第48話 古代魔法を伝授しよう
16歳にして日本最高峰の剣道の大会の優勝者である高校1年の颯斗は、
勇者召喚に巻き込まれて、異世界に転移する。
自分は勇者の付属品だと言う颯斗だが、
人の限界を遥かに越える力を驚く程の速さで付けていく。
「よくぞ試練を乗り越えた。
私はサイモン・エヴァンスと言う」
「サイモン・エヴァンス?何処かで聞いた様な……」
「この姿は、
私が造った魔道具によって映し出されたものだ。
想定される質問には答えられるよう、
あらかじめ幾つかの返答を組み込み済みだが……
想定外の問いには答えられぬ。
まずはそれを理解してもらおう」
「〝私の作った魔道具〟……思い出した。
サイモン・エヴァンス……古の大賢者か。
海底神殿も、あんたが造ったんだっけ?」
「海底神殿?その様な物は知らぬ。
私の造った神殿はただ一つ、
ハイメルの女神様の神殿だけだ」
「ああ、それが多分今は、
場所を変え海底に沈んでるんだな」
「なんと、海の底に沈んでしまったのか?」
「いや、ちゃんと人が生きていけるようになってる」
「そのような芸当が出来るのは、
女神様のみであろうな……」
「何で女神様はそんな事をしたんだろ?」
「何かから隠したかったのやもしれんな」
僅かな沈黙。
「で、〝選ばれし者は大きな力を得る〟って聞いたんだが……」
「うむ、大きな力……
選ばれし者が望むのならば古代魔法を伝授しよう」
「古代魔法?あっ、もしかして、
あの解析不能と言う文字を使った魔法陣の事?」
「人の記憶から消えたルーン文字と言うものだ。
まあ……私が、消したのだがな」
「記憶から消した……何故?」
「あれは少々危険でな。使い方によっては、
世界を滅ぼしかねないものなのだ。
そもそも、あれを認識できる者は、
数える程しかおらなんだ」
「あっ、確かに。あれは書き写す事すら出来ないって……
俺は普通に認識出来たんだけど」
「認識できたとな?」
わずかに、映像のサイモンの目が細まる。
「やはり……選ばれし者……
神の加護を持つ者か。
ルーン文字を認識出来るのは、
神より加護を授かった者のみなのだ」
「確かに……
俺には色々な神の加護が付いているみたいだけど……」
「ん?色々、と言ったか?
加護は一柱から授かるのが常。
複数の神の加護など……聞いたことがない。
お前はいったい……何者だ?」」
「俺にはよくわからないな……」
「話を戻そう」
空気が、わずかに重くなる。
「神の加護を持つ者は限られていた。
ゆえに、ルーン文字を扱える者も少なく、
大きな過ちは起きなかった。
――だが、ある時。
その加護持ちの一人の娘が、不治の病に侵された」
声が低くなる。
「ありとあらゆる手を尽くした。
だが娘は衰弱してゆくばかり……
そして、父は――
娘を思うあまり……悪魔と契約してしまった」
「なぜ悪魔なんだ?」
「悪魔が病に伏したなど、聞いたことがあるか?」
「……ないな」
「そうだ。奴らは邪悪な魂の存在。
実体があるようで無い。病など存在せぬ。
それを――
〝全ての病の原因と対策を熟知している〟
と嘘をつき、契約を持ちかけたのだ」
「どんな契約を?」
「古代魔法を認識し、扱えるその男を――
悪魔の依代にする契約だ」
ーーーーーーーー
「くっ……これでも駄目か……どうすれば……」
「娘を助けて欲しいか?」
「だ、誰だ!? どこから声が――」
「ここだよ……お前の足元だ」
視線を落とす。
床の石目から、黒い目がぬるりと覗いていた。
次の瞬間、床から“顔〟が浮き上がる。
それは歪み、裂け、やがて全身を持つ影となる。
教本に描かれた通りの――悪魔。
「ま、まさか……悪魔か……?」
「ほう? 察しが良いな」
「私に何の用だ。
今は貴様らに構っている暇はない。
私の古代聖魔法を喰らって消えろ!」
「おっと……待て待て……焦るなよ。
娘を救いたいんじゃないのか?」
「その手に乗るか!
悪魔の言葉など、誰が信じる!」
「良いのか? よく考えろ」
「考える必要はない」
「そうか?
お前、悪魔が病に倒れたなどという話を聞いたことがあるか?
我らは遥か古代より存在する。
病など、とっくに克服しておる。
……何なら今、娘を少し楽にしてやろうか?」
「少し……だと?
出来るものなら……やってみろ」
「〝やって下さい〟だろ?
まあいい。黙って見ていろ」
悪魔は娘に近づき、頭と胸に手を添える。
黒い靄がゆっくりと広がり、娘を包み込む。
やがて靄が消えた。
先ほどまで苦悶に歪んでいた表情が、穏やかに緩んでいる。
荒かった呼吸も、静かだ。
「な……治ったのか?」
「馬鹿め。
治るわけなかろう。
少し楽にしてやると言っただけだ。
完治を望むなら――我の言葉を聞け」
「……何が望みだ」
「ようやくその気になったか。
しばらく、お前の身体を我に預けろ。
その身体を通して、娘を治してやろう」
「私に憑依する気か?
治した後はどうする?
〝しばらく〟とはいつまでだ?
私の身体で何をするつもりだ」
「質問が多いな」
悪魔は肩をすくめる。
「大したことはせぬ。
我らには実体がない。
食うことも、触れることも出来ぬ。
……人間の生活に興味があるのだよ。
食事をし、触れ合い、笑い、怒る。
それがどんなものか、経験してみたいだけだ」
「私の身体で、悪事を働くつもりでは……」
「ない、ない。
人間が好きだと言っただろう?
害をなすつもりはない」
悪魔の口元が、ゆっくりと歪む。
だがその笑みは――
どこまでも、底の見えぬ闇だった
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