第34話 那岐新陰流との手合わせ
16歳にして日本最高峰の剣道の大会の優勝者である高校1年の颯斗は、
勇者召喚に巻き込まれて、異世界に転移する。
自分は勇者の付属品だと言う颯斗だが、
人の限界を遥かに越える力を驚く程の速さで付けていく。
「──初め!」
〝サァァァァッ!!〟
合図と同時に、
アレックスの姿が掛け声とともに掻き消えた。
いや……
消えたように見えただけだ。
〝カンッ!!〟
〝カカンッ!!〟
〝カン、カン、カンッ!!〟
金属が噛み合う乾いた音が、一拍遅れて降り注ぐ。
「は、早い……!」
「剣が……いや、アレックス師範が見えない!」
踏み込み、斬り上げ、横薙ぎ、突き。
剣術としては、教本に載せたいほど基本に忠実な連撃。
――だが。
「……あれ?」
「おい……あの人……」
颯斗は、動いていなかった。
足を踏み替えることもなく、
体を傾けることすらなく、
ただ、そこに立っている。
なのに……
〝カンッ!〟
〝ズシャッ!〟
〝カンカンカンッ!!〟
〝ズシャッ!〟
アレックスの剣は、
ことごとく空を斬るか、
あるいは、見えない何かに弾かれている。
「嘘だろ……剣が空気を切り裂いている音?」
「それに……剣と剣がぶつかってる音だ……」
「でも……
あの青年の剣、動いてるようには見えないぞ?」
実際には、動いていた。
――ほんの、紙一枚分。
――ほんの、指先ほど。
最短距離で外す……だけの動き。
もはやそれは、防御ですらない。回避とも言えない。
剣が当たらない位置に、
最初から存在しているかのような立ち方。
「ハアハアハア……くっ……俺には……
リクト殿の動きが、全く見えてない……」
アレックスは、歯を食いしばった。
(……当たらない……速さじゃない……
読み? いや、それも違う。
俺が振る前から……あの人は、そこにいない……?)
〝サァ~~ァッ!!〟
限界まで速度を上げ、
残像を引き裂くように背後へ回り込む。
渾身の一撃。首筋を断つ、必殺の振り下ろし。
「もらった!」
その瞬間……アレックスの視界に映ったのは、
背を向けたままの颯斗だった。
「なっ……」
後ろ手に、
何気ない動作で伸ばされた剣。
それは、まるで最初からそこにあったかのように、
アレックスの首元へと添えられていた。
「………………」
アレックスの時間が、止まる。
「……参りました」
〝〝〝〝おおおお~~……!!〟〟〟〟
剣を収めた颯斗は、
ようやく一歩だけ、ゆるりと前へ出た。
まるで――これからが手合わせの時間かのように
「次!よろしくお願いします!」
〝ウォリャァァ!!〟
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「驚きました……リクト殿。
一歩たりとも動かず、10人を……
では、最後に。私と──」
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「いやぁ……参りました……
手も足も出ないとは、まさにこのことですね……」
「道場での手合わせ……なんか懐かしかったです」
「リクト殿……いえ、ナギ先生。
我らの剣、どう思われましたか?
よろしければ……
何か、ご指導を頂けませんか?」
「いや……指導することなど、何もありません」
颯斗は満足そうにそうに答える。
「素晴らしい剣筋、身のこなし。
言うことはありませんよ」
「……ですが……」
「俺と、皆さんの差があるとすれば……
ただ“レベルの数字〟の差でしょう」
「それは……」
「俺は、悪魔と対峙できるよう、
尋常ならざる実践訓練を重ねてきました」
「あ……悪魔ですか?」
「異世界召喚者という特性もあり、
上限なくレベルを上げてきただけです。
速さも、力も……ただ、それだけの差です。
剣技は、本当に素晴らしいと思います」
「それでは、ジェイク総師範。
皆さん……また寄らせて頂いてもいいですか?」
「もちろんです。
ここを“創始者先生の家〟と思って、
いつでもいらしてください」
「俺の家ですか?ははは……大きすぎますね。ありがとうございます」
「……ああ、そうだ。
あれを、お見せしておかなければ」
「あれ?何です?」
「こちらへ」
「……広い部屋ですね?」
「中央の魔法陣をご覧ください」
「これは……
海底神殿のものと、よく似ているな?」
「海底神殿……?聞いたことがあります。
実在するのですか?」
「ええ、先日行ってきました。
そこで見た転移の魔法陣によく似ています。
これは……あそこと同じ古代文字ですね。
これは、やはり転送魔道具ですか?」
「そうです。これは非常に便利でして……
世界二十二か国の支部にも設置されています。
これを使えば、時間をかけずに自由に行き来できるのです」
「古代文字の魔法陣ですよね?
皆さんには文字が認識できないと思いますが使えるのですか?」
「2000年前にナギ先生が、
我々でも分かるように使い方を細かく描いてくださっていたのです」
「それにしても剣術道場にあるような物ではありませんよね。
いったい誰が、これを?」
「貴方ですよ?ナギ先生が滞在していた1年間に造られたと、
伝え聞いております」
「俺が……?」
「剣術世界大会に忽然と現れ、圧倒的な力で優勝。
大会出場者の多くが門下入りを希望し、
那岐神影流を創設されたそうです」
「何故、俺は、わざわざ2000年前に行き、大会に出場したんでしょうね?……」
「わかりませんが、門下生を育成しながら、
彼らが国へ戻る際、ついて行き、それぞれの地に支部を作り、
この魔法陣……魔道具を作っていったと」
「……各国に魔道具を?分からない……
でも、だとしたら……
便利に使う……それだけが目的なはずないな」
「いずれにせよ、先生はこれをご自由にお使いくださってかまいません」
「ありがとうございます。きっと助かります」
(ハハハ……俺、転移魔法で一瞬で動けるんだけどな……
ちょっと言いずらいな……
この転移魔道具、自分のために作ったんじゃないよな……
短い時間に大変だったろうになんでだ?)
「そういえば魔族領の近くにも支部がありますが……
よろしければお使いになりますか?
今すぐにでも行けますよ?」
「いや、今はけっこうです。世界樹もそうですが……
魔族領の前に、行かなければならない場所もありますし……
悪魔に対応できるレベルにまで上げなければ……」
「悪魔と対峙ですか……その時は……
我ら10万人、非力ながらお供いたします」
数ある作品の中から見つけ出し、お読みいただき、ありがとうございます。




