第46話 あれが我の主人だ
16歳にして日本最高峰の剣道の大会の優勝者である高校1年の颯斗は、
勇者召喚に巻き込まれて、異世界に転移する。
自分は勇者の付属品だと言う颯斗だが、
人の限界を遥かに越える力を驚く程の速さで付けていく。
「何なんですか……あの方は!?
まるで流星が交差するみたいに高速で動き――
その軌跡の先で、魔物が一撃で消えていく……!」
「我も驚いている……だが、あれが我の主人だ」
低く呟くジェブ。
「少し見ぬ間に、桁が違うほど強くなっている……
我らが命を懸けて苦戦していた敵が、
まるで紙切れのようだ。
まだ数分しか経っていないというのに……
残るは魔竜のみ、か……」
血煙の中、ただ一体。巨大な影だけが空に浮かんでいた。
ーーーーーーーー
「……お前が魔竜か?」
颯斗が静かに問いかける。
「……………………」
返答はない。ただ、殺意だけが空気を震わせた。
「何が目的か聞きたかったんだけどな。
……どうやら、会話する気はないらしい」
肩をすくめる。
「悪いが、俺は旅の途中なんだ。
目的地がもう目の前なんだ。
お前とゆっくり遊んでる暇はない」
一瞬、瞳が鋭く細まる。
「……一気に終わらせてもらう」
――〝ザシュッ!〟
閃光が走る。
次の瞬間、魔竜は左右に裂け、
ゆっくりと崩れ落ちた。
「何と……あの魔竜を一刀で左右真っ二つ……」
呆然とする長老。
「何者なのだ?あのお方は?」
「おう、長殿……
瀕死の重傷を負ったと聞いたが……」
「あの人族の聖女様に救って頂いた。
彼の方も、ジェブが、
連れてきてくれたんだってな?」
「ああ。あれが我の主人だ」
ジェブは誇らしげに胸を張る。
「元より人外の強さだったが……今は別格だ。
ほんの僅かな間で、恐ろしく強くなっている。
だからこそ、眷属である我の力も、
跳ね上がっていたというわけだ。
……そして聖女殿は、主人の伴侶だ」
「助かった。お前のおかげで、
この里は何とか無事に済んだ様だ」
「まあ、我の力ではないがな?」
その瞬間。
「あっ! リック! 危な――」
空中で突如4人の悪魔に囲まれる颯斗。
〝ズシャッ!〟
1人の悪魔の剣が、颯斗の肩から脇腹を通り過ぎる。
「リック‼︎」
だが。
斬られたはずの颯斗の身体が、ゆらりと霞む。
そこに彼は、いなかった。
代わりに、二体の悪魔が首を落とし、
霧のように消えていく。
「あっぶね〜!サンキュ〜。ジェブ。助かった」
いつの間にかジェブの横に立っている颯斗。
「あいつら、どうやって突然現れたんだ?
俺も目視できる場所なら転移出来るけど、
あいつら近くには居なかったよな?」
「我にも分からないが、
眷属が見ていた場所に、
転移する魔法でもあるんじゃないか?
リックも、我を通して、
同じ様な事出来るではないか」
「なるほどな……」
視線が鋭くなる。
「それにしても、あの攻撃を良く躱せたな?
何てスピードなんだ……
しかも、躱す瞬間に、
2人も倒してしまうとは……」
「油断してたんだろうさ。
“虚を突けば必ず斬れる〟ってな」
口元がわずかに上がる。
「あっ……俺に気付いたな?来るぞ?」
〝ガシャン!ガシャン!ガシャン!〟
音だけが響く。
目では追えない速度の攻防。
「……ふぅ」
一旦距離を取る颯斗。
「強ぇな……二体同時はキツい」
「我も加勢しようか?」
「ジェブ。今のスピード、見えてたか?」
「……いや。追えなかった」
「なら、エレーナを守ってくれ」
「大丈夫か?」
「問題ない。奴らの動きは掴んだ」
静かに告げる。
「あれが全力ならな。
俺は――もう一段階、上げられる」
ジェブが息を呑む。
「最初に躱したのが、その速度だ」
「……差すら分からなかった」
「俺の最大に付いて来られたらヤバいけどな」
刀を構える。
「勝負は、次の一瞬だ――」
深く踏み込む。
〝如月抜刀術〟
颯斗が消え、光だけが走った。
静寂が戻る。
そして、悪魔二体が崩れ落ちる。
「終わり……か?」
「ああ、紙一重だったな……」
「簡単に倒した様に見えたが?」
「そんな事ない。危なかったよ。
世界樹の実を食べる前だったら、
確実にやられてた……」
空を見上げる。
「まだ足りないな……もっと強くならないと」
「リック、
先を急ぎたいのは知っているけど、後3日……
いえ、2日で良いから、滞在させて」
「ああ、もちろん。怪我人の手当てだろ?」
「うん……ジェブの故郷だもの」
「遠慮すんな。助けてやってくれ」
エレーナがほっと微笑む。
「ありがと。貴方は直ぐにでも、
旅立ちたいのかと思って……」
「まあ、思ってたのより、
時間が掛かっているから気にはなるけどね」
「先を急ぎたいのにすまんなリック。
里の皆んなが、
姫さんの聖魔法をすっかり頼りにしてしまっている」
「気にしなくて良いよ。
俺だって結構、遠回りしてるからさ。
それが結果、俺の成長に繋がってるんだからな」
「颯斗殿。貴方や奥様は、この里の大恩人です。
何かあったら、遠慮なくお呼び下さい」
長老が深く頭を下げる。
「ありがとうございます。長殿。
ところでーー」
ふと視線を向ける。
「あそこに見える大きな塔は何なのですか?」
「大昔の遺跡みたいなものですね。
朽ち果てる寸前です……中には何もありませんよ?」
「そうなんですか…… 」
だが、颯斗の瞳が細くなる。
「何か……妙に気になる。中に入っても?」
「ご自由に。足止めしてしまっておりますゆえ」
塔の上空に、かすかな違和感。
まだ――終わっていない。
数ある作品の中から見つけ出し、お読みいただき、ありがとうございます。




