何なら人の魔法契約と、悪魔の契約……
両方、交わそうではないか?」
⸻
半信半疑。
だが――
藁をも掴む思いで、男はその提案に乗ってしまった。
「で、娘は助かったのか?」
「まさか……」
静かな否定。
「悪魔が約束を守るはずもない。
〝少し楽にしてやろうか?〟と言い、
残り僅かな生命力を、
無理やり引き出す魔法をかけられたおかげで、
命を削り……
その夜に息を引き取った」
「…………悪魔は?」
「数日、街での生活を満喫し、
飽きると古代魔法で街を灰にし……
魔界へ帰った」
空気が冷える。
「悪魔が古代魔法を……使えるようになったのか?」
「ああ。
カイマンに憑依したことでルーン文字を理解し、
古代魔法を扱えるようになったらしい。
……いや、それが本来の悪魔の狙いだったのであろう……」
声が重くなる。
「古代魔法が使える様になったその悪魔は、
飛躍的に能力が増し、
魔界での地位を上げ君臨しようとした」
「魔法契約は?
二重に交わした契約はどうなった?」
「悪魔の言葉は十のうち十一が嘘。
全てが偽装じゃ」
「それ……人間界も危なかったんじゃないのか?」
「そこはカイマンも愚かではなかった」
僅かに誇らしげな声音。
「自らに時限魔法を施していた。
一定の時間が経てば、
神より授かった聖魔法が爆発するようにな」
「……」
「それに気づかなかった悪魔は、
カイマンの身体と共に消えた」
「……その話、どこまでが真実なんだ?
街も、カイマンも、悪魔も消え……
誰も見ていないんだろう?」
「全てが終わった後、
娘を連れた魂が我の元に現れた」
静かに続く。
「詫びながら、全てを話してくれたのじゃ。
我は古代魔法の危険性を考え、
この世界からルーン文字とその記憶を消した」
「数は少ないけど、残っているよ?」
「その様じゃな。
例えば聖なる泉に浸された物とかじゃな。
で、もう一度聞く。
お前は、古代魔法を使える様になりたいか?」
「それを使えるとどうなる?」
「なに、できることは大して変わらんよ。
が、その効果は大きく跳ね上がる。
先ほどの話の通りじゃ」
僅かに笑う。
「そもそも、ルーン文字とは、神の使う文字なのだからな」
「えっ?……そうなの?だから効果が高いって事?」
「さあな……我如きが、神のあれこれを知る由もない」
肩をすくめる。
「……それが使えたら、かなり助かる。
ぜひ教えてくれ」
「あい分かった。では、始めるとしようか」
大賢者の身体が光を放つ。
壁一面に刻まれた文字が呼応するように輝きだした。
やがて――
文字が壁から浮かび上がる。
渦を巻き、颯斗の周囲を取り囲む。
颯斗の瞳が淡く光る。
導かれるように、文字が目へと吸い込まれていく。
瞬間。
眩い閃光。
颯斗はそのまま崩れ落ち、意識を失った。
ーーーーーーーー
「……あれ?俺、気を失ってたのか?」
「おお……もう目覚めたか」
驚き混じりの声。
「少なくともひと月……
下手をすれば一年は眠るかと思ったが」
「一年!?先に言ってよ!
俺、どれくらい寝てた?」
「三日じゃ」
ふふ、と笑う。
「ルーン文字を認識できると言っていただけはあるな」
「三日!?やば……皆、心配してる!」
「それは、すまなんだ。
言った通り、我は生きて語っているわけではない。
完璧な意思疎通は難しいのじゃ」
「ごめん、大賢者。
一度戻るよ。事情を説明して――またーー」
「その必要はない」
きっぱりと遮る。
「お前に施すことは、もう何もない。
これで全て終わりじゃ」
「え?でも何も教わって――」
「ふぉっふぉっふぉ……」
愉快そうな笑い。
「お前は既に古代魔法を扱えるようになっておる」
「……もう?」
「試しに、ここから仲間の元へ転移してみよ」
「いや、ここは無理じゃない?
前に入った迷宮みたいに空間が歪んでる。
転移魔法は使えないはず……」
「だから古代魔法じゃ。
転移古代聖魔の術式を思い浮かべよ。
できるはずじゃ」
「……あっ」
確かに、分かる。
術式が、頭の中にある。
「……何でだ?」
「では、行くがよい」
声が、柔らかくなる。
「この世界を頼んだぞ」
「……色々ありがとう。
またどこかで会える気がするよ」
「ふぉっふぉっふぉ……」
優しい笑い。
「会えんじゃろう。
わしはとうの昔に死んでおるからの」
その言葉と共に、
光が、静かに薄れていった。
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