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第40話 コレラへの対策

16歳にして日本最高峰の剣道の大会の優勝者である高校1年の颯斗りくとは、

勇者召喚に巻き込まれて、異世界に転移する。

自分は勇者の付属品だと言う颯斗だが、

人の限界を遥かに越える力を驚く程の速さで付けていく。

「これは……辛そうですね……かわいそうに……

 こんなに小さな子が苦しんでいるのを見るのは心が痛みます……

 ましてや親だったらさぞかし辛いでしょう……

 とにかく神眼を使い見てみますね……」


 しばし沈黙が落ちた後、颯斗は静かに口を開いた。

「……やはり、コレラで間違いないかと」


「神眼で、何が見えるのですか?」

「嘔吐したの跡がありましたので、

 そこを出来る限り拡大して視ました。

 (まゆ)のような形に、細い糸のようなものを持つ……

 極々小さな生き物が(うごめ)いています」

「拡大?

 先生は、そんな小さな物が見えるのですか?

 神眼は、そんな使い方もあるのですね」


「ところで、この国にも、教会に聖女は居ますよね?

 聖女の魔法では、この病を治すことができないのですか?」

「症状の緩和には有効なようですが……

 完治には至りません」

「身体を治しても、原因の菌が残っていれば、また具合が悪くなる……

 そういう事かもしれませんね」

「なるほど……言われてみれば……」

「それでも、やらないよりは良いのでは?

 この子――ジェイミーは、聖女の魔法を?」

「最初は受けていました。ですが……

 聖女様は、忽然と姿を消してしまわれたのです」

「…… いなくなった?」

「先ほどお話しした魔法も、かなりの魔力を必要とするらしく、

 聖女によっても違いますが、1日に出来るのは、せいぜい10回ほど……

 聖女の取り合いが起きて、身の危険を感じた聖女は、

 身を隠してしまいました。

 仕方ない事です……

 聖女とはいえ、聖魔法が使えるというだけで、

 教会に仕える、普通の女性なのですから。

 ……伝説の大聖女とは、違います」

「伝説の大聖女?ですか?」

「300年前に実在したとされる聖女です。

 その聖魔力は絶大で、広範囲魔法すら自在に操ったとか。

 彼女は予言したそうです。

 〝私の死後300年……再び大聖女が誕生する〟……と。

 人々は、心待ちにしていたのですが……」

「現れなかった?」

「ええ、とりわけ、大聖女の子孫は注目されていたのですが、

 いまだ誕生しておりません。

 ……もし、大聖女が居れば、

 この惨状も、何とかなったのかもしれませんが……」




「では皆さん。

 まずはこちらのウォッカで、手を拭いてください。

 それから、このマスクを着用願います」


「マスク……? それは何ですか?

 なぜ、そのような事を?」

「それも含めて、これから説明します。

 ご存知かもしれませんが……

 私は、勇者の異世界召喚に巻き込まれ、この世界に来ました」


 〝異世界召喚〟の一言に一同が息を呑む。


「流行病は、私の居た世界では、〝コレラ〟と呼ばれております。

 先程、患者を診て確信しました……

 私の居た世界では、感染すると3日でころりと死ぬ事から、

 〝コロリ〟とも呼ばれていた非常に厄介な伝染病です」

「……治す方法はご存知なのですか?」

「本来なら、抗生物質という薬が必要です。

 ですが……残念ながら、この世界には存在しません」

「では……治す事は……」

「いえ。

 色々思い出したのですが、

 脱水症状さえ乗り切れれば、助かる可能性は高いはずです」

「〝脱水〟……ですか?」

「ええ、〝脱水〟とは体から水分がなくなることです。

 患者にはとにかく水分を摂らせて下さい。

 水に塩と砂糖を少しだけ混ぜると、吸収力が上がります。

 甘い水だけど、少し塩分を感じる……それくらいの濃度にしてください」

「その説明だけだと難しいですね……」

「そう思ってサンプルをこちらに用意したので、

 後で飲んでみてください。

 正確な配合は私にも分かりませんが……

 確か、スポドリはこんな味だったと」

「スポドリ?」

「ああ、そこは気にしないでください。

 私の世界の飲み物です」

 彼は一度、周囲を見渡し、声を強めた。

「次に、感染を広げないための対策です。

 まず、患者を隔離してください。

 感染源は、人そのものではありません」

「……では、何が?」

「患者の便や、嘔吐物などの排泄物です。

 そこに、コレラ菌と呼ばれる細菌が存在します」

「細菌……?」

「目に見えないほど小さな生き物です。

 それが口などから体内に入ると、腸で増殖し、

 激しい脱水症状を引き起こします」

「……」

「大丈夫ですか? 話についてこれていますか?」

「……」

「難しいですかね?いいでしょう、ではお見せします。

 皆さん、輪になって手を繋いでください。

 目を閉じ、心を落ち着かせれば――

 私が神眼で視たものを、共有出来るはずです」


「な……何だ、これは!?

 う、動いている……?」

「ええ。動いてますよね?つまり……生きています。

 これが、脱水症状を引き起こしている元凶です」

「……信じられん……」


「いいですか?ここからが大事です。

 これを防ぐには……

 患者や排泄物に触れた際、手に付着した菌を除去する事。

 強い酒――ウォッカなどで、必ず手を消毒してください。

 コレラ菌は、アルコールで、死にます」

「アルコール?」

「強い酒の主成分です。

 もう一度言います。コレラ菌は、アルコールで死にます」


「……なるほど」


「そして、菌が口や鼻から入らぬよう、マスクを着用する。

 今、皆さんがしている、この布です。

 この様な布で、口と鼻を覆って、

 そこから体内に入らない様にして下さい。

 残念ながら亡くなってしまった人は、火葬にして、

 汚物は、燃やすのは難しいので、深い穴を掘って埋める。

 健康な人も、飲み水は必ず一度沸かし、(なま)ものは食べない」

 彼は、力強く言い切った。


「個人では限界があります。

 国が、一致団結して立ち向かってください。

 この病は、知っていれば、防げる病です」

数ある作品の中から見つけ出し、お読みいただき、ありがとうございます。

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