第41話 俺はもう、エレーナとは一緒に歩いていけない
16歳にして日本最高峰の剣道の大会の優勝者である高校1年の颯斗は、
勇者召喚に巻き込まれて、異世界に転移する。
自分は勇者の付属品だと言う颯斗だが、
人の限界を遥かに越える力を驚く程の速さで付けていく。
「リック! 貴方、あの講義……一体なんだったの?」
エレーナが呆然とした様子で言う。
「まるで学院の教授みたいだったわよ?
〝私〟なんて言っちゃって……貴方じゃないみたいだった」
「ふっふっふっ……見直したかね?」
胸を張るリック。
「ああ……そうやって近づいてクンクンしなければね」
呆れた様に鼻を鳴らす。
「でも、みんな感謝してたわよ?
もう対策に駆け回ってるみたい」
「それは良かった……うまくいってくれるといいんだけどな」
「ほんとね」
「あ~疲れた……悪いけど俺、部屋で少し休むわ……」
「慣れないことをしたものね。ゆっくりしていて」
「一緒に休もうよ」
「私、色々手伝っているから今は無理よ」
「え~、ご褒美は~~?」
「……お預け……」
「つっ……疲れが……」
〝バンッ!〟
乱暴にドアが開き、慌てた様子のエレーナが飛び込んできた。
「リック!お願い……コレラでもなんでも直す薬があるんでしょ?」
「どうしたんだ?そんなに動揺して……薬をどうしろと?」
「ジェイミーが……ジェイミーが、死んでしまう……あんなに苦しんで……
お願い。助けてあげて」
「あの薬は一つだけだと言ったろ?エレーナ用なんだ……
使う事は出来ないよ」
「なぜ?私は病気じゃない!あの子を助けて」
「世界樹の精霊、アンジェは、エレーナ用に、貴重な薬をくれた……
でもそれは、エレーナの為じゃない。どういう意味かわかる?」
「分からないわよ!そんななぞなぞみたいな言葉!」
「今後、世界中でエレーナの力を必要とする時が幾度となく来る。
その為には、この薬が不可欠なんだよ?
だからこれは、
エレーナ用の薬だけど、
エレーナの為の薬じゃない。
エレーナを必要とする人達の為の薬なんだ」
「分からない!分からない!
そんなのどうでも良い!
今、薬を必要としている子がいるの」
「コレラで苦しんでいる幼い子はジェイミーだけじゃないよ?
他の子はどうでも良いの?」
「……そうじゃない……でも……見ていられないの……
お願い、薬を……」
「………………分かった」
リックは、低く息を吐いた。
「それなら持っていけばいい」
「え……?」
「だが、それをジェイミーに使うのなら――」
声は静かだったが、拒絶の色ははっきりしていた。
「俺はもう、エレーナとは一緒に歩いていけない」
「………………」
「旅はここまでだ。
もう会う事もないだろう……」
「待ってよ! どうしてそんなに冷たいこと言うの!?」
颯斗は薬を渡すと振り返ることなく、部屋を出て行った。
「エレーナ姫。それは使うべきではありません」
「でも……」
「先生の言う事は正しい……王族が、一つしかない薬を使って、
自分だけ助かるような事をしてはならないのです……」
アンディーは静かに告げた。
「どうか、ジェイミーにはもう会わないで下さい。
これ以上、貴方を苦しませたくない」
「……だけど……私……」
声が震える。
「見ていられない……どうして……?
私は……私は……うっ……い……いやぁ~~ぁぁぁ!!!!」
エレーナの周囲を、小さな稲妻の様な光が包み込む。
「エ、エレーナ姫!?」
「如月先生を呼んで! 早く!」
「エレーナ!大丈夫か?」
「先生、さっきからこの様に座りこんで、震えています……
この光で近づくことも出来ません」
「魔力が暴走しているのでしょう。俺達2人だけにしてもらえませんか?」
「承知しました。何かあれば、お呼び下さい」
「エレーナ……俺が分かるか?」
颯斗は、ゆっくりと近づく。
「落ち着け……俺の目を見るんだ……」
「………………」
震えるエレーナ。
「大丈夫だ……」
小さな稲妻の中、無理に踏み込んだ衝撃で、
二人の衣服が弾け飛び、上半身が露わになる。
颯斗は、裸になったエレーナを優しく抱きしめた。
「……あ……あったかい……リック……?」
「落ち着いたか?」
エレーナは小さくうなずく。
「薬は?」
「……まだ……使ってない……」
「よく聞いてくれ」
颯斗は静かに言った。
「最初に、一つだけ聞きたい」
「……なに?」
「お前の双剣のスキル……
どうやって発動した?」
「………………」
「大事な事だ。話してくれ……」
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「どうして……私にはスキルが無いの?」
幼いエレーナは涙を溜めて訴えた。
「お父様の子は私しかいないのに……
私には……国を守る力が無い……」
「落ち着きなさい、エレーナ」
王は穏やかに諭す。
「お前はまだ八歳だ。
スキルは、これから開花する事もある」
「でも……普通は五歳くらいで開花するんでしょう?
私は……もう八歳よ……」
「……どうしても待てないのか?
どうしても今、力が欲しいのか?」
「欲しい……」
エレーナは強くうなずいた。
「国を……皆を……守りたいの……」
「そこまでの思いか……分かった……
実を言えばスキルを得る方法が、無いわけではない」
「どうすればいいの?」
王は、宝物庫から持ち出した一つの魔道具を示した。
「古の魔道具だ。
スキルを与える力があると言われている」
「三回しか使えず、既に二回は使用済みだと伝え聞いている。
残るは一回……いずれも攻撃系のスキルだったらしいが……
次にどんなスキルを得るのか分からないぞ?
それでも、やるのかい?」
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