第42話 大聖女の芽生え
16歳にして日本最高峰の剣道の大会の優勝者である高校1年の颯斗は、
勇者召喚に巻き込まれて、異世界に転移する。
自分は勇者の付属品だと言う颯斗だが、
人の限界を遥かに越える力を驚く程の速さで付けていく。
「なるほど……そんな魔道具があったのか……」
颯斗は小さく息を吐き、納得した様に呟いた。
「強制的に得たスキルだから、違和感があったんだな……」
エレーナの方へ視線を向け、静かに言葉を続ける。
「エレーナ。アンジェが言っていたんだけど……
人は産まれた時、それぞれ“スキルの種〟を授かる。
その種は、その子自身のマナと共有しながら育ち、
やがて芽を出す……
大きなスキルであればあるほど、多くのマナを必要とする。
だからこそ、芽を出すまでに時間が掛かる」
エレーナの胸元に、そっと指を向ける。
「エレーナの本来のスキルが、ようやく芽吹こうとしたその時……
人為的に与えられたスキルが、それを邪魔した」
「……じゃあ……」
エレーナの声が震える。
「今、エレーナの魂は“本来あるべきスキル〟を求めている。
それが原因で、魔力暴走を起こし始めているんだ」
「……どうしたら……良いの……?」
縋る様に問うエレーナに、颯斗は迷いなく答えた。
「迷うな……考えるな……」
「……え?」
「自分の思うがまま、スキルを目覚めさせればいい」
その言葉に、エレーナは息を呑む。
「魔力暴走で、身も心も壊されても――」
颯斗は懐から薬瓶を取り出した。
「この薬がある。治せる」
「……どうするの?」
「歩ける?歩けるなら付いてきて……それとも抱える?
ジェイミーのところへ行くよ」
「……はい」
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「あっ……?」
病室に入った瞬間、エレーナは思わず声を上げた。
「顔色が……すごく良くなってる……どうして?」
「先生が水魔法で、体内に水分を補充して下さったんです」
付き添いをしていた侍女が答えた。
「脱水症状を緩和してくださいました」
入ってきたアンディーが続ける。
「その後も先生は、王都のあちこち……
患者が集まっている場所を回られて……」
「病気そのものが治るわけじゃないけどね」
颯斗が静かに言う。
「だけど脱水が緩和されれば、助かる可能性は上がるからさ」
「ジェイミーの顔色がよくなったのは嬉しいけど……
どうして、ここに連れてきたの?
それを見せたかったの?」
「いや……」
「私は……何をすれば……?」
颯斗は問い返す。
「エレーナ。ジェイミーをよく見て。
お前はジェイミーをどうしたい?」
「……ジェイミーを……」
唇を噛みしめながら答える。
「……他のみんなも……助けたい……」
「なら、助けてやればいい」
迷いのない声だった。
「おエレーナなら出来るはずだよ?
……聖女の力を……」
颯斗は、はっきりと言った。
「スキルを、芽生えさせるんだ」
「……聖女のスキルを……?なぜ私が聖女?」
「前から感じていたんだよ。
エレーナの魔力は聖なる魔力。
世界樹の中にも入れただろ?
アンジェもそれを感じていたようだよ。
だからこの薬を託した……」
「ジェイミーを助けたい……教えてリック……
私はどうしたらいいの?」
「祈るんだよ……助かる様にと心から祈るんだ。
それだけでいい」
エレーナは目を閉じ、両手を胸の前で組む。
「……私は……」
小さく、だが確かな声で。
「……みんなを……助けたい……!」
〝ドクン……ドクン……ドクン……〟
心臓の鼓動が、やけに大きく響く。
組んだ手の隙間から、眩い光が漏れ出した。
光は次第に強さを増し、目を開いていられない程に膨れ上がる。
〝ズゥゥン……ズゥゥン……〟
〝ゴォォォ……ゴォォォ……〟
地の底が蠢く様な音が鳴り響き、
やがてそれは、低く重い鐘の音へと変わった。
その音は――
王都を包み込み、国中へと広がっていく。
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〝ドサッ〟
力尽きた様に倒れ込むエレーナ。
「エレーナ!」
颯斗はすぐさま抱き止める。
「……身体が冷たいな……魔力切れか」
微笑みを浮かべ、優しく囁く。
「よくやったよ、エレーナ……」
「さあ、これを飲んで……
……身も心も、壊れる寸前だよ……」
薬瓶から一粒の美しく光る薬……特別なマナの塊を取り出す。
「……エレーナ?」
反応が無い。
「……気を失っちゃった?……なら……」
颯斗は薬と水を自分の口に含み、
そっと、エレーナに口づけた。
「……よし」
安堵の息。
「身体が……暖かくなってきた……」
⸻
「先生!これを見てください」
驚きと喜びが入り混じった声。
「ジェイミーが……!
あんなに苦しんでいたのに……
今は、気持ちよさそうに眠っています……!」
「ジェイミー!」
「触らないで、サリナ! 感染してしまうかも……」
「大丈夫ですよ」
颯斗が穏やかに言った。
「恐らく、コレラ菌は死滅しています。
抱いてあげて下さい」
「……もう、大丈夫……なんですか……?」
「ええ」
静かに頷く。
「多分、さっきの光は……国中に届いています」
「……国中……?」
「そんな……」
誰かが息を呑む。
「国は……救われたのですか……?」
「ありがとうございます……!」
「礼を言うなら――」
颯斗は、腕の中の少女を見る。
「エレーナに」
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「……ごめんね……冷たく突き放して……」
「いいの……わざとそうしたんでしょ?」
エレーナは弱々しく笑った。
「本当は……スキルは自然に任せるべきだった」
颯斗は正直に言う。
「でも、あの時は一刻を争っていた」
「……魔力暴走を……誘発させたのね……」
「辛い思いをさせてごめん……」
「いいの……その間も……貴方は……あちこちで……
人々を助けていたんでしょ……?」
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「……でも……ちょっと……残念だな……」
「ん?」
「双剣のスキル……」
少し照れた様に呟く。
「命の限り頑張って訓練したし……
結構、好きだったのよね……」
「スキルが無くなっても、
覚えた技術まで無くなる訳じゃないよ」
颯斗は優しく言った。
「今まで通り、使いこなせるはずだよ」
「……えっ……?」
「そうなの……?」
「努力した事は、裏切らない」
真っ直ぐな目で言う。
「エレーナが、命懸けで積み上げてきた事は……
俺は、ちゃんと知ってるよ」
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